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41 再生


「そういえば今日だったな」

「はい、ハニエム鉱山でのSクラス昇格試験は今まさに佳境を迎えている頃かと」


 レイノルド様が腰を上げ、片膝をつく私の下へゆっくりと近づいてくる。


「封印されていた魔物はそれほどまでに厄介なのか?」

「グルズウィードは炎を全身に纏い、水・氷系統の魔法でしか倒すことができないとのこと」


 さらに記録文書にはグルズウィードの強力な再生能力についても記されていた。生半可な攻撃ではすぐに再生してしまい手に負えないとのことだった。


 唯一の救いは、根城にしているハニエム鉱山から外へ出ることは決してないということだけだ。


「間違いなく王女殿下は死ぬことになるとは思いますが、残念ながら一つだけ懸念があります」


 私の言葉を耳にし、レイノルド様が私のすぐ横でピタリと足を止めた。


「懸念、だと?」

「はい、もしかすると王女殿下の実力では坑道の最深部にすらたどり着けない可能性があるかと……」


 念のため”断金の契り”に先導を依頼してはいるが、それでも試験中に何が起こるかわからない。


 再び歩き始めたレイノルド様が、窓際から外を眺めながら突然笑い始めた。


「ふはははははっ!! それはそれで良いではないか。べルティーナの無能を国民は知ることになり、さらには仲間を見捨てたという風評も広がる!!」

「なるほど、その通りでございますな」


 私はレイノルド様のお言葉に納得し、「それでは失礼します」と告げて退室しようとした。


「ブルーノ伯爵、秘密裏に戦争の準備を整えてもらいたい」

「――戦でございますか!?」


 驚きのあまりつい聞き返してしまったことを私はひどく後悔した。


「そうだ。私が王に即位したらすぐに戦争を始める」

「ついに獣人国と協同してエルフ国へ攻め込む、という計画を実現されるのでしょうか?」


 私は興奮しながら訪ねたが、レイノルド様の返答は予期せぬものであり、そして自身の浅慮を恥じることとなった。


「そうではない。長耳の国はいずれ必ず攻め滅ぼす。奴らはすべて我々の奴隷としてくれる」


 これほどまでにエルフ族に対して敵愾心を露わにする王族はこれまでいなかった。過去の愚昧な為政者たちは、いかにエルフの機嫌を取るかということに腐心してきたのだ。


 人間族としての誇りと矜持を抱かせるレイノルド様のお言葉に、私の胸は熱くなり不覚にも涙をこらえることができなかった。


「仰る通りでございます。必ずやエルフどもを屈服させましょう」

「だが、今は外よりも国内の基盤を盤石なものにせねばならぬ。攻めるは……オルトヴァルド辺境伯領」


 レイノルド様の目的が分かり、私は涙を拭うと必死に知恵を絞って策を考えた。


「……閣下、死んだ辺境伯に現時点で正統な後継者はいません。ならば、閣下のご子息を後継者として推薦してはいかがでしょう?」

「ふははっ、それは良い考えだ」


 さすが聡明なレイノルド様は私の意図をすぐに察して下さった。


 子どものいないアレグリアが死んだ今、その辺境伯領を乗っ取るまたとない好機なのだ。それが戦わずに手に入るとなれば、これほど美味しい話はない。


「だが、都合よくオルトヴァルド家に我が王族の血が混じっているとは思えぬが。あの連中はこれまで王室とは一線を画してきた者どもだ」

「アレグリアの母方の家系をたどれば王族の血縁者だった、ということにしてしまえばよろしいではありませんか」


 私の提案にレイノルド様は機嫌よく笑い声をあげた。


「ふははっ、それもそうだな。我が息子を受け入れればそれでよし、拒否すれば攻め入る口実となる。うむ、見事な策だ」


 レイノルド様が満足そうに頷くと、さっそく私は戦争の準備に取り掛かるのであった。


◇◇◇


「や、やったな!!」


 笑みを浮かべたグスタフが、へたり込んでいる私のもとへ駆け寄ってきます。


「あ、あなたの協力のおかげですわ」


 そう言って私は立ち上がろうとしますが、めまいがして足元がふらついてしまいました。


「待っていろ。すぐに回復してやる」


 グスタフが腰にある道具袋からマナポーションを取り出してこちらへ差し出しました。


「助かりますわ――」


 しかし、私がそれを受け取る前に、彼はマナポーションを地面に落としてしまいました。


「グスタフ、どういたしまして?」

「ば、馬鹿な……そんな馬鹿な……」


 彼は全身を震わせながら私の後方に視線を向けています。


 グスタフの異常な様子に疑問を抱いた私が振り返ると、なんとそこには頭部のないグルズウィードが立っていました。


(これは、い、一体どういうことですの……?)


 そして私たちが声を失っている間に、失われたはずの頭部がみるみるうちに再生されてしまったのです。


「くそったれ!」

「……ここまで……ですわね」


 私の全身全霊を込めた氷魔法が通用しない以上、もはやこの魔物を倒すすべはありません。そして、私たちがここから逃げられる可能性も皆無でした。


 かつて幾多の強者たちが戦いを挑み敗れて言った訳、王国軍を投じても討伐できなかった所以、最終的に封印するに至った理由……


 この驚異的な再生能力を目の当たりにして、それらの原因を身をもって知ることとなったのです。


(それにしても、封印されていたはずのグルズウィードがなぜ?)


 死を目前にしながら、私は今さらどうでもよいようなことを考えていました。


(誰かが封印を解いた? その目的は何のためですの?)


 魔導学院の生徒を狙ったものなのか、それとも”断金の契り”を狙ったものなのか……


「グオオオオオオッ!!」


 完全に復活したグルズウィードが雄叫びを上げ、高熱を帯びた巨大な深緋の塊がこちらに向けて放たれます。


 私はその場に座り込んだまま、隣にいるグスタフを力いっぱい押し退けて目を閉じようとしました。


(お兄様、これまでの愛情に感謝いたしますわ。そしてイオリ様、願わくは来世でのご再会を……)


 諦観の境地に至り、最期にイオリ様のお姿を脳裏に浮かべながら死出の旅路へ向かうことにします。


(――えっ!?)


 しかし、視界が暗黒に染まる直前、私のすぐ横を何かが高速で通り過ぎると、炎を切り裂いてそのままグルズウィードを吹き飛ばしたのでした。

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