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45 証拠


(解封された怪物グルズウィード、聖霊クリストファーレン、そしてイオリ様の能力……)


 Sクラス昇格試験の翌日の午後、私は部屋の椅子に腰かけてぼんやりと昨日のことを考えていました。


(あの後はドタバタのうちに解散してしまい、結局イオリ様の秘密を何一つ聞き出せないままでしたわね)


 騎士団による事情聴取は本日の午前中に行われましたが、個別に対応されたためにイオリ様と会うことはできませんでした。


(それにしても、美しかったですわね……あの氷魔法)


 彼と一緒になって作り上げた氷魔法を思い出すと、うれしさと恥ずかしさで身悶えしてしまいます。


(ええっと……こうでしたかしら?)


 気まぐれにイオリ様の真似をして氷魔法のさわりの部分を詠唱してみました。


(――えっ!?)


 その刹那、背筋に寒気を覚え、周囲の温度が一気に何度も下がったかのように感じました。


(これはまさか……一体どういうことですの!?)


 魔法を詠唱した瞬間、確かに氷の女王と称される聖霊クリストファーレンの存在を近くに感じたのです。


 私は部屋を飛び出して庭に出ると、試しにもう一度氷魔法を詠唱してみました。


 すると、精霊ウンディーネに語りかけたその瞬間、何の造作もなく氷魔法が完成していました。


「し、信じられませんわ……」


 あまりの出来事に一瞬放心してしまいましたが、正気に戻るとすぐに部屋に引き返し、棚にしまっておいた水晶を取り出します。


 そして、意を決して自身の加護を鑑定してみると、その結果に危うく腰を抜かしそうになりました。


(あ、あ……ありえませんわ)


 私には火の精霊サラマンダーの加護しかなかったはずでした。だからこそ、その対極にある水系統の魔法は圧倒的に苦手だったのです。


 しかし、水晶にはサラマンダーに加えてウンディーネの加護と……そして“聖霊クリストファーレンの加護”が映し出されていたのです。


(いったいどうして……)


 私は放心してしばらく何も考えることができませんでした。ようやく我に返ったのは、私にお客様が訪ねていらしたからです。


 突然の来客は“断金の契り”の唯一の生存者であるコリンナ様でした。


 彼女の来訪の目的が分からず不思議に思っていると、彼女は開口一番に「昇格試験で起きた出来事について相談したい」と仰います。


「もしかしてグルズウィードの封印が解けた理由について、何か心当たりがあるのではありませんか?」

「流石だねぇ~、やっぱりここに来てよかったよ」


 試験中に起きた出来事といえばあの怪物のこと。そして、まだ解決していない点といえば解封の原因でしたから、それを予想するのは難しいことではありません。


「お茶でもいかがですか? ゆっくりとお話を伺いますわ」

「いや、すぐに帰るよ。あまり長居して見つかると面倒だからね」


 そう言ってコリンナ様は1通の手紙をこちらに差し出しました。


「見つかる? 一体何のことでしょうか? ……お手紙を拝見させていただきますわね」


 なんと手紙の差出人はブルーノ伯爵でした。


(専属依頼……王女殿下を鉱山最深部まで護衛し、昇格試験に合格できるよう支援せよ)


 その依頼は”断金の契り”ではなく、コリンナ様個人への依頼となっていました。


 依頼内容は王女殿下を鉱山最深部まで案内すること……つまり、王女殿下の殺害を意図するものでした。


 もちろん、これだけでは状況証拠にしかなりえません。しかし、あまりにも出来過ぎたタイミングでのグルズウィードの襲来は、封印を解いた犯人がブルーノ伯爵だということを如実に物語っています。

 

「守秘義務違反ではありませんの?」

「依頼主は王女殿下だけでなく、あーしも一緒に殺そうとした。もちろん口封じのためにね」


 それは彼女の話す通りで、イオリ様がいなければ王女殿下だけでなく私たち全員がグルズウィードの犠牲となっていたことでしょう。


「どうしてこの手紙を私の所へ?」

「あーしはみんなの敵を討ちたい。だけど……」


 コリンナ様を除く”断金の契り”のメンバーは、ブルーノ伯爵の罠によって全員亡くなっています。


 生き残った彼女が仲間の敵を討ちたいと考えるのは当然の事でした。しかし、大貴族であるブルーノ伯爵は腕利きの護衛に常に守られ、そして彼の背後には王族であるレイノルド侯爵がいます。


「悔しいけれど、あーしの力でどうこうできる相手じゃない。だから、この手紙をあんたに活用してもらいたいと思ったんだ」

「なるほどよく分かりました。この手紙はロゼリッタが責任をもって預からせていただきますわ」

「あーしが……いや、王女殿下が生還したのはブルーノ伯爵にとって大きな誤算だろうね。しばらく王都を離れるよ。ここにいたらいつ命を狙われるか分からないからね」


 そう言ってコリンナ様は小さくため息をつきます。


「それでしたらオルデンシュタインを目指してはいかがでしょう?」


 冒険者の聖地と呼ばれ、人の出入りの激しい辺境伯領都のオルデンシュタインであれば身を隠すにはうってつけです。


「なるほど、それはいい考えだね……あーしにはA級冒険者としての驕りがあった。初心に帰って鍛え直すのも悪くないね」


 そう言ってコリンナ様は笑顔を浮かべ手を振りながら立ち去ろうとされたのですが……なぜかこちらに戻ってこられました。


「どうなさいまして?」

「あの黒髪の少年にお礼を言っておいてもらえるかな?」

「命を救ってもらったことですか?」

「それもだけど……仲間の亡骸を持ち帰ってくれてこと。冒険者は死んでも埋葬できないのが当たり前だからさ」


 いつどこで命を落とすかわからない冒険者は”遺体が無事に戻ってくる”ことが稀でした。


 コリンナ様の仲間に対する思いの強さは、これまでの彼女の言動を見ていればよくわかります。だからこそ、仲間の埋葬ができることに深い喜びを感じているのでしょう。 


(”断金の契り”の無念は必ず果たして見せますわ)


 こうして私は思いがけずブルーノ伯爵の暗躍の証拠を手に入れ、すぐにお兄様へ連絡を取るべく筆を執ったのでした。


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