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15 受付嬢の戦い

 

 結局、僕たち3人はお昼まで一緒に寝ていて、お腹が空いたので食事に出かけることにした。アリューシャは留守番をするということで、ニーナと2人でお出かけをする形になった。ニーナは「作戦通りデートになって最高にゃ!」と喜んでいた。


 昼食後にはニーナに街を案内してもらった。ついでに、皮手袋とフード付きマントを購入するために、途中で防具屋に立ち寄った。さすがは冒険者ギルドの受付嬢だけあって、ニーナは武器や防具にもかなり詳しく、色々とアドバイスを受けながら良い買い物をすることができた。また、雑貨屋で生活雑貨などを買い、薬屋ではポーションなどを購入して万一に備えることにした。


「ニーナ、これ気になっていたんだけど、何の石碑なの?」


 初めて領都に入ったときに目にした、北門近くにある大きな石碑を僕は指さした。質問されたニーナは僕と腕を組んで歩きながら、屋台で買ったデザートを食べていた。僕も少し分けてもらったが、冷やしパインのようなそのデザートは、桃に近い不思議な味がしたがとても甘くておいしかった。


「うちも直接目にしたわけじゃにゃいけど、10年くらい前にスタンピードがあったらしいにゃ」

「魔物が大量発生したの?」

「そう。それで騎士団や領兵に加えて、冒険者たちも協力して立ち向かったらしいけれど、たくさんの犠牲者を出したそうにゃ」

「なるほど。刻まれているのは、犠牲者の名前なんだね」

「そうにゃ。たくさんの犠牲のおかげで、この街は救われたそうにゃよ……イオリ、もう一口食べるにゃ、アーン……」


 これではまるで恋人同士のようで少し恥ずかしい。これまで僕は女性と付き合ったことがなくどう対応していいか分からないが、相手は年上の女性なのですべてを任せることにした。


「そういえば、うちがどうして人族の国にいるか不思議かにゃ?」

「この街では稀に獣人族を見るけれど、これが普通じゃないの?」

「この街が特別なのにゃ。例えば王都には私は許可なく入れないにゃ」


 ニーナの説明によると、人族は15年ほど前に領土をめぐって獣人族と激しく争い、敗れて結ばれた停戦条約で領土を失ったとのことだった。そのため、人族の間では現在も獣人族に対する警戒心は高く、王都“グロースブルク”では獣人は許可なく街に立ち入ることが禁止されているそうだ。


「ここは大丈夫なんだね」

「この街は比較的他種族に寛容なのにゃ。理由は……」

「死の樹海だね」

「その通りにゃ。素材の宝庫である死の樹海を目指して、世界中から様々な種族の冒険者が集まってくるにゃ」


 オルトヴァルド辺境伯は他種族にもこの領都を開放し、シャルウッド樹海を最大限に有効活用する方針らしい。もちろん国境を越えるとき、そして領都に入るときには厳重な審査が行われているらしい。


「死の樹海の魔物討伐は、人族としてもとても助かるというわけか……」

「魔物を放置してスタンピードでも起きたら大変にゃ」

「持ちつ持たれつの関係なんだね」


 それでこの街では時々他種族の姿を見ることがあるのだという。しかし、国が遠く離れている竜人族やエルフ族を目にすることはめったになく、この街にいる他種族は、隣国の獣人族が大半だという。


「うちはちょっと事情があって故郷を離れて、3年前からこの街に住むことになったにゃ」

「良い職場に就職できたね」

「最初は大変だったけど、こうしてイオリにも会えて、この街とこの仕事を選んで大正解にゃ!」


 このあともニーナに街の色んな場所を案内してもらい、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。別れ際に、ニーナに雑貨屋で買っていた腕輪をお礼としてプレゼントした。ニーナは顔を赤くしながらとても喜んで受け取ってくれた。


 一方、アリューシャにはお土産に小さな花飾りのついたバレッタを買ってある。夏の星亭に戻ってアリューシャの髪につけてあげたら、何度も鏡を見ながらその度に喜んでくれた。


「ニーナのために留守番を選んだのだけれど、まあこれで許してあげるわ……ええっと……ありがとね」


 お土産を買っておいて本当に良かった。晩御飯も色々買って帰ったので、ご機嫌のアリューシャと一緒に食べることにした。


 翌日、僕は冒険者ギルドを訪ねた。約束通り妖精アリューシャ……アーシェについて説明するためだ。ニーナを通してキリアンさんとエミリアさんに時間をとってもらい、アリューシャ自身にも妖精の姿で直接説明をしてもらった。


 僕とアリューシャの話を聞いて2人はとても驚いていたが、女神の加護持ちなら十分にありえることだと納得していた。そして、辺境伯以外には他言しないことを約束してくれた。


◇◇◇


「ニーナ、説明してくれるかしら」

「何のことにゃ? 受付長殿」


 イオリが冒険者ギルドから帰った後、受付嬢2人の間にはピリピリした雰囲気が漂っていた。他の職員はそれを敏感に察知し、2人の側から素早く距離をとる。


「しらばっくれないの! どうしてイオリ様はニーナのことを“さん付け”しないのよ!?」

「さぁー、なんでかにゃあ?」


 ニーナの返答にエミリアの眼鏡がキラリと光った……ように見えた。そしてエミリアの鋭い眼光がニーナの左手首を鋭く射貫く。


「それに、あなたの左手首につけているかわいい腕輪は何?」

「可愛いでしょ~。うちはお洒落さんだからにゃあ」

「あなたが職場でアクセサリーを付けている所を初めて見たわ」

「そ、そんなことないにゃよ」


 ニーナは朝に弱く、いつも遅刻ギリギリで出勤する。そのため、これまで化粧をしたりアクセサリーを身につけて出勤したことはない。ただ、化粧などしなくても十分美しいというのもあるが。


「なぜ? どうしてこのタイミングで腕輪を付けてるの? 納得のいく説明をしなさい!」

「い、いやだにゃ~」

「説明できないのね。私に説明できないことをしたのね、あなたは……」

「お、落ち着くにゃ、エミリア」


 エミリアの怒りが急速に高まっていることにニーナは戦慄した。このままではイオリに処女を捧げる前にエミリアに殺されてしまう……ような気がした。


 ニーナは昨日の出来事をすべて白状した。適当な嘘をついて後でバレたらまずいので、一つも漏らさずにすべてを伝えた。そしてニーナがすべてを話し終えたとき、出し抜かれたエミリアは魂が抜けたような放心状態にあった。


◇◇◇


「イオリ様、ぜひ……ぜひとも私のことはエミリアとお呼びください」


 後日、冒険者ギルドを訪ねると、エミリアさんから突然の提案があった。少し考えたが、やはり年上の女性を呼び捨てにするのは良くないだろうと僕は判断した。


「エミリアさん、それはできませ……」

「どうぞ、エミリアとお呼びください」


 有無を言わさぬ迫力がった。これを断れる男がいたら見てみたい。


「わ、わかりました。エ、エミリア……」

「はい! 本日はどのようなご用件でしょうか、イオリ様。あ、それと敬語も必要ありませんよ」


 エミリアが満面の笑みを浮かべている。僕はすべての抵抗をあきらめて、エミリアの言うとおりにすることにした。ここで逆らうのはよくないと僕の直感が告げている。


「エミリア、今日はまた依頼を受けようと思って来たんだ」

「そうですか! では、こちらはどうでしょうか。薬草の採取の依頼なのですが……」

「ぐぬぬぬ……うちのイオリがエミリアと仲良く……悔しいにゃ。はい、次の人!!」


 その日、冒険者ギルドはとても機嫌の良い天使のようなエミリア嬢と、超不機嫌で悪魔のようなニーナ嬢が受付をしており、運悪くニーナの列に並んだ冒険者は八つ当たりをされるのだった。

 

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