夏休みが明けて
夏休みが明けて二学期が始まると、阿部くんの隣は空席になっていました。
「残念なお知らせがあります。おともだちの小笠原さんですが、お父さんの仕事の都合で……」
と切り出すユキコ先生は、いつものニコニコ顔ではありませんでした。
小笠原さんは、夏休みの間に遠くへ引っ越してしまい、また転校していったのだそうです。
「ええっ!」
「いなくなっちゃったの?」
「サヨナラも言わずに……」
教室がざわめく中、阿部くんは、鬼子母神の朝の小笠原さんを思い出していました。
特に「ちょうどアサガオ祭りの時期に入谷の鬼子母神の辺りに住んでいた」という発言です。
考えてみれば、一年以上同じ土地にいる者ならば、ああいう言い方にはならないはず。つまり、それほど頻繁に引っ越しを繰り返す家庭環境だったのでしょう。
ようやく理解すると同時に、もう一つ気づいたことがありました。
夏休みの間ずっと彼女について気になっていたのは、一種の初恋だったのだろう、と。
彼女が教えてくれた花言葉が、改めて阿部くんの頭に浮かびます。
「はかない恋……」
その後。
二度と彼女と会う機会のないまま、阿部くんは大人になりましたが……。
今でもアサガオを見かける度に、ふと小笠原さんの笑顔を思い浮かべるのでした。
(「夏の終わりに彼女は消えた」完)




