04:旧魔王四天王・ミャルケー
ククルさんとの顔合わせが終わって、次の日の朝。
私達は宿の近くにある朝市に来ている。
一応ここが待ち合わせ場所らしいんだけど・・・
「ほんとにここでいいの?」
「はい、恐らく遅刻してくるでしょうが・・・」
私とシモンズさんが待っているのは、朝市のど真ん中にある休憩所。
朝市はかなりの数の人がいて、とても賑わっている。
確かにこれは『変化の指輪』で見た目変えてないとバレるね・・・。
今の私の見た目は、どこにでもいる町娘になっている。
ちなみにルシニャーは―――
『あんな人混みに入ったら踏まれて死ぬわ』
との事で、宿で待機している。
で、シモンズさんの予想通り予定時刻をかなり過ぎて。
「ふみあへん!おむあへしましあ!」
・・・口いっぱいに焼き鳥の串を頬張った女の子が走ってきた。
◇
「ふい~、お腹いっぱいっす~」
「うん、よかったね」
待ってる間にとっくに朝市終わってお昼も過ぎちゃったけどね。
私もお腹減ったよ。目の前でぱくぱく食べられるとちょっとムカついた。
「・・・満足したなら早く自己紹介しなさい、ミャルケー」
ほら、シモンズさんも目が笑ってない。
「はいっす!あたしはミャルケーっす!見ての通りの猫人族で、魔族ではないんですけど四天王の一人っす!よろしくっす!」
「あ、うん、よろしく」
凄く元気な人だな~。
それにしても、猫人族か。
可愛い。短い赤髪に耳と尻尾がぴょっこり。可愛い。もふもふしたい。
「御覧の通りのバカ代表ですが、これでも実力は本物です。アンナ様と戦った事もあると思いますが、覚えていませんか?」
「うーん・・・?」
こんな可愛い人、戦ったら忘れてないと思うんだけどな。
それに、私が考えていたバカ代表はこの人じゃない気がする。
私の勘違いだったのかな?
「あ~、確かあの時はフード被ってたっすからね~・・・。これならどうっすか?『シャドウムーブ』」
ミャルケーさんが何か唱えたかと思うと、次の瞬間には私の背後にいた。
・・・ああ、思い出した。
私が勇者として初めて魔界に遠征した時に戦った。
「あの影をヒュンヒュン移動する子!」
そして、私の考えていたバカで合ってた。
この人、わざわざ自分の次の行動を言葉にしてたんだよね・・・
次は〇〇します!みたいな。戦ってるのに。
「そうっす!・・・そうなんで、殺さないでもらっていいっすか?」
「ごめん」
びっくりして咄嗟に剣を抜いちゃった。
久しぶりだったけど、剣の召喚はスムーズに行えた。
最近修行できてないし、鈍らないようにしないとな~・・・。
「いや~、びっくりっす・・・。前に戦った時は勝てなくても殺される気はしなかったんすけど、今のは魔王様がその気なら死んでたっす・・・」
「アンナ様は先代魔王であるルシファー様の力を継いでますからね。・・・それと」
「痛いっ!?」
シモンズさんがミャルケーさんの頭にゲンコツを叩き落す。
・・・そうよね。
朝市が終わったとはいえ、人が通る所でこんな事やっちゃったら目立つよね。
私も反応して剣出しちゃった。見た目町娘なのに。
「アンナ様、移動しましょう。バカのせいで目立ちすぎました」
「うん、わかった」
「申し訳ないっす・・・」
ミャルケーさんは反省しているのか、耳がぺたんとしている。
うん、可愛いから許しちゃう。
◇
「言ったであろう?バカだと」
「四天王でも随一のバカですからね・・・」
「もう!バカバカうるさいっすよ!」
なんとか人目を誤魔化して宿へと戻ってきて、ルシニャーにご報告。
「まあ、こんなバカでも実力で四天王になっておるからな。頼りにはなる」
「潜入任務なんかは任せてほしいっす!」
聞くと、ミャルケーさんは相手の影に一度入ってしまえば何日でも潜り続ける事ができるらしい。
この力で、各国の重要な会議等にも潜り込んだりしているそうだ。
「それで、もう皆には会ったんすか?」
「今の所ククルさんとミャルケーさんだけだよ」
「あ~・・・じゃあとソフィアとガンツはまだなんすね・・・」
ミャルケーさんが嫌そうな顔をする。
え、残りの二人ってそこまで面倒なの?
痴女と筋肉狂とは聞いてるけど・・・
私には縁がないし関係ないかなと思うんだけど。
「ガンツは、まあ、変わり者程度なんだが・・・その、ソフィアが、な・・・」
「ルシファー様は特に狙われておりましたからねぇ・・・」
「えぇ・・・?」
そこまで言われると会いたくなくなってきてるよ、私。
「そこは会ってのお楽しみだ。次は遠距離の移動になる、準備を怠るなよ」
「わかった」
まあ、嫌々言っても仕方ないか。
朝早くに出発するとの事なので、夕方には寝る事にした。
◇
「ミャルケー、貴女はどう思いましたか?」
アンナ様が寝静まった後。
私は一つ気になる事があったので、ミャルケーを呼び出した。
「何がっすか?」
「アンナ様を見てどう思ったか・・・です」
ミャルケーはバカではあるが、人を見る目は本物。
私の感じている事が勘違いであればよかったのですが―――
「う~ん、水晶玉を一度粉々にして、無理矢理元に戻した感じっすかね?」
どうやら、気のせいではなかったようです。
「やはりですか・・・」
「それがどうかしたっすか?」
「いえ、ありがとうございます。もういいですよ」
「・・・?わかったっす」
ミャルケーがそこまで気付いていて、どうしてわからないのか不思議で仕方ありませんが・・・昔からこうなので、そういう子なのでしょう。
恐らく―――アンナ様の精神は現在、とても不安定な状態にある。
過去の境遇は私もある程度知っていますし、ルシファー様からも聞いています。
幼き頃から勇者である事を強制され、自分自身を抑え込んで成長していく過程は・・・地獄であったと思います。よく壊れずに耐え抜いたと。
ですが、”壊れてない”とはいえ”壊れかけ”には違いない。
そして、そんな壊れかけの少女の中には現在『勇者』と『魔王』の両極端な魔力が混ざりあっています。
勇者の魔力については魔人である私には詳しくはわかりませんが、魔王の魔力についてはルシファー様より聞いた事があります。
魔王の魔力の本質は『破壊』。
ルシファー様も「この破壊衝動を抑えるのは中々にキツい」と珍しく弱音を漏らした事がありました。
生まれながらに魔王であったルシファー様を以ってして尚、抑えがたい衝動。
その破壊衝動が、壊れかけの少女を襲えばどうなってしまうのか。
しかも、その少女は勇者の力を備え持つ最強の存在。
・・・出来れば、考えたくありませんね。
「今は、我々で支えていくしかありませんか」
願わくば、アンナ様に・・・
勇者でありながら魔王となった不幸な少女に、幸せが訪れますように。
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