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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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不可避のお誘いPart2

 げっそりする朝食を終えた私は、このまま泥酔しているであろうアジリオさんの迎えに行くというエドガーとジャンと別れ、一度制服に着替えに部屋に戻ることにした。ベッタとエレナさんとノーラさんの三人は、食堂でしばらくおしゃべりをしてから城へ向かうらしい。なお、話題の中心はノーラさんの恋愛についてだそう。それを聞いてノーラさんがちょっと顔を青くしていた。でも私も気になるから止められない。ごめんなさい。


 自室で制服に着替えブーツを履き、髪をポニーテールに結んだら、私は一度姿見の前でくるりと回ってみた。

 うん、やっぱりこっちの恰好の方がしっくりくる。あとやっぱり楽。

 ……昨日のお兄様とお姉様によってこってこての盛りっ盛りにされた私の姿は、私自身からしても美しかったとは思う。社交界では地味だの幽霊だの言われていた私が、人々の視線を集めて、容姿を誉められたくらいだもの。男装だったけど。

 でもあの恰好をしているときは、ずっと肩肘張って、求められるフィリーレラの姿を演じなくてはいけなくて、疲れるし辛いと思ってしまった。それにやっぱり私はあれくらい盛らないと人の目にとまらない、話題にも上がらない存在なのだと突きつけられるようで、胸の奥がモヤモヤもした。

 でも今のこの姿のときは、背伸びしない私のままでいられて、それを受け入れてくれる人達もいて、何というか、息がしやすい。胸の奥がすっと軽くなるような、そんな気分だ。

 ……コルセットとか帯で物理的に締め上げられていないのも一因ではあるけど。

「あとは青のサッシュがあれば完璧なのになぁ」

 呟きながら、肩から胸にかけてをそっとなぞる。かつてそこにあった青のサッシュは、異動になった時に団長さんに取り上げられてしまった。王族の近衛を示すサッシュの扱いは、きっちりしないといけないらしい。

 青のサッシュがないことを、物足りないし、寂しいと思う。でも、たぶんそう遠くないうちに私はまた、あのサッシュを付けられるようになるわ。だって、昨日の件でアルベール殿下にはきっちり貸しを作りましたからね。

 リリアーヌ様の噂を消すこと、それに男装して協力するのは噂の原因となった私の罪滅ぼしであったけれど、キアラ嬢の罪を暴きたいというのは完全にアルベール殿下とリリアーヌ様の都合だ。想定外の行動を取った彼女から自白を引き出したのは私の手柄だし、アルベール殿下が主催のパーティーで、アルベール殿下の弟かつ客人であるフェリシアン殿下に私がかけられた迷惑は、そのままアルベール殿下の責任にもなる。お兄様とお姉様が撃退してはしまったけれど、私がフェリシアン殿下に失礼と言われるような行為をされたのも、それを嫌だと思ったのも事実だから、弟かつ客人であるフェリシアン殿下を止めるべき立場だったアルベール殿下は、本来は私に謝罪のひとつもあるべきなのだ。

 なので、今の私はアルベール殿下にちょっとした要求のひとつくらいしてもいい立場にいる。ちょこっと私をリリアーヌ様の近衛から外すくらい、王族として伯爵家の私に謝罪をするより余程簡単なはず。勝ちは目前なのだ。

「ふっふっふ。覚悟してもらいますよ、アルベール殿下!」

 にんまりと姿見に向かって笑うと、私は意気揚々と自室を出た。

 今日はリリアーヌ様とアルベール殿下が昼に会食をする予定になっている。その場でリリアーヌ様からそれとなく、私の人事について話してもらおう。

 だからまずはリリアーヌ様の説得が先ね。まぁ今まで通りなら、私と二人きりになる時間は多少はあるでしょう。昨日の今日だし、リリアーヌ様も私と話したいことが一つくらいあるでしょうし。その時にアルベール殿下を説得してもらえるよう話せばいいか。


***


 ……とは、思ってましたけど。

「兄上、お招きありがとうございます」

「この場は極めてプライベートなものですから、気楽にしてくれて構いませんよ」

「昨日はまともにご挨拶もできず、申し訳ありませんでした。第二王子殿下、私のことは是非リリアーヌとお呼びください」

「では、少し気が早いですがリリアーヌ義姉上と。私のこともフェリシアンとお呼びください」

「光栄ですわ、フェリシアン殿下」

「それで……お前のことは何と呼べば良いんだ? フィーラ?」

「…………」

 向けられたフェリシアン殿下の視線に、ひぇっと肩をびくつかせる。

 今度は逃がさない、と顔に書かれているフェリシアン殿下から目を逸らしつつ、私はごくりと生唾を飲み込んだ。

 ――こんな状況はまったく望んでいないのですがっ!?


 何故現在私がアルベール殿下、リリアーヌ様、そしてフェリシアン殿下という、非常にやりにくい三人と同じテーブルを囲んでいるのか。

 時は少し遡り、リリアーヌ様が登城したすぐ後のことだ。

「公女様、第一王子殿下と第二王子殿下からお手紙が届いております」

 リリアーヌ様付きの侍女がそう言って、二通の手紙をリリアーヌ様へ渡したのが事の始まりだった。

「アルベール殿下と……第二王子殿下?」

 思いもよらぬフェリシアン殿下からの手紙に、リリアーヌ様は首を傾げつつもそれを受け取り、内容に目を通した。次いでアルベール殿下からの手紙に目を通すと、小さく溜息を吐いてから、室内警護を担当していた私へと視線を向ける。

 その時点で、なんか嫌な予感はしていたのだ。だってリリアーヌ様の瞳が「またお前か」みたいな呆れの籠ったものだったから。

 また何かしちゃったっけ? と自分の行動を顧みていると、リリアーヌ様は二通の手紙を私へ向かって掲げながら、割と投げやりな感じに言ってきた。

「今日の昼の会食に、第二王子殿下がいらっしゃるそうです。アルベール殿下からも是非にと。それで、第二王子殿下は『友人』である貴女も同席させたいそうですよ、フィーラ」

 うげっ、という顔をした私に、リリアーヌ様は呆れたように片手で額を抑えた。

「貴女が第二王子殿下と友人だったというのは初耳ですね。おそらく第三王子殿下近衛隊にいた頃に接点ができたのでしょうけど、一介の騎士、それも女性が男性王族の友人だなんて……貴女は本当に私の想像の斜め上をいきますね」

 ついでに『未婚の貴族女性が』っていうのも副音声で聞こえてきた。

 リリアーヌ様の呆れはわかる。でも、何もかも私が原因みたいに思わないでほしい。

「友人だと言ってきたのはフェリシアン殿下の方です。私はただお忙しいオーブエル殿下の代わりに話し相手をしていただけなのに、あちらから友人だと言われてしまったのですから、断ることはできないではありませんか。全面的に私は悪くありません。ついでに今からでも友人関係を解消できるならそうしたいです。あまり関わりたくありません」

 私だって好き好んで、私を娶ろうと考えていて、つい昨日お兄様とお姉様に駆除されたばかりの相手と顔を合わせたくはない。逃げ場がないし、怒られそうだし、気まずいし。

 会食への参加を断固拒否したい私の強固な姿勢を歯牙にもかけず、リリアーヌ様は手紙へと視線を移しながら言い放つ。

「アルベール殿下へも話が通っているのです。一介の騎士である貴女には拒否権がありません。私と一緒に会食に参加してもらいます。どうしても嫌だと言うのなら、今この場で騎士団を辞するしかありませんね」

「権力の横暴だ……」

「その権力の渦中に飛び込んできたのは貴女の方だと思いますけれどね」

「返す言葉もございません……」

 フェリシアン殿下と会いたくないだけで、騎士団を辞めるなんてことはできない。辞めたらきっと、お父様が全力で守ってくれるのでしょうけど、お父様の過剰かつ暴走気味な愛に甘んじるわけにはいかない。というか甘んじたら負けだ。私は未だにお父様を許してはいないのですから。

 がっくりと肩を落としながら、私は渋々、非常に不本意ながら、リリアーヌ様と一緒に会食に参加することになったのだった。

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