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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第二章 堕チタ天使ノ涙ハ昇ル
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第五話 絶壁にし──絶壁にしようぜ──絶壁に─絶壁にしようぜ──絶壁にしたら──絶壁にしようぜ──かなり絶壁だよコレ!

☆ sideーオーキ=ペンデレエーク


「あれ、部屋にいたのか」

「ん……」

「料理に付いての本か…今度は自分で作るのか?」

「……お礼……食べるの好きだから…」


 王都から『アヴストュニール商会』に戻って最後にログアウトしたのがカグヤとの相部屋。ログインするとカグヤがベットに姿勢よく腰掛けて本を読んでいた。

 話しかけると本の表紙を見せてきたのでタイトルを読むと、どうやらこの世界のレシピ本のようだ。結構分厚いな…現実世界で再現できそうなのがあれば作ってみたいし、今度見せてもらおう。


 そして、どうやらカグヤは俺へのお礼に料理を勉強してくれていたようだ。それは…うん、楽しみだな。

 カグヤも開放された今、趣味という趣味が見つかっていない。俺へのお礼も嬉しいが、色々な事に挑戦してくれるのはもっと嬉しい。これで料理にハマってくれれば尚良しだ。


「ありがとう。楽しみにしてるよ」

「……何がいい…?」

「俺はなんでも美味しく食べられる。口を全部好みに合わせるから、量を沢山作ってくれ。それが一番嬉しい」

「分かった……沢山…」

「今日は人が来るんだが、一緒に合うか?」

「…名前…」

「えっとエミリアさんから連絡で…あった、アマネットさんだって」

「アマネット=フィエルダー…四祖属性術者の中でも最強の一角…創造したものは鉱物を凌ぐ強度を持つ…この王国の城郭は全て…アマネット=フィエルダーの手で作られている……」

「有名な人なのか?」

「昔、会った事がある……あの人()生物の域を越えた存在……一人で都市を落とせる……」


 一人で都市を落とす……もしかして人と形容しているが、巨人か何かだろうか…。

 それにしてもフィエルダーか…エミリアさんや、レイオス伯爵の血縁者なのは間違い無い。ということは、貴族の一人だろう。失礼の無いようにしないと。


「オーキ殿~!件のお客さんが来たでござるよ~!エントランスの所に来て欲しいでござるー」

「了解ー!…昔会ったことあるのなら、行くか?」

「顔を合わせただけ…親しい訳でもない…だから遠慮する……」

「分かった。何かあったら呼んでくれ」

「ん…」 


 カグヤは俺の問に首を振ったので部屋に居残り。まぁ、ここはクランホームだし危険は無いに等しい。日中なんてほとんど人がログインしていないし、一人で上手くやっているのだろう。出来れば時間を取ってあちこち行きたいが、また今度の機会だな。



「『絶壁』のアマネット。アルバトロリスの一族が末裔、アマネット=フィエルダーです。お見知り置きを」

「オーカ=ペンデレエークです」

「服部全蔵と申す」

「ヲ、ヲタ、キングと…言います…はい…」

「ディフィニションです」

「バルクだ」

「マーサと言います。よろしくお願いします」

「クレア」

「オーキ=ペンデレエークです」


 アマネット=フィエルダーさん。見た目は…カグヤと同じくらい。ギリギリ中学生にも見えなくも無いのだが……なんでだろう、最近会う人会う人が全員見た目と年齢が一致してない気がする。俺の癒しはトマス男爵だけなのだろうか。


 アマネットさんは濃い茶髪をサイドテールに纏め、少しツリ目。顔だけを見れば幼いながらもキツい印象を受けるが、伸びた背筋と、常在戦場と言った佇まい。漂う雰囲気は凄く上品だ。


「お掛け下さい」

「ありがとうございます」

「それで…件の…」

「えぇ、一度情報の擦り合わせをしましょう」


 レイオス伯爵から貰った資料には目を通したが、新たな情報があるのかと言いたいくらい詳細に書かれていた。…手書きで。ゲーム時間の昨日、レイオス伯爵からの手紙を見たら筆跡が似ていたので多分、レイオス伯爵の手書きだろう。辞書とは言わないが、手書きでも何週間と掛かる物だと思うのだが…。


 資料の情報は大まかに分けて三つ。


 一つ目はらレイオス伯爵の知人について。名前はリュエリー様…想像通りと言うべきか、想像以上に凄い人…人ですら無かった。

 リュエリー様は…天使らしい。それも天使の中でも立場は最上位。この世界にいる複数の神である最高神に仕える熾天使の一人で全天使の長。階級の低い神様よりも発言力があるとか……それを知人と言ってのけるレイオス伯爵に驚くべきか、そんな天使様が誘拐された事に驚くべきか…。


 二つ目は、スラム街で起きている誘拐事件と噂について。現在、王国にある各地のスラム街で六歳から十五歳の子供が行方知れずになっているようだ。治安が悪く、裏社会が蔓延るスラム街では子供がふと居なくなるのはよくある話らしいが、その規模の拡大が凄まじいので噂として流れ始めているとのこと。

 そしてその噂とは誘拐した子供を使って『人体実験』をしているとのこと。複数立っている噂の中でも 、この噂が一番濃厚だそうだ。


 そして三つ目、今回の依頼を引き受けたオーカ達が急遽、周囲に協力を求めた程の情報。

 レイオス伯爵の調べでは『新たな神祖計画が動いている』という話だ。

 《神祖計画》、それはこのゲームのホームページでストーリー説明にも出てきた重要キーワード。今までゲーム内で一切の手掛かりが無かったこのゲーム、この《IPO》の世界の秘密を握る一つでもある。


 確かストーリーは…


───────


 愚かな人類は一つな歯車を回した。

 動き出した歯車は連鎖し、終焉へと向かう。


 かつて『第七神祖計画』により、世界は終焉を迎えた。

 そしてまた新たな『神祖計画』が動き出す。


 神の血を引く者よ。その可能性を持って未来を切り開け。


 全ての鍵は《アヴァロン》へと眠る。


───────


 こんな感じだ。


 ストーリーから《神祖計画》を読み取ると、これまで世界では七回、神祖計画が行われており、世界が終焉へ向かうほど危険な計画であるという事。


 レイオス伯爵の詳細情報には《神祖計画》が最終的に何を目的としたものなのかは書かれていなかったが、今回の誘拐事件は(けが)れなき大天使であるリュエリー様を多くの子供の命を使い、堕天させること。そして天使を堕天させて現世へと繋げ、その力と神へ繋がる手掛かりを探るのが目的だと言う。

 神へ繋がる手掛りで何をするかは分からないが、想像の何倍も大きな案件のようだ。


「今回の《神祖計画》を《第八神祖計画》と仮定すると、《第八神祖計画》を計画している輩は大きな組織が動いています。その組織の末端を幾つか見つけたものの、トカゲのしっぽ切り。それより上の情報が掴めていないのが現状です」

「子供達の誘拐は…本当に王国中でござるな」

「分布の偏りはあるものの、満遍なくと言った感じだ」

「問題はどっちでアプローチするのが正解か…だよね」

「現実的なアプローチか、ゲーム的なアプローチか、ですね」

「ゲームのシナリオならどこでどう盛り上がるか、どこでユーザーを惹き付けるかで考えれば見えてきそうだけど…ここじゃそうはいかないからなぁ」


 王国中と軽く口にするが、領土は広く、日本と同等規模だ。

 日本とは違って手の加わっていない未開拓地や、全体的に見れば山脈や森林、平原といった人の手が入っていない場所が沢山ある為、人目を盗める場所は幾らでもある。監視カメラも無く、移動記録として残るのは精々各所の関所だろうか…関所を通らず、法外なルートを使っていれば手掛かりは無い。


 これは俺たち『ジェノサイド』だけで解決出来る話でも無いな…。

 

「人海戦術は見つけられる確率を上げられますが、話を知る相手が多くなるのは相手にも情報が抜けやすくなるデメリットがあります。なるべく少数の信頼出来る者達だけでヤマを張って見つけるのがベストです」

「何人かの腕のいい知り合いに話は通してみたけど…各所ってなると大手クランの助力が必要になるから…プレイヤーは人を選ばないと情報が一気に広がるし、何をしてくるか分からないからね……」

「辺りは付けてあるんでござるか?」

「うん、花ちゃんのとこと、達ROのところ、あとはあ、多忙よとかクエストで知り合ったクラン無所属の上位勢何人かには話そうかなと思ってるよ」


 アマネットさんを含め、レイオス伯爵が声を掛けてこの件に当たっているのは二十人にも満たない。俺たちを合わせても百人にも届かないだろう。

 監視カメラも無く、人目につかない場所が数多あるこの国で百人で見つけられるとは思えない。


「一週間後。旦那様の『影』が動きます。私と同じく一般人と同レベルでも、彼女が動けばそう遠く無いうちに見つかるでしょう」

「『影』でござるか…名前から察するに拙者のような裏の仕事を生業としている者でござるか?」

「ええ。幾万の偉業を達成されてきた旦那様の目であり、耳。情報戦に置いて不敗を誇ります」

「流石としか言えないけど…旦那様って事は…?」

「レイオス様の十二番目の側妻です。この世界では二児の母をしています。とは言っても、二人とも寿命で旅立ちましたが」

「あ、そうですか」


 悲しい事に妹がどこか遠くを見つめている。昔から首を突っ込んで全体を引っ掻き回す事が多々あるオーカがこれ以上は踏み込んでいけないと大人の対応をしている。すこし寂しいと思いながらも、妹の成長を喜ぼう……俺も現実逃避が進んでいるな。


 十二番目……。


「旦那様も他人にあれこれ言うのに、自分が出来ていないのです。腕や知識があっても『ジェノサイド』が動けば悪目立ちが過ぎます」

「えっと、それは拙者達の役割は戦力としてであって、捜索には動かないということでござるか?」

「そうです。『影』が動けば後は時間の問題です。しかし、『影』も私も旦那様と同じく体は唯の一般人と変わりありません。リュエリー様が堕天していた場合、善戦は出来ても殺すことも、救うことも出来ません」

「なんとなーくなんですけど、堕天使って相当強いんじゃ?」

「比較対象が人型では無いので参考になりにくいですが、《白帝》のようなタフネスは無くとも、厄介さは今回の方が上でしょう」


 oh......。そうですか。厄介さは上ですか。

 俺、ゲーム初めてまだゲームらしい事そんなに出来てないんですが、間を開けずにこれですか…。はい、頑張ります。俺は日本人、生粋のイエスマンである。ノーを突き付けるのはクレアさんだけと決めている。


「私が最終的に伝えたい事を纏めますと、旦那様の言葉を鵜呑みにさて動かないで欲しいという事。口が硬い、確かな戦力を数十人規模で集める事。こちらがアクションを呼び掛けるまで普段通りに過ごす事の三つです」

「分かりました」

「それと、そこの妖精さん」

「はい…?」

「私も『影』が動くとなれば後は引き継ぎだけだから時間が余るの。だから魔力の操り方、魔法の基礎を教えてあげましょう」

「あ、ありがとうございます」


 相も変わらず俺の頭の上に乗って正座していたマーサさん。それは礼儀正しいのかと言いたい所だが、どうやらカグヤも褒める魔法使いがマーサさんを鍛えてくれるようだ。

 こちらから話を持ち掛けなくても教えてくれたりするんだなぁ…。


「『三毛猫亭』に部屋を取ってあるから時間が出来たら昼夜問わず訪ねてきて。基本、起きてるから」

「はい、分かりました。お願いします」

「それと後二つ。オーキ、貴方はビギナー戦、見送りなさい。リュエリー様との戦いに備えて少しでも基礎ステータスを上げる事が先決です。それと同時にカグヤも鍛えて連れてきて。あの子はレベルを上げるのに人に比べて何倍も経験が必要だけど、使えるスキルは強力な物ばかり」

「どれくらい強力なんですか?」

「30ディフィは硬いですよ」

「ディフィがいつの間にか世界共通の単位に…」

「照れますね」

「初対面の相手に貶されてんだよ」


 俺のビギナー戦の見送りは妥当だろう。狙いの賞金は今じゃカグヤと外に出掛けるだけで手に入るような金額。タッグ戦とチーム戦だけでも売名には充分だ。

 カグヤに関しては…少し不安が残る。カグヤは《白帝》の鎖から解放されてようやく自由を手に入れた。なのにも関わらず、危険を犯して戦い、レベルを上げる。俺は反対意見を唱えたい。


 過保護すぎるだろうか…?

 

 いや、NPCは一度死んだら終わり。現実世界よりも危険が沢山あるこの世界で、回避出来る危険をわざわざ自分から首を突っ込むのは…。


「不安そうだね…でも、いつでもオーキが傍にいる訳じゃない。リュエリー様と戦うのは置いておいても、自衛の術を身に付けさせるのは大切ですよ」

「そう…ですかね……」

「それは絶対あの子の為になる。それが嫌なのなら旦那様に預けた方がいいですよ。カグヤに負い目のある旦那様なら絶対に守り抜きますから……けど、それでは余りにもカグヤが可哀想です。あの呪縛から解放してくれた恩人に恩を返せず、自分の未来も見えず、何も分からず、何も知らない。それを正しく導いてあげることは旦那様には出来るけど、あの子の進みたい道に一緒に進んであげることは出来ない。貴方達が一緒に歩みなさい。支えてあげなさい。か弱い一人の少女をどうか…お願いします」

「はい…分かりました」


 頭を下げるアマネットさんに、俺は力強く答える。その答えを聞いて満足そうに微笑むアマネットさんは、見た目は違うのにどこか母さんと重なって見えた。

 これが以前全蔵が言っていた『バブみ』というものだろうか。それとも『エモい』だろうか。『てぇてぇ』だの『草』だの耳馴染みの無いものばかりで俺は流行りについていけそうにないよ…。


「それでは今日はこの辺で……引き続き、やらなければならない事もありますから。旦那様に文句言ったりとか」

「今日はありがとうございました」

「いえ、問題無いですよ」


 席から立ち上がって握手を交わすオーカとアマネットさん。

 こうしていざ並ぶと小学生と中学生の握手に見える。


 全員でアマネットさんを見送った俺たち。オーカとバルク、ヲタキングの三人はミサキさんに報告へ。俺達はエントランスに残って雑談をしていた。

 お菓子をつまみながら雑談をしてから数分すると、何を察したのかカグヤが部屋から出てきて机の上に並べられた…いや、積み上げられたプリンを食べ始める。


「アマネットさん、レイオス様と同じでいい人だったな」

「そうですね~、後は鞭の振り方が厳しいかどうかが心配ですよ~」

「しかし、レイオス伯爵を含めたあの一団、少々気になりますね。世界観を崩しているとは言いませんが、風景に溶け込んでいない気がします。一言で言えば『異質』…でしょうか」

「まあ、四ヶ月目でようやくヒントが出てきた神祖計画もまだまだ裏がありそうでござるし、あの方々も後で色々繋がりが見えてくると思うでござるよ?」

「……ハーレム…十二番目……13P……!?」

「食いつくのそこでござるか…拙者も気になるでござるけど」

「そう言えば…アマネットさんが自己紹介の時に言ってた『絶壁』って何かの名乗り口上なのかな?」

「あぁ、二つ名でござるよ」


 二つ名…愛知を代表する武将、織田信長も『尾張の大うつけ』や『第六天魔王』など二つ目の名前や異名を持っていた。なにそれ格好いい。


「ちなみに、この世界には有名なNPCには二つ名が付いているでござる。上位プレイヤーにはプレイヤー間で付けたものもあり、それがNPCにも広まることがあるでござるよ」

「あぁ…【首狩り姫】か」

「拙者の場合、忍者が浸透しすぎて知られていなでござるが【影殺】、マーサ殿が【南の魔女】、ディフィ殿が【精密筋肉】、バルク殿が【三寸の巨人】、ヲタキング殿が【叡将】、クレア殿が【氷の女王】でござるな」

「なにそれ俺も欲しい」

「ふぇ?聞いてないでござるか?オーキ殿も既に二つ名、着いているでござるよ」


 な、なんだと…!?

 俺に二つ名が付いていたのか…どうせなら格好いいのが良いな…現実世界で付いた二つ名なんて『天然王子』という不名誉な称号だけ。天然なら何でもいいのか、養殖だからこそ輝くモノもあるだろう。


「いや、その思考が天然の由来でござるよ」

「さらりと思考を読むの止めてくれ」

「ちなみにオーキさんの二つ名は暴食の花と書いて読みはグラジオンですよ~」

「【暴食の花(グラジオン)】ですか……」

「グラは暴食のラテン語、ジオンはハルジオンという花を元にしているでござるよ」

「ハルジオン、春に咲く花の一つで花言葉は『追想の愛』……どんな場所にでも咲く事から『貧乏草』とも言われて…ふっ……いますね」

「笑い隠せてないぞ」

「オーキ殿の粘り強さにいつまでも、どこまでも、どこからでもという連想を持って春紫苑(ハルジオン)のジオンを貰ったでこざるよ。ちなみに命名はオーカ殿。一人だけ命名がガチでござった」


 なんでも《IPO》には有名プレイヤーへ二つ名を付けるスレが存在するらしい。一ヶ月に一回、その月で多方面に渡って有名になったプレイヤーの二つ名を皆で名付けようというものだ。

 オーカ達初期勢、最初の一ヶ月で目立ったプレイヤーは一期生と呼ばれて【首狩り姫】や【剣聖】など二つ名が付けられたそうだ。

 二期生は、「あれ?王道の二つ名出尽くしたことね?ていうか面白みなくね?」となり、【氷結の氷枕】、【灼熱のカイロ】、【暴風の団扇】など中々に名乗りたくない二つ名が流行ったそうだ。

 そして俺は三期生にあたり、俺の【暴食の花(グラシオン)】を始め、【栄光の陽(グローソール)】など凝ったルビ付きの名前が流行った。

 二期生が可哀想だよ…。


「【絶壁】のアマネット=フィエルダー……絶壁は、彼女の祖父が名付けたもの……」

「へぇ、カグヤそこまで知ってのか」

「有名な話……」

「そうなのか?」

「酒の場で何時までも育たない孫娘の胸を見て付けたそう……それが広まって…定着した……本人は絶対に破れない壁を築く事が出来るからと言ってるけど………残念ながら……」

「不憫すぎる…」


 心の中で【絶壁】…!?絶対に壊れなることない高い壁、最強の盾、不動の防御…かっけー!と思っていたが、口に出さなくて良かった。


 バタンッ!!


「育ちましたから!!あの時よりはありますから!!!壁じゃなくて確かな膨らみがありますから!!!!旦那様が寝ぼけて『まな板がこんな所に…。シムル、片付け忘れてるぞ。』なんて言われたことありませんから!えぇ、ありませんとも!!」


 突如、エントランスのドアを開けて入ってきた先程振りのアマネットさん。

 ついさっきまでの落ち着きようは何処へやら。サイドテールを振り回し、大声で叫んでいる。


「絶壁でもいいじゃない!需要はあるのよ!王都では人気なのよ私!!!頑張れ私!負けるな私!!格好いい旦那様も貰って人生勝ち組よ!!!負けてない!!負けてないのよ!!!」


 そう言い残して去っていったアマネットさん。どうやら、あの人も見掛けに寄らずポンコツな一面もあるようだ。


「私は成長途中…」

「私は現実世界ではそこそこありますよ?」

「私も負けていません」

「………いやんっ」

「えっと、いや、その…」


 隣にいたカグヤには何も言ってないのに腕を抓られ、マーサさんは余計な情報を頭の上から。助けを求めて視線を巡らせると、上半身半裸の変態と、無表情で恐ろしい事を呟くド変態。そしてノリに乗り遅れてテンパっている忍者。


 この場合、どんな反応をするのがベストか。


 1.話を逸らす

 2.逃げる

 3.俺も脱ぐ


 3か、3しかないな、3にしよう。まだ運営に認められた訳では無いが、インナー越しでも俺の筋肉は光るはず。乗るしかないこのビッグウェーブに。


「オーキ、脱ぎます!!」

「脱がんで良い……取り敢えずミサキチには報告してきた。私たちはアマネットさんの言う通りに闘技大会に向けて何時も通りゲームしよう」

「となると、次のイベントは予定通り週末の闘技大会でござるな」

「俺はレベル上げかぁ…」

「今回は優勝だとは思うけど、大分対策立てられているだろうねぇ…種族やジョブが増えて初見殺しも多そうだし」


 学校に、レベル上げ、闘技大会、堕ちた天使……かなり忙しくなりそうだな…。

次回、『私の名前は佐久間。次回登場予定の無い悲しい女よ』

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