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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
13/29

転校生は完璧美少女

エリカは俺の嫁に欲しい。

 

 エリカへの校内案内は三十分ほどで終わった。校舎がシンプルな構造をしているため案内自体はスムーズに進んだ。

「今日はありがとうございました」

「ううん。来週、楽しみに待ってるね!」

「はい!」

 二人を応接室に残し俺は幸治に報告に行く。この後のことは俺たちの仕事ではない。転校ということはこの地に引っ越してきたということだろう。まだ土地勘のないエリカが一人で帰るとは思いない。家族が迎えに来るのだとしても挨拶ぐらいはしていくだろう。

「先生、終わりました」

「おお! ありがとう。今度お菓子持ってきてやる」

「いいですよこれくらい。それに学校にお菓子は持ち込んじゃいけないんですよ」

「そうか。薙宮は真面目だな」

 生徒指導が校則を破ってもいいのかという嫌味のつもりだったが、やはりこの堅物には通じない。

「それで、これからどうするんですか?」

「エリカさんは家が近所らしいから一人で帰るらしい。たしか薙宮の近所だったはずだぞ」

「そうですか。いらない情報をありがとうございます」

「美少女だっただろ。好きになったか?」

「あいにく、普通の恋愛観は持ち合わせていないので」

 下世話な話はどこからでも湧いてくるもので、幸治であろうとそれは例外ではないようだ。

「大人になれば分かる。若い間は遊んだっていいんだぞ」

「ご忠告どうも。でも俺はやりたいことがあるので。じゃあ帰ります」

「ああ。今日はありがとう」

 幸治に別れを告げ教室に向かう。二人はまだ応接室に残っているだろうか。エリカは幸治に挨拶をしてから帰るはずだから応接室に残っているだろう。

 そんなことを考えながら教室に戻ると、仕度を済ませ帰るところの優子とすれ違った。

「友君、この後大丈夫?」

「なんだ?」

「エリカちゃんと途中まで一緒に帰るんだけど、友君も行く?」

「校門前までならいいぞ」

 優子の誘いを受け俺たちは応接室に向かう。エリカは応接室で優子が戻ってくるのを待っている。その間に幸治に挨拶を済ませていることだろう。

「エリカは俺のこと何か言ってたか?」

「面白い人だねって」

 それは反応に困るな。面白い。一見好印象のようにも見えるが、とりあえずこれ言っておけばいいでしょ、という意味も読み取れる。とても便利な言葉だが、その反面受け取る人間によって反応が異なるものだ。

「まあ、俺の話についてこれる人間であれば歓迎してやらんこともない」

「そう、だね。友君はエリカちゃんのこと、可愛いと思う?」

「可愛い、というのは見た目の話か、それとも中身の話か。まあ会って間もない人間の中身を知ることができんから見た目の話だろう。それで容姿についてだが、整った顔立ちはしているな。スタイルも悪くない。人間としては間違いなく上位にいるだろう」

「やっぱりそう思うよね……」

「だが、住む世界が違うようにも感じる。あれは芸能人か何かだと思って接するのが楽だろう」

「芸能人か。たしかにモデルとかにいそうだよね」

「優子、おかえり」

「ふぁっ!?」

 突然後ろから声をかけられ、優子は驚きその場で飛び跳ねる。

「びっくりさせないでよ」

「ごめんなさい。トイレから戻ろうとしたら見かけたものだから。それで、何の話をしていたの?」

 エリカは最初のような堅い口調ではなく、少し砕けた様子で話す。

「エリカが別の世界に住む人間だ、という話だ」

「……それは、どういう?」

「エリカちゃんが、すっごい美人だよっていう話! 友君、紛らわしい言い方しないで!」

 一瞬エリカの視線がとても鋭くなった。獲物を狙う獣のような、とても平和な世界の人間がするものではない。鳥肌が立った。他人に対して体が先に恐怖を感じることなど生まれて初めての体験だが、そんなに気に触ることだっただろうか。いや、転校してきたハーフだからこそ、人種の違いというものに敏感なのだろう。

 今もエリカは俺を見ている。決して視線を外そうとしない白銀の瞳は、まるで俺の心の中を読み取ろうとしているかのようだ。

「紛らわしい言い方をしてすまなかった」

 俺は視線を逸らすことなく謝った。不思議な力に縫い付けられたとか、そんなことはなく、ただ逸らしてはいけないような気がしたから。

「いえ。私も過敏に反応し過ぎました。ごめんなさい」

 エリカは俺に対しては他人行儀な話し方をする。それは別にいいのだが、いつの時代も女というのは恐ろしいものだ。今後は敵に回さないようにしよう。

「よし、みんなで帰ろう!」

「校門前までだけどな」

「エリカちゃんは校門からどっちに行くの?」

 この学校の校門の前の道は右か左のどちらかしかない。駅に向かう者は右に行くが、エリカは俺の近所らしい。なら左だろう。

「私は左」

「そっかー。じゃあ私とは逆方向だ。残念」

「ふふ。また学校で沢山話しましょう」

「うん。待ってる!」

 三人で並んで校門までの短い道を歩く。六月の暗い空が夕日を覆い隠し既に街頭が付いている。幸い雨は降っていないが、あまり長居していられる雲ではなさそうだ。

「それじゃあ、また明日」

「優子、さよなら」

「うん、また来週に!」

 優子はそのまま駅に向かって歩いていく。ということは俺とエリカは二人きりで残されたわけだが。

「どちらに住んでいるんですか?」

「鷹ヶ丘の方だよ」

「じゃあ私と結構近いですね。よかったらご一緒してもいいですか?」

「ああ。途中までなら」

「ありがとうございます」

 まさか一緒に帰ることを選択してくるとは、少し予想外だった。

 俺は誰かに合わせて帰る時間を遅らせることはしない。たとえ気まずい空気が流れたとしても俺には関係ない。だが、エリカは俺を避けることもせず、共に帰るという選択をした。何か意図があるのだろうか。例えばさっきのことで締められるとか。

「俺は力には屈しないぞ?」

「何ですか、急に」

「いや、さっきのことで怒っているのではないかと思ってな」

「さっき……ああ」

 エリカは思い出すような素振りを見せそう零した。何が「ああ」だ。絶対に忘れているはずがない。あれほど強い意志の篭った視線を向けてきたのだ。きっとこの仕草も俺の警戒を解き欺くためのものだ。

「怒ってはいませんよ。ただ、もしかしたら……いや、この話は辞めておきましょう」

 エリカは続きが気になるような言い方をして話を終わらせた。追求すれば話してくれそうな雰囲気を出しているのも、きっと罠なのではないだろうか。俺は疑心暗鬼に囚われていた。

「お前は、なぜ今俺と帰る選択を取った? 俺が一言も話さなければ気まずい空気になるのは目に見えている。俺が悪人であれば襲われる危険だってあるのだぞ?」

「あなたはしないでしょう。きっと私に興味がないから。いや、私という存在に興味を持っても、私個人には興味を持っていない。とりわけ普通の人間が抱くような感情は持っていない」

 エリカはよく分からないことを言った。どういう意味だろうか。俺が普通の感情を持っていないとは、存在には興味を示すとは。

「たしかに、存在には興味がある。変なタイミングでの転校。そして人間離れした容姿。そしてわざわざ俺を帰る選択をしたこと。奇妙な点は何個かあるが、一番は、さっきのことだ。何か言いかけていたが、話したくないということなら無理には聞かない。無理矢理聞き出すのは俺のポリシーに反するからな」

 適当に話を合わせる。こうでもしないと間が持たない。こいつは少し頭がおかしい。理解できない言動を至って真面目に話している。世間一般から見た中二病というやつではなかろうか。外国人というのは日本のアニメが好きだと聞いたことがある。もしやその類では。

 俺が言えた口ではないが、中二病同士で話が合うは限らない。中二病だって人間なのだ。合う合わないくらいは存在する。

「お前が存在を隠しているというのなら、俺は詮索はしない。わざわざ広めるようなこともしない。それで今のところは問題ないだろう?」

「やはり、あなたは……」

 ほらやっぱりそうだ。絶対そうだよ。乗ってきたもん。これ絶対中二病だよ。

「それじゃあ。俺の拠点はここだから、お暇させてもらうよ」

「ええ、もう少し話してみたいけれど、またの機会に取っておきます。さようなら」

 淑女然とした、いや、いっそどこかの国の貴族のような、綺麗な姿勢でエリカはお辞儀をした。この動作も頑張って練習したのだろう。研究して、人前で披露できるように。

 俺はエリカに軽く手を振り自宅の門を潜った。門といっても腰ほどの高さしかないものだが。

 扉が閉まりかけたその隙間から後ろを振り返ると、エリカはまだそこに立っていた。

「お兄おかえり!」

「お、おうどうしたそんなに急いで……」

 家に帰るとちょうど出て行こうとしていた奏とすれ違った。奏は答えることなくそのまま行ってしまったが、さっきよりも慌てた様子で帰ってきた。

「外にいる人誰!? めっちゃ可愛いんだけど!」

「ああ、来週から俺のクラスに転校してくる……」

「何でここにいるの!? まさかお兄の……」

「家が近所らしくてな。一緒に帰ってきただけだ」

「ちょっと話してくる!」

「あ、おい!」

 奏は興奮した様子で家を飛び出した。何か変なことを吹き込まなければいいが。

「友、風呂掃除してちょうだい!」

「あいよー」

「奏ちゃんとお使い行ってくれた?」

 買い物を頼まれていたのか。

「行ってたよ」

「そう」

 母さんはそれだけ言うと台所に戻っていった。今日の夜ご飯はカレーのようだ。

「何買いに行かせたんだ?」

「ルーが無かったの」

「肉じゃがにすればいいじゃん」

「あ、それもそうだったわね」

 この母は少し抜けているところがある。だから父さんと相性が良いのだろうが、俺はたまに心配になる。特に老後とか。

「風呂掃除してくる」

「お願いー」

 だが、老後のことは父さんが何とかしてくれるだろう。俺は荷物を置いて風呂場に向かった。

「ん? 何だこれ?」

 脱衣所に付いている鏡に俺が映る。前髪に隠れた額に何か痣のようなものができていた。

「どっかにぶつけたか?」

 そんな記憶は無いが、特に気にすることもないと、俺はその痣を放置した。

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