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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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神隠しと異能者

ここも切るタイミングが見つからなくて、うん。キモい。

 七月十九日の金曜日。崎萱中学は夏の長期休暇を迎えた。

 季節はすっかり夏になり、校庭からはサッカー部の叫び声が聞こえる。犬のように一心不乱にボールを追いかける姿には正直敬服する。

 強い日差しを受けながらその肌を黒く焼いている彼らは、さながら焼肉だろう。絶対美味しくはないが。

「集まってもらったのは他でもない!」

 俺たち。名を挙げるならば、俺、奏、雫、優子、エリカ、霊子は、夏休みの初日、二十日の土曜日に里美に呼び出されていた。集合場所は学校。色々な部活が夏休みの活動で使うため学校は閉鎖にはなっていない。して、なぜ呼び出されたのか。

「私がした話は覚えているかい?」

「いつの話だ?」

「ふふふ。山羊山の館の話だよ。肝試しに行こうじゃないか!」

 里美は声高々とそう言った。俺たちはある程度予想していたが、全く知らない奏だけがキョトンとしていた。

「肝試し、ですか?」

「そうだよ奏ちゃん。山羊山の心霊の噂は聞いたことあるでしょ?」

「はい。山全体が心霊スポットになっていて、神隠しに遭うってやつですよね」

「そう。そしてこの夏、私たちはその山に肝試しに行こうって話をしてて。それが今日ということ!」

 里美の勢いに奏は引きつつ苦笑いを浮かべている。

「山羊山の神隠し?」

「エリカちゃんは知らないか」

 転校してきたエリカ(完璧ヒロインバージョン)は山羊山の神隠しについて知らない。

 里美はエリカに一から話し始めた。俺たちもその話に耳を傾け、噂の詳細を思い出す。

 俺と霊子は過去に行っているため別に行かなくてもいいのだが、里美曰く「大人数の方が怖くないし、経験者がいた方が安心でしょ」と、肝試しに行こうとする人間とは思えない心構えを言っていた。

「それで、こんな真っ昼間に集められた俺たちはどうするんだよ。まさか今から行くのか?」

「当たり前じゃん。中学生が夜に出歩けるわけないし、山羊山は結構深いから昼でも暗いんだよ」

「そうなのか?」

「まあ」

 雫は一度行ったことのある俺に聞いてくる。

 たしかに山羊山の森は深く、道を外れて迷子になれば帰るのは困難になる。そういう意味でも神隠しと噂されるのだろう。

「というわけで、今から自転車で館に向かいたいと思います!」

「おー」

 里美の声に優子だけが返事をする。俺と霊子は本当のことを知っているが、それを今言うのは野暮だろう。

 雫とエリカは場の流れに合わせるようなスタンスのため、俺たちが山羊山に行くのはほぼ決まりだ。

「それで、里美先輩。山羊山まではどのくらいかかるんですか?」

「たしか、三キロ弱くらいだったはず」

「結構近いですね」

 たしかに近い。だが山羊山の館がある場所はかなり山だ。行くまでには斜度のある坂道を登らなければいけない。つまり疲れる。

「よし。では、山羊山に向けて出発!」

 里美が立ち上がったことで、俺たちも後に続いて教室を出る。今日は全員自転車で来ているため、各々自分の自転車で山羊山に向かう。

 山羊山の館があると言われている場所までは、勾配のきつい坂が何箇所かあり、道中には山羊山橋という自殺スポットもある。夏の肝試しにはうってつけの山だ。

 白い半袖に黒い短パン。カゴのないママチャリにまたがった俺は全員を先導する形で前を走っている。

 山羊山までの道中はほぼまっすぐで迷うことはない。山羊山に入った後も、道路自体は一本でできているため迷わない。ただ、

「おお、涼しいな!」

 俺の後ろで雫が叫ぶ。

 山に入ると、太陽の光が鬱蒼とした木の枝葉に遮られ温度が下がる。避暑地としては思いの他有用である。心霊という噂さえなければ人が住んでいることだろう。

 それから自転車を十五分ほど走らせ、(途中自転車を降りて歩いた)俺たちは目的地の近くまで来た。

「山羊山ダムの上?」

「ああ。ここからは自転車を置いて徒歩だ」

 館がある場所までは自転車では行けない。車で通る道もなく、山道を登っていくしかない。だから館の噂などまゆつば物でしかなかったのだ。

 本当に館が存在しているのであれば、人が居た跡ということだ。人が住んでいたのに、道はないというのはおかしな話だ。山全体が心霊スポットになっていることから、誰かが適当な作り話をして、それが広まったのだろう。

「それじゃあ、行くぞ。ちゃんとついてこいよ。山道は人が使わなくなってから結構時間が経ってるから、道から外れたら迷子になって帰れなくなるぞ」

 俺は後続のメンバーに釘を刺してから山道に入る。獣道というほど酷くはないが、そこそこに草木が生い茂っている。さわさわと草が肌を撫でる感触がする。足元は土が踏み固められているため歩きやすい。石が時折石が埋まっていたり、木の根が出ているが、それに躓くほど間抜けではない。

「痛!」

 と、後ろで誰かが声を上げた。エリカだった。

「エリカちゃん大丈夫!?」

「うん。木の根に引っかかっちゃって」

 間抜けって言ってすまなかった。

 心の中でエリカに謝りながらも先を急ぐ。帰りが遅くなると、周囲は本当に真っ暗になり何も見えなくなる。

 今は昼過ぎの二時少し前。あと五時間以上は日が出ているだろうから、帰りの時間がそれより遅くなることはないと思うが、何が起こるか分からないため、急いで損はない。

 それに心霊系の話ではよく聞く話だ。体感的には一時間も経っていないのに、外に出てみたら辺りはすっかり夜になっていたとか、気づけば周りに誰もいなくなり、夜の森に取り残されていたとか。

 俺は心霊を信じるタイプの人間だ。というよりも信じてないものの方が少ない。異星人もUMAも見てみないことには確信はできないが、噂を検証し、事実を確認することはできる。

 実際に、俺が過去に試した方法では異能を獲得することはできなかったが、現在異能を手にする方法を見つけ、異能者たちと一緒に行動している。

 つまり、方法さえ合っていれば、異星人も幽霊も存在を認識できる日が来るということだ。少なくとも俺はそう思っている。

「友ー、後どれくらい?」

「もう少しだ」

 山を登ること数分。おそらく五分もかかっていない。それくらい歩いていくと、視界の開けた場所に出た、そこだ木々が一切生えていない、広場のような場所。山の中に一部だけ木が生えていないのを見ると、やはり昔は建物があったのではないかと考えてしまう。

「お、館だ!」

「そう。ここがよく噂される心霊スポットの……」

 そこまで言いかけて止まった。俺よりも先を歩く里美。森が開けているのを見て、俺を追い越していったのだ。里美は眼前に聳える大きな館を見て興奮したような様子ではしゃいでいた。そう、館はあったのだ。そこに、確かに存在していた。一年前には痕跡すらなかったというのに、そこには館が建っていた。

「なあ霊子」

「はい」

「去年は無かったよな」

「そうですね。これは何かしらあると考えていいと思います。神隠しの正体が今日、明かされるかもしれないですね」

 霊子も少し驚いている様子だが、俺ほどではない。流石に能力者、しかも霊関係の能力を持っているとこういう場面にも出くわすことがあるのだろう。経験値が違いすぎる。

「よし。みんな行くぞ!」

 里美が先陣を切って館に突撃していく。それに続く俺たちは、おかしいほどに整った芝の上を歩き館に向かった。庭というには広すぎて何もない。鋳物のテーブルとイス、それからパラソルを立てればお洒落な空間になるだろう広場は、辺り一面芝だ。雑草ではなく、綺麗に手入れのされた芝になっている。噴水でも置けばもっと豪華な雰囲気が出るだろう。

「入り口から入れるかな?」

 館の入り口に来た里美は、ドアに手をかけた。何の警戒も躊躇いもない里美の度胸には少し感心する。まあ何かしら問題があれば霊子が止めてくれる。

 里美がゆっくり扉を引くと、鍵はかかっておらず案外すんなりと開いた。ひんやりとした空気が中から溢れてきて、俺たちの足の隙間を縫っていく。

「おお。綺麗だね!」

 俺たちは洋館の中へと足を踏み入れた。赤い絨毯はまだ誰も踏んだことがないほどに綺麗で、正面にある階段はY字に分かれている。近寄って見てみれば、手すりは塵一つ被っていない。天井からぶら下がるシャンデリアは点いていないが、キラキラと光を反射し輝いてる。

 揺れるシャンデリアの下で、俺たちは呆然と立ち止まる。異様なほどに整い、静謐な空気が流れる館は、博物館か美術館のようで、誰も口を開かない。その存在感に圧倒されている。

 空いた口が塞がらないとはこのことだろう。優子は里美の右手を握りしめ、雫は館の内装にキョロキョロと視線を動かしている。

「大きなお家ですねー」

 エリカが声を出した。それによって全員、体の硬直が解けたように動き出す。誰一人身動きをしなかったせいで、部屋の中から音が消えていた。

「そうだな。で、これからどうするんだ?」

「とりあえず一階から探索しよう!」

 里美は先ほどまでと打って変わって元気な様子でそう言った。

「俺たちは一番後ろ歩くから、お前ら先行っていいぞ」

「了解!」

 俺は霊子と並んで最後尾を歩く。俺の前には奏がいて、その前にエリカと雫、最前列を里美と優子が歩いていく。順々に部屋の扉を開け中を見て回る。

 廃墟感は一切なく、職場見学のような雰囲気で館の中を探索した。途中から里美がガイドの真似事を始めて、いよいよ肝試しの雰囲気ではなくなった。

「霊子。悪霊はいるか?」

 俺は最後尾で霊子に聞く。今のところ霊子が何かに反応する様子はなく、悪霊も出現していない。

「悪霊は出てこないですね。私が作った小さい護符を皆さんの体に忍ばせているので、この中の人たちが襲われることはないと思います。薙宮殿は婆様の護符を持っていますよね?」「ああ」

 もちろん今日も護符を持ち歩いている。だが、悪霊が出てきた時は、もしかしたら離すかもしれない。呪いを受け異能を手に入れたい欲が、俺にその選択を迫る可能性が高い。

 呪いを克服できなかった結果どうなるかはまだ分かっていない。だが、少なくとも一週間は無事であると睨んでいる。つまり、一週間以内に呪いを克服すれば、俺も異能者の仲間入りだ。


面白かったら是非お願いします。

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