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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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雫とお泊り

雫パートは少し長め。まあもう少しで終わるけど。

 

 雫と遊園地デートに行った翌日。雫は夏服でやってきた。男の時は気が楽だと笑った雫の表情は今でも忘れない。

 俺は何かを見落としている。そんな気がしてならない。だが、今は実験に集中する必要がある。

「雫、この実験が最後だ。これで成功しなかった場合、俺に打つ手はない。後は自力で能力をコントロールしてもらう必要がある」

「分かった」

「今日は俺の家に泊まってもらう。実験の内容は徹夜による転換の回避だ」

 雫はいつも、朝起きたら女になっていて、夜寝るまでは男のままだという。であれば、一定の時間で変わっているのか、それとも眠ることがトリガーとなっているのかで今後の対処法も変わってくる。

「一定の時間、例えば十二時になったら女になっている、とかか?」

「そうだ。女になった時の就寝時間は?」

「毎日十時には寝る」

「そうか。だが、今日でどちらかはっきりする。時間であればその変化の仕方や時間が分かるし、睡眠がトリガーであれば寝ないという回避行動が取れることになる」

「それでお前の家で徹夜するってわけか」

「そうだ。お互いに寝ないように気をつけあう」

 今日で実験が終わる。そのことを雫はどう感じているのか。安堵か、不安か。どちらにせよ。今日で終わる筈だ。

「よし、では作戦行動Aに移る!」

「A?」

「風呂だな」

「ああ。一緒に入るか?」

「うちの風呂はそこまで大きくないが、二人なら問題ないか」

「今日は男だからな!」

 着替え一式を持って風呂へと入る。家族へは普通に友として紹介し、奏には双子の兄と説明しておいた。

 奏は初め驚いていたが、双子という単語の妙な説得力に沈黙させられていた。

 余談だが、俺の家族は俺に友達という存在がいないと思っていたらしい。だが、今日のことで分かったが、友達という言葉はとても便利だ。大抵のことがこれで済む。世の中の人間たちが友達と呼ぶ理由が分かった気がする。

 友達というのは肩書きであって、本当の意味での友というのは、親友と呼べる存在はいないのだろう。

 だが、俺にとって雫と優子は盟友だ。異能という特殊なつながりを持った。

「行くぞ、我が盟友よ!」

 雫と風呂に入った後はご飯を食べて支度を整えた。

 眠らないようにテレビゲームを始めた俺たちは、今対戦型のパーティゲームを二人でやっている。

「なんで双六なんだよ。眠くなるだろ」

「仕方ないだろ。奏が貸してくれたのがこれだったんだから」

 俺の部屋にゲーム機はない。ゲームをしないからだ。情報収集のためのパソコンとテレビがあるため、テレビにつないでゲームをしている。あの有名ゲーム会社「忍転堂」が作ったモリ夫パーティをNPCを含めた四人で対戦している。

 しかしこれはかなりキツイ。NPCのターンでどうしても眠気が襲ってくる。

「今何時?」

「二十五時だ」

 ゲームを始めてから二時間。既に三つ目のコースである。コントローラーを片手に雫は舟を漕ぎ始めた。

 現時点で十二時代ではないということは確認が取れた。

「おい。起きろ」

「起きてるよ……」

 もう少しで寝落ちしそうな雫は俺を非難するように答える。しかし非難されるべきはお前の方だ。

「喰らえ!」

「いた……」

 雫の頭に手刀を叩き込む。しかし帰ってきたのはとても淡白で弱々しい反応だった。このままでは本当に眠ってしまいそうである。

「おい、雫。今寝たら実験が……」

「大丈夫だ。俺は男だから、それを俺が知っていればお前なんだ」

「頭が回っていないぞ。しっかりしてくれ」

 俺のターンが回ってきたためキャラクターを操作する。サイコロを振り出た目の数だけマスを進んでいく。

「あ、もう終わりか」

 三つ目のステージも終わり結果発表の映像が流れ始めた。結果発表の間、プレイヤーが操作することはセリフのスキップくらいで、この時間が最も眠気に負けそうになる。

「今回の一位は……三番!」

「おい、雫。お前一位だぞ」

 結果を見届けた俺は横に視線を向けた。コントローラを握りしめたままの姿勢で固まる雫は返事をしない。

「おい」

「……」

 返事がない。ただの雫のようだ。

「おい、起きろ」

 雫の体を揺するが全く起きる気配がない。バランスをなくした雫はそのまま俺の肩に頭を預け寝息を立て始めた。

「仕方ない。一人で観測を継続する」

 俺はノートに書く準備をし雫の体に変化が訪れるのを待った。雫が睡眠状態に入ってから一時間。俺はその変化の瞬間を目にした。

「なんか、光ってる?」

 雫の体が淡い光を放ち始めたのだ。そこまで強い光ではないが、部屋の隅が照らされるかどうかというギリギリの薄ぼんやりとした明かりだ。

 これが肉体の変化の前兆であるのなら、転換のトリガーは睡眠で間違いないだろう。

「雫、起きろ」

「……」

 返事がない。ただの光る雫のようだ。

「ノンレム睡眠か?」

 雫の眠りは深く起きる様子はない。雫を横に寝かせ俺はノートに今の状況を細かく書き込んでいく。一つも情報を逃さないように、準備していた定点カメラは既に起動している。

「光が収まっていく……」

 数秒から十数秒ほどで光は力を失っていった。雫の体は今どちらなのか。見て確かめるまでもなく今は女なのだろう。

「能力の発動条件はノンレム睡眠状態にあること。つまりは深く眠っている状態ということか」

 ほぼこの答えで間違いはないだろう。決めつけるのは固定概念に縛られるためあまりしたくないが、今回はほぼ正解を導けたはずだ。そして、

「対処法は分からず、と」

 最後に一文を書き足し、俺も雫の横に倒れこんだ。

「眠い」

 疲れのせいか、俺が落ちるまでは一分もかからなかった。

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