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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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霊子と四人ともう一人

ファンダ!

「友ー。何もない!」

「知らん!」

 一階を探索している途中、館の奥の部屋(おそらく大広間)俺たち。里美は机も椅子もないだだっ広い空間で叫んだ。

「声が響くよ!」

 里美は体育館のように反響する自身の声に興奮している。

「ねえ友君」

「なんだ?」

 広間に入るとそれぞれで内装を楽しみながら探索している。もはや肝試しという目的は失われている。そこで優子が話しかけてきた。

「変な声が聞こえるんだけど」

「どういうことだ?」

「この建物に入ってから嫌な感じがして、力を発動させてたの」

 優子は日々の訓練の賜物で、触れずとも他人の心を読むことに成功していた。そして、その力を発動して肝試しに挑んでいたようだ。

「そしたら、友君たち以外の、変な声が聞こえてきたの」

「なるほど」

 俺たち以外の謎の声。しかし、優子以外には聞こえていない。

「能力を発動しないと聞こえないのか?」

「うん」

 能力が以前よりも強くなり、より多くのチャンネルの声を拾うようになったか、より遠くの声を拾うようになったかのどちらかだろう。

「霊子。今霊はいるか?」

「はい。以前来た時はいませんでしたが、今日はちゃんといます」

 霊がちゃんといるというのはどうかと思うが、霊子にとってはそれが普通なのだから仕方がない。

「霊たちは喋ってるか?」

「はい。たまに優子さんが反応するのを見て楽しんでます。もしかして優子さんも霊感が強いんですか?」

「まあ、、そんなところだ。お前ほどじゃない」

「なるほど。まあ、霊の気配の濃い場所に長時間いたり、霊に取り憑かれたりすると感覚が鋭くなったりしますから、その影響だと思います」

「だそうだ」

「そ、そうなんだ。やっぱり霊の声なんだね」

 この声が聞こえる現象は一過性のものだろう。この場所を離れたら霊の声は感じなくなるはずだ。もし声を聞き取る範囲が広くなっていた場合は解決にはならないが。

「こればかりは経過観察だな」

「優子さんに霊能力が開花したら、ぜひ婆様に会わせたいですね」

「そ、それは遠慮しておくよ」

 俺たち三人が入り口付近で話していると、内装確認を終えた里美たちが戻ってきた。

「肝試しって感じがしないね。綺麗だし、普通にお城みたいで楽しい」

「じゃあここで一つ怖い話をしてやろう」

「おお、いいね!」

 まだ外は明るいため雫もエリカも乗り気だ。優子だけは少し怖がっているが、スリルがない肝試しなど肝試しにあらず。少しはここが心霊スポットだということを意識させてやろう。

 俺は一年前にここに来て、その時に見たことを話した。もちろん霊子もいたため証拠は十分。だが、

「でも実際にあるよ?」

 里美のアホを怖がらせることはできなかった。そもそも理解していない。神隠しの噂を知っているはずなのに、目の前の事実だけをしっかりと捉えている。故にこの手の話は効かない。これが教室の中の話だったら少しは違っただろう。

「里美のアホにこの話は通じなかったか」

「大丈夫だ友。里美がアホなのは今に始まったことじゃない」

 雫からフォローが入る。

「でも、だとしたらこの館はなんなんですかね?」

「それは俺にも分からない。もしかしたら、この館が神隠しの正体で、俺たちは既に帰れなくなっているかもしれない」

 一年前に俺たちが来た時はたしかに何もなかった。この一年で誰かが建てたにしても、重機や資材が運び込まれた跡がない。だとすれば、この館自体が怪異的存在で、中に入った人間を閉じ込めている可能性もある。もしかしたら、外の世界は数年後や数十年後になっているかもしれない。

「家に帰れないのは困る! 今日の夜ごはん唐揚げなのに!」

「大事なとこそこかよ!」

 里美に雫からツッコミが入る。ここにいる全員の気持ちを代弁してくれた雫に、霊子は思わず拍手している。

「すごいですよ。霊たちも雫さんのツッコミに感動しています。あ、一人成仏しました」

「まじか」

 一人別ベクトルで感動している霊子だった。

「次は二階だね」

 里美がグイグイと先頭を行く。もはや恐怖など誰も感じていない。優子も霊の存在が悪いものではないと分かると、少し安心した表情を浮かべている。

 弛緩した空気が流れる、ピクニックにでも来ているかのような俺たち。しかし、

「止まって!」

 霊子が突然そう叫んだ。俺たちはびっくりして自然と足を止めた。里美は首を傾げて霊子を見ている。

「どうしたの?」

「奥の部屋からものすごい力を感じます。おそらく、あの黒い悪霊が……」

 霊子はそこまで言いかけて息を飲んだ。霊子の里美に釘付けになったように動かない。霊子の体は小刻みに震え、何かに怯えるように指を指す。

「里美さん、逃げて。こっちに、ゆっくり来て。全員振り返らないで、そのまま、こっちに」

 霊子の異常な様子に誰も何も言えない。悪霊が来ると言った霊子のこの反応。間違いなく俺たちの背後に悪霊が出現したのだろう。だが俺には何も見えない。俺の視界には、突然大声を出した霊子の方を振り返る里美たちしか見えない。先頭を歩いていた里美の背後には長い廊下が続いているだけだ。

「わ、笑っている。私たちを……ここにいてはいけない。ダメ。逃げなきゃ……」

 だんだんと霊子の発する言葉が途切れ途切れで、片言のようになってきた。

「霊子さん、大丈夫?」

「エリカさんと里美さんはとにかく私たちの近くに来て。他の三人はオーラが強いから大丈夫だけど、二人は狙われてしまう。悪霊が本気になる前に、こっちに来て」

 霊子はただ諭すようにそう言った。エリカは演じている優等生として、その場にあった対応をする。里美は何かを感じ取ったのか、それとも霊子の異常な様子にいビビったのか、俺たちの近くに寄ってきた。

 とうとう、肝試しらしい雰囲気になってきた中、俺は興奮を抑えるので精一杯だった。本物の霊能者である霊子が認めるほどの悪霊。その存在が近くにいるという事実。姿は見えないが、俺は悪霊の気配をビシビシと感じていた。

「全員手を繋げ」

「は?」

「何するの?」

 俺の突然の発言に雫と里美が反応する。

「結界を張るんですか?」

「まあ、そんなところだ」

 俺は左手で優子の手を握り、右手でエリカの手を掴んだ。

「あ、そこ俺のポジション……」

「いいから早く手を繋げ」

「うぅ、分かったよ」

 雫がしょぼくれるのを窘め手を繋がせる。一番左に優子、次に俺、エリカ、雫、奏、里美と続き、右端にい霊子。一直線に並んだ俺たち。霊子は俺が何をする気なのかと気になっているようだ。

「これから俺の力で、霊子の見ている悪霊を全員で共有する。霊子、悪霊だけに意識を集中してくれるか?」

「薙宮殿の頼みならば、尽力致します!」

 霊子は目に力を込めた。と言っても、前髪で目が隠れているためイメージだ。今おそらくだが眉間に皺を寄せているはずだ。

「優子、霊子の思念を手を通して読み取ってくれ」

「分かった」

 俺は異能を持っていない。だが、優子の能力を使えば、霊子の見ている悪霊の映像を全員で共有することができる。

 嘘をついたのは優子が能力者であることがバレないようにするためだ。まあ、このメンツであればバレてもいい気がするが、それを決めるのは優子だ。

 優子が力を発動したのを感じた。みんなの思考を経由し霊子の思念が伝わってくる。霊子は俺の言った通りに、悪霊だけに意識を集中している。それと、優子の力のコントロールが上達していた。読み取りたい思念の選別までできるようになっていたのだ。それによって途中に挟まれた人間の思考が混じって、聞こえづらくなるということが起こっていない。

 お陰で、俺たちは悪霊の姿を捉えることができた。

「うわあっ!?」

 一番最初に声を上げたのは奏だった。

 廊下の先、真紅の絨毯の上に佇むのは、真っ黒い影。霧と表現してもいいほどに、その存在はあやふやで不定形過ぎた。不気味さをそのまま形にしたような気配を放ち、俺たちを見ている。視線は一度も外されず、口角が上がっており笑っているようにも見える。


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