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13 依頼達成

 

 僕らが領都オルデンシュタインに戻ってきた時には、すでに辺りは暗くなっていた。西門に並ぶ人はなく、銅貨1枚を払ってすぐに街に入ることができた。とても眠そうにしていたアリューシャは、「疲れたわ」と言って一足先に宿へ戻ってしまった。


 依頼達成の報告をするだけなので、僕一人でも大丈夫だろう。僕は真っすぐに冒険者ギルドに向かった。遅い時間帯だがまだ開いているはずだ。


「おや? こんな時間にどうしたのかにゃ?」


 受付にいたのは初めて見る女性だった。なんと、頭にかわいらしい猫耳がついている。コスプレだろうか? 冒険者ギルドの制服を着ているので、受付嬢に間違いないとは思うけれど……


「ん、これが珍しいのかにゃ?」


 受付のコスプレさんは耳をピクピクと動かしてくれた。ここまで細部にこだわるとは、かなり高ランクのコスプレイヤーのようだ。


「君、イオリ君でしょ? エミリアから色々と聞いてるにゃ。すごい新人が入ってきたって」

「イオリといいます。よろしくお願いします」

「かわいいにゃ~。うちはニーナっていう名前で、見ての通り猫獣人にゃ!」


 なんと受付のコスプレさんは、コスプレではなく猫獣人さんだった。僕のことをかわいいと言っているが、ニーナさんの方がよっぽどかわいい。


「にゃはは、人族の国で獣人が働いているのが不思議かにゃ? これには海よりも深い理由があって……」


 僕がニーナさんと話をしていると、奥の部屋からエミリアさんが出てきた。


「ちょっと、ニーナ何を無駄話を……あっ、イオリ様、お帰りなさい!」

「にゃにゃ! いいから、イオリ君の受付はうちがやるから。エミリアは書類整理で忙しいにゃ!」

「大丈夫よ、もう終わらせたから。ほら、代わって! それでイオリ様、今日の成果はどうでしたか? 早速2、3匹くらい倒しちゃったりして……もちろん冗談ですよ、ふふ」


 エミリアさんはあっというまにニーナさんを押しのけた。エミリアさんの胸に弾き飛ばされたニーナさんは恨めしそうにしている。


「エミリアさん、ただいまです。僕が到着した時には、村がシルバーウルフ20匹ほどに襲われていまして……」

「に、20匹も! わざわざ戻って報告に来て下さったんですね。ありがとうございます!」

「はい、それで……」

「20匹以上となると、一流の冒険者パーティーでも厳しいですね。至急、辺境伯に連絡して討伐隊を派遣するよう要請しないと……ニーナ! 副ギルマスを呼んでちょうだい!」


 ニーナさんは真剣な顔で頷き、受付奥にある階段をあっという間に駆け上っていく。猫獣人だけあって、しなやかでとても素早い動きだった。


「イオリ様、もう少し詳しいお話を伺えますか。それは今から何時間前の出来事でしょうか? 村人で生き残りはいたのでしょうか?」

「実は逃げ遅れた4名が犠牲になってしまって……」

「なるほど、4名だけが難を逃れたのですね。あの村では80人ほどが生活していたはずですが70名以上が犠牲に……」

「エミリアさん」

「はい?」

「犠牲者は4名です」

「シルバーウルフは頭がよく狡猾な魔物です。20匹に襲われて4名が生き残っただけでも幸運でしょう。イオリ様も逃げて正解ですよ。こうして無事にここに戻ってくれて、本当にうれしいです」


 そう言ってエミリアさんは目を潤ませている。なぜかこちらの話が通じない。このままではまずいので、早く誤解を解くことにする。


「安心してください。シルバーウルフは僕が討伐しました。ただ、残念ながら4名の命を救うことはできませんでした」


 僕はその証拠として、≪ストレージ≫からシルバーウルフを数匹取り出して床に置いた。


「――……はっ!? ど、どういうことですか? く、詳しく説明をお願いしましゅ!」


 一瞬、放心状態になっていたエミリアさんは盛大に舌を噛んでいた。僕は今日の出来事を一からエミリアさんに説明した。その説明が終わる頃、ドカドカと音を立ててキリアンさんとニーナさんがこちらに走ってくるのが見えた。


「はぁはぁ、し、シルバーウルフが20匹だって! すまないが、もう一度説明を頼む」

「聞いてください、副ギルドマスター! さすがはイオリ様です! なんとわずか1日で依頼を達成しただけではなく……」


 鼻息を荒くしたエミリアさんが、僕に代わって事の顛末を説明してくれたのだが、なぜかその説明は僕が正義のヒーローみたいなものになってしまっていた。


「襲い来るシルバーウルフをちぎっては投げ、ちぎっては投げ……こうしてイオリ様は身体を張って村の未亡人を守り……」


 大幅に脚色されたエミリアさんの説明がようやく終わった。キリアンさんとニーナさんは苦笑いをしている。ようやく我に返ったエミリアさんは、顔を両手で隠して座り込んでしまった。


「このシルバーウルフの死骸を見る限り、村を救ったというのは事実で間違いなさそうだね」

「20匹を一人で倒しちゃうなんて、イオリ君すごいにゃ!」

「しかし、獲物はこれで全部かい? 数が足りないが……」


 ニーナさんが驚きをあらわす一方で、キリアンさんは首を傾げていた。


「残りの獲物は村の人々にあげました。僕が依頼されていたのは5匹の討伐でしたから」

「シルバーウルフをあげちゃったにゃ!? 1匹で村人の収入2ヵ月分くらいにゃよ」

「ははは、イオリ君らしいじゃないか。そういう所が魅力的なんだよね。そうだろう、エミリア」


 エミリアさんはまだ顔を隠して座り込んでいたが、キリアンさんの言葉に何度も頷いていた。エミリアさんのような美人に好感を持たれるのは、男としてとても嬉しいものである。


 その後、依頼達成の報酬として銀貨8枚を受け取り、シルバーウルフ6匹を金貨1枚と銀貨2枚で買い取ってもらった。ようやく宿に帰ることのできた僕は、夕食を食べるとあっという間に眠りに落ちたのだった。

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