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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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武術大会~エドガーの戦い~

 オーブエル殿下から解放されて暫くした頃、私はバルドさんに言われて休憩を貰うことになった。

「せっかくだから武術大会を覗いてきたらどうだ?」

 という提案を採用させてもらい、割と距離のある闘技場まで私はせかせか歩いて行った。

 うちの小隊の皆がまだ勝ち残っているといいのだけれど……。


 見上げるほど大きな闘技場の外まで来ると、まだ入っていないのに大きな歓声が聞こえてくる。

 すごい盛り上がりに若干気後れしながら、中へ入って客席の方へと足を進めた。


「わぁ……っ」

 試合が行われているアリーナをぐるりと取り囲む客席には、数多くの騎士達がいて、声援やらを送ってヒートアップしていた。あくまで内輪の行事で、外からお客さんを入れたりはしていのに、集まった騎士達の声だけで闘技場内が震えている。

 アリーナが一番良く見える場所には、やたらと豪勢な特設の観覧席が設置されていて、中央に座す陛下の左右にアルベール殿下とフェリシアン殿下が座って観戦していた。

 アルベール殿下はいつ見ても綺麗な笑顔でいたけれど、フェリシアン殿下は物凄く不満そうに頬を膨らませている。たぶん、自分の騎士が全員負けて暇なのに、ならばとオーブエル殿下の研究室に居座る予定がおじゃんになったからね。

 今見つかったら愚痴に付き合わされるんだろうなぁ、と思った私は、隠匿の魔法で隠れることにした。

 あくまでも今は休憩中なので。殿下の愚痴に付き合うより、小隊の皆を応援するほうが優先です。


 ささっと自分に隠匿の魔法をかけた私は、騎士達の間をすり抜けるようにしてアリーナの目の前まで下りていった。

 ちょうど次の試合が始まるところだったらしく、模造刀を持った二人の騎士がアーチ状のアリーナの入り口から出てくる。

 片方の騎士が青色のサッシュをつけていたので目を凝らすと、その騎士は赤みがかった茶髪をしていた。

「エドガー!」

 よかった、エドガーはまだ勝ち残っていたのね!

 と、安心する一方で気になるのは、この試合は何回戦なのかということ。随分と経ってしまったから、もうかなり勝ち進んでいるんじゃないかしら?

 周囲を見渡して、少し離れたところで観戦していた騎士の一人に近づいていく。

「あの、今って何回戦なんでしょうか?」

 私が声をかけると、その騎士は大げさに肩を震わせてこちらを見た。

「うわぁっ! びっくりした……影の薄い嬢ちゃんだな」

「あ、すみません」

 隠匿の魔法かけたままだったの忘れてた。そりゃあ驚くわよね。申し訳ない。

「あー、なんだ。今が何回戦か、だったか? 今はもう準決勝だよ」

「準決勝!」

 え、エドガーってばすごい! 実力者だとは知っていたけど、ここまでとは思わなかったわ!

 視線をアリーナに戻すと、エドガーと相手の騎士がお互いに剣を構えたまま睨みあっていた。

 正直剣術のことはさっぱりわからないけれど、中々打ち合いにならないところを見るに、お互いに隙がなくて踏み込むに踏み込めないみたい。

 じりじりと距離を詰める二人に、客席からは「いけぇ!」とか「びびってんのかー!」という声援とも罵倒ともとれる声が投げかけられる。皆さん、ヒートアップしすぎて陛下の御前だというのを忘れてません?

「エドガーがんばれぇっ!」

 私の渾身の声援も、周囲の騎士達の声の中に掻き消されて、エドガーに届いたのかもわからない。

 それでも私が叫んだ次の瞬間、バッとエドガーが踏み込み、上段から一気に剣を振り下ろした。

「はぁっ!」

「く……っ」

 エドガーの振り下ろした剣を防いだ騎士が、その勢いと力を受け止めきれずに片膝をつく。すかさずエドガーは剣をもう一度振り上げると、追い打ちにかかった。

 が、エドガーのその隙をついて相手の騎士もエドガーに向かって剣を突き出し――

「そこまでっ!」

 審判の声が響いて、両者が剣を止める。

 相手の騎士の剣はエドガーの右肩に、エドガーの剣は相手の騎士の首筋に向けられてた。

「勝者、第三王子殿下近衛隊所属、エドガー!」

 その宣言に、わあぁぁっと闘技場中から歓声が沸き起こる。

「やったわ! すごいっ!」

 私もパチパチと拍手を送りながら、興奮しすぎて頭の中から語彙力が抜け落ちたみたいに「すごい」を連呼した。

 試合を終えた二人は王族の観覧席に向かって一礼をして退場していく。

 その背中に沢山の拍手を受けるエドガーの姿が、私は何だか誇らしかった。


 続いて行われたのは準決勝の第二試合で、団長さんと黄色いサッシュをつけた第一王子殿下近衛隊所属の騎士の対戦だった。

 アジリオさんは負けちゃっていたようね……ってじゃあ何で研究室に戻って来なかったの? サボリ?

 闘技場内にいるなら引っ張ってでも連れて帰ろう、と辺りを見渡していると、突然「フィーラ!」と私を呼ぶ声が聞こえてきた。

「エドガー!」

 声のした方を見れば、試合を終えたばかりだというのに、エドガーが息を切らしながらこちらに駆け寄ってくるところだった。試合で勝てたからか、とっても嬉しそうに笑っている。

「お疲れ様! それと、決勝進出おめでとう!」

「ありがとう」

 額に汗を浮かべながらも爽やかな笑顔を浮かべるエドガー。うん、モテそう。

 殿下方みたいに特別各段に美人ってわけではないけど普通に格好いい部類ではあるし、気さくで話しかけやすいし、優しいし、それに剣の腕まで立つんだもの。さぞや騎士学校時代は女の子に囲まれていたことでしょうね。

 私なんかお姉様方と比べて地味だし、社交界じゃ碌に相手にされなかったし、むしろ隠匿の魔法で変なことになっていたっぽいし、さっきもアルベール殿下に気づいてもらえた様子はなかったし。

 こうも恋愛面で踏んだり蹴ったりだと、上手くいってそうなエドガーが羨ましくなってくるわ。

「フィーラ? どうかした?」

 黙りこくってしまった私を心配そうに見てくるエドガーに「なんでもないわ」と笑って誤魔化す。

 考えていたことを口に出しても、自分で自分が惨めになるだけですからね。

 それよりも……

「エドガー、よく私を見つけられたわね。私今、自分に隠匿の魔法をかけているのに」

 隠匿の魔法を解く理由もなかったからそのままにしていたのに、エドガーは関係ないかのように、試合が終わってすぐにこっちに来るものだから驚いたわ。

 私、もしかして隠匿の魔法を上手くかけられていないのかしら? それとも制御が下手すぎて、傍から見たら違和感の塊みたいな感じで逆に目立ってるとか?

 若干不安になりながら聞くと、エドガーは先ほどまでの底抜けに明るい笑顔を引っ込めて、とても真剣な瞳で私を見た。

「……わかるよ。フィーラのことなら、どこにいたってわかる」

 まるでとても大切なことを口にするように、真剣さを滲ませた声音でそう告げてくるエドガーに、私は不覚にもちょっとだけドキッとして……。

 けれど、だけど。

「ごめんなさい」

 私の言葉に、エドガーの瞳が大きく揺れた。

 エドガーが何かを言おうと口を開いたけれど、私はそれより先に思っていたことを声に出した。


「――ちょっと言っている意味が分からないわ……私、ちゃんと魔法使えているのかしら? どこかおかしかったりするの? どこにいたってわかるって、それは魔法自体が無意味ということかしら? 対策できるものなの? それともまた変な感じになっていて、隠匿どころかバレバレってこと? 私魔法騎士としてアウトなのかしら?」

「……、……」

 エドガーは口を開いたまま何も言わなかった。

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