エニグマ発見
「じゃなければ、こんな悠長な話もしないし復讐なんて話さないだろう。」
「じゃあ、あなたはエニグマを持っているということなの?」
「これだよ」
ダガーが手元から取り出した緑色のそれがその場にいた羽毛とモルサの顔を引きつらせる。急に友人が宝くじを当てたと知った時の表情はこんな感じなのだろうと思うほど顔を歪める2人。たぶん彼が手元に持っているものこそが「エニグマ」なのだろうと誰もが推測をする。予想よりも小さく、予想よりも圧倒的な存在感を放つ”それ”がただの石ではないと本能的に理解させる。
「そ、それは、いや、それが、、、、」
飄々と喋っていたモルサさえも喉を鳴らせながら目をくぎ付けにして話す。
「ああ、これがエニグマだ」
「なんで、君がそれを持っているんだ。その石はどんな効果がある。」
如何にトラブルに巻き込まれたくないと思っていても目先にエサがあると生き物というものはこれほどまでに正直になるんだと自身の食いつきから呆れながらも前のめりになってしまっている羽毛はそう思った。
「俺がこれを持っているのはただの偶然だよ。実をいうと人間たちもエニグマの場所をエリス台地のどこかにあるとしか把握していなかったんだ。だから、毎年人間たちの戦争で辛酸をなめさせられてきた俺たちゴブリンはそれなら人間より先にエニグマを奪ってしまおうと画策した。エリス台地をくまなく捜索し始めた俺たちは毎日探索を続けやっとのことでエニグマを発見したんだ。」
「なるほどな。それさえ持っていれば人間との交渉道具になるかもしれないし、武力的拡大を狙えるとも考えたってことか。でもだとしたら君がここにいるのはおかしくないか?エニグマの恩恵を享受して、襲ってきた人間を返り討ちにできると思うのだが、、」
羽毛のその一言にダガーは顔を曇らせる。何か訳アリってことだな。やはり逃げることが一番賢いんじゃないのかと羽毛が考えを巡らせ始めたことをダガーが察し、慌てて言葉を紡いでくる。
「このエニグマの能力まではわかったんだが、どうしてもゴブリンだけでは十二分に能力を発揮することができなくてな。ゴブリンだけでも使用できるように努力をしていたんだが、その間に襲撃にあったという訳だ。」
「そうなのね。でもだからといってこの村でエニグマが活用できるとは限らないんじゃない?これまで活用できるように研鑽を積み重ねてきたのにできなかったわけでしょ?やっぱり他の村や種族を当たったほうがいいと思うわ」
「いや、このエニグマはこの村で間違いなく抜群の力を発揮するはずだ。エリス台地でこの村以上に活用できる村なんてないはずだ」
「なんでそんなことが言えるんだ?そもそも、初めはこの村を襲撃すると言っていたよな?場所に依存する能力なのか?それならばなぜこれまでこの村を襲撃してこなかったんだ?」
「いや、このエニグマは場所に依存するものではない。人に依存するものだ。だから襲撃してその人物を軟禁することで復讐を果たすことができるのではないかと思ったんだ。」