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10 副ギルドマスター


 僕たちは約束の時間の少し前に冒険者ギルドに到着した。例のごとくアリューシャは姿を消している。受付に顔を出すと、すぐにエミリアさんが応対してくれて別室に通された。中に入ると大きなソファーが向き合って2脚あり、一方にダークブラウンの短髪の男性が座っていた。


「やあ、イオリ君だね。わざわざ来てもらってすまないね。この冒険者ギルドの副長を任されているキリアンだ。よろしく頼むよ」


 キリアンさんの年齢は40歳くらいで、身長は180cmほどだろうか。筋肉質で体つきががっちりしていて、冒険者もしくは軍人のように見える。キリアンさんは笑顔を浮かべて立ち上がり、僕に右手を差し出した。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう言って僕はキリアンさんの手を握り返し、ソファーに腰を下ろした。すぐにエミリアさんが、ソファーテーブルの上に紅茶を置いてくれた。


「まずは君の冒険者ランクを伝えるとしよう。君はDランクに認定された」

「いきなりDランクですか!?」

「レッドムーンベアはDランクパーティーで討伐するべき魔物だ。それを単独で倒したのだろう? しかも、収納魔法を用いて最高の状態で買取りに持ち込んでくれた。十分にDランクの資格はあるよ」


 キリアンさんはソファーの側に立っていたエミリアさんから、1枚のカードを受け取り僕に差し出した。


「それが君の冒険者カードだ。無くさないように気を付けてくれ」


 緑色の金属でできたカードには、僕の名前や個人ランクが刻まれていた。他の項目は空白になっている。おそらくパーティーに所属すれば、パーティー名とパーティーランクもこのカードに刻まれることになるのだろう。


 キリアンさんの説明によると、冒険者カードの色は次の通りに規定されているそうだ。


 白色:Sランク冒険者(S級)

 黒色:Aランク冒険者(A級)

 銀色:Bランク冒険者(B級)

 赤色:Cランク冒険者(C級)

 緑色:Dランク冒険者(D級)

 青色:Eランク冒険者(E級)

 黄色:Fランク冒険者(F級)


 そして、カードの色はあくまでも個人の冒険者ランクで決定する。例えば“紅の乙女”はパーティーランクはD級だが、リーダーのエルマさんは赤色(C級)の冒険者カードを持っている。また、冒険者ランクはD級以上が優秀な冒険者とされている。B級になると、貴族から指名依頼なども来るらしい。


「依頼の受注については、あとでエミリアから説明を受けておいてくれ」

「わかりました」

「それでは次に君の加護についてだが、女神アリューシャ様の加護があるということで間違いないね?」

「はい、その通りです」

「疑うわけではないが、何かの間違いということもあるかもしれないので……」


 僕はもう一度水晶に手をかざすことになったが、結果は前回と同じだった。


「やはり間違いなしか。それでは、女神様から何か神託を授かってはいないだろうか?」

「神託、ですか?」

「うむ。200年前の“使徒”は神託を受けていたという記録が残っている。神託の内容ははっきりしないのだがね」

「そうなんですね。ええっと……これが神託と言えるのかどうかは分かりませんが、女神さまから授かった言葉があります」


 キリアンさんとエミリアさんは、僕の発言に驚いた表情を見せた。二人は顔を見合わせて頷くと、エミリアさんはペンを取りだしてメモの準備を始めた。


「それで、神託の内容を教えてもらえないだろうか。人族の存亡にかかわることなのだろうか?」

「女神アリューシャ様は僕に……」


 二人が緊張のあまり息を飲むのが分かった。エミリアさんのペンを持つ手に力が入っている。


「僕に……自由に生きなさいと仰いました」


 僕を見るキリアンさんの右目が、淡い緑色に光った気がした。


「……ん? 自由に……生きろ?」


 キリアンさんは少し混乱している様子だった。エミリアさんは固まってしまっている。


「うーむ……その神託が何を意味するのかは分からん……しかし、女神様がそういうのなら従うのが良いのだろう」

「はい。しばらくはこの街で、冒険者として生活したいと考えています」

「……そうか、わかった。副ギルドマスターとして、できる限りの支援をしよう」


 このあと僕はキリアンさんやエミリアさんに、冒険者ギルドを利用するにあたっての注意事項などを事細かに説明してもらった。


「それでは、これで失礼します」

「ああ、今日はわざわざありがとう。何か困ったことが起きたら遠慮なく言ってくれ」


 こうして僕は副ギルドマスターとの面談を無事に終え、胸をなでおろして帰路につくのだった。しかし、その帰り道で姿をあらわしたアリューシャが真剣な表情を僕に向けた。


「間違いないわ。副ギルドマスターは“祝福”持ちね」

「どういうこと? 特別なスキルを持っているってこと?」

「そうよ。おそらくだけど……あれは相手の嘘偽りを見抜くスキルよ」


 確かに言われてみれば、あの突拍子もない僕の話を簡単に信じるのもおかしな話だ。女神の神託が「自由に生きろ」などというのは、普通であれば到底信じられる話ではない。それに疑問を持たれなかったのは、キリアンさんにそういうスキルがあったからだと考えれば納得できる。僕の出自などについて、改めて確認されなかったのは幸いだった。


「あの光る右目か……異世界は油断も隙もない世界だね」

「そうよ。あの眼鏡女、イオリのことをチラチラ見てたわ……油断も隙もない!」

「そっちじゃないよ……」

「ほら、お腹も空いてきたし、そこの屋台で色々買って食べましょう!」


 確かに近くの屋台からは、昨日と同様にいい匂いが漂ってきている。午前中は偉い人との面談で疲れてしまった。天気も良いので、近くの公園でアリューシャと一緒にお昼ご飯を食べることにしよう。

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