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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第一章 鎖縛の姫に月下のメリークリスマス
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第四話 妹との再会は、滅殺・アビスナート・貴志四世の衝撃を上回る。


「ここが…」


 イリーちゃんと別れ、目を開けた先に俺が見たのは大きな街だった。

 大阪という人の多い場所に住んでいる為、人の多さには慣れているものの、目の前に映る光景は思わず声が出るくらい常識離れした感慨深い光景だった。


 アスファルトとはどこか違う感触の石畳が地面に敷き詰められ、大通りであろう目の前の道を挟むようにレンガ造りの建物が並ぶ。

 その建物もどれも背が低く、大きくて三階建て程で、マンションが立ち並ぶ大阪とは大違いだ。

 従来の人の格好も、カラフルで華やかな現代の服とは違い、薄目の色が多く、素人目だが、機能性に長けているように見える。


 ふと歩みを進めると、石の上を歩く独特な抵抗感と、イリーちゃんの言っていた初期装備であろう『革の軽鎧』が思ったりよりもずっしりとした感触を体に伝える。


「本当に別の世界に来たみたいだ…」


 小さく並ぶ屋台から香る肉の焼けるこおばしい匂い、耳を掠める人の声、少し乾いた唇。


 だけど、決定的に違うものがある。


「体が痛くない…」


 体を壊してからは常に体を庇うように歩いてきた。それでもふとした動作で体が痛み、顔を歪ませていた。

 だけど、その痛みが無い。むしろ、現実よりも体が軽く、動きやすい。


「えっと…」


 この一ヶ月と少しで染み付いてしまった体を庇う歩き方を少しずつ直しながら、俺は視界の右下に映る小さな円を右手でふれる。

 すると、イリーちゃんといた空間で見たようなウィンドウが目の前に広がる。


「プロフィール…装備……マップ、マップ…」


 項目が並ぶウィンドウをスライドさせて、イリーちゃんに教えて貰ったマップを探す。


「ここがダッカスストリートだから……噴水はあっちかな?」


 マップを見ながら、桜華と待ち合わせている噴水の方へ歩いていく。

 噴水は街の中央にあるようで、歩いていくと自然と周りに人が増えていく。


「おっと、どいたどいた!」

「おじさん、少し安くしてよー!」

「奥さん!今日の夕飯はもう決まってるかい?この肉、少し高いが、美味しくてねぇ」


 道の中央を忙しく馬車が通り、テレビで目にするような賑やかな商店街の風景や声が届く。


「あれもイリーちゃんみたいなノンプレイヤーキャラクター…えっと、NPCなのか?」


 イリーちゃんは明らかに普段目にしないような奇抜な格好をしていたので何となくゲームの世界なんだなと認識することが出来たが、雑貨屋で値切りをする女の子や、商品を売り込む男性は現実に近く、早くも俺の認識が少しずつ現実と混じっていく。


 イリーちゃんはその人を少しじっと見つめれば名前が表示されて、名前の色を見ればNPCかどうか分かると言っていた。


 男性プレイヤーが青。

 女性プレイヤーがピンク。

 NPCが緑。

 あとゲームにとって重要人物?が灰色

 最後にゲーム内で違反行為や、人を傷つける行為をした人が赤色だったな。


「あ、本当に緑だ」


 値切りをしている同い年くらいの女の子を少し見てみると《アカリ/Lv12/調薬師見習い》と緑色の文字で表示された。


 調薬師って薬剤師みたいなものかな?と考えていると、噴水にたどり着いていた。

 視線を動かして、それらしい人を探す。


『 welcome to お兄ちゃん 』


 そしてそこで見たのは大きな断幕だった。



 俺 は 思 考 を 停 止 さ せ た 。



 落ち着け。落ち着け俺、これまでの野球人生の中でも想定外の自体は沢山あった。


 バットを普段から帯刀し、抜刀バット流などと駄洒落かよと言いたくなる頭の可笑しいバッティングをしながらも打率四割を越える武士高の宮本と戦った時だって冷静だった。


 試合中、審判を買収してストライクゾーンをボール一個分まで狭めてくる(後日連盟を追放された)成金高校の西園寺と対戦した時も三振をもぎ取った。


 闇の力が右瞼の裏側に封印されていて試合中に疼いて人格が入れ替わり、発狂し始める滅殺・アビスナート・貴志四世ともUー18でエースの座を奪い合った時もいつもの実力を発揮して背番号1を勝ち取った。


 よし、頭はクールに。


 もう一度冷静に見直そう。


 大きな街のど真ん中、人の数はざっと数百人。子供からお年寄りまで老若男女問わず、家族から恋人、友人、様々な関係性の人が集まっている。


 そのど真ん中に、でかでかと掲げられた横断幕。


『 welcome to お兄ちゃん 』


 駄目だ、頭の中が理解するのを拒んでいる。


「さく兄やっほ~。長かったね、キャラメイクそんなに悩んだの?」


 うんうんと頭を悩ませていると、後ろから声がかかる。

 耳馴染みのある声、顔を見なくても桜華だと分かる。

 だが、少し大人びたその声にゲームの中とはいえ、久しぶりに会う為、成長が楽しみだと感じる。


「悪かったな、勝手が分からなかったもんで色々と悩んだんだ…あれ?」


 謝罪をしつつ、振り返ると、そこにいるはずの桜華の姿が無い。


「さく兄、下だよ。みさ~げてごらん~?」

「わっ!?」

「にししっ、流石大阪にいるだけあって師匠のネタは完璧だね。リアクションもいい感じだよ」


 聞きなれたリズムに思わず視線が下を向き、自然とリアクションを取ってしまう。

 そして、ようやく視認した桜華の姿は…。


「なんか、縮んだか?」


 凄く縮んでいた。小学生中学年くらいの小柄な体躯、腰まであろう黒髪は頭の横でツインテールにしている。

 そして目に入るのは黒、黒、黒。圧倒的なまでの黒。

 髪と目は現実で慣れ親しんだ黒。顔は子役をしていた頃よりも、少し西洋風?外国人ぽい顔立ちだが、小さい頃の面影は残っている。

 そしてなんと言っても服、友人が好きなキャラクターが着ていたゴスロリ?というドレスにフリルをこれでもかと使った真っ黒な服。

 赤色の大きなリボンが胸元に一つと、両腰に二つ、頭の上に乗ったメイドさんのような白色のフリフリのカチューシャとリボンと同じ赤色の小さなシルクハット以外は本当に真っ黒だ。

 いやでも、フリルはところどころに白色を使っているが、膝下まであるヒールブーツも、少し肌の透けたタイツも黒色。


「こういうキャラメイクだからね。さく兄は人族にしたんだ…ふーん……よいしょっと」


 ぱっちりとした黒色の瞳で値踏みするように俺を観察する桜華は、俺の身の丈より大きい大鎌を軽く持ち上げると、肩に担ぐ。


「お、桜華は違うのか?」

「うん、私は死神族、最初はさく兄と同じ人族だったけど、イベントクリアで死神族になったの」

「そうなのか…それでその大きな鎌は?」

「これが私のメイン武器。小さい女の子が大きい武器振り回すってロマンじゃない?」

「いや、分からん」

「これは刷り込みが必要だね~、まぁいいや。ご飯は大丈夫?大丈夫なら知り合いにさく兄の事紹介したいから移動するけど…」

「うわっ、もうこんな時間か…すまん、夕飯食べてくる」

「あ~い、行ってらっしゃい。私はあの横断幕を片付けながら待ってるから」


 時刻を右上にうっすらと表示された時間を見ると19:12。ゲームの中ではまだ明るいのに妙な感覚だ。

 ひらひらと手を振って俺を見送る桜華に詫びを入れながら、ウィンドウを開いてログアウトする。


 というか、やっぱりあの横断幕お前か…。



 夕飯を終えて再びログインすると、まだ見慣れぬ姿の桜華が待っていた。


「取り敢えずフレンド登録するから…まあ、メルアド交換みたいな感じかな」

「了解」

「移動しながら話そうか」


 桜華がウィンドウを操作すると、俺の目の前に《オーカ=ペンデレエークさんからフレンド申請があります。承認しますか?Yes/No》とウィンドウが表示される。

 俺は『Yes』を選択すると、歩き出す桜華に着いていく。


「ここからは私のことを桜華って呼んじゃだめだからね?私もオーキ兄って呼ぶから」

「えーっと、オーカって呼べばいいのか?」

「うん、ちょっとした違いだけどネチケットだから」

「ネチケット?」

「ネットの中でのエチケット。略してネチケット。こういうネットゲームだとルールとして明言されてないけどしちゃだめーって事があるんだよ、現実と同じでね。その一つめが個人情報かな?知り合いや自分の個人情報を他言しない、相手の個人情報を聞かないとかね」

「それはなんとなく分かるかな」


 俺の答えになら良かったと人懐っこい笑みを見せるオーカ。

 他にもイリーちゃんに聞けなかったあれやこれやを聞きながら街の中を移動する。


「そう言えばオーキ兄のナビPCは誰だった?ランスロット?ベディヴィア?あ、ナビPCってのはキャラクターメイクの時に案内してくれた人の事ね」

「イリーちゃんっていうスーツ着たピエロだったな」

「う~ん聞いた事無いな~…あのナビPCはアーサー王伝説に出てくる円卓の騎士の名前が使われてるんだけど、イリーなんていたかな…まあ、後で調べてみるかな」

「そのナビPCが違うと何かあるのか?」

「うん、マスクデータって言ってプロフィールとかには見えない数値とかのことをマスクデータって言うんだけど、ナビPCによって色々と補正が入るみたいなの。はっきりとしたのは分からないけど、成長が早かったり、数値の伸びが良かったり、色々あるみたい」

「へ~、でも見えないと実感ないよな」

「まあ、そこはとらえかた次第ってことだねっと、ここだよ」


 オーカと雑談しながら歩くこと十五分程、着いた場所は…


「『アヴストゥニール商会』…?」

「私が所属してるクラン…プレイヤーの集まりかな。野球でいうと野球がゲームで、選手がプレイヤーって考えるとクランはチームって所かな」

「クランについてはイリーちゃんから少し聞いてる。数百人が集まる大規模なところもあるって」

「うちはまあ、規模的には中堅かな?一応《IPO》内ではかなり有名なクランなんだけど、クランの趣旨が攻略じゃないから思ったように人数が集まらなくてね~」


 不貞腐れたように呟くオーカだったが、俺の意識は既に目の前の建物に釘付けだった。

 街並みのレンガ造りとは違い、一流ホテルのような透き通った白色の外見。

 三階建てと言っても、横に大きく、左右対称の形は思わず「ほぉ…」と知識も無いのに吟味してしまうほど美しい。

 以前、一度だけ見た事のあるホワイトハウスのような印象を受けた。


「どうかしら?ウチの技術者が造り上げた自慢の拠点(ホーム)は」


 文字通り見惚れてその場で立ち尽くしていると、後ろから声がかかる。


「クラマス、インしてたんだ」

「ついさっきね。その子が自慢のお兄さん?」

「そ。格好いいでしょ?運動神経も日本トップだから間違いなくVR向きだよ」

「あ~…やっぱお前、その為に誘ったのか」

「にししっ、後は染め上げるだけですぜ旦那ァ」

「あんまり調子乗ってると嫌われるぞ」


 振り返ると、そこには橙色のツナギを着崩して袖を腰に巻いて固定し、体のラインが出ることを一切気にしずにぶかぶかの黒色のタンクトップ一枚を身につけた女性がいた。

 ツナギと同じ橙色の髪を肩口で揃え、少し気の強そうな瞳は黒色。頭の上には安全ゴーグルがちょこんと乗っている。

 なんというか、自動車整備をしてそうな強気なお姉さんがオーカと親しげに話したいた。


「ウチはこの『アヴストゥニール商会』のクランマスターのミサキ。姐さんとか呼ばれることが多いけど、まあ好きに呼んでくれていいよ。よろしくね、お兄さん?」


 強気な瞳を和らげ、イタズラ的な笑みを浮かべたミサキさん。


 俺はなんとなく嫌な気がしてならなかった。

《後書きのコーナー》


桜樹「改めましてオーキ=ペンデレエークです」

桜華「オーカ=ペンデレエークでーす」

オーキ「いやぁ、ゲームの中は新鮮だな」

オーカ「ようやくゲームの中に入ったはいいけど、オーキ兄が初心者なせいで全く話が進まない…」

オーカ「一章のタイトルを回収出来るのはいつになるのか…」

オーキ「このペースだと四十…いや、五十…」

オーカ「正気の沙汰じゃないね!」

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