表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
29/120

秋の名物

 秋、オーブエル殿下の研究室の外で立ち続けるのも楽になる季節。

 私が王宮騎士団に来て一月が過ぎた頃。


「武術大会?」

 今日も今日とて平和な任務中、アジリオさんがその話題を持ち出した。

「あぁ、お前は初めてだったな。王宮騎士団秋の名物、陛下の御前での武術大会。基本的には王宮騎士団員は全員参加だから、そのつもりでいろよ」

「えぇっ!?」

 武術大会って、私戦闘力皆無ですよ!?

 嫌だなぁと思いながら周りを見ると、エドガーもジャンも、果てはアジリオさんまで、何故かやる気満々のご様子。

「去年はいいとこで負けて悔しかったんだよなぁ!」

「僕も今年は優勝目指すよ」

「合法的にバルドの野郎をぶっ飛ばせる機会だからな、手は抜かねぇ」

「何で皆そんなに乗り気なの……」

 こういうイベントにやる気になるのは男の人特有のノリだと思う。私には絶対理解できないわ。

 全員参加じゃなくて自由参加でも十分人は集まるだろうし盛り上がるでしょうに……。

 せめて男女は分けてほしい。もしくは手加減とか贔屓とか盛大にしてほしい。じゃなきゃ絶対初戦で負けるわ。

 憂鬱な気分で遠い目をしていると、エドガーがそんな私を見て苦笑をした。

「フィーラは嫌? まぁ、フィーラの魔法は戦闘向きじゃないしな」

「そうなの! 隠匿の魔法でどうやって戦えって言うの? ただ的になるだけよ! 剣で切られたり魔法で吹っ飛ばされるのは御免だわ!」

 想像しただけで恐ろしくて、ぶるぶるっと身体を震わせる。

「あ、剣術と魔法で部門が分けられているから、少なくとも剣でってのは無いから安心して。それに剣も模造刀だから死んだりはしないし。まぁ、魔法で吹っ飛ばされるくらいはあるかもしれないけど……」

「魔法部門の方はいっつも派手だよな。きちんとした制限は設けられちゃいないが、やりすぎない程度ってのが暗黙のルールになってるし、大丈夫だろーさ。死にゃしねーよ」

「二人は私を怖がらせたいの?」

 ジャンもアジリオさんもまったくフォローになっていないわ。

 あぁ、益々恐ろしくなってきた……。

 顔が真っ青な私を見て申し訳なくなったのか、ジャンが眉尻を下げながら提案をしてくる。

「ねぇフィーラ、良かったら大会まで一緒に特訓しようか? 魔法の避け方とか、食らっちゃった時の対処法とか、考えるの手伝うよ。少しは怖くなくなるんじゃないかな?」

「えっ、いいの?」

「うん。僕も魔法の練習がしたかったし、勤務時間終わりにでも」

「ありがとうジャン! 貴方のおかげで死なずに済みそうだわ!」

「元々死にはしないと思うよ……?」

 良かったぁ、と満面の笑みを浮かべてジャンの手を取り引き寄せると、ジャンは苦笑しながらそう言った。

 我が小隊の実力者枠のひとりであるジャンが付いているなら百人力ね! 初戦で負けることはほぼ確定しているから、とりあえずはそこをなるべく怪我なく、無事に生き残ることが目標よ!

「頑張りましょうね!」

「うん。力になれるよう努力するよ」

 えいえいおー、と二人で拳を突き上げていると、その様子を見ていたエドガーが、おずおずと片手を上げた。

「なぁ、その特訓、俺も行っちゃ駄目か?」

「エドガーも? 僕は別に構わないけど、剣術の練習には付き合えないよ?」

「私もよ。剣なんて握ったこともないわ」

 今まで生きてきて握ったことがある刃物なんて食器のナイフくらいだわ。もし剣なんて握ろうとすれば、お父様が全力で止めに来ると思う。握る機会もないでしょうけど。

 ジャンと「どうしようか?」と顔を見合わせていると、エドガーは気恥ずかしそうに頭を掻きながら視線をそらした。

「あー、別に練習は一人で出来るからいいんだけどよ……その、二人だけで特訓ってのが、だな。ちょっとズルい気がするっつーか。羨ましいっつーか……」

 ごにょごにょと言葉を濁すエドガーに、私とジャンは同時に「ぷっ」と吹き出した。

「いいよ、三人で特訓しようか」

「えぇそうね。それにしてもエドガーってば子供みたい。別に私はジャンをとったりしないわよ?」

 親友といつも一緒がいいなんて、寂しがり屋なのかしら? ちょっと可愛いわね。

 くすくすと笑っていると、ジャンがエドガーに憐れむような視線を向けた。

「一応聞くけど、そんなに僕と離れたくないの?」

「そうじゃない……そうじゃないんだ……」

「どんまい、エドガー」


 最終的に、私とジャンとエドガーの三人で、勤務時間終わりに闘技場に特訓をしに行くことに決定した。

 アジリオさんもエドガーの練習相手にと、一応誘ってはみたけれど、当然のように断られた。さっさと寮に帰ってお酒が飲みたいそう。

 特訓をする闘技場は王宮の西にある円形の建物で、そこが武術大会の会場でもある。大々的に使うのは年に一度の武術大会くらいだけれど、いつでも開放はされていて、騎士達が訓練に使えるようになっているらしい。

「あそこは広いから遠慮なく魔法が使えるんだよ」

「へぇ。ちなみにジャンの魔法ってどんなものなの?」

「火炎魔法だよ。火の玉を作ったりするんだ」

 ……私、武術大会の前に黒焦げになって死んだりしないかしら。急に不安になってきたわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ