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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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武術大会~青~

「……」

「……」

 何とも言えない微妙な表情でお互いに見つめ合って黙ってしまう私達。

 なんでエドガーまでそんな困惑したような顔をするの? というか結局何が言いたかったの?

 頭の中を疑問符でいっぱいにして私は首を傾げた。


「――ふっ、ははははっ!」

 私たちの間に流れていた微妙な空気を吹き飛ばすように笑い声が降ってきて、私とエドガーが同時に笑い声の方を振り向くと、そこにはお腹を抱えて笑っているアジリオさんと半笑いのジャンがいた。

「いやぁ、傑作だなエドガー!」

「ごめんねエドガー。決勝おめでとうって言いに来たんだけど、ちょっと声がかけ辛くて様子を見てたんだ。その、セーフでよかったんじゃない?」

「セーフ……セーフか。そう、だよな。うん。ちょっとビビりすぎて心臓が……」

 胸元を抑えて深呼吸するエドガーの背中をジャンが摩ってあげている。

 え、何事? 私のせいなの?

 三人のやり取りの意味が理解できず完全に置いていかれている私に、アジリオさんが笑いながら歩み寄ってくる。

「フィーラ、お前そっちに関して鈍感っつーか、見てる分には面白いから最高だが当人からしたら最悪な女だな!」

「最悪ってなんですか!? というかどういう意味ですか!?」

「さぁてな。エドガーにでも聞け」

 アジリオさんは答える気が無いようで、にまにまと嫌な笑みを浮かべたまま、ふいっとそっぽを向いてしまう。

 このっ、サボリ魔の分際で人で遊んで! 後で仕事サボってたことバルドさんと団長さんに言いつけてやりますから!

「もうっ! エドガー、私って最悪なの!?」

「えっ!?」

 むぅっと頬を膨らませてエドガーに詰め寄ると、エドガーは困ったように視線を彷徨わせる。

 やがて、ぎゅっと両目を瞑ってから言いにくそうに口を開いた。

「……心臓には悪い」

「心臓に悪いとは!?」

 余計に意味の分からない返答に、私は一人頭を抱えることになった。


 そうこうしている間に、団長さんの出ている試合に決着がついたようで、周囲から「わあぁぁっ」と大きな歓声と拍手が巻き起こる。

 アリーナを見れば、御前試合だからかいつもは着崩している制服をきちんと着た団長さんが、片手に持った模造刀を天に掲げて歓声を一身に受けていた。

「ま、順当だな」

 ぽつりと呟いたアジリオさんの言葉に皆が頷く。

 お父様と同い年とはいえ、王宮騎士団の頂点に立つその実力は衰え知らずというわけね。

 ……見た目はお父様と違って年相応に衰えていますけど。やっぱりお父様の若々しさは謎だわ。

「エドガー、そろそろ行かないと」

「あぁ、そうだな」

 ジャンの言葉に頷いたエドガーは、真剣な表情でアリーナを真っ直ぐに見つめた。

 短く息を吐くその横顔に少し緊張の色が見えて、私はそれをどうにかしてあげようと、つんつんとエドガーの腕をつつく。

「顔が怖いわよ、エドガー。深呼吸深呼吸」

「あ、うん」

 エドガーは素直に、促されるまま深呼吸をする。

「団長さんは強いでしょうけど、決勝(ここ)まで来たんだもの、エドガーだって渡り合えるわよ」

 にっと笑いかければ、エドガーは力の抜けた柔らかな笑顔を浮かべた。

 よしよし、緊張は解けたみたいね。

「ねぇフィーラ。俺は団長に勝てると思う?」

 弱気から来るものではなく、ただ単純な疑問といった風にさらりと聞かれた問いに、私は少し考えてから、素直に答えることにした。

「厳しいでしょうね。経験値が違うもの。あ、でも応援はしているわよ?」

「そっか」

 私の答えに気を悪くした様子もなく、エドガーはあっけからんと笑った。そして「じゃあ」と言って私に向き直る。

「俺はフィーラに少しは期待してもらえるような騎士(おとこ)になるよ」

「エドガー……」

 真っ直ぐなエドガーの言葉が、視線が、私に刺さる。

 思わず何も言えなくなってしまって、ただエドガーを見つめることしかできなくなってしまう。

 ……どうして、貴方はそんなに大切そうに、私に言葉を伝えてくるの?

「――おっほん」

 びっくー!

 ついつい周囲が見えなくなっていた私達は、アジリオさんの咳払いで現実に引き戻された。

 途端に何だか気恥ずかしくなってきて、私は慌ててエドガーの背中をぐいぐいと押す。

「ほ、ほらエドガーもう行かなくちゃ! いってらっしゃい!」

「あ、あぁ」

 エドガーが駆けて行って、私は残った二人の視線に晒される。

「お前ら俺らのこと忘れてなかったか?」

「なんか邪魔だったかな?」

「きゅ、休憩時間が終わるので帰ります!」

 にこにこ、あるいはにやにやと笑う二人に耐え切れず、私はダッと走り出した。


 バタバタと闘技場の入り口まで走って行った私は、そこで「ぜーはー」と乱れた呼吸を整えに立ち止まった。

 本当に何なの、もう。今日のエドガーは変だったわ。こっちまでおかしくなってしまいそう。

 もう忘れてしまおう、と溜息を吐いていると、後ろから誰かの足音が近づいてくる。

 なんとなくそちらを振り返ると、私の方へ黄色のサッシュをつけた第一王子殿下近衛隊の騎士がまっすぐ歩いてきた。

 そして――

「第一王子殿下がお呼びです」

「……え?」

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