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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第二章 堕チタ天使ノ涙ハ昇ル
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第三話 あまり舐めてるとこの剣が黙ってないぜ?そう、この剣喋るんです

☆オーキ=ペンデレエーク


「オーキ、それ例の手土産?」

「そうです。王都の宿で調理場を少し借りて作りました。素人のでいいのか分かりませんけど、庶民的なって言っていたので……」


 現実世界で引越しを終えて、次の日の九月三日。荷解きも程々に取り敢えずVR機を起動させてログインしていた。

 今日の夜…《IPO》の今日はエミリアさんの実家にお邪魔する日だ。事前に王都に来ていた俺とオーカ、全蔵。そして代表という事で後から合流したミサキさんと、何故か呼ぶように言われたのでミサキさんが後ろに乗せてきたカグヤの五人でエミリアさん宅へ向かう。


「カグヤ…大丈夫か?」

「っぅ……吐く……」

「吐いてもいいから、俺にしがみつかずに楽な姿勢になった方がいいぞ」


 この世界には存在しないはずのバイクに乗って酔った様子のカグヤ。最近、バランス良く食事を取っている事で血色の戻ってきた肌が青白くなっている。

 いやまぁ、ミサキさんの運転荒いもんな…「道が私に囁いてる」とか言っていきなり急カーブを攻め始めるし…普通に減速して曲がってください…。


「ここまで大変だったわよ。人混みに慣れてないみたいで酔っちゃったみたいで…」

「ソウデスネ」

「ばか……ぁほ……」


 ミサキさんの勘違いを正すよりも、今はもう限界と言った様子でミサキさんに小さく恨み言を呟いているカグヤの背中をさすってやる。


 それにしても、王都の中はミサキさんが言ったように人が多い。日本の都会と言われても差し支えない程、人がごった返していた。俺達がいた街とは違い、露店や屋台がほとんど存在せず、それぞれのお店が家を構えている。

 目に映る人達の九割がNPCで、たまにプレイヤーを見掛けるが、人混みに流されてすぐに見えなくなってしまう。


 俺達は集合場所としてエミリアさんに事前に指定されていた衛兵の詰所の前でのんびりしていた。この衛兵の詰所は現実世界で言うところの交番みたいなもので、街の大通りからは少し離れた場所に位置する。

 交番と言えば悪さをしてなくてもなるべく近づきたくない場所というイメージはゲーム内でも同じようで大通りを見てからだと人口密度は雲泥の差だ。


「オーキさーん!!」

「エミリアさん!」


 待つこと三十分程。軍服を身につけ、背に『ドインネトラ』を携えたエミリアさんが人懐っこい笑みを浮かべてこちらに手を振りながら駆け寄ってくる。


「すみません。少し遅れてしまって」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。それではご案内します」

「衣装屋でしたか?」

「そうです。相手の方によりますが、基本的に謁見では相手側が指定する正装に着替えるのが習わしですので…トマス=ヤリス男爵は相手によって正装のランクを変えるので貴族の中でも特殊な部類です。我が家ではスタンダードな礼服で大丈夫です。当主によってはお抱えの裁縫師が作ったものでなければならない等もあるので、今度大まかに纏めたリストをお渡ししますね」

「ありがとうございます」


 取り敢えず未だに回復の兆しの見えないカグヤに水筒を渡して背負い、エミリアさんと共に王都の中を移動していく。

 王都の構造は簡単に言えば三重の防壁に囲まれた正方形。一番内側に王城や貴族の屋敷が存在し、二重目に住宅、三重目に冒険者ギルドや商店など多目的な店が存在する。

 正直、移動するの面倒じゃないかな?と思うが、この世界では現実世界よりも騒音問題が酷いようで、槌音が響く鍛冶場や、夜のお店、建築関係などの商店と住宅地区が綺麗に分かれたそうだ。


「似合いますかね?」

「もちろんです、よくお似合いですよ」


 この世界の礼服は現実世界よりもシンプルに見える。生活水準の格差が激しいこの世界で幅広く皆が買えるようにと礼服はそこまで派手なものではないようだ。


「全蔵は…口元隠すのね…」

「まあ、アイデンティティなので。ていうか、着替えたらこれくらいしか忍者らしさをアピール出来ないでござるよ」

「言葉遣いで十分だと思うけどなぁ」


 いち早く着替えた俺と全蔵は女性陣待ち。エミリアさんは「私は少し事情が特殊なので」といつも通り軍服で向かうとのことで俺と全蔵の礼服に感想をくれている。


「オーキ兄、おまたっせ!どう?どう?このパーフェクトプリチーシスターの姿は!?」

「凄く可愛いよ」

「にししっ!ならよしっ!」


 オーカ達も着替えが終わった所で店の前に着けてある馬車で早速移動。これまた数時間の道のりだが、これだけ騒がしい面子が揃っていればあっという間だろう。


「格が違う…」

「全く揺れない…」

「窮屈感が無い…」

「キラキラしてる…」

「黒い剣を囲う雷…あれ家紋…?性癖刺さりまくりなんだけど…?」


 エミリアさんの家の馬車は王都に来るまでに乗った馬車とは全く違った。全員驚く位にお金の賭け具合が違う。


「王都でもこのランクの馬車を所有しているのは王族とフィエルダー家くらいです」

「エミリーちゃんのパパンやばすぎない?」

「あー…実は、フィエルダー伯爵家の当主はお父様では無いのです。建国より以前(・・)からフィエルダー家の当主は代替えが無く、私の遥か上の御先祖様になります。名前はレイオス=フィエルダー伯爵。見た目はオーキさんよりも若いですが、八百年以上生きています」


 ここでとんでもないファンタジーが飛び出してしまった。

 現実世界なら笑い飛ばせるのだが、ここはゲームの世界。そういう人もいるのだろう。オーカ達も「うんうん、そういう設定好きよ。ショタジジイ、いいよね。尊みがある」と言っているし、ここは少し驚いた顔をして上手いこと流そう。


「驚く…?」

「あ、そうか。カグヤも生きてる年月だけ考えたら八百年なんて…ぐふっ…!?…的確に鳩尾を……」

「次は…目…」

「あべしっ!?ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!イイッ↑タイ↓メガァァァァ↑」

「オーキ殿、実は余裕あるのでは?」


 次を待たずに目を撃ち抜いて来ただと…!?

 あ、地味に痛い。痛覚が軽減されているとは言え、凄く痛い。


 そんなこんなで賑やかに俺達はフィエルダー家の屋敷まで馬車の中で騒ぎまくった。



「なんかトマス=ヤリス男爵と全然違うな」

「うむ、緊張感というか…屋敷全体の雰囲気が違うでござる」


 フィエルダー伯爵家の屋敷はトマス=ヤリス男爵の屋敷よりも一回り大きい。『アヴストュニール商会』と同じ位の規模だろうか?

 ハツと名乗った大和撫子と言った黒髪の栄える侍女長補佐の方に案内され、屋敷の中を進んでいくが、俺達の後ろを甲冑に身を包んだ屈強な兵士たちが数人付き従う。

 兵士の人達は少しでも変なことをしたらすぐ様捕らえるといった様子で、おおらかな雰囲気で出迎えてくれたトマス=ヤリス男爵家とは真逆だ。


「こちらの部屋に当、フィエルダー伯爵家当主、レイオス=フィエルダー伯爵がお待ちです。扉が開きますので一礼をしてから部屋にお入りください。その際、当主とは目を合わせず、下を向いて部屋の中央へ。全員が横並びに揃った段階で膝を付いて当主からの言葉をお待ちください」


 すらすらと説明をするハツさん。入室時に一礼。下を向いて中央へ。膝を付いて言葉を待つと。

 やることは比較的簡単だ。それで入る順番なのだが…。


「最初に私が入りますので、その後にミサキ様、オーカ様、全蔵様、カグヤ様、最後にオーキさんの順番でお願いします」

「分かりました」


 先陣を切るのはエミリアさん。

 先程、後ろにいた兵士の二人が重厚感のある大きな両開きの扉を開くと同時に一礼して中へ入る。

 ミサキさん、オーカと後に続き、俺も言われた通りの手順で中に入る。

 そして俺が最後に膝を付いてから数秒の間の後に声が掛かる。


「楽にしていい。顔を上げて楽な姿勢を取れ。」


 確かに若い声。声変わりしたが、し切れていないような少し高めの中学生くらいの声だ。

 だが、中学生のような無邪気な声では無い。抑揚の少ない平坦な声音。ロボットほど無機質では無いが、冷たい…そう感じる。


 声の若さと声音のギャップに一瞬、戸惑ったものの、すぐに意識を切り替えて顔を上げる。


「俺がフィエルダー伯爵家当主、レイオス=フィエルダーだ。」


 約五メートルのレッドカーペットと五段の階段を挟んで見えた顔は声の通り幼さを残しながらも今まで見てきた誰よりも精悍(せいかん)な顔立ちだった。

 黒曜石に似た色の透き通った髪に、血のような深紅の切れ長の瞳。

 玉座のような立派な椅子に座っている為、正確な事は分からないが身長は160前半くらいだろうか…。


「御館様。もう少し情報が汲み取れる自己紹介を…」

「それよりも先にやることがあるだろう?俺はまだ名を聞いていないぞ。」

「名乗らなくても分かるのに…」

「挨拶には挨拶を返す。例え相手が何を口にしようとしているのか分かるとしても、本人の口から言葉を聞くことが大切だ。」

「し、失礼致しました!」


 エミリアさんはいつも堂々としている。しかし今は、これ以上無いくらいに緊張している。

 そしてこの二人の関係性には凄く違和感がある。

 なんだろうか…悪い感じではないのだが、言葉にしにくいこの感じ…?


「『アヴストュニール商会』会頭、ミサキです」

「『アヴストュニール商会』戦闘部門『ジェノサイド』リーダー、オーカ=ペンデレエークです」

「『ジェノサイド』所属、服部全蔵と申す」

「カグヤ……ペンデレエークです」

「『ジェノサイド』所属、オーキ=ペンデレエークです」

「そうか……ふむ…あの小僧に上手くやられたようだな。」


 俺達の自己紹介を目を瞑り、玉座のような立派な椅子に足を組み、肘置きに肘を付いて、握り拳に頬を乗せるレイオス=フィエルダー伯爵。

 ゆっくりと開かれる(まぶた)の奥にある深紅の瞳は見ていると逸らしたくなる程力強く、何もしてなくても、へりくだってしまいそうな威圧感がある。


「…どうした?……ふむ、そうか。ミサキ、発言の自由を認める。」

「はい…えっと、小僧…というのは?」

「トマス=ヤリス男爵だ。あの悪ガキは昔から阿呆でな。六歳で人の嫁を口説いたり、八歳で家出して十五才まで冒険者として遊び呆ける始末でな。ヤリス男爵家の恥晒しとも呼ばれていた。」

「その…ヤリス男爵とは商談を致しましたが…上手くやられたというのは?」


 す、凄く色々言いたい…見た目中学生の男子があのロマンスグレーの小さい頃を思い出して懐かしそうに笑みを浮かべる様子はツッコミを入れちゃ駄目だと分かっていても、ちょっと待ったを入れたくなる。


「貴族と平民…商人も含めて王国ではこの対面形式が極々一般的だ。何故か分かるか?」

「いえ」

「理由は二つある。一つは貴族と平民がこうして対面して話し合う機会は少ない。生涯で貴族の声を聞く事がある者はの千人に一人といった所だな。普段の生活で仕事場や家族内での上下関係はあれど、貴族と平民という崩れることない上下関係は経験してきていない。だからこそ、こうして上の立場と下の立場を明確に分ける事で本人の意識を下に持たせて貴族への不敬を減少させることが出来る。」

「なるほど」

「二つ目はお互いの言葉に責任を持つためだ。この距離だと少し声を張らないといけないだろう?あぁ、俺は魔術を少し使って通常の声でも届くようにしているがな。声を張るという行為は自然と呼吸が多くなり、思いついた事を感情のままに吐き出す前に思い止まることになる。こういう場は冗談が通じるか通じないか曖昧な所でな、下手な事を言って後から冗談でしたじゃ済まない案件を交わすことも少なくない。そう言った事を避けるためにこうして距離を開けているんだ。」


 内心でそんな理由があったんだなと思いながら、トマス=ヤリス男爵は何故応接間のような場所で《白帝》という大きな話をしたのか。その疑問が残る。


「『アヴストュニール商会』の主要構成員にはこちら側(・・・・)の者がいないことは調べればすぐ分かる。そこから導き出されるのは、こちらの世間一般の常識を知らないということ。貴族との謁見行為の記録も無ければ物的証拠だろう。『アヴストュニール商会』は図られたという訳だ。思ったよりも堅苦しく無い。その意識を植え付ける事で口を滑りやすくし、感情を煽る行為をしてやればポロリと何かを零す可能性もあるだろうしな……。その顔を見るに、気づいていなかったようだな?」

「…… はい」

「ククッ…高い勉強料だな。『アヴストュニール商会』としては貴族との繋がりが出来て喜ばしい所だが、貴族からして見れば誰がゼノと呼ばれる世界の異端種を狩った商会に唾を付けるかで睨み合っていた所だ。それに気づければ利益は軽く三倍は増えていただろうな。あまり自分達を軽視しないことだ。自分達が特別な立ち位置にいる事はわかっているのだろう?一度、正しい価値を知ることも大事だ。」

「ありがとう…ございます…」


 レイオス=フィエルダー伯爵の言葉に声を振り絞るように呟いたミサキさん。

 よく見れば全蔵やオーカも悔しさを顔に出さないように顔を強ばらせている。


「しかし……トマス=ヤリス男爵は『アヴストュニール商会』を大分買っているようだ。俺の好物をわざわざ教えたのだからな。土産の卵焼きを作ったのは誰だ?」

「自分です」

「…オーキか。後で有難く頂こう。俺のこの好物はあまり表立って言うと貴族としての威厳が損なわれるということで普段は伏せてある。貴族間でも知る者は一割もいないだろう。俺という存在の機嫌を取れる可能性がある物ということだけで、そこらの資産家が金を山のように積むだろう。それを掴んでいたことも驚きだが、それを教えたということに俺は酷く驚いた。」

「……」

「面倒だな。全員の発言を許可する。好きに喋っていいぞ。」

「卵焼き一つで…そこまで変わるものなんですか?」

「一つ、俺と言う存在は何も出来ない。この屋敷から一歩も外に出ることは叶わず、この世界のレベルという制度で実力を見るのならば下から数えた方がいいだろう。二つ、俺と言う存在はこの世界に置いていかなる存在よりも価値があり、叡智を持ち、才能を、技術を、あらゆる力を有している。つまり、俺は置物だが、この国の国王よりも怒らせてはならない存在。という訳だ。」


 敢えて遠回しに話すのがレイオス=フィエルダー伯爵の語り部なのだろうか。微妙に分かりそうで分からない。言葉の端々にあるキーワードを拾って連想しないと答えが分からない。


「レオ様だけだと話がまるで進まないのでミラちゃん登場だゾ☆」

「うおっ!?」

「あれ?惚れちゃった?このミラちゃんの可愛さに惚れちゃいましたか少年よ!あちゃー、でもだめなのです。ミラちゃんは人妻で旦那様に尽くして尽くして尽くし尽くすような良妻なので浮気はしないんだゾ☆」


 いきなりニュッと言う効果音が付きそうな勢いで俺とカグヤの間に顔を出したのは、水色髪を小さくツインテールに纏めた美少女?童女?だった。目の横からキラッと星が出てる。物理的に。全蔵といい、なんでもありだなぁ…。

 レイオス=フィエルダー伯爵よりも見た目年齢は若く見える…。けど、口振りと振る舞い的に既婚者の模様。俺の中で実年齢と、見た目年齢が噛み合わなさ過ぎて頭がパンクしそうだ。


「レオ様ったらお話が大好きなんで少しでも長く話そうと回りくどい話し方するんですよ~」

「黙れ。」

「こんなツンツンしてますけどお嫁さん達にはデレデレだし、子供大好きで、身内に甘々なんです~。きゃー、可愛い!エリーの事も大好きな癖に~!!」

「二度言わせるな。黙れ。」

「ほら、否定しない辺り事実なんですよ~、これエリーが小さい頃に見栄張って否定したらエリーが大泣きしたせいで絶対に否定しないんぁぁああミラちゃんの頭蓋骨が砕けるぅぅぅうう!痛い!痛い!洒落にならないくらい痛い!」


 いつの間にかレイオス=フィエルダー伯爵の椅子の横に移動していたミラさんは、レイオス伯爵の頬をツンツンとつつきながら、付き合いの無い俺でも辞めた方がいいと思うくらい煽りに煽る。あ、アイアンクロー食らってる。ミシミシ音がここまで聞こえるけど大丈夫だろうか。


「見た目に反してツンデレなお方なのでござるな」

「美味しいのでオーカちゃん的にはツボです」

「ほう?この俺をそのように称するか。」

「うぇ!?」


 全蔵のぽつりと呟いた一言に反応したレイオス=フィエルダー伯爵。

 玉座の近くに置いてあった剣を手に取ると、こちらへと近づいてくる。


 ちょっ、完全にお怒りだよ。何してくれてんだ全蔵!?あれ、怒らせていい相手なの!?謝れば許してくれるの!?あ、周りの兵士の人達が切腹の準備始めてる。なに、不敬な発言をさせてしまったことへの悔い改めなの!?絶対許されないやつじゃないか!!


「あまり舐めた態度を取るようなら…この剣が黙って無いぞ。」


 鞘から刀身を抜いたレイオス=フィエルダー伯爵。その剣の刃は漆黒と言うべきくらい真っ黒で…あの剣やばい…エミリアさんのドインネトラや、白帝を前にした時よりも本能的に不味いと分かる…!!


『はいはい、どーも!どーも!愚かなる人類エブリワン!!神具序列第一位のネーザちゃんです!あんまりうちのご主人虐めるとこの私が黙ってませんよ!?もう、プンスコ!!』


 静まり返る部屋の中。


 剣が喋った……?


「御館様…その芸は御館様の放つ圧が強すぎて笑う所ではないので意味が無いとあれ程お伝えしましたが…?」

「《白帝》を葬った相手だ。見てみろ、全蔵は笑っているぞ。」

「死を覚悟して、助かった事による安堵の笑みです」


 芸…?エミリアさんは何を言っているのだろうか…あ、「この剣が黙って無いぞ。」と言って実際に剣が喋ることで比喩では無いと言うお笑い………伯爵…辛いよ。家族と談笑しながら見るテレビなら笑ったかもしれないけど、エミリアさんの言う通り、あの圧の中じゃ頭の中がいっぱいいっぱいで、そんなこと考える暇もないよ。


「そうか。騒々しくして悪いな。ミラとこの剣は少し次元の狭間に閉じ込めて置いたから一時間くらいは静かになるだろう。そうだな…そろそろいい時間だ。食事にしよう。」


 次元の狭間ってどこだろうか。ミラさんと剣さんが黒い靄みたいな何かに吸い込まれて消えていったが大丈夫なのだろうか。一時間で帰ってくるってミラさんと剣さんに何か言った方がいいのだろうか。


「ハツ。案内しろ。」


 そんなこんなで俺達はフィエルダー伯爵家で昼食を頂くことになった。


 既に帰りたいよ。



「詫びだ。食事が来る間、聞きたい事を何でも一つ答えてやる。何でもいいぞ。」

「はいはい!さっきミラさん…?が嫁さん達って言ってたんですけど、お嫁さん何人いるんですか!?」

「この世界には六人だな。先程のミラとハツ、それと一人は姿を隠して護衛をしている。もう一人はこの屋敷の家事をハツと共にしている。もう一人は拉致されている。最後の一人は…まぁ、近い内に会うだろう。」

「ら、拉致…」


 長テーブルを予想していたのだが、意外にも中国のイメージが強い回転テーブルだった。フルコースでは無く、多くの料理がテーブルの上に並ぶ感じでどれも美味しそうだ。

 まだまだ途中なようで、レイオス=フィエルダー伯爵が質問を受け付けた瞬間、予想通りと言うべきか、オーカが食いついた。ついでに、予想外の答えにオーカがドン引きしている。


「では次は拙者から。どうしたらそんなにモテるでござるか!?」

「誰にでも紳士に振る舞うことを心掛けろ。そうすれば、自ずと見てくれる人がいる。」

「ありがとうございます師匠!」


 全蔵…ここはゲームの手掛かりを聞くべきとかそういうところじゃないのか…?いや、らしいと言えばらしいんだが…。


「次は私から。私は世界の統一を夢見ています。実現する為に何が最も大切だと思いますか?」

「食事の場には似合わないが、いい質問だ。俺は過去に三度、世界を一つに纏めている。人種無き世界。差別無き世界。国境無き世界。どれも骨の折れたものばかりだった。その経験から言えるのは『価値観は変えられる』と言うことだ。そちら側は価値観と言う言葉で他人を尊重し、目を逸らし、逃げているが、人の価値観は変えられる。それを覚え、全てを賭けて望めばいつかなせる日が来るだろう。まぁ、後は他にとらわれないことだな…。」


 ミサキさんの質問に答えるレイオス=フィエルダー……レイオス伯爵でいいや。レイオス伯爵は少し楽しそうに、何かを懐かしむように語る。

 それより、世界を三度統一しているって、この人、実はこのゲームで、カグヤや《白帝》が霞むくらいに重要人物なのでは…?


「他ですか…?」

「残念だが質問は一つまでだ。他愛も無いものならいいが、俺の成功者としての経験と知恵は必ず世界統一への覇道を近道へと導くだろう。故にまた『アヴストュニール商会』が何か大きな事をした時に場を設けよう。」

「その言葉だけで十分です」

「安心してくださいミサキ様、御館様は先程、ミラ様におしゃべりと言われたことを気にしているだけです。普段なら教えてくれますので」

「エリ…」


 棘のあるエミリアさんの言葉にバツの悪そうに眉を下げ、怒るに怒れないもどかしいのがよく伝わる顔を浮かべるレイオス伯爵。


「プリン…ありますか…」

「ある。好きだったと記憶していたのでな、特別に用意させた。好きに食べるといい。」

「ありがとう…ございます…」

「気にするな。理由はあれど、こちらとしても罪悪感はある。貴様に関しては出来る限りの便宜を図ろう。」

「勿体ない…お言葉です……」


 口振りからして二人は知り合いなのだろうか?

 普段から大人しい印象があるとは言え、数千、数万年以上を生き、月の姫であるカグヤがここまで萎縮するとは…レイオス伯爵は本当に何者なのだろうか。


「最後だが…何が聞きたい?」

「えっと……レイオス=フィエルダー伯爵の立ち位置が上手く掴めてなくて…」

「立ち位置か。簡単に言えば『世界の浄化装置』いや、『調停者』の方が適切か…?まあ、傀儡には変わりない。嫁の一人と俺の性格、世界の命運、生きとし生きる全ての生命を人質に俺はこの世界が存続できるようこの世界に縛られている。」

「傀儡…」

「そう気に病む物でも無い。九割方が俺の性格から来るものだ。俺はただこの世界に留まればいいだけだからな。他は比較的自由だ。」


 レイオス伯爵の話を聞いて耳馴染みの無い物騒な単語に怖々としていると、レイオス伯爵がそっとフォローを入れてくれる。

 最初はドライな感じで、カグヤと同じく感情が顔に出にくいが、凄く人柄のいい人だと言うことがこの短時間でよく分かる。


「一通り質問が終わった所で食事と行こうか。」



 食事が終わった後、俺達は小休憩を挟んでトマス=ヤリス男爵の屋敷に行った時と同じく応接間のような場所に通されていた。


「一度引っ掛かっているとは言え、そう警戒するな。俺も久しく楽しい時間を過ごせた。その相手に損得の駆け引きなどしない。」


 トマス=ヤリス男爵にいっぱい食わされたミサキさんとすれば、この場所は苦い思い出が溢れる場所で、最初に来た時のように緊張している様子を見せていたが、レイオス伯爵の一言で少しは和らいだようだった。


「我が家の味は口にあったか?」

「とても美味しかったです」

「あれだけ気持ち良く食べて貰ったのだから聞くまでも無かったか。後で料理を作ったシムルにも伝えて置こう。」


 昼食として出てきたのは皆の好物を的確に抑えたもので、和洋中から海外、見覚えの無いものまで全てが美味しかった。

 カグヤは早々にプリンを大食いしていたが、レイオス伯爵も卵焼きをこれでもかと食べていた。本当に好きなんだな…。


「単刀直入に言おう。依頼を二つ出したい。一つは近い内で構わないが、もう一つは直ぐに動いて欲しい案件だ。」

「その内容は?」

「一つは聖女の願いを聞くこと。しかし、願いを叶えるかはそちらで決めて構わない。もし叶えるとするならば、オーキを話し合いの場に連れて行くといい。すぐに解決するが、その後に起こる不都合も含めて考えてくれ。空いている日をエリにでも連絡を貰えば聖女をそちらに向かわせる。」

「一度帰って検討させて頂きます」


 俺を連れて行くと解決する…?聖女様?さん?に面識が皆無なのは確かなのだが、何故俺が出てくるのだろうか。

 聖女…聖なる女の人…思いつく所だとオルレアンの乙女であり、聖人のジャンヌ・ダルクだろうか。立ち位置的には同じなのだろうか…ここら辺は俺の勉強不足だな。後で全蔵にでも聞いておこう。


「もう一つに関しては『ジェノサイド』への指名依頼だと受け取ってくれ。最近、複数の街のスラムで子供の誘拐が頻発している。あまり良くない噂も聞こえてきていてな…そこはスラムじゃよくある話の一つではあるが、そこに俺の……知人と言うべきかは分からないが、行方不明でな。その噂に巻き込まれた可能性がある。詳しい資料はこれだ。俺はこの屋敷から出るには色々と制約があって自由には動けん。幾つか宛もあって頼んでいるものの、成果が上がらなくてな…頼まれてはくれないか?」

「オーカ、どうする?」

「闘技大会とか色々あるからなぁ…出来れば受けたい所だけど…」

「束縛する気は無い。動いてくれるだけで十分だ。」

「それなら……分かりました。受けます」

「無理を言ったな。依頼は前金で三千万。後は歩合で渡そう。」

「さっ!?」

「まじでござるか!?」

「貴族の見栄だ。三日後にこの件に当たっている奴に持たせて向かわせる。噂の詳細はそいつから聞いてくれ。」


 人探しをするだけで三千万…いや、前金だと言っていたから成果が出なくても三千万…?

 本人曰く、というより周りの反応を見ているとレイオス伯爵って俺の想像している何倍も偉い立場の人みたいだし、捜索対象ももしかしてかなり立場の上の人じゃ……。


「よろしく頼む。」

「リュエリーちゃんのことよろしくねー!」

『ではでは皆様、またお会いしましょう!!次会う時までに生きてたらの話ですけどね!』


 いつの間にか帰ってきていたミラさんと、剣さん(?)に見送られ、今日はこれで解散となった。



「レオ様、あれって本人に言わなくていいんですか?気づいていないようでしたけど」

「本人がそのうち目覚めたことに気がつくだろう。『英雄昇華の儀(ヘロス・フロスカーレ)』もまだ最初の段階。本来なら俺直々に稽古を付けたい所だがな…」

「その為にアマネットを傍に付けたんじゃないんですか?」

「あれはたまたまだ。別にお前でも良かった。」

『八番目の彼はこちら側に来るでしょうかね~?』

「さあな。そこは本人の意思次第。天珠を全うした後に決めることだ。今は本人の人生がいい方向に向くことを願っておけ。」


 

《後書きのコーナー》


[今話の感想&次回予告]


オーカ「こ、怖かった…」


オーキ「結果的に面白くていい人だったけど、あれはビックリした…」


オーカ「それにしても、レイオス=フィエルダー伯爵なんて公式設定に乗ってなかったような…?名前も灰色じゃなかったし」


オーキ「シナリオ的にもっと重要人物とか、設定は大きいけどシナリオには大きく関わってこないとか?」


オーカ「どちらにせよ、ツンデレショタジジイは美味しい…もう満腹です。次回『拙者だ。お前だったのか、全く気づかなかったぞ。』」


オーキ「伝わりにくいですが、俺の転校回なので現実世界に戻りマース!!」



[設定暴露]


名前:レイオス=フィエルダー

性別:男

年齢:●●●●歳

種族:●であり、●●●でもあり、●でもある。

爵位:伯爵


《IPO》のゲーム開発時、NPCに極めて人間らしい思考と感情を持たせた事で起こるシナリオ、ゲーム仕様上の不都合を緩和する為に復元(コピー)された存在。


 フィエルダー伯爵家の屋敷外へ出るというシステムが存在せず、身体的能力は一般男性と変わらぬ程弱いが、復元した際の《叡智》によって多くの事柄に介入している。

 

 《IPO》世界での最古の文献に出てきたのは七千万年前。しかし、シナリオの都合上でレイオス=フィエルダーという存在は世界に配置されている時とされていない場合がある為、正確な出自、年齢などを本人又は本人に近しい存在に直接聞かない限りは知る事は出来ない。


 他にも色々ありますが、取り敢えず暴露はここまで…。

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