第5話 カスミ、覚醒
続いて割り箸がシャッフルされて各自に渡されてゆく──。
太介が割り箸をガン見。そんで私のまで仰け反って見てる。なんなの、なんなの、なーんなの?
「王様だーれだ!?」
超キョロキョロしてる太介。手が上がったのは西。モブばっかり。
「じゃあ、3番が身につけてるものを1枚脱ぐ?」
なんで自分で言っといて疑問系なんだよ。
「3番だーれだ!?」
手を上げたのは与田。すかさず手を上げ、耳上にあるヘアピンをひとつとってテーブルの上に置く。
やられたー! って顔してるぞ西。
お前、女の装備舐めんなよ?
ヘアピン、バレッタ、ピアス、イヤリング、メガネ、ネックレス、ブレスレット、指輪。服に到達するまでまだまだあんだよ。1枚服を脱ぐまではまだまだ時間がかかる。時間内にお望みの場所に到達できまい。
そもそも与田のやり方はコンパニオンさんの野球拳のやり方。さては与田のやつバイト経験者と見た。さすが大学生。
ふと視線を隣に移すと、口を開けて何かを学習している太介の姿。お前は一体なんなんだよ。
割り箸は回収され、また配布される。
おい、太介。それやめろよ。割り箸クルクルまわすからみんなに番号見えてんだよ。バカかよ。
「王様だーれだ!?」
スッと手が上がったのは今度は女子。福島女王の誕生でございます。
「えと、7番があ~」
やっぱり。太介、番号見られてるわ。
おいおい福島。エッチなのはダメだよな。
自分らで言ったこと忘れんなよ?
「1枚脱ぐ!」
さっきと一緒。ひねりも何もなし。
しかし福島のヤツは7番が太介だと知ってる。計略か。まあ1枚くらいなら……。
「7番だーれだ!?」
太介はちゃっちゃと1枚脱ぐ。パーカーの下は白ティー。筋肉で胸厚のところに乳首がぷくんと浮いております。女子の黄色い声が聞こえますよ。こいつ、自分が王様になる気持ちが強すぎてなんでもいいみたいです。怖い。
「ふーっ! 倉田さん。次行きましょ。次」
「え、あ、はい」
目が座ってるよ。悪い酒。
割り箸がシャッフルされてそれぞれの手元に。
「やった!」
声を上げたのは、た、た、た、太介!
分かりやすい。続いて私の番号を覗き込んでるよ。ルールもへったくれもないわ。コイツ。
「なんか面白くなーい」
「やめよっか」
女子がああいってますけど?
「えーとね~。王様の命令はね~」
早。誰も王様だーれだって聞いてないのに。
「んーと。3番がぁ」
3番。やっぱり私じゃねーか。
なんか無理矢理進行しようとしてるわ。しかし太介のヤツめどんな命令してくるんだろう……。
人前で服脱げはないよな。そういうのは二人っきりのときにやることだぞ、お前。
まさか、──キス?
こいつ、自分のほうからは出来ないから権力使ってやろうとしてる?
それともバックハグかなぁ。あれに憧れちゃった?
いや、その後、パニクった状況でハグしてきたからそれで欲求は解消されてるだろ?
うそだろ。目がやらしいよ。顔も真っ赤だし。
酒か? アセトアルデヒドが少ねーんか?
日本人は実は酒に弱い民族。ドイツ人は全く顔が赤くならないに対して日本人は三人に一人は赤くなる体質。それか?
いや、20歳になってからよく飲み会に行ってると聞いた。酒は強い方。ほぼシラフとみた。
ということはやっぱり、やらしい命令にウブな太介坊ちゃまはドキドキハァハァしてるってことだ。
ま さ か。
キス以上?
だから言うのをためらっているのか?
こりゃ、この青年から少し身を離す必要があるぞ。
「お~さまぁ。3番がなにぃ~?」
「ちゃっちゃと行こう。ちゃっちゃと」
ガラ悪くなったな。女子たち。
もう工藤くんのことどうでもよくなった?
そりゃあんなバカップルぶり見ちまったらなぁ~。
「さささささ、3番がぁ。ゴクリ」
普通この賑やかな中でツバ飲み込む音聞こえるか?
クソーッ! 太介のやつ、どんな想像してんだよ、テメー! あんまりヒドいのは女王における権限を使って破棄するからな。こんちくしょーッ!
「王様にィィィーーーッ!」
王様にやるのいいんだっけ?
まぁもういいや。コイツだから。それよりいつまでゲーム停滞させるつもりだよ。
「毎朝、モーニングコールする」
……………………。
──────!!?
モーニングコール。
モーニングコール?
は? え? 何言ってんのこの人。
「せーの。王様の命令わぁ、絶対!」
一人で何盛り上がってんだよ。
おい倉田ァ! おまぁ無言で割り箸回収すんな!
まわりもドン引き。
女子なんて、今日着てきた服の話してるぞ。
男性陣もすっかり酔いが醒めた感じで。
「ねぇしてくれる? モーニングコール」
コイツはコイツで手を握ったままだし。スケベな酒。今まで手汗気にして自分から握るとかしなかったクセに。
なにがモーニングコールだよ。
キスとか言ってこればいいじゃん。
私はホテルのサービスじゃねぇんだよ。クソがッ!
私はジンジャーエールを手に取り、一気に飲み干す。
……ん? なんか変な味。
「あ、それ……私のハイボール」
え? 何か言った? 与田。
なんか頭の中がグルグル回る──。
回る回る世界が回る。
これは誰? これは私。
私は何?
私は自分。
でも私が私ではない感じ。
とてもおかしい。
体の感覚がつかめない。
私がわからなくなる。
私の形が消えていく──。
歪んで誰かわからない。
太 介──。
この人知っている、倉 田。
佐
々木。
西、
福
永。
福 島。
千 葉。
与 田。
ここは?
どこ?
わたし──誰──?
ア
ナ
タ、ダレ──?
「くぉら太介ェ──!」
「か、か、か、カスミ? だ、大丈夫?」
「大丈夫じゃねーわ。テメェ、なにがモーニングコールだ。おんどれ、ボケカスゥ」
「ど、どーしたの? ちょっとおかしいよカスミ。これ夢?」
「夢じゃねぇ。テメェは毎回、毎回、中学生か? そのうち交換日記しようとか言うんじゃねーだろうなぁっ!」
「こ、こ、こ、交換日記! な、なんて破廉恥なこというんだよ、カスミ! そんなことしたら赤ちゃん出来ちゃうぞ!?」
「なにが赤ちゃんだ! テメーそれでも医学生か? 作り方しらねーバカかよ! この奥手野郎! キスの一つもしやがんねーで、こっちはずっとずっと待ってんだぞ、くぉら! 手を握る催促だってこっち。テメーは黙ってれば私がしてくれると思ってんのかァ! 王様権限つかってモーニングコールが精一杯かよ! もういい! 目ぇ閉じろ!」
「──?? は、は、は、ハイ!」
「よし。その目開けんなよ。そして顔、こっちに向けとけ」
「は、は、は、ハイ!!」
その後は──。
なにも憶えていない。
気づいたら、自分のベッドの上。
両親の話だと、太介がおぶって連れて来たらしい。
そして。そして──。
両親の前に土下座して、お酒を飲ませたのは自分の責任だと。どうか許して下さいと。将来は結婚しようと思っています、お嬢さんをボクにください!
と叫んで、その後、父と酒を飲んだらしい。
ナニコレ。ウチの親も太介にあげようと思ってた。今日からお前を息子扱いにするからそう思えとかナントカ。
なんだそりゃー。
なんだそりゃー。
なんだそりゃー。
意味わかんねーよ。親公認の仲はいいけど、未だにプラトニックな恋愛。ふざけんなっつーの。
でもあの後どうなったんだ?
太介の顔を上げさせて、目を閉じさせて──。
「よお、カスミちゃん」
考え事しながら街を歩いていると後ろから声。
振り向くと倉田だった。
「あ、倉田さん、この前はゴメンナサイ。太介ったら合コンの意味知らなくて。シラケさせちゃいましたね」
「いやぁいいよ。それより、アレよかったよ」
くっそう。バックハグのコトだな。
あれは一生の不覚だったわ。もう二度とやらんぞ。
それより、あの後どうなったんだろ。
やっぱり人前で……キスしちゃったのかなぁ。
「でもあれは驚いたなぁ。みんなカスミちゃんと工藤に釘付け」
やっぱり──。
うかつ。私としたことがはしたない。
「工藤の首、吹っ飛んじゃうかと思ったよ。スゴいビンタだったね。それじゃ!」
ビンタかよ!
キスじゃなかったのかよ……。
つーか、よっぽど太介にムカついてたんだろうなぁ。
まぁアイツにはいいクスリだわ。
◇
その後。私は毎朝、6時30分の目覚ましで目を覚まし、スマホを取る。
そして太介へと電話をかける。
ヤツは1コールで取るのだ。
「ハァハァハァ。もしもし。おはよー♡ カスミ!」
なんのモーニングコールだよ。アイツは楽しみすぎて、私が目を覚ます前に起きてる。
ムカつく。ムカつく。ムカつく──ッ。
続編あるかも?