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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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同僚

 どうにか配属先を変えてもらえないかと団長さんに詰め寄るもあっけなく却下され、第三王子殿下の近衛騎士隊という、当初の計画からは大きく外れた配属を言い渡された翌日。


 何とも微妙な気分で目覚めた私は、のそのそと実家と比べると硬いベッドから起き上がると、昨日渡された王宮騎士団の制服に着替えた。

 靴は動きやすいようにブーツを履く。長い髪は邪魔にならないようにポニーテールにして、目を覆い隠すほど長い前髪はどうしようかと思案する。

 いつもなら編み込んだり、流してピンでとめたりしていたけれど、そうするとハッキリと見えてしまうお母様譲りのローズピンクの瞳は少々派手だ。平民ではまず見かけない色味で注目されるうえ、うっかりお母様のご実家を知る人に合ってしまったら私生児かと疑われたり面倒が起こってしまう。

「もうこのまま隠してしまいましょう」

 バサバサと前髪を瞳を隠すように垂らしてしまう。これが一番安全で簡単だ。多少見た目は悪いかもしれないけれど、平穏に過ごすためなら仕方がない。

 最後に認めたくない現実――青色のサッシュを着ける。

 これはお父様の裏切りの証! 散々娘のため〜とか言いながら娘の恋路を邪魔するなんて!

 メラメラと姿見に映るお父様の面影を睨みつけてから、私は部屋を出て食堂へ向かった。


 配属先によって出勤時間が違うのか、朝だというのに人のまばらな食堂は、まだ団長さん以外に知り合いすらいない状況の私には優しい。

 奥のカウンターで給仕をしている恰幅のいいおばさんに挨拶をして朝食を受け取る。

 今日の朝食は身体に優しそうな野菜のスープにパン、焼いた厚切りのベーコンとスクランブルエッグだった。新入りへのおまけ、とこっそりデザートにプリンまでいただいてしまった。

 私、あの人好きだわ。

「おいひい!」

 結局昨日は一日ショックで食欲がなかったし、家から持って来たお弁当で済ませてしまったから食堂のご飯を食べるのはこれが初めてだったけれど、初の庶民的朝食はシンプルながら驚くほど美味しかった。

 というか、お父様が絶対手を回しているのよね、ここ。元々どんな料理が出ていたのやら。

 私の中でお父様への怒りがちょっとだけ薄れた。


「あれ、新入りかな?」

「ん? マジだ知らない子。てか女の子じゃん!」

 デザートのプリンに舌鼓を打っている最中、後ろからそんな声が聞こえて振り返れば、同い年か少し上くらいに見える二人の騎士が、私のことを興味深そうに見ていた。

 一人は少しふわっとした癖のある黒髪をした、真面目で大人しそうな雰囲気をしている青年。もう一人は対称的に、赤みがかった茶髪と爽やかな顔立ちをした、活発そうな風貌をした青年だった。こちらは帯剣をしていて剣を扱う騎士だということがわかる。

 彼らの肩からは私と同じ青色のサッシュがかかっていた。つまりは同じ配属先、同僚というやつね。

「あぁ、食事中に悪かった。俺はエドガー。こっちはジャン。第三王子殿下の近衛隊に所属してるんだ。君、うちの新入りだよね?」

 目が合うと、茶髪の方の青年――エドガーが自身のサッシュをくいっと軽く引っ張りながら聞いてきた。

「はい。私、フィーラと申します」

 ついいつもの癖で立ち上がってカーテシーをしようとスカートの裾に手を伸ばしかけて、ギリギリで踏みとどまる。

 いけない、いけない。平民っぽくしなければ。

 とりあえずぺこりとお辞儀をしておけばいいのかしら。

「そんなに畏まらなくていいよ。同僚になるんだし仲良くしよう。名前も呼び捨てで構わないし敬語もいいよ」

「じゃあ、僕にもそうして。と言っても、僕とエドガーは一番下っ端だからそもそも畏まられる立場でもないんだけど」

「わかったわ、それなら私のこともフィーラと呼んで。知り合いもいなくて心細かったの。二人とも、よろしくね」

 ひとまず知り合いができたのは一安心ね。寮生活なのに一人も話す人がいなかったら居心地が悪いもの。

 ほっと胸を撫で下ろして笑みを浮かべるとエドガーが少し目を見開いた。

 ……何か変なことをしたかしら?


 せっかくだから一緒に出勤しよう、と二人に誘われた私は、一も二もなく頷いた。

「これからお城の方に行くの?」

 だったら何処かでアルベール殿下に会えたりしないかしら? と期待を込めて聞けば、ジャンが首を横に振った。

「第三王子殿下はちょっと事情があって、他の王族の方と会うような場所を避けられていて……城の方には滅多に近づかないんだよ」

「じゃあ一体どこに?」

「王宮図書館の一部が殿下の研究室になってるんだ。普段からそこで過ごされてるし、そこから出ることもまず無い」

「えっ!?」

 それって、引きこもりってこと!? 王族が!?

 驚いて目を丸めていれば、二人は顔を見合わせて首を傾げた。

「フィーラも少しは聞いたことない? 愛し子の騎士王子って。昔からほとんど公務に出てくることも無いし、噂とか結構流れてるけど」

「うーん……ごめん、覚えがないわ」

 愛し子の騎士王子っていうことは第三王子殿下は魔法が使えるのね。

 王国では男性で魔法が使える人が少ない……というより女性の愛し子率が高すぎるだけだけれど、ともかく愛し子の騎士というだけでちょっとした街の有名人状態になる。

 それが正真正銘の王子様なら、街どころか国中で話のネタにされても不思議ではないわね。私はアルベール殿下にしか興味無かったから、話を耳にしていても記憶に残らなかったのかしら。

「まさかフィーラお前友達いないんじゃ……」

「エドガー、それは言っちゃ駄目だよ」

「ちょっと二人とも?」

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