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異能探偵『薙宮』  作者: 山羊山音子
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中二病の男

長編書いたけど扱いに困っているのでここに載せます。

87000文字で既に完結済みなので毎日投稿させてもらいます。

 この世には二種類の人間がいる。中二病とそうではない者。

 俺は世間的に見れば前者に当たる。

 中二病とは思春期に見られる症状で、別に精神病や本当の病とは違う。故に治療の必要もなく自由に過ごすことができる。だがどうだろう。実際家族には白い目で見られ、妹はもはや他人を装うようになっている。

 だが俺は気にしていない。誰に何を言われようと、世間からどんな扱いと受けようと、人間には自由が約束されている。自由は何よりも大切にしなければならない権利だ。

 俺はあの天翔ける鳶のように自由に生きていく。これは願いではなく宣誓だということを忘れないでほしい。


「友!」

 最後の一文を書き上げたところでペンを置く。声をかけてきた人物に目を向けると、そこにいたのは同じクラスの女子、黒田里美くろださとみだった。

 中学の制服をしっかりと身につけスカートは膝よりも下。靴下は白色で、靴には学年カラーの緑が入っている。一見真面目な見た目の里美は屈託のない笑顔を浮かべている。

「なんだ?」

「今日提出の宿題何書いた?」

「何って、自分の主義主張を書きなさいってお題は皆同じだろ。それともお前は昨日の晩御飯のことでも書いたのか?」

「すご!? なんで分かったの!?」

 里美は驚いた表情でそう言ってくる。驚きたいのはむしろこっちの方だ。適当に言ったことが当たったのもそうだが、お題を完全に無視しているこいつにもだ。

 真面目な見た目に相反する性格……いや。こいつの場合は真面目にやってこれなのだ。真面目に授業を受け、真面目に可笑しなミスをする。単なるアホだ。

「適当に言っただけだ」

「エスパーの才能あるよ!」

「そんなものはない。少なくとも俺には。検証済みだ」

 そう検証済みなのだ。この世に存在している超能力や魔法、科学では説明できない謎の力。その存在の否定はできない。だが自分の中にそれがないかの証明はできる。やらない人間の方が多いようだが、俺はやった。

 その知識が漫画からだろうとテレビからだろうと、可能性がゼロではないのなら俺は諦めない。全て試した。

 変な模様の果実を食べてみたり、水晶に手を当ててみたり、滝に打たれてみたり。

 とにかくありとあらゆる方法を検証した。その結果俺には特殊な力はないことが証明された。

「友は相変わらずだねー。飽きないの?」

「お前は飯を食べるのを飽きたことはあるか?」

「ない」

「それと同じだ」

「それはない!」

 里美は俺の発言を大声で否定して笑った。下品な笑い方はいつも通りで何一つ変わらない。

「十分休憩終わるぞ。席につけ」

「おう!」

 里美は真面目に自分の席につき次の授業の教科書を取り出し満足げに息を吐く。机の上にはノートと教科書が広げられいつでも授業が始められる。始業前にここまで準備を済ませているのはこいつくらいだが、里美が開いているのは数学の教科書。

「里美、次は英語だ」

「あれ、そうだっけ?」

「黒板をちゃんと見ろ」

「本当だ!?」

 里美は慌てて机の上を切り替える。そうしている間に教師が入ってきて授業始まりの挨拶をする。やはり里美は真面目に授業を受けていた。

 このクラスで俺に親しくしようとする奇特な人間は三人いる。一人は里美だ。もう一人はクラスのひょうきん者斎藤和希。そして美形小柄小学生の峯山雫。和希と雫は男だ。

 他の人間は俺から距離を取って接してくる。それが普通の反応なのだが、この三人はどこかネジが外れている。

 和希はクラスの中でも人気が高い。男女両方からの信頼も厚く、俺のようなはぐれ者とつるむメリットはない。

 雫は身長が一四二センチとかなりの小柄で童顔。女の子の格好でもさせれば間違われるだろう。本人はかなり気にしているため身長についてはあまり触れない方がいい。

 俺のクラス内での立ち位置は日陰者だ。だがいじめられいるわけではない。頭がおかしいやつ程度の認識で避けられているだけだ。

 なぜこんなことを急に話し始めたのかと言うと、これから俺の身に起こることが世間一般の常識からでは考えられないような出来事だからだ。



 六時間目の授業を終えると掃除が始まり、その後に帰りのホームルームをして帰宅。四時に学校が終わるため自由な時間となる。放課後には部活があるが、美術部幽霊部員の俺には関係のない話だ。帰って日課の続きでもするとしよう。

「友。話があるんだけど」

「なんだ。俺は忙しい」

「友の好きそうな話なんだけど」

 俺の好きそうな話? それは月の裏側には何があるかとか、アメリカが認めた未確認飛行物体のことか?

「それで?」

 俺は手を組んで両肘を机に付き聞く姿勢をとった。俺のルーティンだ。里美も俺が聞く気になったことを察して本題に入る。

「この子が相談があるって」

「この子?」

「あ、あの……」

 里美の背後から女の子が顔を出した。里美よりも身長が低く、今まで里美の後ろに隠れていたようだ。

「藤山優子か。何の用だ?」

「そ、その……」

 人見知りの優子は里美の後ろでもじもじとしている。聞き取れるかどうかほどの小さい声で喋りだした。

「里美、代弁してくれ」

「はあ!? いきなり何言ってんの友! こんなところでうんこなんかするわけないじゃん!」

「お前こそ何言ってんだ。代わりに話せって言ってんだ!」

「ああ、そゆことか!」

 里美は納得がいった顔で頷いた。「友は馬鹿だなー」と笑って優子の話を代わりに話し始めた。馬鹿はお前だ。

 里美の話は簡単なものだった。友人の優子にテレパシーの能力が出現し困っている。ということだ。

「テレパシーね。それで証拠は?」

「あの、手を出してもらもいいですか?」

「ん? いいが?」

 優子は里美の後ろから俺の手を握った。器用なものだと感心していると、

「今、器用だって思いましたね?」

「そうだな」

 優子は一発で俺の考えていることを当てた。だが偶然ということもある。ふむ。

「今考えているのは……これは何ですか? 色、のような何か。とても抽象的なものです」

「ほう。当てずっぽうというわけではなさそうだな」

 俺が今考えていたのは優子が言った通りの内容だ。口で説明するのが難しい映像を考えれば相手に伝わるのもその映像。何か適当に言っても当たることは絶対にない。別に疑っていたわけではないが。

 優子は信じてもらえたことが分かると、俺の手を離し顔を少しだけ覗かせた。

 しかしテレパシー能力。諦めかけていたが身近にいたとは思わなかった。

「話は分かった。それで悩みっていうのは?」

「あの、人に触れている時に声が聞こえてくるんですけど、電車でよく会う人に狙われてる、と思うんです」

「ストーカーか」

「あ、まだ直接何かされたわけではないんですけど……」

「それでも声が聞こえたのだろう? 命の危険を考えれば必要な警戒だと思うぞ」

 ストーカーという言葉に抵抗があるのか、それともまだ何もしていない人間を悪人呼ばわりすることに罪悪感があるのか。どちらにせよ、この問題は解決する必要がある。

 この件で優子と仲良くなることができれば、能力について何か分かるかもしれない。

「それで、ストーカーをなんとかするのが目的でいいのだな?」

「それと……」

「なんだ?」

「この能力を消したい、です」

「……そうか」

 能力を消したいだと!? 何を馬鹿なことを言っているんだ。その能力があれば俺の研究ノート四ページ「テレパシー能力」がさらに埋まり次の段階に行けるというのに、この女は何を言っているんだ。せっかく得た非常識の力をなくしたいなんて正気じゃない。だが、

「能力を消す方法までは分からない。だが善処はしよう。言っておくが俺は少し詳しいだけの一般人だからな? 異能も何もない、平凡な中学生だ」

「私も平凡に戻りたいんです」

「なぜ能力を消したいか、聞いてもいいか?」

「……」

 優子は俺の質問に対し首を横に振った。ならば無理に詮索する必要はない。俺は能力について研究できればそれで十分。能力がいらない理由などには興味ない。

「それじゃあ、ストーカーの対策会議を開こう」

 俺はルーズリーフを一枚取り出しペンを構えた。

「友、私もいいの?」

「ああ。お前には藤山との仲介になってもらう。というか壁だな」

「壁! 私は壁!」

 なにやらやる気になった里美は両の手を握りしめている。壁はそんなに嬉しい役割だろうか。まあ、優子は里美の後ろに隠れてじゃないと話ができそうにないから、こちらとしてはやる気があってくれた方がやりやすいが。

「それじゃあ。ストーカー対策案を出していくから、何か意見があれば言ってくれ」

「はい」

 まずは、男の通勤時間や乗ってくる車両はいつも同じなのかどうかだな。

「一緒にならない時もあります。時間が違うのか休みなのかまでは、分かりません」

 俺の問いに優子は迷いなく答える。俺と話すのに慣れてきたのか、話し方が普通になってきた。

 では時間をずらすというのは解決にはならないな。遭遇率は減るだろうが、男が本気で狙うようになれば時間を合わせてくるだろうし、男を排除するか電車に乗らないという選択をする必要がある。

「電車以外での通学方法は?」

「バスは通ってなくて、自転車はないです。歩いて来るには少し遠くて」

「なるほど」

 電車以外での通学方法はない。この感じだと、親の送り迎えも期待できそうにないな。おそらく家族に心配をかけたくないとか、テレパシーなんて信じてもらえないのどちらかだろう。

「一緒に登下校するような友達は?」

「同じ路線の友達はいないです」

 登下校に一人になるのは避けられない。手っ取り早いのは男を現行犯で捕まえることだが、実行に移すかどうかは分からないからな。

「そうだ。テレパシーの力で会話はできないのか?」

「会話はできません。こっちが一方的に聞こえるだけで」

 念話での会話は不可か。あれをするには両方の人間がテレパシーを使える必要があるのだな。また一つ面白いことを聞いてしまった。

 俺は今出た話を適当にノートにまとめる。現状でできそうなことは何もない。時間稼ぎなら時間をずらすという手があるが、解決には至らない。

「うーん」

 隣で里美も考えている。難しい問題だができるだけ解決に持っていきたい。

「一つ実験をしてもいいか?」

「はい?」

「里美、手出せ」

「いいよ」

「里美と藤山は手繋げ」

「はい」

 俺は里美と、里美は藤山と繋いだことで俺と藤山が間接的に繋がっていることになる。

「この状態で俺の考えていることは読めるか?」

「……これは、青空と凧……なんかたこ焼きが出てきました」

「里美、お前たこ焼きのこと考えただろ」

「私にも見えた! 凧が空を飛んでた!」

 やっぱり里美はアホか。

 だがこれで分かったことが一つ。テレパシーは間接的にでも通じるということだ。間に挟む人間が多ければその分情報量は増える。そしてこれは俺の想定外のことだが、優子が人の考えを読み、その中継に人がいた場合その人間にもイメージが伝わるということだ。

「これは服越しでも大丈夫なのか?」

「はい。電車では肩が触れてるので」

 これは面白いことを聞いたな。しかし、これで少し見えてきたぞ。

「その痴漢男が出るのは朝ということでいいか? 放課後には出るのか?」

「朝だけです」

「分かった。これは俺からの提案なんだがーー」


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