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乙女よススメ!~妃が無理なら騎士になる~  作者: 愁
一章 騎士になる!
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潜入!

 あれから二日。私は以前と変わらない平和な日々を送っている。

 けれど、ずっと心の中はモヤモヤしたまま……。


 あの後、フェリシアン殿下一行は何も言わずに王宮図書館を後にした。

 オーブエル殿下もすぐに研究室の扉を閉ざされて、私は結局、何を聞くことも、言うこともできないでいる。


 私の知る兄妹はいつだって仲が良かったからか、拗れた兄弟の姿を見ていると何とかできないかと思ってしまう。

 けれどフェリシアン殿下のいる城にはそうそう近づけないし、オーブエル殿下には何かを言える雰囲気でもないから、ただ自分の無力を突き付けられるだけで苦しい。


「あー、性格からして全然違うもんね、あの二人」

「そうなのよぉ」

 モヤモヤを一人で抱えきれなくなった私は、騎士寮の食堂で昼食中、クロエにざっくりと経緯を説明して相談に乗ってもらっていた。

 主に城で仕事をしているというクロエは、フェリシアン殿下についてもよく知っているらしい。

「そういえば、フェリシアン殿下はここのところらしくないって話よ」

「らしくない?」

「えぇ。ほら、フェリシアン殿下ってこう、アピールがすごいじゃない? キラキラーって」

 あぁ、うん。何が言いたのかは何となくわかった。

「それなのに最近は元気がないっていうか、何をしても覇気がないみたい。溜息ばっかりで周りへのアピールとか全然ないって、侍女仲間が残念がってた」

「へー」

 残念がる人いるんだ……じゃなくて。

 やっぱりフェリシアン殿下、相当応えちゃってるのね。

 傍から見てもわかるくらい落ち込むなら、最初から面子なんて気にせずありのままの言葉をオーブエル殿下に伝えていればいいのに。

「はぁ……せめてフェリシアン殿下に近づけるいい案があればいいんだけど」

 取り付く島もなさげなオーブエル殿下より、フェリシアン殿下の方がまだどうにかできそうだもの。

 手元でフォークを弄びながら何かないかと考えていると、こそこそっとクロエが身体を寄せてきた。

「ねぇ、そんなに何かしたいなら、フェリシアン殿下付きの侍女仲間を紹介しようか?」

「えっ、いいの!?」

「声が大きいって。えっとね、その子ロラっていうんだけど、フェリシアン殿下のことが大好きなのよ。だからフィーラの企てでフェリシアン殿下が元通りになるなら、喜んで協力してくれると思う」

「企て……」

 そんなに怪しいものではないけれど、協力してくれるというなら大歓迎だわ。

「ありがとう、クロエ」

「ふふーん、いつでもこのクロエさんを頼るといいわ!」

 そう言って胸を張ったクロエに、私は感謝を込めて抱き着く。

「えぇ、頼りにしてるわ、クロエ」

 一人じゃどうしようもない時、助けてくれる友人がいて本当によかったわ。

 改めて私は、クロエの存在に深く感謝した。


***


 翌日の夜、近衛隊の仕事が終わった私は、もう一仕事、と城の中にいた。

 ――侍女服姿で。


 昨日のうちに行動の早かったクロエのおかげで、フェリシアン殿下付き侍女のロラさんに会えた私は、両殿下の間であったことを掻い摘んで話し、この二人の関係をどうにか修復するためにもフェリシアン殿下に会いたい旨を伝えた。

 すると、ロラさんは何としてもフェリシアン殿下を元に戻したいらしく「是非協力させてください!」と言ってくれた。

 クロエとロラさんと、三人でどうすれば一番楽にフェリシアン殿下の元まで行けるか考えた結果が、これ。

 侍女服を着てフェリシアン殿下付きの侍女たるロラさんと一緒にいれば、新入りだろうと思って誰も怪しまないのでは? という安直な案。

 でもこれ以外には何も思いつかなかったのよ……。三人寄れば文殊の知恵って、あれ嘘よね。


「ロラ、そっちは? 初めて見る侍女だ」

 ロラさんと一緒にフェリシアン殿下の夕食を私室まで運んでいくと、扉の前にいた第二王子殿下近衛隊の騎士に止められた。

 だけどここまでは想定内よ。

 私には奥の手、隠匿の魔法がある。これを城に入る前に自分にかけておけば、たとえ一度顔を合わせている第二王子殿下近衛隊の騎士達でも誤魔化せるはず!

 ってあれ? この方法があるならリリアーヌ様のお屋敷に行くとき男装しなくてもよかったのでは? それにこれくらいお姉様も気づいていたはず……。

 私の脳裏に楽しそうに笑うお姉様の姿が過った。

 ……もういいわ。深くは考えずにいましょう。

「この子新人なの。今色々なところで勉強中なのよ」

 事前に決めていた通りにロラさんが嘘をついてくれる。

 どうか騙されてくれますように……。

 ドキドキしながら騎士の視線を受ける。じっくりと私を観察してから、騎士は口を開いた。

「なんか変わってる奴だな。妙に影が薄いというか、存在が曖昧というか……。まぁいいだろう。入ってくれ」

 良かったぁ、と安心する一方で、警備がザル過ぎることが不安になる。私が暗殺者だったらどうするのよ。

 あぁそういえば、前にオーブエル殿下が『隠匿の魔法を使う人は諜報活動をしていたり、暗部にいたり、表に出るような職には就かないから驚いたんだ』って言ってたっけ。

 隠匿の魔法、やっぱりそっち系統に有効な魔法なのね……。


 微妙な気持ちでロラさんと一緒に扉の向こう側へ通される。

 フェリシアン殿下の私室は、やっぱり自分の肖像画が飾られていたり、鏡が多かったりしていたけれど、それ以外は広いばかりで物の少ない部屋だった。

 本や書類がびっしりのオーブエル殿下の研究室とは全然違う雰囲気だわ。


 フェリシアン殿下はバルコニーに出て外を眺められていた。

 心なしかその後ろ姿は以前より小さく見える。

 ロラさんと視線を合わせて頷き合うと、私はそっとフェリシアン殿下に近づいた。

「フェリシアン殿下」

 バルコニーの入り口からそう声をかけると、大袈裟なくらい肩をびくつかせた。

「誰だっ、いきなり気配を消して近づくとは無礼な……ってうん?」

 振り返った殿下は、隠匿の魔法を解除した私の姿を見て言葉を止めると、まじまじと見つめてくる。

 やがて確信を得たのか、わなわなと震えながら私を指さした。

「お前まさか……」

「えぇ、そのまさかです。こんばんは、フェリシアン殿下。少々お話があってお邪魔いたしました」

 ちょっと殿下の反応が面白くて、いたずらが成功したような気分で微笑むと、殿下はそんな私を無視して大声をあげた。

「近衛隊いいいいいいっ!」

 

 ……あっという間に私は成す術もなく騎士達に捕まった。

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