猫
人間は週に一回は必ず爪を切るとても変わった生き物だ。
爪を生活に活かすということをしないために、有益な爪をむざむざと切ってしまうのだ。
人間が無益な事をどれほど繰り返そうとも特に問題は無い。
むしろ、私が如何に高尚な生き物なのかを雄弁に物語っている。
それなのに、人間は自らの爪を切り終えた後にすぐさま私の爪を覗き込み、必ず削る。
始めのころには壁紙に自らの証を刻んで、人間に大声を出された記憶がある。
耳元であまりに大きな声を出されたものだから、それ以来は二度としてない。
そもそも私は繊細な生き物なのだ、大声などという野蛮な方法は金輪際行使しないでもらいたいものである。
人間にとって自らの空間を許可なしに変えられるという行為が気に食わないのは良く分かる。
私にとっても環境というものはとても大事だからだ。
その点、人間と私は敵対していない。
自らが暮らす領域に過度に踏み込むことはお互いに無い。
それほど興味が無いという事でもある。
ほぼ三度の交流の時間は当然設けている。
互いに近くに暮らしているのであるから、いない者のように振舞って良い事はない。
そろそろ人間が私の食事を捧げ持ってくるはずだ。
飼われている、という状況がそれほど愉快なものではないが私はそれを従容として受け入れる。
王者とは常に余裕を持ち、食事の調達などは下々の存在の責任だ。
だから、人間が私の顎を指でくいと撫でさするのを許してはならないのだ。
しかし、手を傷つけてやるのは少々気の毒である。
仕方ない、少しだけ愛想を振りまいてやろう。
特別大きく息を吸い込んで、人間を見上げる。
「ミャー」