プロローグⅡ
【~異世界への転生~】
[---現代、京都---]
「・・・っふう。やっぱりアニメは「異世界転生」に「俺tueee」に限るな。俺も異世界に転生さえすれば、~最強の最高級冒険者~になったり、~全知全能の国王~になったりできるのになぁ」
「なんで、俺は異世界転生ができないのかね~こんなに冴えないのに。そろそろ人生逆転がきてもいいと思うんだけど」
「ははは、1人でこんなことを喋るなんて悲しくなってきた。明日は4時起きか、そろそろ包丁の手入れをして寝ないとな・・・」
独り言を話すこの男こそ、この物語の主人公「羽毛淳」だ。
43歳の独身で趣味は「アニメ鑑賞」と「俺tueee妄想」をすることだ。休日の過ごし方といったらこの2つ以外に思いつかない。
独り身の男が悲しすぎるような気もする。本人としてもその自覚はあるが、趣味を増やすために挑戦したソロキャンプも
山奥でアニメ観賞をしているだけだった。アニメを見れない方がいいのではないか。と考えボルタリングに挑戦してみても筋肉が伸びてしまい怪我を負うこととなった。それ以降、趣味の話題はブラックボックス化してしまっている。
そんな彼ではあるが、仕事面では充実している。彼の仕事は高級料亭「花びら」で料理長をしている。元々凝り性のこともあり、料理においては妥協を一切許さい。
そのため数々の賞を受賞し、料亭は3つ星を獲得している。そのため年収も同年代より相当あり、住まいも浅草近くのタワーマンションに居を構えることができている。
何不自由ない生活をしていてそれなりに現状には満足している。ただ彼にも悩みはある。こだわりの強さが災いしたのか、
この歳になって色恋沙汰に一切御縁がないことだ。
彼の唯一のモテ期は幼稚園の年中さんの学芸会だった。
--演劇で桃太郎をやることになったのだがキビダンゴを泥団子で作って猿、キジ、犬役の女の子達をドロドロにして泣かせた同じクラスの田中をみて、とっさに女の子たちの助けに入った。大人になってからだとスルーしてしまうようなことなのかもしれない。
だが、その行動によって女の子達からとても感謝された。猿、キジ、犬の女の子達から好きとも言ってもらえたのだ。
今にして思うとあれが最初で最後のモテ期だった。
今思えば女の子を動物としてはべらせて冒険にでるって先生完璧にそういう性癖だろ。と思ってしまうが、モテたのはあれが最初で最後だったのだ。
それ以降、ヒーローは遅れて助けるもの、そしたらモテる!という思考回路に陥った。完全なる中二病だった。
中二病はどんどん広がっていき、毒され収拾が付かなくなった。
ヒーローはクールだと思い、人を寄せ付けないクールキャラになろうとした。
中学校の入学式で右手に包帯、左目に眼帯をつけて登校した。緊張からかはじめのうちは他人の目線は気にならなかった。
だが、GWが明けてから周囲からネタにされていることが発覚した。
クラスの女子から見つめられていたのは好意ではないと知った。
そこからは、ほとんど学校に通うことができなくなった。心配した親が通信制の学校に通わせてくれたおかげで何とか中学、高校を無事卒業し、料理の専門学校に通うことができたのは幸いだった。
だから彼には友達もいないし、青春の思い出なんてこれといってない。
1人で没頭できるアニメや料理にはまるのは必然だったのだろう。
そのため彼は世間では勝ち組に見られているかもしれないが人生では大きく負け越していると思っている。
過去を思い出し、自分の境遇を卑下すると、ポツリとつぶやいた。
「笑えないな」
哀愁漂う呟きは虚空に消えていく。
慢性的な睡眠障害持ちでも眠れるように、日々服用する睡眠薬は多くなっていっていたが、この虚しさから早く逃げられるようにと
今日はいつもより非常に多くの睡眠薬を服用した。
徐々に体が冷たくなり、意識が失われていく・・・
強い光が顔面に差し込めている。頬を抜ける風が気持ちいい。
爽やかな心地よさを感じながら目が覚めていく。
これまでの人生では到底理解できないことが起こっていた。
--辺りを見渡すと、
そこには見覚えのない草原が広がっていた。