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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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エリカ・エンド「前編」

エンドって書いてるけどまだ終わらない。それと一気にやると長いから区切ったけど気持ち悪いの申し訳ない。前編と後編は一気見してくれると有難いです。

 そして休日が明ける。

 俺はこの二日間、霊子の集めた情報の確認作業を行なっていた。もちろんできることなどほとんどなかったため、家に引きこもってパソコンをポチポチしていただけだが。

 幽霊に聞いた話を俺が確認する方法はない。できることと言ったら心霊スポットに行って霊感を少しでも高めることくらいだ。

「薙宮、これ校舎裏のゴミ捨て場に捨ててきてくれないか?」

「また雑用ですか」

「そう言うなよ。南校舎行くんだろ? ついででいいから」

 廊下を一人で歩いていると男の教師に声をかけられた。数学教師の赤坂だ。二十三歳とまだまだ新人の教師だ。

「次の数学の授業のプリントくれたらいいですよ」

「それならいいぞ。お前は熱心だよな」

「いや。予習しないと俺なんかすぐ点数下がりますから」

「謙遜するなって」

 赤坂にそう言ってゴミを受け取る。俺は職員室ではかなり評判が良い方だと思う。真面目(を装ってる)だし、親切のフリをしているだし、顔は悪くない(一般的に見て)方だし。成績も良いため、こうして授業のプリントを先に手に入れることができる。教師たちは勉強熱心だと褒め称えるが、これは決してそんな高尚な目的ではない。長期休暇の宿題を早く貰おうとする心理と同じだ。さっさと終わらせて後で楽をするためだ。

 特に数学は毎時間プリントが出る。あんなものやる必要もないのに、毎回飽きもせずに用意してくる。

「まあこれで俺の評価は上がり、俺は次の数学の授業で楽ができる」

 赤坂から受け取ったゴミ袋を片手に校舎裏のゴミ捨て場に出る。ゴミを小さな小屋の中に投げ入れたら俺の仕事は終わり。まあやることもなく校舎内をふらふらしていただけだから、良い暇つぶしにはなったか。

 俺は出てきた扉から校舎に戻ろうと振り返った。すると、南校舎の三階で奏とその友達が並んで歩いているのが見えた。

 奏はこちらを見向きもしないが奏の友達は俺を見て手を振っている。

 俺はピストルを模した形を右手で作る。そしてそれを三階の窓に向け、

「バン」

 俺の右手から離れた幻想の弾丸は奏の友達を撃ち抜いた。見事にアクションを取った奏の友達。奏はそれを見て呆れたような表情をする。

 ノリの良い友達を持ってくれて兄はとても嬉しいぞ。主に自分的にだが。

 奏が誰と付き合おうと構わないが、ああいうノリのいい人間は嫌いじゃない。

 俺はそのまま校舎の中に戻っていく。ちょうど昼休みが終わる五分前のチャイムが閑散とした廊下に響いた。この廊下でチャイムを聞いているのは俺だけのようだった。


 放課後。

 日が落ちる時間が徐々に長くなり始めたこの頃。梅雨明けのニュースはまだ流れないがもう夏は顔を見せ始めた。

 窓の外の景色は以前のような暗さはない。時間の経過を如実に感じる夕暮れ前、俺は教室で霊子を待っていた。

「薙宮殿、お待たせいたしました」

「ああ、すまん。急に呼び出して」

 霊子は正気を感じられない白い肌、死霊のような気配を漂わせている。走ってきたのか少し息が上がっている。それが霊子が生きていると分かる唯一の手がかりのように感じた。

「それで、護符の方は?」

「ああ、お前にもらった護符なんだが、制服に貼っていたんだよ。そしたらこうなってた」

 俺は学生服のズボンを脱ぐ。ズボンの下には学校指定の青いハーフパンツを履いている。そして、

「これは!?」

「ああ、俺も最初見たときはびっくりした」

 制服のズボンのケツポケット。その中に入っていた護符が黒く焦げたようになっているのだ。だが燃えたわけではない。

「これは、薙宮殿の命を脅かすほどの危険が迫っていたということですね。この護符が身代わりとなった跡でしょう」

「悪霊の仕業か?」

「分かりません。ただ、最近命の危機を感じたことは?」

「ないな。いたって平和な日常を過ごしていたぞ」

「そうですか」

 霊子は何かを考えるような素振りを見せてから自分の鞄に手を入れた。

「青森に行ったときに用意してもらって良かった」

「追加の護符か?」

「はい。万が一のために予備を用意してもらったのですが、早速役に立つとは」

「すまないな」

「いえ。薙宮殿には助けられていますから」

 霊子から予備の護符を受け取り、一枚は早速制服のポケットに仕舞い込む。

「すまない。これからは気をつける」

「いえ、見えない以上は対策のしようがないですから。異変に気付いたらすぐに教えてください」

「ああ」

「私はまだ悪霊について調べなければいけないので、これで失礼します」

「ああ、ありがとう」

 霊子は軽く頭を下げると教室を走って出て行く。一人残された俺は学生服のズボンを履く。

「護符が焼けるほどの命の危機か。もしかしたら何かに命を狙われていたのか。だとすればここに一人でいるのも危険だろう。原因が分からない以上は対策のしようがないが」

「薙宮友。話がある」

「ん?」

 リュックに手を通しさあ帰ろうと立ち上がったところで話しかけられた。教室内には相変わらず俺一人。教室後方の入り口からエリカがこちらを見つめていた。

 その表情はどこか覚悟を決めたような、思いつめた表情をしている。

 放課後の教室に男が一人。そして強い意志を感じさせる表情の女子が「話がある」と言った。漫画やアニメの世界では何か、とても大事なことを打ち明けるようなシチュエーションだ。それが愛の告白であったり、自分にとって大事な秘密であったり、理由は様々考えられる。

「なんだ?」

 そして俺はエリカの秘密を知っている唯一の人間。つまり奴にとって俺は、同胞として接するか、敵対するかの二択。俺を排除し安寧の学校生活を手に入れるか、それとも俺と手を組み自分のあるがままの姿を晒すことを選ぶのか。

 エリカは中二病である。それもかなり重度の。エリカはなりきりタイプの中二病だ。自分の設定に忠実に従いそれを演じる。そしてエリカの場合は少し特殊な設定を持っている。

 表向きは完璧美少女ヒロイン。そして中二病であることがバレないようにしている。表と裏がある二面性を持ったキャラクターだ。

 普通の中二病は中ニ的な面と素の二つのキャラクターだが、エリカの場合は完璧美少女と中二病がキャラとして存在しているため、まだ俺も素のエリカを見たことがない。もしかしたら完璧美少女の方が素のキャラなのかもしれないし、中二病が素なのかもしれない。だが、その可能性は低いと考えている。

 俺が見るに、あいつは二面性を持つキャラクターに魅力を感じ、そしてそれになりきることこそを目的にしているように感じるのだ。

「お前は私の正体にとっくに気づいているのだろう?」

「ああ。そうだな」

 エリカは教室の中に入ってきた。ゆっくりとこちらにまっすぐに向かってくる。

「私はここにとある任務でやってきた」

「ふむ」

「私はお前を殺さなければいけない」

「随分と、穏やかじゃない雰囲気だな」

「……分かっているくせに」

 うん。よく分かってないけどなんとなく話が進んでるのは理解した。それでだ、こちらが全てを理解している前提で話を進めるのは本当に良くないことだと思うぞ。

「お前には我が星のために死んでもらう」

「何を……」

 エリカは制服の内ポケットから銃を取り出した。

 黒いボディがその手中に収まっている。銃口は真っ直ぐに俺を捉えている。ザラザラとした触り心地のグリップ。シグザウエルだろうか。あまり銃の知識はないが、エリカが持っているのはそれによく似ている。

「それは人に向けるようなものじゃない。怪我をするぞ?」

 俺が。

「これでお前を殺す。そして……」

「やめておけ。無駄だ」

 俺は右手を前に出し左手を顔に添える。エリカに対して体を斜めに見せ、そして目を瞑りそれっぽいポーズをとる。

 正直怖い。エアガンと分かっていても痛いものは痛いし、そもそも痛いの嫌いだし。え、空砲だよね? 弾込めてないよね? 超怖いんだけど。

「この距離では絶対に外さない。さらばだ薙宮友」

 エリカはそう言い引き金を引いた。パスっという小さな音がなったと思うと、弾が俺の顔を掠める感覚がした。

「な、なぜ……!?」

 エリカは驚いたような声を出し、弾が空になるまで連射した。俺はその間一度も目を開けていない。目に入ったら最悪失明もありえるからな。

「なぜ一発も当たらない!」

「それはお前が一番よく分かっているだろう」

 エリカのなりきりはまだ続いている。というか本当に当てるつもりだったのか? それともわざと外しているのか?

 どっちにしろ全弾撃ち尽くしてしまえば怖くない。

「それを下ろせ」

「くっ」

「お前の用件を言え。俺にできることなら力になろう」

「何?」

 エリカは驚いた表情を浮かべる。まるで俺の提案が予想外とでも言いたげな顔だ。

 こいつの中でシナリオがどうなっているのか、全く想像もつかない。だが、俺はこいつに合わせてこの場を乗り切ってみせる。なぜならこいつは俺にシンパシーを感じて、こうして他には見せていないもう一つの面を曝け出しているのだ。こいつが俺を頼れなくなったら、いつか俺以外のところで爆発してしまうかもしれない。それだけは避けなくては。

 俺にとっても、まともに話ができる人間になれるかもしれない人材を無駄にはしたくない。


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