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防衛協定

「おっかないな。本当に協力していく気があるのか?」


 人間と亜人はやはり考えることが大幅に違うんだろうな。常識が通じないってことほど怖いことがないなと怖気づいた羽毛は会話からフェードアウトしようと考えたが、モルサが会話を続けていく。


 「なるほどね。でもこの村の戦力や軟禁した場合の対象人物のモチベーションを考慮したら協力する方がメリットがあるってことね。一転して協力するってなったからその理由に疑念を抱いていたけど、動機には問題なさそうね。」


 うわ、まじかよ。すんなり会話について行っているし、そこまで考えて話していたのか。俺なんてその場の雰囲気に合わせるのに必死だったのに。こいつらすげーなと心の中で羽毛が感嘆ながら会話に入って粗を出さないように見守ることとした。いわゆる周りに流されよう作戦だ。


 「ああ、そういうことだ。」


 「でも、これまでゴブリンの集落でも見つからなかった人材をこの村で発見できたってどういうことなの?それにエリス台地でも一番だろうって・・・ここには羽毛が数日前にやってきたこと以外は何の変哲もない村よ。」


 「この村で料理ができるやつがいるだろう。この村の食糧庫や卵を料理に使用したと思える技術力。間違いなくこの村の料理レベルはエリス台地で一番だ。ここにそれだけの料理を行える特別な料理人がいるはずだ。」


 モルサからの視線が羽毛に向けられる。注がれるアイコンタクトが強く羽毛には耐えがたいものだった。また額や脇から尋常ではないほどの汗が噴出してきた。俺に話せっていっているのか?この流れからそれは俺です!っていってもよくないことに巻き込まれる気しかしないんだけど。モルサからの視線に首を横に振ることで返答することとした。


 「自分からは言いたくないってこと。エンターテイナーなのね。」


 いやそういうことじゃなくて俺だってことを言いたくないってことなのに。羽毛は葛藤する。否定するも肯定するもすべて自分がその料理人だと判明してしまうからだ。どうせ判明するのなら肯定するほうがいくらかマシかもしれない。腹をくくって自分だと告げることにした。


 「いや、自分で言うよ。ダガーが探している料理人は俺のことだと思うけど、なんで料理人を探していたんだ?」


 「エニグマの能力はすでに判明しているってさっき話したよな?実はこのエニグマは料理に大きく関係しているんだ。だから料理人を探していた。そして、種族的になのかわからないがゴブリンにはそれほど味覚がすぐれているものもいなく、手先の器用なこともできない。つまり試したけれど料理をうまく作れなかったんだ。」


 ・・・巻き込まれた。トラブルの一番中心のところに巻き込まれた。逃げだすことの許されない立場。なんでこんなことになったんだ。いくらエニグマがすごいって言っても料理に関係しているってどういうことだよ。戦争している国家間に割って入れるようなレベルじゃないだろう。困ったぞ。どうにかして俺以外で料理ができる人物を捜すか、エニグマは使えないと証明しないとこの場からは逃れられなそうだ。


 「今後の発展という観点でいくとダガーが操りやすいある程度料理をすることができる人物を調達したほうがいいんじゃないか?俺のような強者に従属関係を望むほど君はおろかじゃないだろう?同盟程度の協力関係であっても共生することは難しいとは思わないか?」


 「確かに羽毛の言っていることはもっともだ、人間でありながらオークを倒し他種族からも畏敬を集めるお前を操るなんてことはできないだろう。だが、このエニグマの効果は料理人の質に大きく依存する。俺はお前ほどの腕前の料理人を見たことがない。いくら凡人が努力しようが到達することができない高みにいるとみた。」


 相手をかなりの強者で協力を仰がなければいけない時に見え透いた嘘程愚策はないことぐらいダガーは知っているだろう。つまりダガーは本心で羽毛のことをこれ以上ないほど褒めているのだ。心からの尊敬というものはだれしも心を動かされる。それがこれまで敬われることのなかった人間だとどうなるだろうか?答えは簡単だ。これ以上ないくらい喜び尽くそうとする。感嘆さえなければ料理人の質に依存するなんて使い物にならないと一蹴するつもりだった。だが、心踊らされた後の羽毛はその言葉すら忘れてしまったようだ。


 「わかるのか。そうか、、、そうか。確かに類まれな才能を昇華させなければ俺ほどの料理人には到底及ばないだろう。よくわかっているじゃないか。質の高い料理人がいるとそのエニグマはどうなるんだ?」


 「ずいぶん気持ちよくなってるわね。でも戦わなくていいなら私は参加したくないし、ピクシーにも参加させたくない。ピクシーはか弱い生き物なの。危ないことはさせたくない。それに私がやられたらピクシーも守れなくなっちゃう。だから私は自衛以外には手は貸せないわ。」


 モルサから急に突き放されたような気がして悲しくなり、ふと我に返る。目の前のホブゴブリンは喜々とした表情を浮かべている。これで断ったら人間でも激高する人はいるだろう。元々訳の分からない他種族なんて何をされるかわかったものではない。明日の死より今の生だな。と小さく羽毛は呟いた。

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