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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第二章 堕チタ天使ノ涙ハ昇ル
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第七話 友達から行方不明のお姫様との変顔ツーショットが送られてきたのだが、俺はどう反応するのが正解なのだろうか

お待たせしました。

☆ side-オーキ=ペンデレエーク


「よし、カグヤ行こうか」

「ん…」

「武器良し、防具良し、アイテムは大丈夫か?体調も悪くなったら言えよ?ハンカチ持ったか?」

「しつこい…四回目……」


 闘技大会は明日。最後の追い込みを掛けたい所ではあったが、明日を暇にする為、皆が忙しく働いている事情で『ジェノサイド』でイン出来るのは俺だけだった。


 オーカは『私、NG出さないから大丈夫』と自信満々に撮影に行き、マーサさんは『仕事が終わりません~(>_<)』とSNSが届いた。ディフィとクレアさんは大学のレポート(?)、ヲタキングは実家の事情で分家に顔を出す為に京都へ、バルクはアメリカから日本に帰国する飛行機に乗っている。

 全蔵からは、『inブラジル 明日には戻るでござるよ卍』と写真付きで頭の可笑しい文面が届いた。写真には金髪の美少女との変顔ツーショットが届いていた。先程、ネットニュースに行方不明だった某国の王女殿下が見つかったとか緊急速報で入ってたけど俺は知らない。顔も写真とそっくりだったけど、俺は何も知らない。多分ドッペルゲンガーだろう。


 という訳で、手持ち無沙汰になった俺は、カグヤを連れてレベル上げをしにいく所だ。

 何度かカグヤと皆と共にレベル上げをしに色々な狩場に行ったが、今回は俺なりに攻略サイトを見て調べてみた。

 俺のジョブ『傭兵』は、フレンドでは無いプレイヤー、NPCとパーティーを組んで戦闘やクエストをこなす事で経験値に補正が入り、レベル上げの効率がいいらしい。


「ここだな」


 このゲームを始めた頃にオーカと待ち合わせした場所でもある街の中央の噴水には色んなプレイヤーがパーティー募集を掛けている。

 チャット機能には『個人』、『フレンド』、『クラン』、『パーティー』、『エリア』、『ワールド』という区分があり、自分の飛ばしたチャットを見れる人の範囲を決めることができる。今回はこの噴水エリアにチャットを飛ばしてパーティーメンバーを募集する予定だ。


 本来なら既にチャットに上がっているレベル上げの募集に入ればいいのだが…自分でチャットしてみたいという好奇心に負けた。


ーーーーー


《パーティー募集》


Name:オーキ=ペンデレエーク


Title:経験値稼ぎ。場所未定。21時~1時(4h)


Level:25~35


Text:プレイヤー1(前衛)、NPC1(後衛)で、募集人数は6人です。集まったメンバーのジョブで狩場を相談して決めたいと思います。途中休憩あり。雰囲気良くお願いします。


ーーーーー


「ちょっとレベルの幅を上げすぎたかな…?」


 現在、最高レベルは45に更新。

 25~30だと実力的に中堅に見えるが、このゲーム、レベルが10上がる事に必要な経験値が跳ね上がり、25と35だとゲームをやって来た日数に開きが出てくる。俺も先日30に上がったが、そこから中々31に上がらない。20レベル代の頃なら5くらい上がっても可笑しく無いくらいの経験値を手に入れているはずなのだが……。

 しかし、そう考えると…う~ん…まぁ、このまま行こう。何か問題があるなら集まらないだろうし、集まらなかったら素直に別の募集に入ろう。


「出来た…?」

「うん、後送信押すだけ…送信っと」


 送信ボタンを押し、噴水近くにある屋台で何か買って時間潰しながら待とうと考えている途中にピコンッ、ピコンッ、と通知音が鳴り響く。

 え、もう来たの?と思ってウィンドウを開くと既に四人、埋まっていた。早くない?こんなに早く埋まるなら先に食べておけば良かった…。


「…どうした?」


 俺、いつも飯のこと考えてるなと思っていると、カグヤが袖を引っ張てくる。


「なんか…見られてる…?」

「誰に?」

「たくさん…」


 カグヤが目を周りに向けるので合わせて俺も周囲に目を散らすと、周りのプレイヤーがこちらを凄い見ていた。ガン見していた。それでじりじりとこちらの出方を伺うように周りを牽制しながら近づいてくる。

 くっ…いつの間に周り全員が敵になったんだ、ここにはカグヤがいる、俺が守らなければ…!!


「ウルト〇マンみたいな構えしてるとこ横から誘拐ごめんよ~!!!!!」

「フッ…!」


 何故か横からイケてるダンディと小柄な女の子、少年、美女の四名が物凄い勢いで物騒なことを言いながらこちらに走ってきた。

 俺とカグヤを捕らえようとしているらしく、ダンディと少年が俺に、小柄な女の子と美女がカグヤに手を伸ばしてきた。

 俺は誘拐されても何とかなるが、カグヤは困る。


 ダンディの伸ばして来た手を払い、左脚をダンディの股の間に差し込み、右膝を立てた状態で開脚。上半身を左足に付けるように前屈し、右の足の裏で地面を蹴って勢いのまま股の間を潜り抜ける…!

 これで横に並んでいた少年も躱せた。勢いに任せて左足を曲げて、右足を強引に前に出すことで立ち上がる。


「うぇっ!?そんなのあり!?」


 俺の鬼ごっこ不敗伝説を支える必殺技『人間股抜き』。怪我どころか、ステータスで人間離れしているゲームの中なら余裕のよっちゃんだ。


「カグヤ!」

「ぶっ!?」


 カグヤもこちらに手を伸ばしており、手を掴んで強引に引き寄せる。痛いだろうが、後で回復と謝罪のプリンを送る事で許してもらおう。

 引き寄せたカグヤを体を捻って背中に乗せる。俺の背中に顔を打ち付けて変な声を出して悶絶しているが、気にせず走って人混みを抜ける。


「痛い痛い」

「痛いのは私の方…」


 鼻を打ち付けた抗議か、俺の頭を叩くカグヤ。可愛らしくポカポカと殴るのなら良かったのだが、普通に痛いのが困る。


 このまま『アヴストュニール商会』に戻るのが安全策だろうか?でも少し距離があるし、戻る為には現代の商店街のような人が多く従来している場所を抜けないといけない。緊急時という事で屋根の上を走るか…?裏路地を使ってもいいが、知らない場所を通るのはかえって危ないだろうしな…。


「ちょ、若様待って!!味方!!味方だから!!!オーカちゃんの知り合いだから!!!」

「何か言ってる」

「オーカは有名だからな。知り合い位なら誰でも言える」

「名前…控えておいたら?」

「確かに相手の名前が分からないと後から困りそうだ。皆似たりよったりな顔してて分かりにくいし」


 少年がEsB、美女がトレーナ、小柄な女の子がローズ、ダンディが全自動団扇回転機……。


「ぐぶっ!?」

「あ、ごめん」

「二回目…これ二回目……」

「ぐっ……」


 四人の名前を見た瞬間、聞き覚えるのある名前に引っかかり、慌ててブレーキを掛けると、俺の背中から少し顔を離してたカグヤが俺の後頭部に鼻から突っ込む。

 鼻を押さえて涙声で抗議しつつ、細腕で首を締めてくるカグヤ。これに関しては本当にごめんなさい。

 腕をタップしてカグヤに腕を退けて貰い、カグヤを下ろして記憶を辿る。


 確か…今回のスラム街誘拐騒動でオーカが協力を取り付けた人達で…。


「花ちゃんと扇風機さんだ…確かクラン名は…」

「『花風師団』です…どうも、若様。ちょっと、目立ち過ぎたんで場所移動します?」

「あ、はい。お願いします」


 一番最初に俺に追い付いた少年(EsB)は、少し気まずそうに笑顔を浮かべると、近くにあった路地裏を指差す。

 子供背負って俺が走り回ってたらプレイヤーよりも、NPCの人達が注目するよな…いつも通ってる店の叔父さんが出刃包丁持って店から転げ出てきたので、笑顔で大丈夫だと手を上げて伝えておく。


「慕われてるんすね」

「いや…《白帝》戦以来、色んな人が親切にしてくれて」

「NPCから慕われるのはいい事ですよ。現実と同じくらい人間関係を構築するのはシビアですから」

「追い付いた…!」

「二人とも足速すぎでしょ」


 全員が合流した事で人目の無い路地裏に移動した俺とカグヤ、そして『花風師団』の四人。

 俺とカグヤを誘拐しようとした理由を問いただしたい気持ちでいっぱいだったが…人目が消えた瞬間、めっちゃ怒られた。


「阿呆やで!ほんと阿呆!!何考えとるん若様!!あかんで!あんな事して!オーカちゃん達から何も聞いとらへんの!?」

「いや…あの…」

「無用心にも程があるやろ!そら、いきなり横から失礼しますした僕達も悪いで!?さっきの凄かったから後でやり方教えて欲しい!お願いします!!けどな!僕達がパーティー募集に割込めたから言いものの、僕達が気づかなかったらカモられまっせ!?カモがネギと出汁、鍋とガスコンロ引きながらホイホイ調理場に来るもんですわ!!」

「えっと…」

「扇風機さん、落ち着いて。何がいけなかったのか何一つ説明してませんから。良くないですよその感情に任せた怒り方」

「…すまん、取り乱したわ」


 多少の訛りが混じった話し方をする全自動団扇回転機さん事、扇風機さん。話しながら睨み顔になったり、呆れ顔になったりと表情をコロコロと変えながら言葉を並べる。

 こんなに叱られるのは何時ぶりだろうか。小学生の頃に寝ぼけて包丁を使って母さんから叱られた時以来かな…。


「じゃあ俺から説明を。オーキさんが出したパーティー募集は危険な要素が沢山含まれてました。まず一つ、貴方の知名度。最強のパーティー『ジェノサイド』の期待の新人、三期世代トップ、大罪のスキル、《白帝》戦での活躍。どれを取っても他人から見れば憧れの対象であり、嫉妬の対象です。このゲームをやっている人は比較的温厚な人が多いですが、あくまで比較的です。ゲームだと割り切って常識的には考えられない行動を取る輩もいます」

「例えばフィールドで相手をキルしてアイテムを奪ったり、NPCを殺したりとかね」

「なので自衛の為にパーティー募集をする時は募集人数に対して自分側は半数以上で募集するのが基本です。貴方の持つアイテムは僕達からしても喉から手が出る程欲しい一級品、彼女も色んな推測から特別なスキルを持っているのではと疑われています」


 PK(プレイヤーキラー)。この手のゲームで他のプレイヤーを殺し、アイテムを奪い、殺傷を楽しむ人達。オーカ達から何となくは聞いていたけど、まず狙われないから気にしなくてもいいという言葉を真に受けていた。

 俺は初心者で右も左も分からない状態。1vs1ならまだしも、カグヤもレベルが低く、多数相手にカグヤを守りながら対人戦を行うのは危険すぎる。

 このゲームは現実を求める上で外の一部フィールドならNPCにダメージを与えることも出来る。それでカグヤが……。


 あまりにも軽率だった。ゲームに慣れたと思って危険を楽観視していた。


「ご迷惑お掛けして、すみませんでした」

「若様、この手のゲームは初心者やろ?他にゲームの経験は?」

「オンライン系はこれが初めてです」

「はぁ……どうせいつも私達が居るから大丈夫とか思ってたんやろうけど、これは若様だけの責任にはできへんな。花達、ちょっと時間掛かるけど大丈夫か?」

「仕方ない事。後で商会にはアイテム系請求するから」

「俺も大丈夫ですよ」

「私は一時間くらいしか…ごめんなさい」

「ええ、ええ、気にせんでええよ。トレちゃんはログアウトの準備しとき」

「ありがとうございます。あと、トレちゃんは止めてください」

「若様、姫ちゃん達が教えてくれへんこと、今日一日でみっちり教えたる。ついでにレベル上げもな」


 俺が改めて頭を下げると扇風機さんは俺の肩に手を置いて顔を上げさせる。

 俺が顔を上げると、オーカ達の話を聞いて再度呆れた顔を見せ、次に小さく笑みを浮かべた扇風機さんが、同じクランメンバーの三人に何かを確認している。

 何を?と少し不思議そうな顔をしていると、扇風機さんは満面の笑みで提案してきた。


「是非、お願いします」



「改めて、全自動団扇回転機こと、扇風機だな。好きに呼んでくれていいよ。レベルは36、ジョブは(きこり)だ」

EzB(イージービー)です。学校でお前は思考が簡単で馬鹿だから簡単馬鹿って呼ばれてるんでこの名前にしました。レベルは34、ジョブは双剣士っす」

「ローズ…です。好きに呼んでください。レベルは32、ジョブは祈祷師です」

「えっと、オーキ=ペンデレエークです。レベルは30、ジョブは傭兵です」

「カグヤ=ペンデレエーク…レベルは2…ジョブ…?無職…?」

「月のお姫様では?」

「…姫は職業…?それに、月での記憶はほとんどない…」


 よくよく考えると月住の姫って職業では無いのか…アマネットさん曰く、強力なスキルを沢山持っていると言っていたが、カグヤのスキルは職業の関係ないエミリアさんの『矛盾』みたいな固有スキルなのかな?


 改めて自己紹介を終えた俺達は街の定期便の乗合馬車に乗って狩場へと移動中。移動時間は1時間くらい。


「若様、向こうでかなり運動神経ええやろ」

「え?」

「動きに違和感がないからなぁ、こっちで慣らしたって感じの洗練された動きでも、ステータスに任せた動きでも無い、自分に合った動きをしとる」

「あ、分かります。なんかこう、本当にその体をずっと使ってたみたいですよね」

「お前はよく地面に熱いキッスをしてるからな」

「普通無理っすよ、いきなりオリンピック選手の体に乗り移ったみたいですし~」


 主に喋るのは俺と扇風機さん、EzBさんの三人。カグヤはどうも乗り物が苦手なようで、遠くを見ておくと酔いにくいと教えると外の景色をじっと見つめながらプリンを食べている。一切にプリンに視線を落とさずにプリンを食べているので、カグヤの並々ならぬプリンへの執着を再認識する。


 ローズさんこと花ちゃんは終始無言だ。しかし、目線だけは喋ってる人に動かしているので、自分の世界に入っている訳では無さそうだ。

 特別、空気が悪い訳でも、ローズさんから不機嫌な雰囲気を感じないが、ムスッとした顔を続けている。もしかしたら、この顔がデフォルトなのかもしれない。


「悪いなぁ若様、うちの娘、ムスッとしてるけど初対面の人苦手なだけやねん。こう見えてな、懐くと尽くしてくれて可愛いで~!親目線無くても顔も良いし、もういつも心配で心配でな」

「オーキさん、気にしなくていいですよ。これ始まると長いし、興味示すと試されたり、脅されたりするし、興味示さないと示さないで面倒なんで」

「は?うちの花ちゃんめっちゃ可愛いやんけ、何が不満なん?あ?言うてみ?」

「ね?死ぬほど面倒でしょ?」


 取り敢えず、下手に返答すれば俺も絡まれそうなので愛想笑いを浮かべておく。

 しかし、EzBさんと扇風機さんは年齢差がかなりありそうなのに、まるで友達だな。


「んじゃ、軽く打ち合わせでもしましょうか」



 狩場に着くまでの間、扇風機さん達に色々とネットでのマナーや注意事項を教えてもらった。

 ……。ていうか、なんでこんな大切な事を教えてくれないのか、そう言いたくなるくらいの知識が多かった。調べずに他人任せな俺が言うのもあれだが、ちゃんと教えておいて欲しかった。


「んじゃ、打ち合わせ通り、樵の俺が敵引き付けるさかい、若様とビーは攻撃、花ちゃんとお姫さんは支援頼むで」

「了解ですっ!」

「任されました」


 着いた場所は《トーリ湿地帯》と呼ばれる場所で、なんとも足が泥濘にハマりそうな動きにくい場所だ。

 視界も開けていて、隠れる場所が無く、泥の中、地上、空と警戒する場所が多い。


「まずはあそこの群れやな。『斧鳴らし』」

「あれは『樵』のスキルで、敵を引き付けるものです。扇風機さんの方に敵が集中したら、俺たちは背後から攻撃です」

「了解」


 最初の敵は《マッドリザード/Lv34》が四体。体が泥と保護色になっている、二足歩行のトカゲだ。

 俺は、ムラムラマサさんに新しく作り直して貰った«帝王の槍斧・刻印《白》»を構え、EzBさんと群れを挟み込むように旋回して背後を取る。


「いきますっ!」

「おう!」


 四体の《マッドリザード》が扇風機さんに引き寄せられた瞬間、俺とEzBさんは全速力で《マッドリザード》の背後から攻撃を仕掛ける。

 しかし、バシャバシャと泥水を跳ねる音が思ったよりも大きく、二体の《マッドリザード》がこちらを振り向く。


「『新月』」


 見つかったと声を上げようと思った瞬間、突如、俺とEzBさんの体が黒い靄に覆れる。

 その黒い靄は体にまとわりつくように形を変える。更に、何故か黒ぐろとした靄の中に居るにも関わらず、視界はクリアのまま。

 不思議に思っていると、《マッドリザード》は小首を傾げたあと、扇風機さんの方を振り返る。


 まさか、こっちの姿が見えてない…?


 と思ったら、EzBさんにまとわりついていた黒い靄が破裂音をあげて弾け飛ぶ。


「へ…?」


 不思議か現象に更に不思議を重ねた現状に、EzBさんは《マッドリザード》と共に両目を見開いて驚いている。

 俺も恐らく同じような顔をしているだろうが、何故か《マッドリザード》は俺の方に気づいていないので勢いに任せてそのまま突撃。槍斧を振るって《マッドリザード》にダメージを蓄積していく。


「本当に見えてないみたいだな…」


 後ろから首を薙いでも、《マッドリザード》はこちらを視認できていない。

 30ディフィは固い頭の悪いスキルだが、どうやらこれは味方からも見えなくなるらしい。一度、鼻先を扇風機さんの戦斧が掠めた時はVRだと言うことを忘れて本気で死を覚悟して腰を抜かしかけた。


 程なくして戦闘が終わり、俺の体を包んでいた黒い靄が消える。


「おぉ!若様!そんなとこおったんか!」

「カグヤ、これなに?」

「……スキル?」

「うん、それは分かるんだけど…」

「対象を他から見えなくするスキル…私には見える……私の魔力が続く限り大丈夫……あと………信頼してるかどうかで効果が変わる…」


 なんとも反応し難いスキルだ…。嬉しくもあるのだが、カグヤが頬を軽く染めているので、俺も意識せずにはいられず、口がなんとも言えないもにょもにょとした感じになる。


「他にスキルは何か使えるのか?」

「……多分」

「あやふやなのは、何かあるのか?」

「『下弦の月《三日月》』」

「刀……?」

「私…戦ったこと……ない…」

「だから多分なのか」


 カグヤがスキルを口にすると、素人目にも美しい日本刀がカグヤの手に握られていた。

 日本刀はカグヤのような小さな子が持つにはかなり重いように感じるが、平然と片手で持っている当たり、重さはそこまでないのかもしれない。


「ほう、刀か。三日月で刀と言やぁ、三日月宗近やな。天下五剣の一つや」

「へえ、出自は向こうなんですね」

「いや、詳しく知ってる訳やないで、分からんで?ここ、色々と神話や逸話が実在する世界やし」

「それもそうですね」

「それよか若様、あれや、あの暗殺職が喉から手が出るくらい欲しくなる、姿隠せるスキル、あれはやばいな」


 そう言えば暗殺系の職業は、相手の意識外から攻撃するとクリティカルとは別にダメージ補正がかかり、二倍になるんだっけ…。《マッドリザード》が目の前で見失ったことや、この水音が響く湿地帯で俺の位置を把握出来ていなかったことを見るに、音も遮っている可能性がある…。


 なにこれ、ぶっ壊れ?


「なんや……《アヴストュニール商会》おかしすぎるやろ…別ゲーやっとるやん……」

「それはつくづく感じますねぇ…」

「くぅ!こうなったら焼けや!若様!時間いっぱい付き合ってもらうで!!」

「は、はい!」



 二時間後、何故か泥の上で四つん這いになっている扇風機さん、EzBくん、ローズさんがいた。


「あかん…常識が通じへん……初心者やと思って油断したわ……」

「なんすか…俺よりDPS高くてフォローも素早いとか……俺の自信こなごなっすよ……ありがとうございました師匠……」

「HP減らない……………減っても回復するリジェネ…………自己バフ強すぎる……おーけーぐーぐる、支援職、とは…」


 こういう時、なんて言うんだっけ。また俺何かやっちゃいました?だっけな…。

 最初の頃はEzBくんに色々教えて貰って、扇風機さんの指示に従っていたのだが、途中で敵が異常に集まってきてそれに対応していたのだが…装備とスキルの差が出てしまったのだろう。


「私もやった方がいい…?」

「やりたいの?」

「………別に」

「服が汚れるからやめなさい」


 四つん這いで倒れ込む三人を見たカグヤが、少し羨ましそうに見ている。

 今度、汚れてもいい服を用意して、泥遊びでもするか。VRでもいい年頃の男が全力で泥遊びをそこら辺の公園でするのは怪しまれるので商会の庭がいいだろう。


「忘れとったわ、若様も『ジェノサイド』の一員だって…」

「お嬢も凄かったですし、血は争えないんすね…」

「あはは…」

「……まだ本気出てない…」

「カグヤ!?」

「う、う、うそやろ?」

「うそ」

「ほ、ほんま冗談きついで!あれで本気じゃないとか、上位プレイヤー全員泣くわ!」

「………ちょびっとだけ」

「ほわっっちょぁ!?!?」


 この二時間で距離が縮んだのか、カグヤが扇風機さんをからかって楽しんでいる。

 うん、良かった。小さく笑っているカグヤを見ると、助けてよかったと心の底から思えてくる。


「なんや若様、お父さんの顔しとるで」

「おとんが、テストでいい点とった時にこんな顔してたっす」

「うわぁ…」


 扇風機さんからの仲間意識を持った目と、EzBくんからの哀れみの目、ローズさんからの引き気味の声に俺の心はクリティカルヒット。ダメージ三倍。俺が百帝に与えた一撃よりも重い一撃だ……!


「んじゃ、若様、明日また戦うことになったらよろしくな」

「はい、お願いします」


 こうしてレベル上げが終わり、俺はLv31、カグヤはLv3に上がることが出来た。

 明日はいよいよ闘技大会、色々と不安要素も残るが、精一杯頑張ろう。

オーキ「闘技大会をやると言ったな?あれはブラフだ。次回、『多分、闘技大会』」


オーカ「急な予定変更あり!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます! これからも楽しみにしてます!
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