異界の料理人(ピクシーの願い)
ピクシーたちは一生懸命に祈り始めた。この瞬間、村は一つになった。
だが、羽毛は一向に変化がない。
地面に伏せたままピクリとも動かない。
次第に村の隅からすすり泣くような声が聞こえてきた。
徐々に変わらぬ現実を理解したピクシー達の涙が伝染していく。ほとんどのピクシーがすすり泣き始めた。
一か八かの懸けであることは理解していた。だが、心のどこかで大丈夫なんじゃないか、もしかして、といった気持ちは皆が持っていた。
その希望がはじけ飛んでいったのだろう。深い悲しみに村が包まれた。
あれだけ、人間のことを嫌っていたエルフの少女でさえも、悲しいと思うほどに。
赤みが強かった空も徐々に闇に飲まれていった。
そんな静寂に包まれた村において一つの声が上がった。
「おいらの命を羽毛に分けてあげてくれよ。」
声を上げたのはケンショウだった。ぼそりとした小さな声だったが、村の誰に対してもその声は聞こえた。
清らかな生き物であるピクシーやエルフは自分の命を分け与えることができる。生命力の分ける量によっては、自分の命さえも投げ打つ必要がある。
今回の死んだ生き物を生き返らせようとする場合もそうだ。
「何を言っているかわかっているの?ダメよ。命を捨てるようなことはしないで」
「ハナの言う通りよ。命は神様が与えてくれたもの、運命には逆らっちゃいけないわ。」
ハナとモルサがケンショウの行動を止めようと牽制に入った。
「おいらが命を分けるのだった。運命の一部かもしれないだろ。それに運命なんてことを言うなら、おいらはオークに殺されていたはずだよ。すんでのところを羽毛に助けられたんだから。頼むよ。最後の一生のお願いだ」
ケンショウが深々と頭を下げ、お願いをする。
「そんな、嫌よ。もしケンショウが死んじゃったら、何もかも楽しいって思えなくなっちゃう。」
「ごめん。」
「なら、私も一緒に命を分ける」
「だめだ」
「なんでよ」
「ハナちゃんには生きていてほしいから。惚れた女には生きて幸せになってもらわないといけないんだ」
「ズルいよ、、、、」
それ以上は誰も止めることはできなかった。
彼の死への覚悟を誰も愚弄することはできなかったのだ。
ケンショウは深く息を吸い込み、空を眺める。
やがて、ケンショウが頷き準備ができたことを知らせる。
”神よおいらの生命力を彼に分け与えてくれ。ライフ・ゲーベン”
すると、ケンショウと羽毛の体がまばゆく光り輝く。
光が消え始めた--
光が完全に消えると、二人とも地面に横たわっていた。
どちらも意識はないようだ。
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