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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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愚者の選択

「なんかフィーラ、最近変じゃないか?」

 オーブエル殿下の部屋の大掃除と本の虫干しをした日から数日後。

 うーん、と顎に手を当てながらエドガーがそう言ってきた。

「変と言われても……どういうことかしら?」

「お前はずっと変だろ」

「アジリオさんも大概そうですけどね」

 横から話に入ってきたアジリオさんを適当にあしらいつつエドガーに視線で続きを促す。

「えっと……」

 エドガーはちらと一瞬、閉まり切った研究室の扉に視線を向けてから、少し困ったように苦笑を滲ませつつ口を開いた。

「最近のフィーラはオーブエル殿下と距離があるっていうか……よそよそしいというか、馴れ馴れしくないというか……不躾じゃないというか、他人行儀というか?」

「ちょっと今までどんな風に見えてたのよ……」

 適切な表現を探すように言葉を並べるエドガーにげんなりしつつも、私は彼が何が言いたいのかを何となく悟って小さく溜息を吐いた。


 あの大掃除と虫干しの日以来、私は自分の態度や行動を改めることを決め実践している。まぁ、オーブエル殿下を全力で避けている、とも言えるわね。

 だってあの天然王子ときたら、生半可に距離をとったところで悪気なしに軽々と距離を詰めてくるんだもの! こっちの努力を台無しにしないでほしい! 距離をとっていることを悟ってほしい!

 現在ではもう、目を合わせない、常に距離をとる、お触り厳禁、話しかけられても最低限の返事しかしない、話を盛り上げない、研究室という殿下の領域(テリトリー)になるべく入らない、等々……。

 しょぼんと捨てられた子犬のような態度を殿下にとられようと、心を鬼にして他人(よそ)から見ておかしな関係に見えないように努力しているのだ。罪悪感が酷いのが悩み。


***


「いや、近衛騎士が警護対象を避けるなよ」

「うぐ……っ」

 ごもっともな意見で私の悩みを切り捨てたのは、騎士団内で唯一私の出身を知っている団長さん。

 勤務後に小隊のみんなと寮に戻ったら、話があるとかで私一人団長さんの執務室に連行されたのだ。

 ちょうどいいから私の悩みを愚痴ったのだけれど、あっさりばっさり切り捨てられてしまった。上辺だけの共感でもいいから欲しいと思っていたのに、完全に人選を間違えたわ。


「まぁ避けてるってんなら都合がいいか……」

「都合がいい? そういえば、団長さんの話って何だったんですか?」

 すっかり自分の話に夢中になっていて忘れていたわ。

 私が話を振れば、団長さんは執務机の引き出しから数枚の紙を取り出して机の上に広げる。書類に目を落とすと、それは何人かの騎士の経歴が書かれたもののようだった。名前からして全員女性騎士かしら?

「実は陛下から第一王子妃の近衛隊編成について要請が来たんだが、女性騎士を中心につくるようにとの御達しなんだ。今王宮騎士団にいる女性騎士はお前さんを含めて七名。うち四名は要人警護の経験が無いから、礼儀作法や言葉遣いがちぃっとばかし不安でな。貴族出身で第三王子殿下近衛隊のお前さんには指導人員として第一王子妃の近衛隊に移ってほしいんだ」

 トントン、と机を指で叩きながら団長さんが言っていた内容は凡そクロエから聞いていた通りのものだったけれど、指導人員という私の扱いは意外だった。私は騎士としてほぼ役に立たないので、別の形で必要とされるとは思っていなかったわ。

「それは強制……ですか?」

「まぁそうだな。っつっても、お前さんとシャーディヨン家の御令嬢が仲良くできるかは微妙だと思ってるから、無理そうなら断ってくれてもいい。喧嘩でもされたら普通に困る」

 あからさまな喧嘩なんてはしたないことはしませんけど、嫌味くらいはありそう。主に私が言われる方で。リリアーヌ様、こわいから。

 それよりも……。 

 第三王子殿下近衛隊を、オーブエル殿下の側を、離れる……。

「少しだけ、考えてもいいですか?」

「あぁ。だがあまり時間はやれないぞ」

「はい」


 ぼふん、と自室のベッドに倒れこむと、もそもそと枕を抱きしめて異動の件について考える。

「はぁ……」

 今私はオーブエル殿下と距離をとっていて、それなら異動してそもそもの接点をなくしてしまっても大差無いのかもしれない。むしろそうした方がいいんだって、理解はしている。

 なのに……矛盾しているってわかっているのに、私は――。

「離れたく、ないなぁ」

 オーブエル殿下と一緒にいたい。本当は、避けたくなんかない。沢山お話して、笑いあって、同じ空間で本を読んで、寄り添いあって。

 騎士として許される範疇を超えているとしても、それでも、側にいたい。隣に、いたい。

「馬鹿ね……これじゃまるで……」

 騎士以上の存在になりたいと思っているようなものじゃない。

「…………」

 自嘲するように浮かべた笑みが凍り付く。枕を抱きしめる手が震える。

 ――あぁ、私は知っている。この、我儘な感情を。身勝手で自分ではどうしようもない、この感情を。

「オーブエル殿下……」

 ただ貴方に幸せであってほしかっただけなのに、いつから私はこんなに……。

 胸の中いっぱいに情けなさが溢れて、涙がぼろぼろと零れていく。

 欲深くて最初の願いすら穢してしまった自分のことが悔しくて、情けなくて、大嫌い。

 正真正銘、私は大馬鹿者だわ。救いようのない愚者だわ。


 それでもこれ以上間違わないように、するべきことだけはハッキリと見えている――。

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