05:各国の対応-1
時は少し遡り・・・
アナスタシアが新たな魔王になると宣言し、王国を抜け出した二日後。
オルスタ王国は、各国への対応に追われていた。
「オズウェル様!北のルーシス聖国からの苦情ですが―――」
「後にしろ!まずはラウバーンとの密な連携が先だ!」
「オズウェル様、南のヴェランドール帝国からの使者が―――」
「待たせておけ!今は無理だ!」
中でも、オルスタ王国宰相であり国王の弟であるオズウェル・オルスタは地獄のような忙しさに見舞われていた。
(クソッ!こんな時に兄貴はまた女のところかよ!)
このオズウェルという男、クズ揃いの王家で唯一まともと言える存在であった。
・・・そのせいで宰相という立場になり、貧乏くじを引かされ続けているのだが。
「オズウェル様、大変です!」
「何だ!?今は忙しい、後に―――」
「ヴェランドール帝国からの使者の件ですが、その・・・新魔王を歓迎する、と・・・」
「―――はぁ!?」
◇
「だから、今話した通りですよ」
「ふざけるな!」
飄々とした態度の使者に、怒りの収まらないオズウェル。
その理由が・・・
「魔王軍の傘下に入るだと!?」
「正確には新たな魔王の傘下、ですよ」
オズウェルは全く納得できなかった。
今まで人類の敵だった魔族に、大国であるヴェランドール帝国が首を垂れる事に。
今まで幾度となく戦争を繰り広げてきた相手でもあるヴェランドールは、戦争の駒の一枚だったアナスタシアに相当な被害を被っている。
(それなのに、たった二日で決められるはずがない!)
この時点でオズウェルの頭の中では、アナスタシアの魔王覚醒はヴェランドールが先導したものではないかと思い始めていた。
実際は全くそんな事はなく、帝国トップの判断が迅速であっただけなのだが。
「だって、普通に考えてくださいよ」
「・・・なんだ」
「我々は勇者一人―――たった一人の少女相手に辛酸を嘗めさせ続けられてたんですよ?あの力のヤバさはどの国よりも帝国が一番よく知ってる。その勇者が、勇者の力をそのままに魔王の力まで手に入れたって?・・・いや、無理でしょ。人類に勝ち目なんてないですよ」
オズウェルは焦った。
各国に魔王再誕の報告はしたものの”勇者の証は消えた”と嘘の報告をしていた。
だが、帝国はその嘘を見抜いていた。
「いや、勇者の証は消えて・・・」
「それと、これはうちの大将からの伝言ですがね」
オズウェルの言い訳を遮って、使者は告げる。
「勇者の庇護無き今、おたくらなんてなーーーんも怖くあらへん。今までの恨みも含めて完膚無きまでに叩き潰したるさかいに、覚悟しときや!との事で―――まあ要するに、改めての宣戦布告です」
◇
その日の夜。
「なんだ、騒がしいな」
「エドガー様、今までどこに!?」
帝国との戦いに向けてオズウェルが準備に奔走していると、国王が戻ってきた。
「ちょっと"視察"にな」
(何が視察だ!また娼館にでも行ってたんだろうが!)
心の中でキレるオズウェルだが、相手は兄とはいえ一国の王なので口には出せない。
「それどころではありません!ヴェランドール帝国が新魔王の傘下に入る事を宣言、我が国への宣戦布告を申し立ててきております!」
「そんな事で騒がしくしているのか?ヴェランドールとの戦争などいつもの事ではないか」
女遊びにしか興味がないエドガーは、今まで帝国に負けなかったのはほとんどがアナスタシアの力だった事を知らない。
オルスタ王国という国は、実質的にオズウェル一人が支えていた。
(マズい・・・このままだと、王国が終わっちまう・・・!)
必死に策を練るオズウェルだが、全く案が浮かばない。
「報告はそれだけか?視察で疲れた。儂は寝るぞ」
「ぐっ・・・」
オズウェルの苦労を気に留める事もなく、寝室へと向かうエドガー。
オルスタ王国現国王は、とてつもなく無能であった。
◇
「行ってきたで~」
「お疲れさん~」
オズウェルが国王にひたすら苛立っていたのと同時刻。
帝国の使者としてオルスタに行っていたウィルは、転移魔法を使って帝国に戻ってきていた。
「で、どないやった?」
「ありゃアカンわ。魔王に蹴散らされる前にワイらで終わるんちゃうか?」
「そこまで酷いんか~・・・」
ウィルの予想だが、概ね正しい。
アナスタシアの力に頼り切っていたオルスタ軍は、帝国軍と比べると実力に雲泥の差がある。
普通に戦争が起これば、オルスタ王国に勝ち目などなかった。
「でもよかったんか、大将?魔王への恭順を誓ったりして」
あの場では言い切ったものの、ウィルは疑問に思っていた。
果たして、魔王という存在に帝国全体が首を垂れていいものか?と。
「むしろ、今しかないんよ。今の内に”魔王様には逆らいません”っていう意志表示をしておかんと、取り返しのつかへん事になる」
「・・・そこまで、ヤバいんか。新しい魔王って」
ウィルは勇者と対峙した事がないので、強さをその身で感じた事はなかった。
だが、大将―――ヴェランドール帝国総統・ツバキは知っていた。
勇者の強さも、魔王の強さも。
「ウチの予想通りなら・・・一人で世界が滅ぶやろな」
だからこそ、生き残るためには従うしかない。
オルスタ王国と違い、ヴェランドール帝国はトップが有能だった。
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