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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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女の子雫

TS最高なのをわかって欲しいのと、これを書いた時期にBLを読んでたことがかなり影響されてる。

 それから放課後になり俺は優子との異能実験に取り掛かった。今日のところは優子との約束が先に入っていたため雫には帰ってもらった。

 雫は家族にもまだ話していないらしく、今日は自室で大人しくしていると言っていた。

「藤山。これからは少し実験の頻度が少なくなる。自分でも能力の制御に関して色々試してくれ。何か聞きたいことがあれば連絡してくれればいい。これ、俺のツウィッターのIDだ」

 メモに自分のアカウント名を書き込み優子に渡す。優子がSNSをやっているとは限らないため一応家の電話番号と携帯の電話番号も載せておく。

「そこら辺に捨てるなよ。個人情報だから捨てる時はゴミ箱か燃やせ」

「ありがとう」

「気にするな。俺も助かっている」

 優子のおかげでテレパシーノートの紙幅が順調に増えている。

「今日はここらで切り上げよう。あまり遅くなると大変だからな。最近は暗くなるのが遅くなってきたが、それでもな」

「うん」

 優子の悩みである痴漢男問題はひとまず解決した。あれ以来あの男は電車に乗ってきたことはないという。だが他にも男は大勢いる。

「何か困ったことがあったら連絡しろ。俺にできることであれば力になろう」

「ありがとう。バイバイ!」

「ああ」

 優子とは校門前で別れ、それぞれの帰路についた。俺は帰ってからは雫の能力について考えなければいけない。

 ノートナンバー8。ページ番号24。性転換について。俺はあまり好まない能力だが、LGBTなどの精神的な問題や、実際に手術を受けてまで性別を変えようという思想がある以上は軽視できない。

 それに漫画や小説に出てくるのであれば、存在しないという可能性はない。

 俺はリュックからスマホを取り出し雫にラウィンを送った、すぐに既読マークがつき返信が返ってくる。明日以降の計画と、その実験内容についてだ。

 俺が現状でできることは何もない。優子の時は経由した場合のだが感覚を共有することができた。しかし性転換の感覚は共有できない。想像することすら封じられているのだ。

「こればかりは調べる他ないか」

 俺は雫に出来る限りのことを調べろと命じ帰宅した。

 それから、机に並べられた十二冊のノートの中からナンバー8を取り出した。今回の検証はこのノートに書き込んでいく。

「ふふふ。このノートが全て埋まる時、俺は全能へと至るのだ! はっはっは!」

「お兄うるさい!」

 部屋の扉を叩かれた。


 翌日学校に行くと雫は男に戻っていた。「今日は男なのか?」と聞くと、最高に嬉しそうな表情で親指を立てていた。よほど女の体が嫌だったのだろう。

 それから経過を観察してみたが雫の体に異変が起こることはなかった。授業中や昼休み、放課後。どのタイミングでも突然女に変わることはなかった。

「転換の条件は自分では何だと思ってる?」

「朝起きたら女になってるからなぁ。分かんねえ」

「朝起きたら、か。だが睡眠は条件に含まれないだろう。お前は授業中に居眠りしてるしな」

「そうだな」

 今は使われていない空き教室に二人で椅子を並べて会議を開いている。まだ教室には人が残っているため、こうして場所を移している。

「とりあえずは経過観察だな。朝起きて女になってたら連絡をくれ」

「分かった」

 性転換。これが異能でも何でもなく病だとしたらどうだろうか。未知のウイルスによって肉体が変えられる。だが、男と女の体を行ったり来たりするなど異能でも無い限り無理だろう。

「なあ、お前は童貞か?」

「あ、当たり前だろ。なんだよ急に」

「いや。性病の可能性を潰しておきたかった」

「そ、そうか」

 少し引き気味の雫と共に教室に戻る。教卓の前では数人の生徒がおしゃべりに夢中でこちらを見向きもしない。

 優子と里美は既に帰っているようで荷物も残っていない。

 夕暮れまではまだまだ時間があるが、俺たちは謎の音楽がかかる廊下をまったりと歩いて帰る。

 五月の下旬だと言うのに梅雨はまだやって来ず、夏と紛う暑さにワイシャツに汗が滲む。冬服から衣替えのされていない学ランの上を脱ぎそのまま肩にかける。

「お前、夏服になった時どうするつもりだ? ワイシャツだとたぶんバレるぞ?」

「それが問題だよ」

 六月からは衣替えがさえ、男子は学ランの上着を着なくてもいい時期となる。というか着てはいけない。義務脅威区特有の集団行動の圧力というものが働いているのだ。着なくてもいいという高速は義務脅威区という力によって暗黙の了解となっている。そして生徒の大半は暑いから着ない。そのため圧力を感じずに圧力に従っている。

「何とかするわ」

「俺も出来る限り力になろう」

 雫はげんなりとした表情でトボトボと歩き出す。正直異能持ちというのは羨ましいが、この能力は俺もいらないと思ってしまった。

 そして、雫に能力について打ち明けられたのが五月二十七日の月曜日。それから二日が過ぎた三十日の木曜日。とうとう雫が女になってしまった。

「それで、現状での違和感や感覚の違いは?」

「男と女だと、力が違うな。あとは股下が違和感だな。無いっていうのはここまで落ち着かないものなのか」

「そういえばお前、トイレってどっちでしてんの?」

「男子トイレに決まってんだろ!」

「そうか」

 放課後の空き教室。既にこの教室は俺たち二人の作戦会議室となっていた。

 何もない教室に雫の声が小気味よく響く。

「まあそれはどうでもいい。足や胴体はどうだ?」

「胸が少し重いな。あとは先端が擦れて痛い。足は遅くなった。言うなら疲れやすい、だな」

「なるほど」

 雫の言葉をノートにメモしていく。感覚の共有は無理だが言葉にして伝えてもらうことで理解に近づくことは出来る。

「初めて女になったのは二十四日の金曜日だったよな? どんな気持ちだった?」

「慌てたな」

「それから?」

「それから……いや、特には。あ、喪失感はあったな」

「なるほど。『喪失感』っと」

 ノートには走り書きのように文字が並んでいる。だがその実全てに意味があり、俺が後で見返しやすい配置になっている。他の人間が見ても解読は不可能だろうが。

「ん? 二十四、二十七、三十。金曜月曜木曜で三日周期になっているな」

「本当だ」

 ノートにかかれた日付と曜日を見て気がついた。この現象が一定の周期で起こっているのならば、次の転換は六月二日の日曜日だ。

「次の転換が日曜日に起こると仮定して、その日までに俺は実験の内容を考えておく。お前は感覚の変化や細かいことでもいい。記録をしておいてくれ」

「おお。分かった!」

 雫は進展があったことが嬉しいのか今までで一番やる気のある返事をした。

「俺は帰って一つでも多く仮説と検証を立てる」

「よっしゃ! 俺は……部屋に引きこもってゲームしとくわ」

「親には言ってないのか?」

「言えるわけねえだろ。ていうか言いたく無い。俺の母さんさ、娘が欲しかったって前から言ってたんだよ。何されるか分かんねえだろ?」

「男としての尊厳を失うことになるだろうな」

 雫は雫で苦労しているようだ。気安く同情はできないが、せめて力にはなってやりたいものだ。

「なんか希望が見えてきたらテンション上がってきたわ!」

 雫はスキップしながら俺の先を行く。かなり浮かれているのが丸わかりだ。

「友、ありがとな。お前と友達で良かったよ」

 雫は振り返りながらそう言った。

「お礼を言うのは早いぞ。まだ何も解決してーーおい!」

 俺は慌てて駆け出す。

 振り向いた雫はそのまま後ろ向きで歩いていたのだが、階段に気づかずにそのままバランスを崩してしまった。

 俺は雫の頭を抱えるようにして階段を落ちていった。背中側を下にしリュックで衝撃を殺したおかげで怪我はない。幸い雫にも怪我はなく無事のようだった。問題は、

「女の胸というのは本当に柔らかいんだな。興味はないが、後学のために知っておいて損はないだろう」

「イテテ……すまん友。大丈夫か?」

「大丈夫だ。俺を誰だと思っている。この世界で最強の悪運を持っている男だぞ」

「そうか。って俺、お前の顔面に胸押し付けてた?」

「ああ。今だけはお前が男じゃなくて良かったよ。男だったら筋肉か骨で鼻を潰されていたところだ」

 俺に覆いかぶさるようにしていた雫は体を起こす。俺の顔を包んでいた柔らかな感触はたしかに男のものとは思えない代物だった。

「女の価値は胸の大きさではないという言葉の意味が、今なら分かる気がする」

「そうか」

「ところで怪我はないか、雫」

「おう。お前のおかげで無傷だ」

「それは良かった。その体はもはやお前だけのものじゃないからな」

「すっげえ意味深に聞こえるセリフだけどさ、お前の場合は異能の方を言ってるんだよな?」

「当たり前だろ。この研究はお前と俺がいて成り立っているんだ。その体が傷つけられては研究に支障が出るかもしれないからな」

「そりゃどうも」

 雫はそう言って自分の荷物を背負い直し俺を立ち上がらせた。その手はとても華奢で弱々しく、絹のように滑らかで柔らかかった。男らしさをかけらも感じない手を取って、やはり女だということが分かる。

「まさか……」

 俺はある結論と仮定を思いつき、そしてこの時、日曜日に行う実験の一つが決定した。


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