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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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冬の降臨祭~もう一つの約束~

 冬の降臨祭の日。どことなくソワソワとした雰囲気で一日の仕事を終えた私達は、騎士寮の玄関で待ち合わせをしていた。

 今日ばかりは誰も彼もお祭り気分のようで、騎士寮を出入りする人々の表情も明るい。日中勤務だった騎士達は着替えて足早に寮を出ていき、夜勤の騎士達は満足そうな表情をしてゆったりとした足で帰ってくる。寮内ではパーティーという名の酒盛りが行われているらしく、外に行く予定のない騎士達も酒瓶片手に会場となっている食堂に駆けて行っていた。今日ばかりは無礼講らしい。

 騎士達でさえこんなにも盛り上がっているというのに、オーブエル殿下は人を招くこともなくいつも通りに過ごされるそう。今頃、寝室の方で読書でもされているのかしら。バルドさん達夜勤小隊との交代の時、何か言いたそうにこっちを見ていたのが気にかかる。やっぱりお祭りの日に一人は寂しいのかも。

 そんなことを考えながら人の流れを眺めていると、駆け足で私服姿のエドガーがやって来た。

「フィーラ、待たせてごめん!」

「そんなに待ってないわよ。ジャンは一緒じゃないの?」

「あー、えっと、腹が痛いから部屋で寝てるって」

「やっぱりなのね……」

 一応今日は三人で城下町に行く予定だったけれど、ジャンはしきりにお腹を壊す予定だと言っていた。勤務終わりはピンピンしてたのに一時間もしないうちにお腹を壊すなんて、拾い食いでもしたわけ?

「それよりっ! フィーラ、私服可愛いな。似合ってる」

「……ありがとう」

 選んだの私じゃないけどね! 本日はウエストにリボンがついた白のワンピースにブラウンのコート姿。今回もやっぱりイルダの選んだ服である。完全にイルダの趣味である。はっきり言って、こういう服の良し悪しはわからない。だって私は生まれてこの方ドレスくらいしか選んだことがないもの。まぁドレスも仕立屋が言うことを鵜呑みにしてきてばかりだったけど。

「ジャンが来ないならもう行きましょうか」

「あぁ」

 服についてこれ以上話されてもボロが出るだけなのでさっさと流して、私達は月夜の城下町へと繰り出した。


 もうすっかり夜だというのに、城下町は人々で賑わい店の明かりや街灯で明るく照らされている。パッと見て男女二人で歩く人が多く目に入るのは、やっぱり恋人達のお祭りとして形骸化してきているからかしら。人のことは言えない状況だけど。

「フィーラ見て。スノーガランサスが売ってる」

 エドガーが指さした先には店いっぱいにスノーガランサスを置いた花屋があった。冬の降臨祭にスノーガランサスは必須とあってか、店先にあふれるほど沢山売られている。

「せっかくだから寄っていきましょうか」

「あぁ」

 エドガーと連れ立って店に寄ると、中からおばさんの店員が出てきて「いらっしゃいませ」と笑顔で声をかけてきた。

「素敵な彼女さんにこちらはいかがですか? スノーガランサスの生花で造った髪飾りですよ」

「「か、彼女っ!?」」

「あら違いました? ごめんなさいねぇ」

 やっぱりそう見えるのかしら、と複雑な気分でエドガーに視線を向けると、エドガーは耳まで赤くして硬直していた。純情か。

 しばらく使い物にならなそうなエドガーを置いて、私は店員さんに勧められた髪飾りに目を向ける。

 スノーガランサスは手のひらくらいの大きさで、白いつんと尖った花弁が八枚程度ある花だ。髪飾りにすると少し大きくて派手な気もするけれど、今日みたいな特別なお祭りの日にはいいかもしれない。

 どうしようかなぁと悩んでいると、横からすっと手が伸びてきて髪飾りをひとつ取っていく。つられて顔を上げれば、いつの間にか復活していたエドガーが手にした髪飾りを私につけてきた。

「あ、やっぱり光るんだ」

 髪につけられたスノーガランサスが私の微々たる魔力に反応して淡く光ったのを見て、エドガーがクスリと笑みをこぼす。

「あら、お嬢さんは愛し子だったのね。魔力に反応する花だから愛し子にはぴったりだよ。似合うねぇ」

 なんて店員さんが煽ててくるのに私が苦笑いを返す一方で、横のエドガーは激しく首を縦に振った。

「これください」

 すっかり乗り気のエドガーはそう言って懐から財布を出すと、止める間もなくささっと会計を済ませてしまう。

「まってエドガー! 私のだしいいよ」

「ううん、出させて。その代わり、って言ったらあれだけど、今日はそれをつけたままでいてくれないか? フィーラの魔力で光る花もそうだけど、それをつけたフィーラは……その、すごく奇麗だからさ」

「嘘だあああ」

「ええっ」

 お姉様ならともかく、私が光る花をつけたくらいで奇麗になるわけないじゃない。お世辞が過ぎる。言葉がもったいない。

 でもまぁ、嘘でも奇麗と言われて嬉しくない女子はいないわけですし、せっかくだから髪飾りはつけておこう……。


 その後、私達は色々なお店や屋台を回って、食事をしたりお土産を買ったりして過ごした。城下町の降臨祭だけあって珍しいものが多かったから、つい変な人形とかまで買い込んでしまったけど、お父様にプレゼントと称して押し付ければ問題ないでしょう。

 一通り見て回って荷物も増えた私達は、明日も仕事だということで名残惜しくも騎士寮に帰ることにした。

「私、いつも降臨祭の日は家族で過ごしていたから、町に出るのは新鮮で楽しかったわ。今日は連れてきてくれてありがとう、エドガー」

 思い出に浸りながら笑顔でお礼を言うと、エドガーも頬を紅潮させて笑顔を浮かべた。

「俺もフィーラと来れて楽しかった。いい思い出ができたよ」

「ねっ! 異動前に思い出が増えて嬉しいわ」

 異動したらリリアーヌ様にいじられたりして楽しい思い出なんてできなさそう、と思って苦笑交じりにそう言うと、エドガーは下を向いてぽつりと呟いた。

「……寂しくなるな」

 しみじみと言われた言葉に、異動の話をしたときの取り乱したエドガーの様子を思い出す。たとえ異動したとしても、騎士寮にいる限り顔を合わせる機会はいくらでもある。それだというのに、あそこまで惜しんでくれることが素直に嬉しかった。

「ねぇエドガー。私、リリアーヌ様と話すわ。そしてまた、第三王子殿下近衛隊に戻るつもりよ」

「……本当に?」

 エドガーが僅かな光を瞳に宿して縋るように見つめてくる。私は力強く頷いて、にっと笑顔を浮かべた。

「女子に二言はあるけれど、これは本当よ」

「二言、あるのか」

 ふっと笑ったエドガーは、徐に小指を立てた右手を私に向かって差し出してくる。

「じゃあ約束だ。フィーラは必ず第三王子殿下近衛隊に戻ってくる。俺はそれまで第三王子殿下近衛隊でフィーラを待ってる。戻ってきたら、また二人で町に出かけよう」

「わかった、約束ね」

 私はエドガーの小指に自分の小指を絡ませてゆびきりで約束をする。

 冬の始まりの季節、冷え切った身体の中で、絡ませあった小指だけがほんのりと温かかった。


***


「だっはははははぁっ」

 騎士寮に戻った私達の耳に、アジリオさんの馬鹿でかい笑い声が響いてきた。

 明日も仕事なのにいつまで飲んでいる気かしら、と酒盛り会場の食堂に足を向ける。場合によっては酒瓶を取り上げますよ。


 わいわいと賑やかな食堂の中心で、アジリオさんをはじめとした酔っぱらいの人だかりができていた。エドガーと顔を見合わせて、何事かと人だかりの中心を見に行く。

 そして、そこにあった光景に私は割と本気で引いた。

「うわぁ……」

 ジャンが発光してる。というか、髪や服の隙間にスノーガランサスをつけられていて、花という花がジャンの豊富な魔力で光っているのだ。酔っぱらいの悪ふざけに巻き込まれたのね。

「……もう勘弁してください」

 涙目のジャンに同情しつつ、そっと私は髪につけていたスノーガランサスの髪飾りを外して部屋に戻った。

 ……うん、たぶん今後一切この髪飾りは使わない。

最後のはおまけです。

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