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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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友の友達

あー、切れるところほんと気持ち悪いな。どうにかならんかね。

 優子の一件が片付き、俺はいつも通り自宅から学校に通い始めた。

 見慣れた景色を横目に、俺は一冊のノートを読む。これは俺が書き溜めている異能や超常現象に関するものだ。俺が今開いているのは当然テレパシーのページ。

 あの一件以来、優子はかなり俺に懐いている。里美のように普通に話してくれるおかげで、最近はノートの方が追いつかないくらい情報をもらっている。

「今日はテレパシーの応用実験と、能力の制御について新たな試みをしよう」

 優子のもう一つの悩みである能力の消去はまだ達成できていない。だが、能力を消すことはできなくとも、制御し発動しないようにすることはできると考えられる。

 今の優子は触れるだけで思考を読み取れてしまう状態だ。それでは何かしら不便だろう。

 体育の体操ではペアの声が垂れ流し。満員電車では正直うるさいくらいに声が聞こえているはずだ。俺は体感したことがないから想像することしかできないが、 俺の中のイメージは祭の中だ。

「友、ながら歩きしてると車に轢かれるぞ!」

「安心しろ。俺の視野は一八〇度だ」

「百八十!? すごっ! 後ろまで見えるじゃん!」

 それじゃあ三百六十度だろ。

 後ろから声をかけてきた里美に内心でツッコム。こいつの場合はボケじゃなく天然でやってるから本当にアホだと思う。俺はこいつよりアホな人間を見たことがない。抜けてるとかじゃなくアホなのだ。

「友君、おはよう」

「優子か。今日はテレパシーの応用実験を行いたいが時間はあるか?」

「うん。昼休みと放課後、どっちにやる?」

 学校の前まで来ると優子にばったり遭遇した。早速今日の予定について話をしようとすると、背後から里美が優子に抱きついた。

「最近友とばっかり遊んでずるい。私は寂しいよ藤子ー!」

 藤子とは里美がつけたあだ名だ。藤山優子から略して藤子。けっしてFの方でもAの方でも女怪盗の方でもない。

「おい。俺は遊んでるわけじゃないぞ」

「遊んでるじゃん! 私を除け者にしようとしたって無駄なんだからな!」

 里美は優子を抱きしめたまま俺を睨みつける。優子は歩きづらそうだが、里美を払うようなことはしない。それだけ仲が良いということだろう。

「里美。藤山に抱きつける人間はお前だけだ。それで満足してくれ」

「た、たしかに。これは私の特権だから!」

 里美はそれで満足したのか、俺と優子の間に割って入りそのまま校舎に入っていった。

 俺は基本的に朝に強い。家でも学校でもやることは同じなので俺はいつも家で作業してkら学校に向かう。

 朝の六時に起床し七時までに全ての支度を済ませ残りの時間をノートの作成に充てる。多い日では三ページ。学校に行ってからは授業中だろうとノートの作成を行なっている。

 成績も悪くなく、先生にバレたこともないため、授業態度の評価は毎回A。ノートもしっかりと取っているため提出に関しても問題ない。俺が小学の頃から鍛えたステルスノートを見破れる教師はいない。

「友、おは」

「雫、おはよう」

 教室では雫が本を読んでいた。俺に気づいた雫は本から視線を外しこちらを見上げる。長い睫毛に白く透き通る肌。くっきりとした二重まぶたの中には薄茶色の瞳が輝いている。

 俺の隣の席の雫とはよく話す。俺の超能力の話にもついて来られる逸材だ。心霊系の話が好きで、将来的には共に心霊スポットを訪れる予定だ。

「なんか、いつもと違うな?」

「そ、そうか? 俺はいつも通りだと思うけど……」

「うん……? いつもより姿勢が悪いな。少し猫背気味だぞ?」

「そんな細かいこと気にすんなって。それよりさーー」

 雫はこれ以上聞かれたくないのか、分かりやすく話を逸らした。まあ、この程度の差異に気づく俺もどうかと思うが、今日の雫は何かを隠しているのが丸わかりだ。まさか、優子のように能力に目覚めたのか!?

「雫。ちょっと失礼する。今から身体検査を始める」

「は!? ちょ、ちょっと待て」

 雫は慌てた様子で立ち上がり俺と向かい合った。

「何を隠している? 俺とお前の仲じゃないか。お前の考えていることは全てお見通しだぞ?」

「ま、まさか……お前も?」

 お前も? とはどう言う意味だ?

 しかしこれで何かを隠していることが確定した。後は根掘り葉掘り問い詰めるだけだ。

「お前には隠しきれないか。昼休みに話すから、それまでは勘弁してくれ。ここじゃ目立ちすぎる」

「そうか」

 それもそうだな。優子の場合は知り合いが多くないから教室でもよかったのかもしれないが、優子の能力は人間関係に影響が出るようなものだった。もし雫もそうだった場合、能力の話を大っぴらにするわけにもいかない。だが、それはそれで気になるな。優子の能力を使って……。いや、それだと優子にも伝わってしまうことになる。もし雫がそれを望んでいないとしたら、雫の信頼を裏切ることになる。せっかく話してくれると言ったのだ。大人しく昼まで待つとしよう。

「やらないとは思うがバックレるなよ?」

「学校にいる以上逃げ道なんてないだろ」

「それもそうだな」

 雫と俺はそれなりに体格差がある。組み合った場合俺が負けることはほぼない。雫もそれを理解はしているだろう。

 と、俺と雫が遊んでいると朝のホームルームの開始時間を告げる鐘が鳴った。

「悠久の時か」

 この言葉に意味はない。たまに言いたくなることがあるのだ。


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