第三十九話 鎖縛の姫と白き帝ー16
☆ sideーオーキ=ペンデレエーク
「やってやらぁぁぁぁぁ!!!」
ここがゲームで良かった。『二三桜樹の天然発言全集』とかいうサイトに俺の醜態が追加されるところだった。
あれは忘れもしない…中学三年生の夏、俺が所属していた『愛産リトルシニア』は、全国優勝を果たした。当時、エースで四番だった俺のホームランが決定打となり、優勝後、キャプテンとMVPとしてテレビの取材に答えていた。
美人のリポーターさんが『最終回、最後の一級、とても気迫の篭った一球でした。最後の一球はずっしりと重みがあったと相手打者の高橋選手が語っていましたが、それだけ二三選手の想いが乗った一球と受け取っても良いでしょうか?』という質問に対して当時の俺は何を思ったのか『規定通りの約150gですね』と答えた。
それからと言うもの、インタビューやて時折あるテレビ出演でやらかしてしまった俺は天然発言全集を作られることに。
今回は身バレしてなくて良かった。本当に心からそう思う。
いや、全く良くない。オーキ=ペンデレエークという俺の分身とも言える人間の醜態が全国に晒されているのだ。現実世界と仮想世界…挟まれた…完全に詰みじゃないか!
「こうなったのも全部、お前のせいだこんちくしょう!!!」
《白帝》を倒す理由がカグヤを救って笑顔を見るため十割から二割程私怨が混ざり始めた。
何も考えずに一心不乱に槍斧を振り回し、筋を狙って突き刺していく。
だが、«打砕の槍斧»が砕けた今、ダメージが思うように出ない。クリティカルも先程から全くと言っていいほど出ていない。
なんとなくだが、こちらに専念していた《白帝》の意識が別の方向に向いているような気がする。
不味いな。せめて後五分くらいは稼いで起きたいところなんだが…。
「はぁ…はぁ…こっち向けッ!!」
腕が重たい。足が上がらない。浅い呼吸を絶え間無く繰り返してようやく体が動く。
スタミナ切れか?
視線をステータスウインドウに向けるが、SPは半分以上残っている。
ゲーム的に言えばスタミナがある限り動くことに出来るし、肉体は疲れない。
「あー…頭まわんねぇ!体が重たい!今すぐベットで休みたいし、飯食いたい!!けどなぁ、これくらいの疲労なんて甲子園の球場で投げ切る事に比べればなんぼのもんじゃい!!!!」
照り付ける太陽、背中にベッタリと張り付いたユニフォーム。グランドが熱で揺らいで見え、アルプスの声が届かないくらいの集中。相手打者の情報を頭に入れ、相手のバッティングリズム、立ち位置、グリップの握り込み、今日投げた球数、色んな要因を考えながら長い時には三時間以上グラウンドに立ち続ける。
それに比べれば…これくらいまだいける。俺の限界はこんなもんじゃない。
ゲームと野球は違う。そんな事は分かってる。けど、思い出せ、今までの経験を。
これが一番苦しかったか?
これが一番辛かったか?
これが一番絶望したか?
違う。本物を俺は知っている。
野球がしたくても出来ないそんな絶対を。
俺はゲームなんてやったことなくて、素人で、知識は全部他人任せで、フォローが無ければ今頃負けていたお荷物だけども。
俺はまだ、この場に立っている。
この場で戦えている。
今度は見ているだけじゃない。
俺も戦っているんだ。
慣れていないは言い訳にならない。今、この場で慣れろ。
「ダメージが足りないなら、倍にすればいいッ!!」
俺は持っていた槍斧を左手に持ち替え、予備の槍斧を右手に持つ。
二刀流なんて現実でやったら二つの重さに振り回され、空気抵抗に負けて太刀筋がブれ、上手くやらなきゃ槍斧同士がぶつかる。
だけど、ゲーム的要素を含む人知を超えたSTRと、長年作り上げた自慢の体幹がここにはある。
「ディフィのような一撃の与ダメージが無いのなら!全蔵のように手数で押す!!!」
右、左、右、左、交互に腕を振るい、その勢いを利用してその場でクルクルと回転しながら加速して手数を増やしていく。
《白帝》の前足に小さな傷を次々と刻む。
ゆっくりと街の方を見ていた紫色の瞳がギョロりと俺の方を向く。
「ようやくこっち見たな…!!」
☆
槍斧の二刀流に切り替えてから三分程…ごめんなさい、もう限界です。
俺の限界はこんなものじゃないと意気込んだはいいものの、俺にヘイトが向いたことで繰り出される《白帝》の攻撃の回避にいっぱいいっぱいで正直、攻撃してる暇がありません。
オーカ達の休憩はまだだろうか。出来ればまだ格好よく決めているこの段階で変わって欲しい。
先程から様子を探るために通話の方に耳を傾けているがどうやらミュートにしているらしく、全蔵とバルクの話し声が聞こえるだけだ。
どうやら二人は《白帝》の特殊行動について考えているらしい。チラチラと会話が聞こえるが?今は目の前に集中だ。
『あっ、驪竜頷下の珠でござるな!!」
うるさっ…どうしよう、今だけ通話切ろうかな。
『『GYYYYYYAAAAAAA』』
《白帝》が吼える。
耳を劈くような雄叫び。咄嗟に遅効性の状態異常回復薬を使いそうになるが、これば通常モーション。スタンや麻痺といった状態異常は無い…が、あの大きさの《白帝》の雄叫びは、空気の振動にも関わらず、あまりの大きさに痛みを感じる程。
「ぐっ……っ……」
かろうじて動けるとは言え、キツい。しかし、我儘は言ってられない。
特殊モーションの雄叫びと違って、タメの無い通常モーションの雄叫びは、《白帝》も攻撃が可能。
この《白帝》、強いことは事前に分かっていたが、こうしてタイマンをしてみることで多くの事が分かった。
相手の動きを学習することはもちろん、俺の目線や、予備動作を呼んで動いてくる。
大きさ故に動きは鈍く、ほとんど同じ場所に留まるため、避けられることは無いものの、こちらがクリティカルが入ったと思っても体を震わせることでクリティカルを外されたり、同様に急所への攻撃を狙って外してくる。
こちらが別の所に一瞬でも視線を外そうものなら、トラックと正面衝突したのではと錯覚するほどの衝撃で殴られる。
「ぁぁぁぁぁあああああ!!!」
こちらも負けじと声を張り、体に力を込めて《白帝》に向かって走る。
耐えろ。耐えろ…。耐えろ…!
「そりゃあ、そんだけ大声で叫べば呼吸くらい乱れるよなぁ…!」
《白帝》の雄叫びが止み、《白帝》の荒い息遣いが聞こえる。
「おらァァァァァァ!!!」
槍斧を振るい、蹴りを入れ、《白帝》の前足に攻撃を休むこと無く叩き込む。
《白帝》の硬い皮膚に負けて柄がぐにゃりと曲がるが、それでも振るい続ける。
「生憎と、予備を次々出すほど余裕があるわけじゃないんだよ!!」
耐久度を無くすまで槍斧を振るう。
刃が潰れ、斬れなくなっても鈍器のように殴る。例え槍が折れても、中途半端な刃で傷口を狙い、肉を抉る。
例え棒だけになろうとも、棒を突き刺し、テコの原理で傷口を広げる。
「くっ…」
《白帝》の攻撃を飛び込むように躱し、地面をゴロゴロと転がる。
体の節々が悲鳴を上げ、肺が酸素を寄越せと唸る。
軽口を叩くのは余裕の表れではなく、折れない為。
『蓬莱の玉の枝は…東の海に存在する蓬莱という名の山に生える銀の根っこ、金の茎、真珠の実をつける木の枝だな───────』
耳の奥からは相変わらず全蔵とバルクの声が響く。
だが、それに構っていられるほど………聞き覚えがある。今のバルクの言葉…どこがで聞いた…いや、見た覚えが…。
枝…根っこ…茎…夏季休暇の課題に…いや、テレビ…アニメ……どれもピンと来ない。
他の場所…ココ最近、外にはまともに出ていない。なら新聞…?ネットニュース。違う。第三者目線じゃなく、もっと身近で、ふわふわとした…。
───────『hOrあ1のたmAの枝』
【ー】の海、【ーー】という山にあるとある木の枝。
【ー】を根とし、【ー】を茎とし、【ーーー】を実とする木で大変珍しい。
「あれか…!!」
以前、エミリアさんと釣りをした時に偶然釣りあげた穴抜けの黒ずんだ枝…!
「全蔵!全蔵!」
『────これまでと同じく防御系。拙者の予想では物理攻撃の無効と言ったところでござろうか。朧気おぼろげながら、物理攻撃の効かないモンスターの話をNPCから聞いた覚えがあるでござる』
あの野郎…通話聞いてない…というか、声の受付拒否してるな…!
確かに俺の音声を拾うと俺の乱れた呼吸しか聞こえないだろうけど、切るなよ…!
「くそっ…!」
集中が乱れ、他に意識が向いているのをいい事に追撃を仕掛けてくる《白帝》。横から迫る前足を避けたはいいものの、風圧で吹き飛ばされてしまう。
あんの忍者野郎、この戦いが終わったら耳の中に直接スピーカー埋め込んでやるからな!
「だらっしゃぁぁぁっ!!!」
先程、マーサさんが作り上げ、《白帝》が崩した土の壁。まだ根元の方は形が残っており、根性と気合いで壁に両足を付けて並行着地。
足を伝って全身に衝撃が走るが、気にしてはいられない。槍斧を新たに取り出して石突を地面に突き刺して、柄を掴んでポールダンスのようにくるくると回り、ようやく地面に着地。
先程までうっすらと感じられていた月の光が消え、目の前に大きな存在を感じる。
「そりゃ、追ってくるよな…!」
全力の横っ飛び。空中で姿勢を整えながら、眼前を通り過ぎる。
「がぁッ…!」
腕が引ききれず、左腕が《白帝》の大鎌のような爪にえぐられ、視界の端へと消えていく。
それと同時に肘先から大量の血が吹き出し、すぐ様ポリゴンになって空へと昇っていく。
「クソッタレ…!」
迫る第二の攻撃。
目に見えて減り続けるHP。
『流血』のバッドステータス。
空中。
体勢不利。
落下まで0,7。
地面の状態。
残りHP。
残りMP。
残りSP。
周りの障害物。
アイテムボックスの中。
空中制御。
遠心力。
落下ダメージ。
膨大な情報から導き出される次の動きは…。
「舐めるなよ…!」
俺は右手で空中に漂う糸を掴むと同時に、肘先が消えた左腕を口元に引き付けて二の腕のベルトを引っ張り、血を止める。
落下は無理矢理横に飛んだことと、《白帝》の攻撃によって上半身から落ちる。
残りHPを考えると、ここで落下して動きが少しでも鈍れば、次の攻撃を避けられない。
「らぁッ!!」
落下までの時間を稼ぐ為、体を捻り、仰向けの体勢からうつ伏せへと変わる。
その際、ゴムベルトのような糸を体に引き付けると同時に、力いっぱい引っ張り、股に挟む。
そして背中側から糸を引き抜き、体へと巻き付ける。
「信じるぞ…まだ見ぬ女王様…!!」
俺はぐっと体を強ばらせ、衝撃に備える。
「ッヵハッ…!」
地面に頭から突っ込み、体に強い衝撃が走る。
痛みに耐え、右手に握られた糸を力の限り引っ張る。
「っっぅ…」
頭上に影が差し、振り向かずとも《白帝》の攻撃が来るのが分かる。
だが、俺は口元に笑みを浮かべる。
「悪いな、余分な死は避けるように言われてるんだ」
手の力を弱めた瞬間、伸びた糸が急速に縮み始める。
「うおっ!?」
糸は手に握っている他に股に挟んでいた為、変な体勢で引っ張られ、股間が……おうち…。
だが、距離をとることに成功した。後は…これだよなぁ。
糸は元々、マーサさんの作り上げた壁に設置されており、俺が掴んだ糸は《白帝》に切られたものの一本で、これも当然壁に設置されている。
さて問題です。現在、俺は糸の伸縮性を活かして《白帝》から距離を取りましたが、俺の目の前に迫っているのはなんでしょう。
正解は強固な土の壁。
糸を離せって?変な腕に変な絡まり方して離せないんです…。
「ぐべっ」
無事に壁に激突した俺は潰れたカエルのような声を上げる。
このまま八時間くらい眠ったいたいが…伝えるなら今だよな。
「すぅぅぅぅぅぅ」
俺は痛む肺に無理矢理空気を流し込み、大声を出す準備をする。
本当なら『全蔵の馬鹿野郎』と呼んでやりたいが…
「ぜんぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!おれぇぇぇぇ!!!それもってるぅぅぅぅぅぅぅぅううううう!!!」




