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12 シルバーウルフ討伐戦

 

 ヴェステン村に入ってすぐの所で、1匹のシルバーウルフが壮年の男性に襲い掛かろうとしていた。男性は鍬を振り回してシルバーウルフを威嚇している。


 僕はシルバーウルフの背後に素早く接近した。シルバーウルフは気配を察知し僕の方を振り向くが、ためらうことなく慈愛のナイフを首に突き刺した。


「た、助かった。ありがとう!」


 僕は男性のお礼に立ち止まることなく、悲鳴の聞こえる村の奥へと向かう。すると、小さな女の子とその母親らしき女性が、シルバーウルフ3匹に追い詰められていた。娘を庇おうとしている母親は傷を負っているのか、上着の左袖が赤く染まっていた。


「≪ファイアアロー!≫」


 3本の火矢がすぐに形成され、シルバーウルフ目指して水平に飛んでいく。2本がそれぞれシルバーウルフに突き刺さるが、1匹は火矢を避けて僕の方へ向かってきた。


「グウォッ!!」

「遅いっ!」


 シルバーウルフが勢いよく飛び掛かり爪を振り下ろす。しかし、僕はそれに構わずナイフを振り上げ前足を断ち切った。「ドシャッ!」という音を立ててシルバーウルフが地面に衝突する。僕はすぐに近づきナイフを差し込み、さらにさきほど火矢を受けて瀕死になっていた2匹のシルバーウルフにも止めを刺した。


「ママ! 大丈夫!?」

「ちょっと見せてもらえるかい?」


 女の子の母親は失血のためか、顔が土色に変色していて呼吸も荒かった。僕は壁に寄りかかって座る母親の側に腰を下ろし、彼女の左腕の傷を見せてもらった。皮膚にシルバーウルフの歯形が刻まれ、血が次々に流れ出ている。


「≪クリーン(洗浄)≫……≪キュア(異常回復)≫……≪ヒール(治癒)≫」


 まず≪クリーン≫で汚れを取り除き、万一に備えて≪キュア≫で状態異常を回復。そして最後に≪ヒール≫で傷口を塞いだ。


「お兄ちゃん、す、すごい……これが魔法? 初めて見た……」

「き、傷がこんなに綺麗になくなって……あ、ありがとうございます!!」


 女の子はポカンと口を開けて僕を見ている。一方の母親は土下座をしながら、涙を流して僕にお礼を述べていた。僕は「気にしないで」と声をかけて、すぐに村の中央を目指して移動した。


 僕がさらに村の奥へ進んでいると、突然世界が灰色に染まった。この感覚はスキル≪絶影≫が使われた証である。レッドムーンベアに遭遇した際もそうだったが、このスキルは僕の意志に関わらず、自動的に発現することがこれまでに何度かあった。


 これまでの経験では≪絶影≫が自動発現するのは、僕に敵意を持った攻撃が迫っている時である。やはり今回も推察通り、僕の背後から2匹のシルバーウルフが飛び掛かろうとしていた。スキルにより鈍化した魔物の攻撃を僕は余裕をもって避け、右腕を2度振って魔物を仕留めた。


 このスキルが元の世界にもあれば、強盗に両親を殺されることもなかったかもしれない……あまり意味のないことを考えてしまい、僕はその思いを振り払うように再び走り出した。


 村の中央広場は悲惨な状況だった。そこでは15匹ほどのシルバーウルフが暴れまわっており、数人の村人がすでに犠牲となってしまっている。生き残っている村人を助けるべく僕は駆け出した。


「≪ファイアアロー≫×2!!」


 6本の火矢がそれぞれまるで意思を持ったかのように、シルバーウルフ目指して真っすぐ飛んで行った。村人を襲うことに夢中になっていたシルバーウルフたちは、次々と飛んできた火矢の餌食となる。


「グルルルル!」


 火矢の難を逃れたシルバーウルフたちが、警戒しながら僕を取り囲む。僕は意識を集中して奴らの動きを注視していると、少しずつシルバーウルフの囲いが小さくなり、そしてついに一斉に襲い掛かってきた。


「「「グワワッ!!」」」

「≪絶影!≫」


 時間操作のスキルにより、シルバーウルフたちの動きが急速に鈍化する。一方で、急速に僕の魔力が失われる感覚にも襲われた。やはりこのスキルは魔力の消費量が激しく、特にこれだけの数を同時に鈍化するのは大変だった。


「ほい、ほい、ほいっと!」


 シルバーウルフから次々と振り下ろされる爪を躱し、喉元に喰らいつこうとする牙を防ぐ。そして躱すと同時に腹にナイフを斬りつけ、防ぐと同時に首にナイフを突き刺した。


「ふーっ! きつかった……」


 時間にしてわずか数十秒、シルバーウルフの死体の山ができあがった。しかし、さすがにちょっと疲れてしまい、僕は両手を膝に置いて息を大きく吐いたのだった。


◇◇◇


「本当に……本当にありがとうございます。イオリさんのおかげて村は救われました」


 僕にお礼を言っているのはこの村の村長だ。回復魔法で助かった者も多く、最終的な村人の犠牲は4名だった。しかし、僕がもう少し早く村に着いていれば、犠牲者を出さずに済んだかもしれないという悔しさがあった。


「何かお礼をしたいのですが、もしよろしければ今日は村へ泊っていただけませんか?」

「いえいえ、お気持ちだけで結構です」


 4人の犠牲者が出ており火災で傷ついた家屋も多い。葬儀の準備や村の復興など、やるべきことがたくさんあるはずだ。その妨げになってはならないと思い、今回は丁重に辞退させていただいた。


「しかしそれでは我々の気持ちが済みません。あなたがいなければ、犠牲は膨大なものとなっていたでしょう」

「大丈夫ですよ。シルバーウルフをたくさん手に入れることができましたから。そうだ、よければ村の復興と犠牲者への弔慰に役立ててください」


 そう言って僕は≪ストレージ≫からシルバーウルフ15匹を取り出す。シルバーウルフは毛皮が防寒具、牙や爪が武器や装飾品に使われるなど、そこそこ高値で取引されているらしい。少しは村の復興の足しになるのではないだろうか。


「こ、ここまでしていただいて何といえばいいのか……」


 村長は涙を流しながら僕に感謝を伝えた。そしてせめてこれだけでもと、特産の乳製品やお酒を分けてくれた。


「かっこいいお兄ちゃん、ありがとう!」


 見送りに来てくれた村人の中に助けた少女と母親の姿があった。少女は僕の頭に花で作った冠をのせてくれた。


「この子、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになるって……ふふふ」

「もう! ママ、恥ずかしいからぁ……」


 最後に少女は僕の頬にキスをしてくれた。そして村人たちは僕の姿が見えなくなるまで、みんなで手を振って見送ってくれたのだった。


 村人たちに感謝されたことはとても嬉しかった。しかし、犠牲者を出してしまったこともあって、帰り道の僕は気持ちが塞ぎ込んでいた。


「ほら、落ち込まないの! 村が襲われたのは伊織のせいじゃないでしょ」

「大丈夫だよ。ありがとう、アリューシャ」


 ここは魔物が跋扈する異世界だ。おそらくこれから先も同じようなことがあるだろう。もちろんこの悲しさと悔しさを忘れてはいけない。でも、いつまでも落ち込んではいられない。自分の手の届く範囲になってしまうけれど、助けられる人がいたら少しでも助けたい。


 今回の初依頼は厳しい異世界を生き抜くため、多くの教訓を僕に教えてくれた貴重な経験となったのだった。

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