第四十六話 鎖縛の姫と白き帝ー23 終
☆ sideーオーキ=ペンデレエーク
「ふざ…っ……けるなッ……『悪……しょ…くッ』」
体を襲う痛みに耐え、『暴食の罪』のスキル、『悪食』を発動する。この『月転』がバッドステータスである以上、『悪食』を使えば効果を反転することが出来る。
先程の重みが嘘のように軽くなり、肉体が生まれ変わったのかと錯覚する程、体が羽根のように軽い。
速く、速く、速く…!一歩でも遠くに!!
立ち上がった状態からすぐ様走り出し、カグヤへと近づく《白帝》を追う。走りながら『月転』によって柄が曲がった槍斧を《白帝》に投擲。
予備の槍斧をアイテムボックスから……無い…!!
アイテムボックスの中にあるのは、耐久度が減った槍斧のみ。この際、これでもいい。急げ。
《白帝》が吠える。
そして現れた『サクスタイガー』。目測で三十程が俺の目の前に立ち塞がる。
「邪魔だぁぁぁ!!!!」
耐久度の減った槍斧を二本、両手に構えこちらに飛び掛ってくる『サクスタイガー』の腹に突き刺す。
続いて勢いを殺さないように串刺しにしたサクスタイガーを後続の群れの中に投げ込み、正面から迫る『サクスタイガー』の頭をスピードを落とさず歩幅を変えるだけでタイミングを合わせ、力任せに踏み潰す。
「そこを通せ!!」
槍斧を振るう。我武者羅に、無我夢中に、目の前に迫る肉の壁を退かす為に何も考えず、ただ槍斧を振るい、突き、刃が欠けても棒を口の中に突っ込んで息の根を止める。
ガキンッ
最後の槍斧がヒビ割れ、朽ちていく。俺は、副武器として装備してあったスルチンを『サクスタイガー』に投げ、動きを封じる。
武器は初期からお世話になっていた«黒魔石の短剣»を取り出し、横から大口を開けて迫るサクスタイガーの目に突き刺す。傷から血が吹き出し、視界を赤く染めるが、すぐにポリゴンに変わって消えていく。
足を止めるな。短剣だけでもコイツらを退かせる。
「あああああ!!!!」
腹から声を振り絞り、力任せに短剣を振るう。目に、鼻に、喉に、走る勢いに乗せて柔らかな腹に膝を入れる。
パキリ…。
嫌な音が耳に届く。しかし、それを気にしていられる程今は余裕が無い。構わず短剣を振るい、突き刺す。
くそっ…まだ増えてる!!退け!退け!!退けよ!!!!
全部を相手して居たら止められる…なら、強引に駆け抜けるしかない…!
目の前に一匹。口を開けて俺に噛み付こうとしている。
ちゃんと見えてる。避ける必要は無い。
腕を振る勢いに任せて左手を下から突き出し、『サクスタイガー』の下顎をがっちりと捕まえる。
捕まえた『サクスタイガー』を盾のように前方に突き出し、次々と後続からこちらに迫る『サクスタイガー』の弾除けとして使う。
スピードで劣っていても、勢いとパワーだけならこちらが上。同じ質量を持つ『サクスタイガー』同士の衝突なら押し通せる…!!
『サクスタイガー』の波を押し退け、無理矢理道を作ってその中を突き進んでいく。
避けは少なく、ダメージが大きそうなものだけを短剣で弾く。
一秒が長い…。一歩が遠い…。進んでいるはずなのに、足を前に出しているはずなのに、その場で足踏みしているかと思うほどに《白帝》の後ろ姿が遠い。
《悪食》の効果時間はまだ余裕がある。ステータスに目を向けず、目の前の状況を少しでも把握するんだ。
視界を広く、三歩先のルートを確保する為の方法を考えろ、頭を回せ。
「右から2体、左に1体、後ろから1体、前方…避けられない」
ミスは許されない。ここを抜けなければここまでの皆の頑張りが、オーカの最後が、無駄になる。
前方から飛び掛る『サクスタイガー』の喉元を短剣で切り裂く。ダメージは入るが、倒せてはいない。飛び込み前転で腹下を上手く潜り抜け、勢いを殺さずに走る。
「っ……どれだけ増えれば…!!」
次々と押し寄せる『サクスタイガー』。どれだけ道を切り開いても切り開いても、視界から『サクスタイガー』が消えない。
「そこを開けろッ!!」
正面から押し寄せる『サクスタイガー』の波に体を無理矢理ねじ込み、前へ、前へと突き進む。
「見えた…!!」
『サクスタイガー』の群れの先、自分か『サクスタイガー』のなのかも分からない視界を染めるポリゴンの隙間から、終わりが…見える。
『『Gyaao』』
左右から唸りを上げて挟み込むように迫る『サクスタイガー』を走りに緩急を付けることで狙いを外し、後頭部を掴んで飛び込んで来た勢いを使って顔と顔を衝突させる。
くそっ、今のでスピードが落ちた…!!緩急を付けなければ抜けられたはずの正面の隙間が消えていく…!
「お前達に用はねぇんだよ…!!」
手を伸ばす。閉じかけている隙間を求めて手を。
あとほんの数メートル。数メートルを超えれば一直線で《白帝》へ走っていける。
なのに、あと少しが、届かない…!!
「くっ…!」
今の一瞬の間のせいでギリギリを保っていた後続との距離が縮まり、追いつかれる。
足に、手に、肩に、次々と直刀のような牙が俺の体に突き刺さる。
「はなっ…せッッ!!」
短剣を使って肩と腕に噛み付いてきた『サクスタイガー』を引き離し、足にまとわりついている『サクスタイガー』は力任せに足を振るい、引き剥がす。
しかし、ここに来る間に倒せた『サクスタイガー』は10体にも届かない。後ろから次々と追いついき、迫ってくる。
「しまっ…!?」
抜け出す為に足掻いている最中、ウィンドウを見なくても耐久度の限界が近い短剣が『サクスタイガー』の牙と接触する。
骨に当てず、柔らかい場所を狙って誤魔化し誤魔化しやって来たが、限界だ。
最後の武器が…折れる…!
そう確信した瞬間、刀身が粉々に散り、耐久度が全損。握っていた柄も一緒にポリゴンとなって空へと消えていく。
どうする…どうする…このままじゃ『戦闘継続』によるリジェネの回復量をダメージが上回ってHPも……!!
─────『勝利を掴みたいのなら今ある全てを使って戦いなさい。その手に握った槍斧も、貴方を構成する体全てがオーキの武器です。』
ふと、少し前にディフィが言っていた言葉が脳裏を過ぎる。
そうだ…ここにある全てが俺の武器だ。情けは要らない。容赦なく叩き…
「潰す…!!」
左腕に噛み付いた『サクスタイガー』の牙を右腕を強引に振るい、拳で叩き折る。
折れた牙を掴み、拳を叩き込んだ『サクスタイガー』の右目に突き刺す。
痛みで残った牙が離れた隙を逃さない。右腕に2体の『サクスタイガー』を付けたまま、牙を離した『サクスタイガー』の顔を掴む。そして足に噛み付いて来ている『サクスタイガー』に叩きつける。
まだ、まだだ…!
左手が完全に自由になったことで右腕の『サクスタイガー』を先程と同じ方法で引き離し、折った牙をノールックで後方から迫る『サクスタイガー』に投げる。
叩きつけられた事で地面でノビているサクスタイガーを蹴り上げ、正面の『サクスタイガー』にぶつける。
正面と後ろから牙を剥き出しにして迫る『サクスタイガー』を半身になって両腕を口の中へと突っ込む。口の中で舌を握り、STRを最大限に舌を引き抜く。
その舌を次々と迫る『サクスタイガー』の中の2体の目に投げつけ、舌を引き抜いた『サクスタイガー』のうち、1体に肘を落とし、地面に落ちる寸前に腹に蹴りを入れてHPを削り切る。
ここで終わりじゃない。俺が行かなくちゃ行けないのはカグヤの元だ…!!
針の穴程の小さな小さな突破口。そこを絶対に逃さない。
姿勢を低くして突っ込んできた『サクスタイガー』の顔を踏み潰す。ペットボトルを踏み潰したような何とも言えない感触が足に伝わってくるが、それに構わず、足を進める。
右と、左、左前から1体、遅れて後と前から2体ずつ。
一番最初に俺の元に来た左の『サクスタイガー』に右の拳でアッパーを放つ。前傾姿勢になった体をそのまま地面に倒れるように持っていき、右足の踵を振り抜いて右から迫っていた『サクスタイガー』の顎に蹴りを打ち込む。
そのままの勢いで半回転。足が真上に来た時に手を地面に付き、肘を折ってブレイクダンスのように回り、前と後ろから来ていた『サクスタイガー』に蹴りを入れる。
ブレイクダンスキックから体勢を戻した所で最初に左前から迫り、俺のブレイクダンスキックを避けた『サクスタイガー』が俺の首めがけて牙を向く。
まだ足を地面に戻しただけで、次のモーションに入れる程、体勢が整っていない。
そこで俺は、首に迫る『サクスタイガー』に敢えて顔を近づける。虚を突かれた『サクスタイガー』が空中でビクリッと一瞬、震えた所で俺は『サクスタイガー』の首に噛みつき、肉を噛みちぎるッ!!
これで前にはもう居ない。
後ろから迫る後続の『サクスタイガー』も…
「ブフッッ…!!」
ブレイクダンスキックの時に舌を歯で傷つけて少し溜めていた血と、先程の『サクスタイガー』を噛みちぎった時に口に残った血肉を霧状に吹き付ける。
霧血は少ししたらポリゴンへと変わるが、視界を奪うには充分。俺は《白帝》へと再び走り出す。
既に《白帝》はカグヤのいる《ドミナスの丘》へ到達している。後、十秒も無い…。間に合うか…!
『mあだ、着ィ手くるかniんげん』
心の中で舌打ちを零した瞬間、これまで止まる事の無かった《白帝》がこちらを振り向く。
厳かで重みのあった声は酷く掠れ、雑音にも取れる声を《白帝》が発すると同時に、俺の体を五色の光が包み込む。
「これは……!?」
記憶が朧気だが、これは俺と全蔵、バルクをエリア外へと転移させた光…!
光の範囲が広い。これは抜け出せな…
ほぼ、直感だった。俺はアイテムボックスから回復薬を取り出すと前方へと放り投げる。
そして光が収縮を始めた瞬間、俺の視界は大地と離れ、空中へと飛ばされていた。
転移で空中に飛ばされた…いや、違う、俺が放り投げた回復薬と入れ替わった。
それをしたのが誰か分からないが、今は《白帝》を止める…!!
回復薬はそこまで高い位置に投げていなかった為、ほとんど顔から地面に突っ込む形で着地したが、俺はすぐに立ち上がって《白帝》へと走る。
『e38198e38283e381bee38292e38199e3828be381aa』
《白帝》が何かを呟く。それは言語として聞き取れるものではなく、よく分からないが…《白帝》と俺の間に『サクスタイガー』が5体、そして空中を縦横無尽に駆け回る鉢が5つ、召喚される。
またか…だが、そこまで数が多くない。先程まで無尽蔵かと思うほどの数の『サクスタイガー』をノータイムで召喚していたにも関わらず、たったの5体。
理由は分からないが、これはチャンス…。ちょうど退けるべき相手は十…さっきの状況で使えば焼け石に水だったが、今なら使える。
アイテムボックスから取り出した正真正銘、最後の武器。
そこの白は穢れを知らず、淡く輝きを放ち、夜闇を照らす。
«白王鉄の槍斧»
ムラムラマサさんに貰ったクリティカルを出さないとそう耐久度の一割が削れるが、クリティカルの倍率が当てる度にダメージ倍率が3倍から6倍、12倍と増えていくという、このゲームにおいては役に立たないと言われた武器。
相手が十なら丁度止められる。
「『舞え』」
槍斧の特殊スキルを発動する。純白の槍斧の柄から刃に掛けて青白い光が葉脈のように走り、槍斧の周りには三つの満たされた杯が槍斧の周りをクルクルと回り始める。
この杯がクリティカルの倍率を示し、クリティカルを出す度に杯が増えていく。
まず来たのは空を駆ける鉢。最初に1つ、次に2つ、そして左右を挟み込むように残りの2つ。
その奥には5体の『サクスタイガー』が控えている。
『オーキ殿!サクスタイガーのデバフが解けたでござる!すぐに追いつく故、暫し耐えてくだされ!!』
「オーキ氏!!」
ここで全蔵から通信が入り、丘の上では地面から伸びた鎖で繋がれたカグヤを庇うようにヲタキングが立ちはだかり、鎖をどうにかしようと花宮さんが動いてくれている。
原因は分からないが、《白帝》は弱っている。様子が可笑しいとは思っていたが、これは確実だ。
しかし、ヲタキングは現実世界で武道を嗜んでいるとは言え、支援特化。花宮さんも支援系のスキル構成だ。俺が駆けつけて、《白帝》を全蔵達が追いつくまでの間、足止めすることには変わりない。
事態はいい方向に進んでいる。追いついた後、カグヤを守りきれるか不安だった。だが、足止めだけなら何とか出来る…!!
思考を飛ばしている間にも、鉢が迫ってきている。杯舞う槍斧を振るい、最初の1つを弾く。
続いて、同時に迫る2つの鉢を大振りで受け流す。
しかし、この大振りで次の鉢に対して俺は無防備。
『やらせませんよ!』
『行って…』
だが、後ろから一閃の雷と、氷を纏った矢が鉢を弾く。マーサさんと、クレアさんだ。有難い…!
俺は少し傾斜のある丘を駆け抜け、『サクスタイガー』に接触する。
今、ノって来てる。
俺が何とかしないといけないという不安から強ばっていた心が、皆がいるという安心感だけでどこまでも高く飛べるような気がする。
「ッラァ!!」
先頭の『サクスタイガー』に槍斧を突き刺す。この確かな感触…クリティカルだ。
───────六
一撃でその体をポリゴンと変えた『サクスタイガー』。
後、4体…!!
もう迷うことは無い。簡単だ。真っ直ぐ、力付くで倒せばそれでいい。
カチリ、カチリと連鎖的に自分の中の歯車がハマっていく。
そして小さな歯車は幾つも重なり…大きな力が…!!
『サクスタイガー』が吠え、2体、こちらへと走ってくる。こちらもかなりスピードに乗っている。衝突まで一秒とない。
見える。『サクスタイガー』の動きがはっきりと。槍斧をコンパクトに振るい、まず1体を仕留め、手の中で槍斧を一回転。もう1体に勢いの乗った振り下ろしを食らわせる。
───────十二
───────二十四
後方からの援護で《白帝》に次々と攻撃が浴びせられる。
しかし、《白帝》は立ちはだかるヲタキングを退けようと前足を振るう。どうにかアイテムでVITを上げて予備の盾でなんとかしようとヲタキングは善戦しているが、盾もそう長くは持たない。
「ヲタキング、マントだ!!《白帝》に投げろ!!」
残り数百メートル。《白帝》はもう目前。その中で、俺は初めて全蔵とPvPをした時を思い出し、そして後ろから感じる圧に賭けてヲタキングに叫ぶ。
ヲタキングは俺の言葉に反射的に盾を手放し、アイテムボックスからマントを取り出して《白帝》に投げる。
『矛盾』
後ろから小さく聞こえたエミリアさんの声。ヲタキングの目の前に、大きな最強の盾が作り上げられる。
「オーキィィィィィィィイイイイイ!!!!」
そして後ろからさっきとは打って変わって大きく、上から聞こえるディフィの声。そしてその声は俺の頭上を超えて行く。
視線を上げなくても分かる。バルクがオルガン・シェイクでディフィを吹っ飛ばしたのだ。
俺を追い越して《白帝》の臀部を殴り付けるディフィ。確かな一撃が《白帝》の動きを止める。
俺も追いつく…!!
槍斧を横薙ぎ。残りのサクスタイガーのうち、1体を仕留める。
───────四十八
「最後の一匹だ…!!!」
槍斧を斜め後方に構え、ゴルフのスイングのように下から伸びていく槍斧。
満たされた杯が舞う槍斧を前に、一歩、足を後退させた『サクスタイガー』の顎を純白の刃がかち上げる。
───────九十六
『オーキ殿!急いで!!』
「分かってるッ!!」
ヲタキングのHPが限界に近い。もう《白帝》のへそ下まで来ている。あと少し、あと少しなんだ。
「悪く思わないでくれでござる!」
「後で謝りますので!!」
真後ろから全蔵とマーちゃんの声がしたと思った瞬間、背中に衝撃が走り、俺の体が加速する。加速すると言うより、急に押されたことで転がるように進む俺の体。
「もういっちょでござるぅぅ!!『強襲』!!」
そして再び背中から強い衝撃で押され、俺の体はボウリングのように転がって《白帝》の腹下をくぐり抜けていく。
「くっ…!!」
転がる視界の中でカグヤを庇って攻撃を受けたヲタキングと花宮さんのHPが全損。
次の一撃が鎖で縛られたカグヤを─────
「させるかぁぁぁぁぁああああ!!!!『絶食』!!!」
無理矢理体勢を建て直し、地面を滑りながら立ち上がった俺は『暴食の罪』のスキル、『絶食』を発動し、全てのステータスをSTRへと移す。そして、目の前に迫る《白帝》の足に槍斧を振るう。
──────ガキィィィィィン!!!
槍斧と《白帝》の前足が衝突、激しい音を立てて《白帝》の前足が弾かれる。
───────百九十二
あぁ…この感覚。
「ナイス、クリティカル・パリィ!!」
「オーキ!追撃を!!!」
クリパ…?クリスマスパーティー……?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
聞こえる。あの歌が。小学生時代からバッターボックスに入る度に聞いた俺の応援歌。
アルプススタンドが声を荒らげて叫ぶ。
ベンチからの声援。
俺は今、あの場所にいる。あの場所に…あの場所に。
───────漲る闘志を奮い立て
握り方が違う。なんで両手の感覚がこんなに空いているんだ。腋を閉め、右足に重心を残し、バットを振り抜く─────!!!
───────お前が打たなきゃ誰が打つ
「メリィィィィクリスマァァァス!!!!」
───────三百八十四
陽炎のように揺らいでいた視界が晴れ、俺の視界には昼間と思えるような光を放つ満たされた杯と、上半身を仰け反らせる巨体…《白帝》の姿が。
「叩き込めでござる!!」
「いけぇぇぇぇえええ!!!」
「知性的な拳!!!!」
そしてその巨体は…消えて……。
☆
「倒した!倒したでござるよオーキ殿!!」
「か、カグヤ!!無事か!!!」
全蔵が笑顔で駆け寄ってくる姿を見て、意識がはっきりとした俺は後ろに居るはずのカグヤの方へ振り向く。
「だい…丈夫……」
体を縛っていた鎖はポリゴンへと変わり、肌に刻まれていた鎖も次々と光を放って消えていく。
「よかった……あっ…全蔵、これ頼む」
「へ?」
カグヤの無事を確認した俺はあることを思い出し、アイテムボックスの中から蘇生薬を取り出して間抜けな声を出す近くにいた全蔵に渡す。
「ぶべっ!?」
瞬間、俺の体は『悪食』のスキルが切れたことにより、地面に叩きつけられた衝撃の累乗の衝撃をその身に受ける。
潰されたカエルのような格好で地面に叩きつけられた俺のHPは残り僅か。そのままHPが全損して…視界が真っ暗に変わっていく。
☆ sideーout
「ぶべっ!?って言って死んでいったでござるな」
「うるせっ!」
全蔵の手によって蘇生されたオーキは拗ねた様子で全蔵に回復薬を投げ付ける。
続々と生き残った組が自然とオーキの元へ集まってくる。
「それにしても…メリークリスマスって……真夏でござるよ?」
「勘違いくらい誰にでもあるだろ!?」
「それにしても酷いな」
「バルクまで…」
《白帝》が倒れ、その巨体はポリゴンとなって散っていった。
そして、そのポリゴンは天に昇ったと思われたが、ひらりひらりと白い光を放ってオーキ達の元への降り注ぐ。
「雪みたい……」
オーキ達の喜びようを見ていたカグヤは未だ実感がわかず、目の前の美しい光景に目を奪われていた。
そして暗闇からひらりひらりと舞うポリゴンを両手を器のようにして受け止めると、その目に涙を滲ませる。
「ほら、オーキ、ここは何か言うべきですよ」
「オーキ様、ここ、大切ですよ」
「いや、あの…カグヤ……えっと………メリークリスマス……」
そんなカグヤの姿を見てディフィはオーキの背中をつついて、何か言うように促す。それに続いてママもオーキの背中を押す。
ママに背中を押されてカグヤへ一歩近づいたオーキは、困った様子で何と声を掛けていいか分からず、絞り出した答えは酷く残念なものだった。
「まだメリークリスマス引っ張るんでござるか!?」
「確かに雪に見えなくもないですからね~」
「…綺麗」
「そうですね…」
そんなオーキに呆れた様子で突っ込みを入れる全蔵。
オーキの頭の上にポフンッと乗っかり、くすくすと笑うマーサ。それに賛同するようにクレアとエミリアが続く。
そんな皆を見たカグヤは顔を涙でぐちゃぐちゃにし、次々と溢れる涙を指で擦りながら、夜空に輝く月に負けないくらいの笑顔を浮かべてこう答えた。
「ありがとう…サンタさん…!」
───鎖縛の姫に月下のメリークリスマス 完
次回から1.5章『桜、再び芽吹くその日まで』を数話挟んだ後、2章『堕チタ天使ノ涙ハ昇ル』を投稿します。
2章が始まればシリアス展開から一転、ギャグだらけの話が一章と同じボリュームくらい続きます。まあ、その後、シリアス回が来るんですが…。
後付けのようで申し訳無いのですが、ここまで長々と続いた一章を読んで頂きありがとうございます。
更新ペースが一定じゃなく、ご迷惑もお掛けしましたが、これからも《IPO》とオタクに染められる桜樹、愉快な仲間達をお願いします。
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