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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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舞台裏で絡まる糸~侍女と騎士と元カノと~

※エドガー視点

 遡ること一時間前……


 小隊の交代も終わり、夕飯の話などをしながら王宮図書館から騎士寮へと戻ってきた俺達三人は、寮の前に一人佇む侍女の姿に足を止めた。

 二つに結ばれた亜麻色の髪の侍女の後ろ姿には見覚えがあり、俺達は立ち竦む彼女へと近づき声をかける。

「どうかしたのか? ……えーと、クロエ、さん?」

 かけられた声に少し肩をびくつかせながら振り返った彼女は、俺達を見るとあからさまにホッとしたように胸を撫で下ろした。

「貴方たちだったのね。えっと、第三王子殿下近衛隊の……」

「俺はエドガー。こっちはジャン。で、小隊長のアジリオさん」

「そう、そんな名前だったわね。実はフィーラに用があって来たんだけど……ほら、ここって男の人ばっかりだから、一人で入るのもなって気後れしちゃって」

 彼女の言葉に成程と頷く。確かに、女性騎士の数が少なくほとんど男所帯の騎士寮は、恥じらいや秩序というものが曖昧になりがちだ。汗だくのシャツを脱いだまま歩いてる奴もいるし、うちの小隊長みたいに酒瓶を抱えてふらついてる奴もいる。そんな環境に、慣れていない侍女が単身入っていくのは勇気がいるだろう。

 俺はジャンと顔を見合わせると、彼女にひとつ提案をした。

「良かったらフィーラの部屋まで案内しようか? 俺達と一緒なら、変な奴に絡まれることも無いと思うし」

「まぁ、騎士として最低限まともな人ばかりだから絡まれること自体無いと思うけどね。……酔っ払いは別として」

「おいさらっと俺を見ながら言うんじゃねぇよ」

 小隊長が不満そうにジャンを睨むと、彼女は少し驚いたようにポカンとした後、くすくすと肩を震わせた。

「前から思っていたけど、第三王子殿下近衛隊の人達って本当に仲良いわよね。それに優しい。有難くお申し出を受けさせてもらうわ。案内をお願い」

「りょーかい」

 そうして俺達四人は寮の中へ入り、二階にあるフィーラの部屋へと向かって行った。


 騎士寮二階の一番端、フィーラの部屋をノックして声をかけるも、中から反応は何も返ってこない。

「フィーラったら留守? 寝てる?」

「この時間なら、最近のフィーラは同じ隊の人達と部屋で勉強会をしてるはずなんだけど……」

 首を傾げるクロエさんに続いてジャンもそう言って不思議そうに首を傾げ、そして俺も別の意味で首を傾げる。

 なぜ、俺も知らないフィーラの最近の行動パターンをジャンが知っているんだ? 俺の知らない間に二人で話す機会でもあったのか? 抜け駆け……いや、ジャンは俺を応援してくれているし違うよな?

 フィーラの部屋の前、それぞれの顔を見合わせ立ち尽くす俺達に、面倒くさそうに小隊長が口を開く。

「とりあえず食堂行こうぜ。フィーラが食堂にいなくても、同じ隊の奴が誰か一人くらいはいるだろうし、そいつに聞けばいいだろ。あと俺がもう限界だ。飯食って酒飲みたい。アルコールが足らん」

「本音が駄々洩れ」

「別にいだろ。どうせここにいたって意味ねぇんだから」

 階段へと向かって一人先に歩き出した小隊長に苦笑しつつ、一理あるかと考えて、俺達もその後に続いて行った。


「じゃ、俺はここで離脱するから。後は適当に頑張れや」

 食堂につくなり、小隊長は片手をあげてそう言うと、そそくさと食堂の奥へと消えていった。

 その俊敏さに呆然としつつ、取り残された俺達は、丁度夕飯時で賑わう食堂を見渡して、取り敢えずフィーラないしはフィーラと同じ隊の人を捜し歩くことに。

 以前食堂の料理人が変わって以来、騎士寮の食堂は飯時になると騎士だけでなく、他の王宮勤めの人間もよく利用するようになった。今日も今日とて盛況で、中々の人数だから手間取りそうだ。

 でも、フィーラならどこにいたって他の二人より先に見つける自信がある。あの武術大会の日、集まった多くの騎士の中から、隠匿の魔法をかけていたフィーラをすぐに見つけられたように。フィーラの存在は、どんな時でもどんな場所でも関係なく、俺の視線と心を鷲掴みにしてくるんだ。

 よしっと俺が意気込んでいると、そんな俺の自信も意地もやる気も嘲笑うように、あっさりと隣で周囲を見渡していたジャンが声を上げた。

「あ、みっけ」

「はっ!?」

 驚いてジャンの視線の先を見れば、そこには私服姿の女性の一団が夕食を食べながら談笑に耽っていた。だが、見たところフィーラの姿は無い。フィーラに見間違うような人物もいない。

 うん? と訝しげに一団を見る俺にジャンは苦笑して、一団の端に座っている女性を指さした。

「ほら、あの子は第一王子殿下の婚約者様の近衛隊の子だよ。記憶が正しければ、あそこの一団は全員フィーラと同じ隊の女性騎士じゃないかな。憶えてない?」

「…………」

 言われてみればそう、か? ……あぁ、ジャンが指さした子の隣に座っているのは、フィーラと仲が悪そうだった女性騎士か。

 正直、あの隊の面々と顔を合わせたのは二回だけだし、フィーラに敵意を向けていた彼女のことばかり見ていたから、他の隊員の顔はほとんど憶えてない。それに全員私服姿だから印象もだいぶ違う。

 たった二回顔を合わせただけの相手を、よくこんな短時間で見つけられたな、と素直にジャンに感心する。

「なになに、あの人達が今のフィーラの同僚?」

 クロエさんはそう言いながら、興味深そうに一団の様子を観察し、やがて「ふーん」とひとつ頷いた。

「それなりに仲良さそうだし、雰囲気も悪くないわね。フィーラがいないっていうのは気になるけど」

 ……確かに、それは気になる。最後にあの隊の面々と顔を合わせた時は、フィーラと他の隊員との関係も改善されて見えたから油断していたが、裏ではあんな風にひとりだけ除け者にされたりしていたのだろうか。

 不安が胸を過ぎった俺と、むぅっと腕を組んで彼女達を見るクロエさんの心情を察してか、ジャンが安心させるように微笑みながら言う。

「フィーラ、部屋にも食堂にもいないっぽいんだし、単純に別のことしててあの人達も誘えなかったんじゃないかな? ここのところ毎日、部屋で一緒に勉強会をするような関係なんだから、心配することないと思うよ」

 冷静になれば、ジャンの言うことは理解できる。いがみ合い除け者にするような相手とは、同じ部屋で一緒に勉強会なんて出来ないだろう。

 ただ、ジャンの言い分には納得できて受け入れられても、どうしても俺は引っかかるし気になるのだ。

「なんでお前はフィーラが彼女達と毎日勉強会をしているって知っているんだよ?」

 やはりここを無視はできない。場合によっては親友の縁も切れる事態も覚悟するぞ。

 じと、と視線を向けた俺に、ジャンは俺がかけている嫌疑を悟ってか僅かに頬を引き攣らせながら弁明してくる。

「いや、エドガーが考えてるようなことはないから。僕が最後にフィーラと会ったのはこの前の第一王子殿下が乱入して来た時だよ」

「じゃあ何でフィーラの行動に詳しいんだ? 何で俺も知らないようなこと、お前は知っているんだ?」

 疑う姿勢を崩さない俺に、ジャンは小さく溜息を吐いてから、先程指さしていた女性騎士へと視線を移す。

 そして、すごく言いにくそうに口を開いた。

「……前に僕に彼女がいたって話したよね」

「あぁ」

 武術大会の日だったか、その話を聞いて驚いたものだ。その別れ方にもだが。

 俺が当時を思い返しながら頷くと、ジャンは少し苦々しげに白状した。

「……彼女がその元カノ。今でも偶に話すんだ」

「…………」

「…………」

 気まずそうに俺達から視線を逸したジャンに、俺達はただただ驚きで言葉を失い、やがて脳がジャンの言葉を正しく理解した頃――……

「「元カノぉぉぉぉぉっ!?」」

 俺とクロエさんは同時に、食堂中に響く大声で、そう叫んでいた。

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