第一話 危ぶまれる妹の地位。ゲームにログインしたらいつの間にか妹が一人増えていた件について!明日発売予定!税込748円!
☆ sideーオーキ=ペンデレエーク
学園で用事を済ました後、家に戻って朝食を食べて家事を一通り終わらせた。桜華と全蔵は何やら夏休みの課題がまだ終わってないらしく、今は最後の追い込みをしているそうだ。
《IPO》のお誘いをする為に電話を掛けたのだが、桜華は『仕事が…!仕事が悪い…!』と、全蔵は『依頼が…!依頼が来なければ…!』と嘆いていた。依頼ってなんだろうか、俺、気になります。
「こんちは~」
暇が出来たので午前十時半頃、《IPO》にログイン。
前回のログアウトが商会の『ジェノサイド』共有の部屋だったので少し廊下を歩いて商会のエントランスホールに顔を出す。
大抵、仕事や依頼が無い人、狩りに行くにも少し面倒だなって人は大体ここに集まって適当に喋っている。
「おー!若様、こんちー!」
「やほ~」
俺が挨拶をすると、中央のテーブルに集まってる五人が口々に挨拶を返してくれる。
「オーキは何飲む?」
「あー、コーヒーでお願いします」
「ブラックね。ホット?アイス?」
「アイスで」
皆と合流し、空いてるソファに腰掛けるとミサキさんが気を利かせて飲み物を用意してくれる。
有難くコーヒーを頂戴し、一息。
「若様、まだ出歩けないか?」
「もう暫くは難しそうです。昨日の夜も出てみたんですけど、一瞬で囲まれました」
「プレイヤー三割、NPC七割って感じだったな」
「まさかNPCが取り囲んでくるとは誰も予想できなかったわよ」
ここにいるメンバーは俺を除いて五人。ミサキさん、ササキさん、ムラムラマサさん、それと俺とは違う戦闘部隊のリーダーをしているチャボさん、それと先日の一件から商会で暮らしているカグヤだ。
カグヤは俺がソファ空いてるソファに腰掛けると、何も言わずに隣に移動してきて、ササキさんから貰ったプリンを黙々と口の中に放り込んでいる。空の容器の数が凄まじい。
「ありがとうございます」
「あ、そう言えばカグヤなんだけど」
「あぁ、どうなりました?」
カグヤを商会で引き取って以来、他のスラムから連れてきたNPCと同じ処遇でいいのかと揉めていた。
カグヤ本人も、唐突に長い悪夢が終わった事でまだ漠然とした事実が掴めておらず、何がしたい、こうしないといけないという明確な意思が無い。
童話のかぐや姫と同じく月からお迎えが来ると考えだが特にそんな気配も無く、商会でダラダラと何もストレスのない日々を満喫しているようだ。
「オーキの妹で戸籍作ってきたから、取り敢えずは商会のメンバーとして迎える予定よ。あ、これカグヤの戸籍謄本ね。まさかゲームのアイテムで戸籍謄本を手に入れるとは思わなかったわ」
「え…?」
「オーキも後で色々と手続きしに行くから付き合ってね」
ふと隣に座る小柄な少女を見つめると…
《カグヤ=ペンデレエーク/Lv2/月住の姫》
「oh......わけがわからないよ」
「わけわかんないよね」
「何ですこれ?俺、魔法少女的な契約結ばされる感じですか?」
「まっ…まほっ…っ…くくっ…少女って……」
「チャボさん笑いすぎです…それで何故俺の妹に?」
「本人に祖母、妻、妹、姉、娘どれがいい?って聞いたら無視されたのであみだくじで決めました」
「あみだ……そして俺の血縁関係は確定なんですね」
「そっちの方が絶対面白いから!」
くっ…なんていい笑顔してやがる…。
それよりも、プレイヤーとNPCが義理(?)とは言え、血縁関係になる事が出来るとは…このゲーム、底が知れないな。
「カグヤは妹で良かったのか?」
「別に…」
俺の問いかけに小さく答えたカグヤは目の前に山積みされた空の容器を更に積み上げる。
「この子、オーキ以外と話さないのよ」
「そうなのか?」
「違う……お菓子…頼んだ」
「あぁ、俺んとこ来て『お菓子』って一言、プリンの空の容器と一緒に」
「あぁ、それ前に俺が食べさせた奴の…それ、会話じゃなくて要求一方的に押し付けただけじゃ…」
長年、《白帝》という存在は誰にも倒される事が無かった。その中でカグヤは生きたいという思いと、巻き込みたくないという思いの中で生きてきた。その中で、誰も自分に関心を持たないように。気にかけないのうに、一人ひっそりと、誰の助けを求めずに人生を何度もやり直していた。
その姿勢を長年繰り返してきたせいで、人との距離感というか、接し方が掴めていない…のだと俺は思う。
これはそのうち時間が解決してくれるだろう。元からカグヤがこういう性格だったらあれだけど。
「まあ、騒がず、喚かず、あっちいったりこっち行ったりしないから手が掛からなくていいんだけどね。あ、カグヤの部屋は『ジェノサイド』の隣の小部屋ね」
「あれ、隣に部屋なんてありました?」
「改造したのよ。阿ちゅ羅がオーキの近くがいいだろうって壁ぶち抜いて」
「強度的に問題は…」
「まあ、そこは様子見で」
このクランホームの中で『ジェノサイド』の部屋は取り分け大きい。
《IPO》の仕様として部屋の大きさによってログイン、ログアウトのポイントとして使える登録人数が変わり、部屋の中にある共有のアイテムボックスなんかの容量も変わってくる。
『ジェノサイド』はまあ、チーム毎に動くこともあれば、個人であっちこっち行くことも多いようなので抱えてるアイテム数が多い。あと、見栄え的に『ジェノサイド』はこの商会の顔でもあるので大きい部屋をという外界向けの理由もあると以前、ちらりと耳に挟んだ。
「オーキもこれからカグヤと相部屋ね。こっちから依頼がある時とか、遠出する時はあれだけど、基本的にはオーキにログインしている間はおまかせするから」
「えぇ…任されるのはいいですけど、相部屋って…カグヤ、見た目は小さいですけど、数千歳。下手したら数ま…ぐふっ……何故セーフティエリアに攻撃判定が…」
「余計なことは……言わなくていい…あと…小さくない」
いきなり横から飛んできた鋭い手刀。脇腹の柔らかいところが的確に抉られる。
痛い…凄く痛い。俺は横にいるカグヤを恨めしそうに見ると、カグヤもまた恨めしそうにこちらを見ていた。
それよりも何故セーフティエリアで攻撃判定があるのかの方が疑問だった。
こういう街中や、運営側が指定したセーフティエリアと呼ばれる場所では攻撃がそもそも無効される。普通に手を握ったり、肩を組んだり、喝を入れる為に背中を叩くなどは構わないのだが、恣意的に相手を攻撃すると透明な壁に阻まれてしまう。
「なるほどね。セーフティエリアでプレイヤーからプレイヤーへの攻撃は運営仕様で禁止。プレイヤーからNPCもクエストなどの一部を除いて禁止。NPCからプレイヤーは問題無いけど、このゲーム世界の法律的に禁止されてるから皆しないと……」
「これまで分からなかったんですか?」
「誰が好き好んでNPCに攻撃判定食らうようなことするのよ……《IPO》って対応VR機器がここ二世代くらいだから値段張るし、年齢層がほかのゲームに比べて高いから常識人が多いの。マナーがしっかりしてるというか…《IPO》みたいな皆が待ちに待ったVRMMORPGで垢BANの可能性がある行為は皆しないのよ」
それに、NPCとそこまで仲のいい人がいないのも一因ねとミサキさんは付け足す。お店に通ったり、クエストなどで親密度を上げて仲良くなることもあるけど、現実のように気軽にど付き合う…という言い方は悪いが、そこまで親しげな関係を築いてる人間はミサキさんは知らないという。
「ほんと、このゲームって平和だよね~」
「んまぁ、こんな隠居爺が楽しく充実した生活送れてんだから平和だろうな」
「ある程度の衝突はあるとしても、運営の対応も早いし、どこのクランにも潤滑油的な面倒見のいい人が一人はいるのが救いね。一部は例外として」
「一部は違うんですか?」
「特段、気にする必要は無いわよ。このクランにいる限りは大丈夫でしょうから」
よく分からないが、ミサキさん…というより、このクランにいる皆は俺が知る情報を結構絞っているらしく、こうやってはぐらかされることが度々ある。
ネット関係に弱く、初めてのネットゲームで俺が精神的に傷つかないようへの配慮だろうが、いささか気になるポイントで話を区切られるので気になってしまう。とは言っても、わざわざその厚意を無下にするわけにはいかないので自分で調べたりとかはしていない。
少し無理なはぐらかし方をしたせいでミサキさんがバツの悪そうな顔を浮かべている。こういう時は話題を変えるか、話題を変えられるようなアクションを起こすのが望ましい。
ということで先程から隣で美味しそうな甘い匂いをさせて、ぱくぱくもぐもぐとプリンを食べているカグヤが羨ましいので俺もアイテムボックスにあるプリンと木のスプーンを取り出して食べ──────
「あっ……」
スプーンの上で小刻みに震え、柔らかな感触を口の中に入れていないのに視覚的にその口溶けを存分に表現している黄色の妖精。口の中は既に口の中に入れた時に感じる甘味を想像し、その甘味を今か今かと待ち構えている。
なのに、俺の口の中は木の味が広がっていた。
横からカグヤが俺のスプーンに食いついて横からプリンをかっさらって行ったのだ。
「無くなった」
「あれだけ食べただろ?これ、最後のプリンなんだ。俺も食べたい」
「食べ足りない」
これは戦争が始まるようだ。一進一退の攻防。フェイントを混じえながら必死にスプーンを口の中に運ぼうとする俺と、それを雛鳥のように口を開いて奪おうとするカグヤ。
「さ、最後の一口が……」
「油断大敵…」
空を切るスプーンと、胸を張り、声のトーンを少し明るく自慢げに話すカグヤ。
最後の一口を奪われ、トータルを見れば一個のプリンを半々に分けただけだが、最後の一口はプリン半分の価値があると俺は思っているので俺の負けである。
「仲良いわね」
「ほれ、プリンの追加だ」
「俺も食べよーっと」
「私も一つ貰うわ」
だが、ここでササキさんからの援護射撃。机に新たに二十個のプリンが。
俺は迷わず一番できのいいであろうプリンを取る。容器越しに分かるこの滑らかさ、カラメルの焦がし具合。絶対美味いやつやん…!
「くぅ…美味しいっっ!!」
「一口」
「自分のがあるだろ?」
「それが一番美味しい」
「見抜いていたか…一口だけだからな」
「ほんと仲のいい兄妹ね」
☆
「課題を終わらせて来たら妹が増えていた…ママに知らせなきゃ……」
「それ、父さんが殺される奴だぞ」
時間は飛んで夜十時頃。夏休みの課題をギリギリで終わらせたオーカがログインしてきた。とは言っても、ログインした時間はほぼ同じ。
カグヤと街を見ていたら電話が掛かってきて勉強を教えてくれと泣きついてきたのでログアウトして通話しながら教えていた。
…分からない所を纏めて覚えて、ゲームの中で聞けば体感時間が三倍に伸ばされている《IPO》ならもっと早く終わったような気もするけど、言わぬが花だろうか。
そして現在、膝から崩れ落ちて『アイデンティティが』と呟いているオーカを放っておいて、同じく『勉強は分かるでござるが一人は寂しいよぉぉぉぉ』と泣きついてきた全蔵と引越しの準備をする。
と言っても『ジェノサイド』の部屋から隣のカグヤとの相部屋へアイテムを移していくだけなのでそこまで時間は掛からない。
「そう言えばオーキ殿は明日暇でござるか?」
「明日は、そうだな。向こうも引越しの準備とかあるけど夜はログインできると思うぞ」
「明日、《白帝》の事でこの街の領主から呼ばれているので行かないといけないんでござるよ」
「領主?そこまでいるのか」
「行くメンバーはミサキ殿と、『ジェノサイド』のメンバーで行ける人だけなのでござるが、オーキ殿はどうかなーっと」
「大丈夫だ。九時くらいならログインできる」
それにしても貴族か…言葉の響きだけで凄そうだが、実際のところはどうなのだろうか。
そう言えば小中学校の同級生に名家の生まれの女の子が……九竜寺だったっけ。当時は消極的な大人しい子というイメージが強かったが、今思うと大人びてたなぁ。あと、お母さんが語尾に「ざます」って付けてたのは覚えてる。貴族とか偉い人ってざますを語尾に付けるのだろうか。
「拙者達も何度か会話をしたことはあるものの、こういった場を設けてするのは初めてな故、結構楽しみなのでござるよ」
「なんか堅苦しそうだけどな」
「本来ならそうなのでござるが、このゲーム、年齢層は高いとは言え中高生もいるでござるし、結構NPCが使う言葉は耳馴染みのある言葉が意図的に使われてるでござるよ?貴族もイメージと少し違えど、あぁ、なんか大人ぽいなって感じの話し方でござる。なので想像よりかは話しやすいと思うでござるよ」
「全蔵とは真逆だな」
「え?拙者の話し方の節々から知性を感じるって?」
「感じるのは胡散臭さだけどなぁ~」
特にその語尾の『ござる』とか。
まだゲームを初めて間もない俺の荷物は驚くほど少ない。ものの十五分で移動が終わり、時間が余ったので全蔵とエントランスホールの方へ向かう。
「オーキ殿、転校はいつ頃で?」
「4日かな。準備は2日にでも終わるんだが、制服が」
「ほうほう、同じクラスになれるといいでござるな」
「ずっと話しかけてきそうでウザそう願い下げだけどな。というか、クラス違くても毎放課遊びに来そうで怖い」
「失礼な。その通りでござるが、決めつけるのは良くないでござるよ」
「その通りなのかよ…」
「まぁ、クラス名簿を操作して同じクラ…げふんげふん」
「おい、ちょっと待てよ。何サムズアップしてるんだ!?嘘だろ?おい、早く嘘だと言え!!」
《後書きのコーナー》
[今話の感想&次回予告]
オーカ「私は帰ってきた!!!」
オーキ「確かに久しぶりの後書きだな」
オーカ「というかオーキ兄、妹が増えてるんですが!?シスターズ出来てるんですが!?あと二万人くらい増やす予定でもあるんですか!?レベル6計画ですか!?!?」
オーキ「いや、よく分からないけど文句ならミサキさんに言ってくれよ…俺もビックリしてるし、夢なら覚めて欲しいくらいだ」
オーカ「そのふざけた幻想をぶち殺す」
オーキ「女の子が殺すとか言っちゃいけません」
オーカ「は~い!てかてか、次はあれですか!?ついにさく兄が私の学校に転校ですか!?」
オーキ「いや、まだだな。《IPO》でやらないといけないことが沢山」
オーカ「は~っ!貴族なんて出会い頭に黒布被せて視界を奪った後に膝を股間に当てて天に召しちゃえばいいんだよ!」
オーキ「いや、言葉遣いを丁寧にしろというわけでは…はぁ…もういいや。次回、『おーっほっほっほ!パンが無ければパン生地を200℃のオーブンで15分から20分ほど焼きあげればいいザマス!!』」




