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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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エリカ・友

エリカパートに入ります。もう勢いで書いたから破綻が大変なことになってると思う。

 私の名前はエリカ。エリカ・ルイザ・ウォルターはこの世界で使っている仮の名前。個体識別番号FW32。それが私の本当の名前。

 この通称『地球』という惑星に、はるか遠くの銀河から調査にやってきたエージェント。地球以外の似た惑星から、地球の居住環境や生態調査の任務でやってきた。もし知的生命体が存在した場合、その文明力の調査とその土地の人間性についての調査も任されている。

 この国に来たのは私一人だが、他の国にも多くのエージェントたちが派遣された。そして今も私の頭上に浮かぶ白い月。その裏側は既に調査を終え何も生息していないことが分かっている。

 元より我々の目的はこの地球。もしこの星の人間たちが環境を破壊し、生物の住めない状態にした場合はこの星を破壊することになっている。現状ではそうなっていないようだが、これからの人間たちの行いによっては最悪人類を滅亡させる必要がある。

「そうはなってほしくはないな」

 独白は六月の湿った空気に溶けるように消えていく。

 今私は鷹ヶ丘という地名の場所に住んでいる。市立崎萱中学に通う十四歳、と表向きにはなっている。実際は今年で十八歳を迎える立派な成人だ。この世界では二十歳で成人を迎えるようだが、私たちの星では十四歳で成人を迎える。私は今の仕事についてもう四年目だ。精神的には十分に成熟している。それにこの地球の『中学生』が習うものについても既に履修済みだ。

 見た目年齢に合わせた地域を選別したが、この星の成人は全体的に背が高い。私は今一六〇センチほどで、これ以上伸びることはほとんどない。私の星で一番大きな人でも百八十三センチだ。

「重力の違いか」

 この星に来てから体が軽くなった。私の星の方が重力が強いのだろう。

 と、それよりもだ。今は私のことよりも重要な問題がある。この星の中学生という生き物についてだ。思春期という多感な時期であり色々なものを吸収し成長する時期。故に不安定で危険な時期。

 この時期の人間に接触して思ったことは一つ。多くのデータが取れるということだ。中学という新たな環境に置かれた子供が成長の過程でどう変化していくのか。環境や人間関係が人格に与える影響は大きい。この世代を調査すれば未来の地球に予想をつけることができる。

 そう感じたのはいいのだが、一人だけ異端な存在を確認してしまった。薙宮友という少年だ。

 彼は十四歳という年齢にして精神が完成されていた。私の容姿はこの世界では高い水準に位置すると思っているが、私を見ても彼は眉ひとつ動かさなかった。それどころか興味はないと言いたげな態度を取っていた。

 私が彼を警戒しなければいけないのはそれだけではない。彼は私という存在に気がついている。

 今日の校内案内では私を警戒してなのか顔を合わせようとしなかった。それに彼の発言。

「住む世界が違う」

 これを言われた時は肝が冷えた。そして自分の無警戒さを戒めるきっかけにもなった。正直子供相手に油断していた。私が異星人であることや、この星に私たち異星人が紛れ込んでいることは決してバレてはいけない。一人の失敗が全体の作戦の失敗につながり、この惑星を放棄しなければいけなくなる。それだけは避けなければならない。

 最後に彼のに印を付けることができた。これで彼の位置をいつでも追うことができる。どうやって付けたのかは企業秘密、もといエージェントとしての守秘義務。

 彼は今後要注意人物として監視下に置く。それ以外には特に警戒が必要な人間は見られなかった。まだ転校はしていないため警戒を怠るつもりはないが、正直薙宮友よりも厄介な人間がいるとは思えない。

 高橋幸治という大人の男の方がまだ相手にしやすいだろう。そう感じさせるほどに、薙宮友は不安定に安定してしまっていた。

 明日明後日の休みを挟み私は中学生となる。積極的に交友関係を築き、この星の調査を迅速に完了させる必要がある。

 薙宮友の近所に拠点を押さえられたことは正直僥倖かもしれない。

 私は白く輝く月が照らす道を、足早に通り過ぎた。


 それからの二日間は地理の把握や学校の調査に使い、無駄のない休日を過ごした。たまに薙宮友の動向を監視したが、終ぞ家から出ることはなかった。

「今日からこのクラスに転校させていただきます、エリカ・ルイザ・ウォルターと申します。気軽にエリカと呼んでください」

 ここで昨夜練習したとびきりの笑顔を見せる。

 すると教室で大きなざわめきが起こり、それを教師が窘める。ここまでは完璧な流れ。日本文化のジャパニメーションというものでじっくり学習した成果だ。

 美少女転校生に沸き上がる男子生徒、そんな男子を冷ややかな視線で見つめる女子たち。一つ空いた席に案内される私の隣には当然男子がいる。

 こっちを見つめる男の子に一つ微笑んでみせれば、

「と、隣の席の山田です。よろしくお願いします」

 簡単に恋に落とすことができる。

「こちらこそよろしくお願いします」

 隣の山田は既に目がハート型になっている。周囲の男子からは羨望と嫉妬の眼差しを向けられ、山田は恐怖しながらも満更でもない表情を浮かべる。だが山田よ。君は主人公にはなれない。よくてクラスメイトEくらいだ。AでもBでもなくEだ。

 私は事前に用意した教科書とノートを机の上に広げる。隣では山田が「見せようか?」と声をかける準備をしていた。

 それから授業が始まる。

「あのーー」

「あ、ここやったことある!」

 山田の声と私の声が重なる。おそらく山田は「ノート見せてあげる」か「教えてあげようか」と言いたかったのだろう。しかし、他校の方が先に進んでいるということもあるのだ。山田。君は残念だが、主人公にはなれない。

 山田は掴み上げていたノートを机に戻し何事もなかったように黒板を見つめている。果たして黒板を見つめているのか、失態を恥じているのか、今の私には至極どうでもいいことであった。

「エリカちゃん、こんにちは!」

「優子。久しぶり」

 休み時間になれば転校生が女子たちに囲まれるのは決定事項。案の定私は複数の女子生徒に囲まれ、男子は一歩も近づけないという状況になった。

 女子壁の中には優子も紛れていた。この世界に来てから初めてできた友達。限定的で一時的なものだが、友という存在はどの星でも大切にした方がいい。友と単体で言うと紛らわしいな。

「何、優子ちゃんエリカさんと知り合いなの!?」

「うん。金曜日に校内案内したの」

「いいなあ」

 美少女転校生は忙しい。それを身をもって実感しながら周囲に視線を向けた。女子たちを羨ましそうに見つめる男子たち。隙間から目が合えばすぐに顔を赤くして近くの男子に自慢する。とても可愛げのある子供たちだ。だが、そんな普通の生徒に混じり少し変わった人たちがいた。

 それは薙宮友の周りに集まる二人の生徒だ。名前は事前に調査済み。黒田里美と峯山雫だ。

 黒田里美は珍しい物でも見るかのような見方をしている。おそらく私という人間よりも銀髪に興味が引かれているのだろう。じっと見つめてもまるで視線が合わない。

 峯山雫の方は男の子のはずだが、羨望よりも敵意の篭った視線で見てきている。目が合うとキッと目に力を込めてから視線を逸らされた。

 薙宮友に関しては見向きもしない。この星には類は友を呼ぶという言葉があるが、この二人に関しても警戒していて損はないだろう。

「じゃあエリカさん、またお昼休みに」

「うん」

 十分という短い時間に女子たちは弾幕のように質問をぶつけてくる。その全てに対応しきった私はホッと息を一つついた。

 それから昼休みに私は席を立った。向かうは薙宮友の席。

「薙宮君、よかったらお話――」

「すまん、ちょっと用事が」

「あ、ちょっと……」

 薙宮友はそう言って教室を出て行ってしまった。話しかけた私は少し惨めに見えているだろうか。そう思って周りを見ようとしたが、

「エリカさん、あいつ変な奴だから気にしないで」

「え、ええ」

 すぐに取り巻きの女子からフォローが入った。日本の女子の世界は過酷だと聞いていたが、このクラスにはボス的存在はいないらしい。クラスを牛耳っている女子も、それに取り入ろうとご機嫌伺いをする女子もいない。普通で平凡な中学生たちが私の周りにはいる。やはりアニメの中だけのこともあるようだと、私はまた一つ学習した。

「でも何で薙宮に?」

「校内案内をしてもらったからそのお礼を言おうと思って」

「あいつが!? あの自己中中二病の薙宮が?」

「そこまで酷い人ではないと思うけど……」

「きっと猫被ってたんだよ。エリカさん可愛いから」

 そうには見えなかった。むしろ、彼は本当の姿を知られないようにクラスメイトの前では道化を演じているのではないだろうか。

「おい、友の邪魔したら許さねえからな。ふん」

 突然峯山雫がそう声をかけてきたと思えば、鼻を鳴らして教室を出て行く。

 何故ここまで敵意剥き出しなのだろうか。私は嫌われるようなことをした覚えはないが、私に何か嫌われる原因でもあっただろうか。

「エリカさん気にしないで。最近雫君女子にやたら敵対心剥き出しなの」

「そうなんだ」

 なにやらまだまだ調査の余地はありそうだ。今日一日でクラスの状況や人間関係など、精査しなければいけないことがはっきりとしてきた。

 まずはあの峯山雫から調査するとしーー。

「ねえ、あなた」

「は、はい」

 今度は誰だ。

 後ろを振り返ると黒田里美が真顔で立っていた。少しギョッとしながら里美から距離を取る。

「友のことどう思ってる?」

「え?」

「友のこと好きなの?」

「な、何故?」

「今日ずっと友のこと見てたから」

「そ、そんなことはないですよ?」

「そうなんだ」

「はい」

「うん。ありがと」

「いえ、どういたしまして?」

 里美は本当にそれだけ聞きたかったようで、そのまま教室を去っていった。

 それよりも、私が薙宮を監視していたことに黒田里美は気づき、そして私は見られていることに気づかなかった。これは由々しき事態だ。

 高度な訓練を積み、歴代でも上位に入る成績を誇る、超優秀な私の目を掻い潜る黒田里美。彼女は峯山雫よりも優先度が高いかもしれない。

 私の中で黒田里美に対する認識レベルが一つ上がった。

 現状で、薙宮友。黒田里美。峯山雫の順で重要度が違う。この三人はこの教室ではかなり異質で違和感だ。

「あれ、優子は?」

「優子ちゃんはたぶん薙宮の所だと思うよ?」

「薙宮君と?」

「うん。最近あの四人よく連んでるの見かけるし、たぶん今も」

「そうなんだ」

 これはいい事を聞いたかもしれない。あの三人がまとまって行動しているとなれば、それなりに有益な情報を得られるかもしれない。何も出てこないとしても、要注意人物を同時に監視できるのは嬉しい。

「それよりさ、一緒にお弁当食べよう」

「ええ」

 私には大事な任務がある。そのためにはまず、このクラスに馴染み、完全に溶け込み、内部から掌握する必要がある。支配はしない。掌握するのだ。

「いただきまーす」

 隣で女子が可愛い弁当を広げる横で、私も一般的な弁当箱を取り出した。


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