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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第一章 鎖縛の姫に月下のメリークリスマス
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第五話 ネットの世界も世知辛く、どうしようもないジェノサイド


「よろしくね、お兄さん?」

「ほら、オーキ兄、挨拶。しっかりね」


 ミサキさんは軽く挨拶すると、握手を求めて手を差し出して来る。

 何やら怪しい気配がしてならず、これから何されるんだろうと思考が横に逸れていると、横にいたオーカから小声で注意される。


「あっ、えっと、こんにちは!いち…ぐふっ…」

「オーキ兄、ここゲームの中だよ。苗字言ったら、私までバレるんだから気をつけて」

「す、すまん…」


 急に挨拶と言われて焦ってしまい、現実と同じよう二三桜樹と言おうとしたところに、横腹に手刀を食らう。

 唐突な痛みに悶えていると、横からジト目で睨みつけてくるオーカ。


「改めて、オーキ=ペンデ……えっと、そう、ペンデレエークです。よろしくお願いします!」

「自分の名前を言うのにわざわざプロフウィンドウ見る人初めて見たわ」

「うちの愚兄が申し訳ないです」

「まだ覚えてなくて…」

「気にしなくていいわよ。じゃあ早速中に入りましょうか、色々と説明したいこともあるから中を見ながら話すわ」

「じゃあオーキ兄、私は先に皆を集めておくからまた後でね」


 そう言い残して足早に建物の裏手へと、小さな足取りで向かっていくオーカ。

 昔、父さんに連れられて公園で走るオーカを思い出して懐かしい気持ちになる。


 …。


 いや、あの後、オーカと父さんに散々イタズラされて泣きながら帰ったんだっけ。


「急に顔色悪くなったけど大丈夫?」

「いえ、なんでもありません。大丈夫です」

「そう。じゃあ中を案内するから着いてきて」



「『アヴストゥニール商会』は名前から分かる通り商会なの。あんまり現実(向こう)では聞きなれないと思うけど、有り体に言えば会社ね」

「じゃあここは本社なんですね」

「そうね。街の方には二つほど店舗もあるわよ。そこではここで生産した武器や防具、回復系のアイテムとかを売ってるわ」

「えーっと…生産系クランってやつですかね?」


 『アヴストゥニール商会』の中は外見から想像出来る通り、中も凄く高級感に溢れていた。

 扉を潜ると大きなエントランスに、螺旋状の階段が両脇に並び、一流ホテルのようだった。

 今はエントランスを抜けた先の通路を歩いているが、足元が凄くふかふかする。見た目は大理石のようなツルツルで硬そうなのに、まるでカーペットの上を歩いているみたいで不思議だ。


「クランは大まかに二つ、攻略や冒険をメインとする戦闘系クランと、オーキが言ったような生産品の売り買いをメインとする生産系クラン。戦闘系クランは上から下までピンキリだけど、生産系クランは今のところ片手で数えられるくらいしかないわ」

「何か理由があるんですか?」

「人手不足。まあ、この手のゲームは戦ってなんぼって感じだから仕方の無い事だけど、比率的には80対1くらいで本当に足りないわ」


 確か《IPO》はリリースされてから三ヶ月でプレイヤーは八万人だったかな?

 それが多いのか少ないのか俺には分からないけど、ミサキさんの言う通りなら生産系の人は千人程しかいないことになる。

 八万人に対して千人…うーん、確かに俺も自然と冒険のことばっかり考えてたし、スキルも生産系のスキルは一つも選んでいない。逆に千人でも十分多いのかも…?


「このクランは構成員約294人。そのうち、40人が戦闘員。オーカもその一人よ」

「生産系クランに戦闘員がいるんですか?」

「ええ。オーキはこのゲームで生産系クランで儲けるにあたって何が一番必要だと思う?」

「え、いや、んー…強い武器とか?」

「確かに強力な武器や防具は高値で取引されるし、重宝される。けど、うちでのオーダーメイドの鍛治売上なんて5%もないわよ」

「え?そうなんですか?」


 予想外の答えに思わず聞き返してしまう。

 俺の中で冒険のイメージは強い敵と戦う為に色々な敵を倒してレベルを上げて、強い装備を身に纏って戦うこと。

 希少な金属や敵の鱗とか爪とかを使って強い装備を作ることこそが生産系クランの醍醐味だと思っていた。


「このゲームは本当にもう一つの世界なの。プレイヤー以外にも多くのNPCがいる。そのNPC一人一人が独自のプログラムに従って本当に生きている。この街だけでも十万人近く、王都だと数百万人。街中で見るプレイヤーなんてむしろ珍しいくらい。これがどういうことか分かる?」

「……ごめんなさい、わからないです」

「プレイヤーが使うお金なんて大した額じゃ無いってことよ。この世界で求められるのは安定した品質の安価な製品。剣も、防具も、確かに向こうでは作れない物を作るのは楽しいわ。独自のアイデアを詰め込んだあれこれを最先端の攻略組に使ってもらうのは生産系のプレイヤーとしては名誉なことだもの。けど、さっきも言った通り、この世界では竜を殺す剣よりも小さな敵を倒すための鉄の剣が、瀕死の状態を一瞬で回復させる薬よりも万能的なすぐにて入る薬の方が求められるの」


 何となく話が見えてきた。

 先程、ミサキさんがクランを会社と言い得ていたのも、そういうことなのだろう。


 何故という疑問はある。そんな事をして楽しいのかな?という気持ちもあるが、ゲーム初心者の俺が分かる訳も無い。

 だが、分かることもある。ミサキさんがなのか、このクランなのかは定かでは無いが、莫大なお金が、なるべく早く必要ということだ。

 初期所持金である一万しか持っていない俺では想像も出来ないような大量なお金が。


 そして金儲けをするのに一番手っ取り早いのが商売。このゲームの趣旨であろう開拓者という立ち位置を放り出して、初心者の街(この場所)で商売をしているのが証拠と言っていいのか分からないが、判断材料には十分だ。


 『竜を殺す剣よりも小さな敵を倒すための鉄の剣』が必要。

 安定した安価な製品。つまりは日本の工業がいい例だろう。

 高級車と言われて直ぐに頭に浮かぶポルシェやランボルギーニ、フェラーリと言った車と、燃費が良くて品質が高く一般的なサラリーマンが手にできる値段の車、どちらに多くの需要が集まっているかは明白だ。


 高級車が買える人間と、買えない人間。貧富の差がこのゲームのNPCの中でも存在する。

 このゲームはそういう物なんだと再認識する。


 俺の予想が正しければ…


「ミサキさんが欲しがっている人手っていうのは、生産職の人じゃなくて、生産職に尽くしてくれる戦闘職ってことですか?」

「よく分かったわね。そうよ。確かに生産職の人間はプレイヤーに比べて少ないけど、そもそもの問題があるのよ」

「材料の不足…」

「道具屋に行けば薬草が無限に買える一昔前のゲームとは違う。ここは向こうの世界と変わらない。気候の問題もあれば、食物連鎖の問題もある。そこにゲーム的な特定の場所にしか無いアイテムが加わると本当に厄介でね……養殖を試みても失敗続き。結局、採取するしか無いのよ」


 俺が言った通り、このゲームを始めたプレイヤーが行うプレイスタイル…?ビルド…?は戦いがメインだろう。それも強くなって、もっと強い敵がいるところに、凄いアイテムがある所に、次へ次へと進んでいく。

 だからこそ、必要なアイテムを集めてくるオーカを初めとする戦闘員が少なからず生産系クランに所属しているのだろう。


 ようやく謎が解けてすっきりしていると、ミサキは俺の表情を見て柔らかく微笑む。


「生産職もね、レベルとスキルを上げれば現代の機械顔負けの生産力があるのよ。材料さえあればってこの状況そゃ、需要のあるアイテムを集めるお願いができるプレイヤーが全くいない。今後は分からなけれど、プレイヤーの比率が80じゃ足りないわ。もっともっと増えてもらわないといけないの」

「あ~…なるほど」

「トンチが過ぎたかしら?」

「いえ、千人の技術者が少し多いなと感じていたので益々スッキリしました」

「そう、良かったわ。じゃあここからはうちの自慢の技術者達の生産部屋…まあ、工場の中になるから度肝を抜かれる準備をしておいてね?」



 ミサキさんに案内された大部屋…もとい工場は凄かった。

 取り扱いの危険なアイテムがあるとかで遠目でしか見れないところや、窓から様子を見ることしか出来ないモノもあったが、 本当に人間がポンポンと次々とアイテムを生産していく様子は見てるだけで「ほぉ…」とか「すげぇ…」と呟いてしまった。

 テレビとかでたまに見る神業職人の映像を生で見ている気分だった。


「最近の売れ筋だと向こうの服を参考にした衣類や、大工道具、日用品、まあ後は精力剤とかかしら。避妊薬も一定の需要があるから助かってるわ」

「せっ…」

「あら、驚くこともないでしょう?ゲームの世界の時代背景としてよくある中世ヨーロッパが元なんだから、色街は沢山あるわよ。まあ、プレイヤーの私たちには関係無いけど、お客さんしては関係大ありなのよ」

「な、なるほど…」


 予想の斜め上の製品が出てきて絶句していると、それを見てミサキさんはコロコロと楽しそうに笑顔を浮かべる。


「さて次はどうしようかしら…」

「あ、いたいた。クラマスー、準備出来たよ」

「あら、早かったわね」

「【エンプティードラゴン】三連戦で流石に全滅だよ~」

「何か拾えた?」

「………経験と青春…」

「血なまぐさい青春送ってるわね」


 ミサキさんが次の目的地を決め用途しているところに、先程裏手へと出ていったオーカが帰ってくる。


「じゃあ先に挨拶しましょうか」

「挨拶…?」

「ええ、貴方に所属して貰おうと思っているパーティーよ。会社で言うところの部署ね」

「どっちかというと課じゃない?取り敢えずオーキ兄、着いてきて」

「了解」


 廊下を曲がること二回。勝手口と思われる場所から庭らしい場所に出るとそこには、五人のプレイヤーが談笑していた。


「紹介するわ。『アヴストゥニール商会』、戦闘部門殺戮(さつりく)部隊ジェノサイドよ。オーキにはここに入ってもらう予定なの」

「あの、名前的に凄くお断りしたいんですが…そもそも俺、レベル1ですし、初心者ですし、このクランに入るともなんとも決め手ないですし………拒否権は?」

「ん?ないわよ?」


 そう言ってにっこりと笑うミサキさんの笑顔が今日一で輝いて見えたのは皮肉だろうか…。

《後書きのコーナー》


オーキ「またも長々とした説明回に…」

オーカ「オーキ兄に知識があれば十行で終わってたね」

オーキ「ミサキさんがクイズ形式にしなければ…!」

オーカ「あの人あれで茶目っ気凄いから、いたずらも良くするし」

オーキ「見た目は地元の元レディースの頭みたいな感じだけど…」

オーカ「それクランの皆思ってるけど、口に出したら確実に殺されるよ?」

オーキ「ひっ!?」

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