表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

伯爵家の双子の令嬢、アーラとユーラ

デキる美人令嬢の姉と違って愛されない娘だった私ですが、姉の想い人に気に入られたので姉を見返そうと思います

作者: 紅玲

それは、私の中に、びっしりと埋めつくされた記憶。


「アーラは本当にいい子ね」

母様が姉様の頭をなでていた。父様も、その横でうなずいた。

「アーラは私達の自慢の娘だよ」

姉様はいつものように、愛らしい笑顔。

でも私は、姉様が誉められて嬉しそうにしているのを、横でみているだけだった。

「ーーねえ、ユーラもそう思うでしょう?」

母様が、私に聞いた。

「…はい」

……私のことは誉めないのに。

心の中で、母様に悪態をつく。



姉であるアーラと妹の私、ユーラは、伯爵家の長女と次女。

私たちは、社交界でも有名な姉妹だった。


何故かってーーそれは、私たちが、双子の姉妹だから。


そのせいで、昔っから何かと比べられた。でも、比べるまでもなく、母様達にとっては、いつだって姉様が一番だった。


賢くて、要領が良くて、人に好かれる術を生まれながらに持っている姉様。


私達二人が並べば、姉様の方がずっと綺麗で圧倒的に目立ったし、何をしても姉様の方が常に上手(うわて)だった。生まれたときは同じ立場だったというのに、歳を重ねるにつれて、どんどん差は深まるばかりで……。もう縮められないほど差は開いていた。


私がいくら努力しても、姉様に適うことは……なかったの。


だからそのうち、姉様も私を軽く扱うようになった。

可愛いドレスを()()見つけても、

「ユーラは着こなせないわよね、私が着てあげるわ」

と当然のように言って、横取りしてしまうのだ。それをみても、母様も父様も何も言わない。


ーー「私も着たい」


そう思ったって、姉様が一回着た物はもう着ない。

いや、着れない。着ようとも思わないけれど。


姉様が着た後に私が着ても、いろんな差が目に見えるようになるだけだもの……。

だから私のクローゼットにある服は、わりとシンプルな服が多い。対照的に、姉様は派手で華美な服が多いのだ。

まぁ、それは他ならぬ姉様のせい、なんだけれども。






突然だが、姉様には、想いを寄せる人がいる。

それは、名高い公爵家の唯一の跡継ぎ、リアードさま。彼はなかなかの美形で、社交界では注目の的である人物。

リアードさまの話を持ち出せば、それだけでおしゃべりがずっと続いてしまうくらいに、令嬢たちの憧れの存在だった。


私は姉様の思いに随分前から気付いていた。姉様は、何でも1番になりたい人。そのせいなのか…リアード様まで狙い出す。

もう呆れに呆れ、呆れ疲れた私は、何も言わなかったけれど。





今日は我が伯爵家主催のお茶会がある。

もちろん、あの評判のリアードも参加する予定だった。


「アーラ、ユーラ。準備はできたかい?」


父様が、それぞれの支度を終えて部屋から出てきた私達に言った。


「できましたわ、お父様」


姉様が人を惹き付ける微笑みで答える。

だから令息達にもモテているのだろうか、この人は。でも、彼女がその笑みを食らわせたいのは……。

リアードに会えるから、ご機嫌なのだ。私には分かる。


父様はいつものように親バカだ。

「アーラ、今日も綺麗だよ。さすが自慢の娘だ」

「あら、お父様ったら。ユーラにも何か言ってあげてくださいな」


姉様が、私にちらりと目を見やってから、言った。


ーーわざとらしい。

父様は何と言うのだろう? 私はいつものように地味な服装だというのに。姉様は本当に意地悪だ。


「ああ…ユーラも、な」


心にもないことを言わないで。

ーーわかってるから。父様の目には、姉様しか映ってないって。期待なんか、しないよ……。


「早く行きましょうよ」

母様が、私達を急かした。姉様だけが、元気よく返事をした。






お茶会には、名門の貴族の娘や、息子達が沢山来ていた。

その中でも、姉様が密かに目をつけているリアードは、やっぱりひときわ輝いていた。


「リアード様、このお菓子は当家が開発したものですの。召し上がってくださいな」


姉様がリアードに積極的に話しかけていた。

姉様が私をにらんだから、仕方なく姉様の横で姉様のために相づちをうつことにする。


姉が言いたいことは、何となくわかるようになったこの頃だった。


「姉様はとてもお綺麗ですから」

「私なんかより、ずっと頭がよくて」


スラスラと、姉様の賞賛の言葉を述べていく私。

その心は、空っぽだった。

お世辞じゃない。姉様の恋を応援するのはあまり気が乗らないけれど、嘘をつかない限りは耐えられる。


「なるほど、アーラ様はとても素敵な方なんだね」


リアードが私に言った。彼特有の、完全無欠の、穏やかなほほ笑みで。

これはモテるだろうなぁ、と、うっすらと思った。


姉様が「まあ、嬉しいですわ」と、ふふふと笑う。


「デキるお姉さんがいて、羨ましいな」

リアードが王子様スマイルでウィンクする。それを見た姉様が、リアードにみとれ……。


……みていたくない。リアードの王子様スマイルなんて、結局は本心で笑っているんじゃない。

姉様には、わからないのかしら?少しの可能性にでもすがりたいの?どうして?リアードを手に入れて、社交界の注目を集めたいってこと?


「リアード様、私ともっとお話ししませんか?」

姉様がリアードにアタックしているのを、ぼんやりと眺める。太陽の日差しが反射して、姉様のドレスに散りばめられた宝石がきらりと光った。


きっとOKなんだろうな。私は興味ないけれど。


……そう思っていたのに。


リアードは、私の意に反してこう言った。


「いや…、遠慮させてもらうよ。……ユーラさん、僕と話さないか?」


「………………は?」

思わず失礼な返答をしてしまった。

は?って。

姉様が「信じられない……!」と、わなわなと震えていた。


怒らないでください、姉様。

私に怒りの矛先を向けないで!


どうして輝く姉様ではなく地味な私をこの人が指名したのか、私にもわからないのに。


「い、妹、ですか?」

私への怒りーーもう恨みに変わりそうになっている感情を押し殺し、姉様がリアードに聞いた。


「ああ。また次の機会にね、アーラ様」

「………っ」

姉様がキッと私をにらんだ。


「ね、姉、様……」


ああ、姉様がこんなに怒っているのをみたことがない。


姉様は昔から自分が思い通りにならないと気がすまない人だった。だから私から物を奪うことを覚えたのかもしれない、と、ふと思った。



『お父様ぁ、ユーラがもってるのにどうして私には買ってくれないの? 私にも買ってよお~』

『でもアーラ、アーラには別のものを買ってあげたじゃないか』

『でも私はあれも欲しいの!』

『……しょうがないな。ユーラ、アーラにあれを譲ってくれないか?』

『え、ユーラ、くれるの?! お父様、ありがとう!!』

私が譲っても、姉様が私に感謝することはなかったけれど。


それは、幼き日の記憶。いつからか、訴えることも忘れた……私への、屈辱。




「……………」

姉様がきびすを返し、サッと去っていった。……涙も、まじっていたかもしれない。


「あぁ、姉様!」

私は叫んだけれど、追いかけはしなかった。意外にも、心の中で、楽しんでしまっている自分がいるのだ。


ーーいつもかなわなかったはずの姉様が私に負けたのだ。


「ユーラさん、お姉さんを怒らせちゃったかな?ごめんね」

リアードがいだずらっぽく笑うのに、私は頬を少し緩めた。

「いえ構いません。よくあることですから」

素知らぬふりをして、私はリアードに笑いかけた。


……今までずっと、姉様に負け続けていた。馬鹿にされ続けてきた。

でも、もう、限界だ。


私はもう、遠慮しない。姉様に媚びへつらったりしない。


ーーだから、リアードは私の物にする。


姉様から、奪うんだ。





「ユーラ!」

父様に謁見室に呼び出された。

リアードと姉様のことかしら?


「なんですか、父様」

素知らぬ振りをして、父様に問いかける。

「何って、ユーラ! あれからアーラは毎日泣いてばかりなんだぞ。姉があんなうちひしがれる姿に、何も思わないのか?」


父様、やっぱりあなたはオンリー姉様なんですね。

私はもう、苦笑することしか出来なかった。


私はあれから、リアードを私の虜にしてみせた。利用させてはもらったけれど、恋情がなかったわけではないから、嘘はついていない。

…嘘をつかなきゃ、何だっていいでしょ?


「そうよユーラ、お姉様の思いくらい、気づけないの?」

母様が私を責めるようにいった。


そんな彼らに、私は目をむいた。


何をいっているの?リアードは私の物だ。

姉様の物ではない。

今まで私がどれだけ姉様に物を奪われたと思っているの?この人達は。


「……アハハハハ!」


笑ってしまう。リアードは私が好きなのだ。姉様に入る余地なんてない。


いつ気づく?伯爵家の出世には、つまり公爵家に娘を嫁がせるためには、姉様より私の方が必要なんだってことに。

……うふふっ、アハハハハハハっ、ほら、つまりね!

ーー姉様と私の価値は逆転したんだって。

私は、にっこりと笑った。


「母様、父様、リアードは私の物。姉様に譲る気なんてないですわ」







感想など、評価してもらえると嬉しいです。


追記

たくさんの評価とブックマーク、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ