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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
間章 桜、再び芽吹くその日まで
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桜、再び芽吹くその日までー2

☆ sideー二三桜樹


「久しぶりだな…」


 新幹線に乗って大阪から名古屋駅へ。そこから普通電車に揺られて地元へ。途中、お土産を買うことを忘れたので名古屋駅で『東京ばな奈』を購入。


 …はい、俺が食べたかっただけです。


 今回は帰省目的では無いので着替えと先に持ち帰る為の小物が入ったボストンバッグ一つ。

 ぶらりぶらりと流石に一年半じゃそこまで変わらない街並みを見ながら家へ向かう。


 …それから十分ほど。家まであと半分という所で俺は一度立ち止まる。


 すれ違う人、すれ違う人に挨拶されるのは悪い気分じゃ無い。しかし、この大量の野菜、果物、漬物、etc……すれ違う毎に「ちょっとまってて!」なんて言われてどんどん渡される。遂には手押しの台車まで頂いた始末。


「夏野菜…もちらほら、キャベツ、人参、大根、みかん、グレープフルーツ、甘夏、伊予柑、金柑、これは…ジューシーオレンジかな?デコポンに、文旦、日向夏、ハッサク、ポンカン……怖いくらいに柑橘系ばっかりだな」


 この市内にはどれだけの柑橘系が集中しているのかと言いたくなるほど台車の中は柑橘系の果物でいっぱいだった。

 いや、全部美味しいからいいけどさ…。


 取り敢えず桜華に連絡しておこう。いきなり持って帰っても困るだろうし。



「お帰り&お久しぶり、さく兄。そしてそれは何?」

「十二分の一スケールのヒル〇ルブらしい」

「何故にガ〇ダム」

「なんか貰った」

「その後ろのは?」

「メディ〇ルマシーン。自分を宇宙の帝王とか名乗るちょっと変わった風貌の人に貰った」

「それドラゴンボ〇ルでベジ〇タが入ってたやつだよねぇ!?返してきなさい!!」

「え、でも、これ使えば傷が治るって…」

「いいから!ヒ〇ドルブもメディカルマ〇ーンもあとこれなに!?取り敢えず、全部返してきなさい!!」

「り、りょうかい」


 鬼気迫る桜華の表情に若干押されながら俺は貰った物を返すために……えーっと、トースターにルンバ、マウンテンバイク、遮光カーテン、椅子型VR機、中身の見てないアタッシュケースに、小切手、宝くじ……うん、後半が特に怖いから返そう。



「改めてお帰りさく兄」

「ただいま桜華」

「パパもママももう中で待ってるから早く行こ」

「了解」


 久しぶりの我が家を前に少し緊張しながらも門を潜る。

 我が家は家全体が塀で囲まれており、扉もほかの家に比べると重厚感がある。

 庭も俺と父さんが自主練で使う為に屋根付きのブルペンや、バッティング練習用にバッティングマシーンも置いてある。他にも母さんの趣味の園芸スペースなどもあり、中々…というより、普通に広い。父さんを含め、桜華も世間では有名人の為、手軽に外に運動しに行くとスムーズに出来ない事が多いので運動が気軽にできる場所があるのはとても有り難い。

 家の外装は真っ白。三階建てで、屋上付き。四人暮らしには広すぎると言われるが、8LDKだ。一階は壁に防音ガラスが貼られたトレーニングルーム。ジムに行かなくても済むくらいの多くの設備が充実している。二階はリビング、ダイニングキッチン、和室、洗面所、浴室など。それと母さんの書斎兼、ちょっとした研究室。三階は各人の部屋。母さんと父さんは相部屋で、俺と桜華に一部屋ずつ。あとは桜華の衣装部屋だったり、俺と父さんの野球道具が入った物置になっていたり、母さんの研究資料が山積みになっていたりする。


 基本的に一階は、用がある時以外行かないので外から階段を登り、二階の玄関から直接入る。


「ただいま~」


 一年半振りに我が家への帰宅。特に変わった様子も無く、変に緊張したのが馬鹿らしくなったのは内緒だ。

 玄関を抜けてリビングへ桜華と共に入るとキッチンには母さんの姿が。父さんはどこかと視線を巡らせると普段使わない和室にちゃぶ台を置いて、その前に灰色の着物を着込み、あぐらをかいて目を伏せる姿があった。


 あ、面倒くさいやつだ。


 父は一言で言えば野球の天才。しかし、野球以外は非才も非才。残念な人だ。運動神経がいいかと聞かれると首を傾げたくなるし、頭は本当に悪い。未だにテレビの打ち合わせの資料に全部読み仮名を振らないと読めないくらいに悪い。

 本当に野球に必要な要素だけを伸ばし、他の一切を切り捨てて積み上げてきたのが父さんだ。


 日本ナンバーワン選手の呼び声の高い父さん。そんな父さんを俺も桜華も尊敬しているし、ポンコツだってことは分かっている。大方、俺の天然もこの人譲りなのだと信じたい。

 しかし、父さんは昔から自分がポンコツだということを子供達に隠したがり、威厳のある父を演じようとする。

 和室にちゃぶ台、物静かな着物を着た父が父さんの中で息子の真剣な話を聞く父親の理想像なのだろう。心底面倒くさい。


「……」


 俺が母さんに目で『どうにからない?』と訴えると『今日の夕飯はボルシチ』と返ってきた。駄目だ、通じてない。


「……帰ったか」


 恐らく自分の中で一番低い声を出して、さも今帰ってきたことに気づきましたという感じを出す父さん。中学の頃、父さんがオフの日に練習から帰ろうものなら『桜樹ー!おかえり!今日、父さん休みなんだ!キャッチ(⤴︎)ボール(⤵︎)しようぜ!』などとテンションを上がりすぎて独特の発音でキャッチボールを玄関まで誘いに来るくらいには厳かではない。


「た、ただいま父さん」

「……ふんっ」


 俺が若干引き気味に挨拶を返すと不機嫌そうに鼻を鳴らす父さん。

 大丈夫?そんな態度取って…怒られるよ…?


「桜太郎さん…?」

「パパ…?」


 久しぶりに帰ってきた息子になんて態度だと怒れる般若(はんにゃ)が二人。

 高校生の母さん(先輩)父さん(後輩)の力関係のまま結婚生活を送ってきた両親。当然の如く、我が家で父さんの地位は母さんより下である。

 まあ、色々と纏めて仕舞えば我が家の序列は普段ならば『父→母→俺=桜華』だろう。しかし、少しでも普段が壊れた瞬間、『母→桜華→俺=父』と変わる。


 ということで、母さんと桜華が怒った場合、父さんに為す術はない。我が家は女性強しの一家なので。

 俺はそれを理解しているので普段から父さんよりも母さんの顔色を伺っている。桜華に関しては俺に対して怒ることが無いのでいいお兄ちゃんを俺が心がけているうちは怒られることは無いだろう。


 とは言え、流石に我が家のツートップに同時に怒られるのは想像しただけでも怖いので桜華の方だけは止めて助け舟を出しておく。母さんは止められない。あれは体内に燃料がある限り、誰にも止めることはできない。


「桜華、部屋に荷物持っていきたいんだが、少し手伝ってくれないか?」

「あ、うん」

「母さんもほどほどにね」


 桜華を引き剥がすことに成功した俺は、取り敢えず危ないので母さんの手に持っている包丁をそっと下ろさせ、料理途中のボルシチの火を切って桜華を連れて三階へと上がる。


 三階へ行く寸前に父さんから『俺が悪かった助けてくれ』と目で訴えかけてきたので『今夜はボルシチだ』と返しておく。


「あれは息子に取る態度ですか?」

「…え…いや……その…」

「桜太郎さん返事」

「はい!違います!」


 我が家の母は強い。荷物を置きに行くついでに桜華と三十分も話込めば説教も終わるだろう。頑張れ父さん。



「桜樹の話を纏めると、父さんと母さんの迷惑になりたくないので愛知(こっち)に帰りたいと。そういうことだな?」

「うん」

「向こう友達とか……いや、回りくどいのは止めよう…今の桜樹は確かにリハビリを続けても現役の頃には戻れないだろう。しかし、野球は続けることは出来る。桜樹の話を聞いているとリハビリに通うつもりはあっても野球をやろうという気持ちは伝わってきていない……野球、辞めるのか?」


 母さんの説教が終わり、俺達家族はリビングテーブルに四人座って話し合いをしていた。

 主に俺が何故今日、この場に話し合いの場を設けたのかを話し、こっちに帰りたいという旨を伝えた。


「野球を辞めるのか…そう言われたら、どちらとも言えない。もし、たった一球でも、たった一振でも現役と同じものが出来るのなら野球をやりたい。出来ないのなら野球はもうやらない。それが俺の答えです」

「桜樹…お前は野球が好き。そうだな?」

「はい」

「なら何故、そこにこだわる。草野球でも何でも続ければいいじゃないか」

「それは俺のやりたい野球じゃない。こう…上手くは言えないけど……確かに野球は俺にとって楽しくて、人生を賭けるには十分な存在だけど、野球を純粋な遊びでやりたい訳じゃ無いんだ。自分の出せる全力を出して、相手と本気でぶつかって、野球する為に食事して、寝て、生きてるような相手と一緒にする野球が好きなんだ。リハビリはこれまで通り通うし、続けるつもり…だけど、元の自分と同じステージに、その人たちと戦える俺に戻るまでは俺は野球をやるつもりは無いよ……」

「そうか……」


 俺の気持ちを伝えると、父さんは目を伏せて少し考えるような素振りを見せる。


「世間からどう見られるか分からんぞ?」

「世間の為に野球をやっている訳じゃない」

「そりゃそうだ…分かった、こっちに帰ってこい。と言いたいところだが、成績の方は大丈夫なのか?」


 父さんの質問に俺が自信を持って応えると、父さんは歯を見せて笑うう。


「まあ、父さんが小学生の俺に『桜華の華ってどんなんだっけ!?』って聞いてきた時から野球だけじゃダメだと思って勉強してるからね」

「ぐぬっ……」


 愛知に戻ったら桜華と全蔵、マーちゃん、それと昔のチームメイトがいる私立ルーミナ高等学校に通おうと思っている。

 あそこは、桜華のような芸能人が多く在籍しており、メディアに進んだ生徒を助力する為の学科と制度が多く設けられている。全蔵達が通う普通科もレベルとしては進学校を謳っているら明日ケ丘よりも少し上くらい。歴史が古く、多くの大学や就職先にパイプを持ち、学校からの斡旋が他校に比べて大きいということで選んだ。


「大学はどうにでもしてやれるから、自分の行きたい道を選べ」

「桜樹と桜華が働かなくても一生そこそこ遊んで暮らせるだけの蓄えはあるのよ」

「いや、ちゃんと定職にはつくよ…」

「私も……」


 一生遊べるじゃなくて、そこそこという部分にそこはかとなく現実味を感じるので遠慮したい。


 こうして久しぶりに我が家で過ごした俺は急遽夕飯変更により、ボルシチからチャパティに変わった夕飯に疑問を残しながらその日の夜には大阪へと戻った。



あと1話で2章入ります。

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