とんかつ
「勝手に食糧庫にいるですって!本当に一発ぶん殴らないと気が済まないわ」
「それはやめてほしい。あいつらだって命令されて隠れていたんだ。すべては俺が考え実行させたことだ。」
「ごほん、お戯れの中、申し訳ないが時間はそんなにないだろう。早く進めよう」
「戯れてなんかないわよ。羽毛が冷静なのが信じられないわ!」
「ここでわちゃわちゃしていても命を守ることができないからな。少しでも可能性を見出すことがいまできる最善なのだとしたらここで動けないやつは種族関係なく愚物だ。」
モルサが静かになった。羽毛自身も内心かなり不安とストレスを感じているが、覚悟を決めている。一蓮托生だ。
、、、厨房に到着した。卵が無いことも含め先ほどから変動はないようだ。厨房に入ると羽毛は人が変わったようなオーラを発するようになる。本物の始めてみるプロの料理人を前にダガーもモルサも息をのむ。手を洗う姿も包丁を準備するしぐさも何一つとして無駄がない。料理を食べなくてもその動作だけで彼が最高の料理を作ることを証明しているようだった。
「あぁ、やはりすごいな。食材にまだ触ってすらいないのにこれほどの覇気を醸し出すなんて。」
「たしかに、羽毛がきてからピクシー村の料理や食材レベルが物凄く進歩したって知っていたけど、納得だわ」
「お褒めの言葉をありがとう。卵を倉庫から持ってきてくれるか?あと、ここからは私語は謹んでもらえるとありがたい。食材の声に料理に自分の出し切れるすべての集中力を神経を研ぎ澄ませて向き合わなければいけないんだ」
二人が頷くのを見て羽毛は食材の準備に取り掛かる。羽毛がピクシー村にやってきて数日ではあるが、村周辺で取れる野草について理解し始めていたし、食材についてもピクシーがたくさん集めてきてくれたのであるもので料理を作るようだ。
「闘いの前のゲン担ぎや精力をつけるための料理。この村にあるもので作れるもの。、、、これから、かつ丼をつくる」
ふむ、今までの常識でかつ丼を知っていると思ったが、知らないよな。さっき黙れといったから何も言ってこないが全くわからんって顔をしているな。まぁできてからのお楽しみって思ってもらうか。
そこからの羽毛の手つきは鮮やかと言うほかなかった。数日前に倒して腐らないように燻しておいたオークの肉を薄く(といっても普通のとんかつで食べるものよりもずいぶん厚いが)スライスしていく。素早く包丁で筋を切っていくと塩と胡椒などの薬味を数種類ブレンドし振りかけていく、小麦粉はこの村にはないのでパンによく似た実をつける木からとった実を乾燥させ粉末にしたものに豚肉をつけ、卵黄に浸し、さきほどのパンの実を乾燥させ粗く砕いたものにつけていく。そのままオーク肉を寝かせ、どんぶりの準備に入る。村の周辺に米の祖先というか親戚というか植物が生えていたのでそれを使うようだ。日本米よりも粒が大きく甘み成分やみずみずしさが強いその米を軽く洗い火にかけていく。米がほどよく香りを充満させてきたらさきほどのオーク肉を温度の低い油(オークの脂身で絞った油だ)を使用し、分厚い肉の中まで火が通るようにじっくりと調理していく。ある程度、中まで火が通ったら一気に温度を高め表面をカリッとさせていき、とんかつの完成だ。仕上げに羽毛がピクシー村に来てから何日もかけて野草等を煮込んでつくった調味料と塩を入れ卵でとじて、どんぶりにのっければかつ丼の完成だ。
トッピングを乗っけられたかつ丼。ダガーとモルサは初めてみるのだろう。そこに出来上がった完璧を体現したようなにおいだけで脳が刺激され疲れ果てた体も元気になるような。本能から食べたいと訴えてくるような料理をみて無意識に涎がしたたっていた。