卵がエッグいくらい見つからない
「あれ、俺、ここに卵置いておいたよな!?」
厨房においてあった卵がザルごと綺麗さっぱり見当たらなくなっている。材料がないのであればいくら最高級の料理人であってもどんな料理も作ることはできない。幸い、ピクシー村には村周辺で採取することができる植物がたくさん生えている。また、羽毛が村に来たことにより食に対して興味を持ったピクシーたちは簡易的な食糧庫を作った。生ものも対策なしに入っているので食糧庫と呼ぶにはあまりにもお粗末だが、その中にも食材のストックはあるはずだ。
卵がなくなっていることに驚きを覚えた羽毛だったが、オーダーに応えられない料理人はクソだと強く指導されてきたので彼の心には強くお客様は神様だと刻み込まれている。いくらお金を払わなくても彼は一度オーダーを受けたら使命感を持ってしまう性を持っている。そのため、彼は食糧庫およびニワトリ小屋に卵が無いか見に行った。
「やっぱり、朝に収穫しちゃうと卵産み落としてるわけねーよな。食糧庫に在庫があるといいんだけど、、」
ニワトリ小屋で卵があるかを物色していると何やら大きな声が聞こえてくる。普段のピクシー村はのどかな村で活気があるとはいいがたいほどだ。そんな村で騒ぎ声が聞こえる。何かあったのに違いないのだろう。数日前のオーク事件があっただけに羽毛に嫌な予感と脂汗がにじみ出てくる。
「うわッ。何騒いでいるんだろう。行きたくねーな。」
行きたくなさが前面に押し出てきているが、声のする方向は間違いなく食糧庫の方角だ。食材が無ければ料理もできないので、行くしかないのだが。見るからに羽毛の足取りは重くなった。テクテクと食糧庫に近づいて行くと、やはりというか案の定騒ぎの中心がそこにあった。
やっぱりここからか、見当違いであれと願ったのも無駄であったことに気分を落としながら、何をしているんだろうと羽毛が天邪鬼に確認を始めた。
「出ていけ!ここは俺たちの村だぞ!勝手に侵入して食糧も奪っているなんて許さねーぞ」
「はん、出ていかねーよ。ここは俺様がゴブリンの集落にすることにした。悔しかったら追い出してみな。」
ピクシーとゴブリン?が言い合いをしているようだ。イメージよりもゴブリンが知的なことには素直に驚いたが物騒な話になっていることがさらに驚いた。出て行って話がややこしくなるのも嫌なのでもう少し様子を見てみることにした。
「俺らは数日前にオークを倒してるんだぞ。それにエルフだって護衛にいるんだ。出ていかないと痛い目をみるぞ!」
「ピクシーがオークを倒す?寝言は寝て言えよ。それにエルフがいるって?姿が見えないですね~脅しにもならないぜ」
「俺たちだけじゃなくものすごい強い人間と一緒に倒したんだよ!それにエルフはモルサっていってすぐ近くに住んでいるんだ!」
「そんな強い人間がいるなら見てみたいね。エルフがいるのは厄介だが、到着するまでに食料を奪って逃げてやるさ」
「っく!・・・羽毛さえいてくれれば」
はぁぁ、なんでこう面倒ごとばかり巻き込まれるかねと頭を悩ませるが、自分が出て行っても何にもならないだろうという気持ちでいっぱいだ。だが、見るからにピクシーは劣勢に立たされており、羽毛が来ることを望んでいる様子だった。虚勢を張って時間を稼いでモルサが来るのを待つしかないかと覚悟を決めた。そしてゴブリンの前に飛び出した。