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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第一章 鎖縛の姫に月下のメリークリスマス
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第三年話 ネトゲをやった事ない人の為の丁寧な説明回と大いなる伏線


『さく兄、届いたー?』

「設置まで全部やってくれた。後はパソコン起動して椅子に座るだけだって」

『んじゃ、さっき話した通りに進めてね。チュートリアル終わったら最初の街のど真ん中にある大噴水前に集合ー!』

「分かった」

『先に待ってるから、じゃあねー!』


 あれから数時間。時刻は夕方五時過ぎ。


 桜華が諸々をそっちに送ると言ってから数十分後、桜樹の間借りしている部屋のインターフォンが鳴り、業者が諸々の機材を設置して帰って行った。


 交通便の利便化が進んだとはいえ、流石に早すぎる到着に桜樹は桜華の策略にまんまとハマったことを後悔しつつ、天才子役と呼ばれるほどの違和感の無い演技力は流石だなと感心する。


 設置の間に桜華と通話をしながら《IPO》について説明を受けた桜樹は早速業者に言われた通りパソコンの電源を入れて、揺りかご型の大きめの椅子に腰を下ろして頭上にあるヘルメットを被る。


「なんか人体実験される気分だな…」


 そんな事を呟き、桜樹の意識は仮想世界へと飛ばされる。



『お初にお目にかかります。(わたくし)、十三席のイリーちゃんです。以後、お見知りおきください』

「イリーちゃん…?」

『ええ、イリーちゃんでございます。おっと、これは失敬失敬、名を名乗っただけでは開拓者様には伝わりませんね。私こと、イリーちゃんはですね、新米開拓者様をお導きするナビゲーション的な存在です、えぇ』


 仮想世界に入った桜樹の目の前に現れたのは紺色のスーツを着込んだピエロだった。

 鼻に付く喋り声と、見た目に似合わない喋り方、そして仮想世界へに入った途端に目の前に現れた愉快なピエロ、イリーちゃんに戸惑いを隠せない桜樹。


『あり大抵に言えばチュートリアルを進行するお助けノンプレイヤーキャラクターでございます』

「なるほど」

『まずは開拓者様のお名前をお教えいただけますかな?』


 イリーちゃんが桜樹の名を問うと、桜樹の目の前に半透明なキーボードと、ウィンドウが浮かび上がり、ウィンドウには《名前を入力してください》とご丁寧に書かれている。


「えっと…オーキ…イコールってどこだ」

『左下の三角をタッチして頂くと記号を選択できますよ』

「おぉ、あった。ありがとうイリーちゃん」

『いえいえ』


 桜樹は事前に桜華に指定された名前を打ち込んでいく。


『オーキ=ペンデレエーク様ですね。ふむ、何か意味がおありで?』

「あー、二三(いちなし)を格好よくとか言って、ペンデレがスペイン(?)語で失う、エークが…えーっと…」

『ヒンディー語でしょうか、なるほどなるほど、洒落ておりますね?』

「よく分かりませんけど、格好いいらしいです」

『ということは、オーカ=ペンデレエーク様と繋がりがあると』

「あぁ、はい、妹です」

あの(・・)【首狩り姫】の兄君でありましたか。いやはや、これは成長が楽しみですね』


(首狩り姫…?)


 聞きなれない言葉に桜樹は心の中で疑問を浮かべながらも、詮索するほどの事でも無いかと思っていると…


『【首狩り姫】とは妹君の二つ名ですよ。ほら、俗に言うハンカチ王子みたいな愛称です』

「なるほど……物騒だな」


 顔に出ていたのか、桜樹の心情を察するとイリーちゃんはにこやかに答える。


『それでは次は貴方様の外見を決めましょう。あ、顔バレは避けてくださいね?それと、性別的な外見を変えることは出来ますが、運営上の都合により声を変えることはできませんのであしからず』

「とは言ってもなぁ…」


 目の前のウィンドウが消え、自分の姿を鏡写したアバターホログラムが桜樹の目の前に現れる。

 そして髪の色から身長、年齢、種族に渡るまで色々と項目の並んだウィンドウが再び現れる。


「正直、野球やってた頃よりも髪が伸びて分からないだろうし…」


 桜樹が野球部を辞めてから一ヶ月半。短髪だった髪は伸び、印象がかなり変わっている。

 とは言っても、まだまだ他人の目から見たら分かるだろう。


「あ、でも髪は染めてみたいかも」


 桜樹も年頃の高校生。練習漬けでお洒落とは無縁の生活を送ってきたが、それなりに興味もある。

 せっかくのゲームで、特に顔を弄るつもりも無いので思い切って髪の色を変えた見ようと桜樹は考えた。


「けど何色が似合うかな」

『無難ですと金や茶髪ですかね…他にも青や緑といった風変わりもありますが、オーキ様は殆どお顔を弄られていませんのであまり派手目な色は控えた方がいいと思われます、えぇ。なので私としては髪を少し伸ばして、髪色を染めるのではなくメッシュを入れてみてはいかがですか?』

「メッシュか…赤とか?」

『メッシュでしたらそれでもいいかもしれません。きっとお似合いですよ』


 ニコリと言うよりも、にへらって唇を歪めてアドバイスをするイリーちゃんに習って桜樹は髪の長さの項目のゲージを弄り、髪を伸ばす。

 ついでに『ツーブロック』の欄にレ点を入れて、赤色のメッシュを全体的に入れていく。


「どうですかね」

『とてもお似合いですよ。身長や体重などは良かったですか?』

「あー…なるべく現実の体のままがいいんで」

『確かに身長を伸ばすと最初は戸惑う開拓者様が多いですね…それでは次はプロフィールを埋めてください』


 桜樹の目の前のウィンドウが切り替わり、穴抜けのプロフィール項目が表示される。


ーーーーー


《ステータス》


名前:オーキ=ペンデレエーク


年齢:(  )


種族:(  )


性別:(  )


職業:(  )


Lv:1


HP:50


MP:50


SP:100


STR:10


VIT:10


DEX:10


AGI:10


INT:10


MND:10


LUK:5


スキル:(  ) (  ) (  )


ボーナスポイント:0


ーーーーー


「あの…」


 桜樹は穴抜けになっているウィンドウを上から下まで眺めると、おずおずと言った風にイリーちゃんに話しかける。


『どうかされましたか?』

「HPとかそこら辺はまだ分かるんですけど、STRって…なんですか?」

『あー……はい、では説明させて頂きますね』


 桜樹の発言に一瞬、「まじかこいつ」と言ったような顔を見せたイリーちゃんは、桜樹に分かりやすいように噛み砕いて説明を始める。


 STR→Strength(ストレングス)の頭文字。プレイヤーの筋力を表す。数値が高いと(エネミー)に与える物理攻撃ダメージが増え、重量武具を扱うことが出来る。


 VIT→Vitality(バイタリティー)の頭文字。プレイヤーの耐久力を表す。数値が高いと(エネミー)から受ける物理攻撃ダメージを減らすことが出来る。他にもHPや回復値に補正がかかる。


 DEX→Dexterity(デクステリティ)の頭文字。プレイヤーの器用値を表す。数値が高いと攻撃の命中率が上がる。他にもクリティカル発生に補正がかかる。


 AGI→Agility(アジリティ)の頭文字。プレイヤーの素早さを表す。数値が高いと移動速度が上がる。他にも三次元的な動きに補正がかかる。


 INT→|Intelligenceインテリジェンスの頭文字。プレイヤーの知力を表す。数値が高いと(エネミー)に与える魔法攻撃ダメージが増える。他にも魔法の詠唱速度に補正がかかる。


 MND→Mind(マインド)の略称。プレイヤーの精神力を表す。数値が高いと(エネミー)から受ける魔法攻撃ダメージを減らすことが出来る。 他にも支援魔法の効果や範囲に補正がかかる。


 LUK→Lucky(ラッキー)の略称。プレイヤーの幸運値を表す。数値が高いと(エネミー)やフィールドから手に入るアイテムのドロップ確率やレアドロップ確率が上がる。他にも状態異常抵抗、武具強化時の成功率、生産時の成功率や品質に補正がかかる。


『とまぁ、こんなところでしょうか。ちなみになのですが、これらの読み方といいますか、プレイヤー間では様々な呼び方があるので』

「そうなんですか?」

『ええ、VITですと元々の読み方を略した『バイタ』や、そのまま読んだ『ブイアイティー』、ローマ字読みで『ビット』などと呼ぶプレイヤーもいます故、一度調べて覚えておくのもいいかと思いますよ、えぇ。何気ない文字列の呼び方一つで喧嘩になったりもするので。まあ、無難なのは略さずに『ストレングス』や『バイタリティー』と言うのがいいかもしれませんね』

「助かります」

『いえいえ、これもまた私のお役目の一つですので』


 ネットゲームの基礎的な事を一切知らない桜樹。イリーちゃんに説明されて、ようやく少し理解した所でウィンドウを操作していく。


「年齢は変わらず…性別も男で…種族は…」


ーーーーー


人族:最も数の多い種族。凡庸で平均的。LUKに補正あり。固有スキル『伸び代』を保有。


悪魔族:人族から派生した悪しき種族。頭部に多種多様な角が一本から複数本生えている。それ以外は人族と変わらない。MPに補正あり。HPにデメリット。固有スキル『悪神崇拝』を保有。


エルフ族:自然をこよなく愛する種族。耳が長く、顔立ちが端正。寿命が長く、数が少ない。MP、INT、MNDに補正あり。HP、STR、VITにデメリット。固有スキル『精霊魔法』を保有。


           ・

           ・

           ・


          (以下略)

ーーーーー



「人族?以外はメリットとデメリットがあるのか…」

『基本的には『ビルド』に合わせてステータスや、スキル、種族を決めますが……オーキ様は『ビルド』自体が初耳のようで』


 徐々に険しくなっていくオーキの顔を見てイリーちゃんは半分諦めた顔をしながら説明を始める。


『ビルドとは、簡単に言えばゲームを進める上での方針ですかね。オーキ様は何かスポーツなどはされていましたか?』

「えっと…野球を」

『それならば野球で説明致しましょう』


 イリーちゃんはなるべくオーキに分かりやすいように噛み砕いて説明する。

 

『野球を始めたら何をするか、まあ色々あるでしょうが、ポジションを決めます。投手、捕手、一塁手、外野手、これがまあ『職業』だと思ってください。次に必要なのはそのポジションに合った能力を伸ばさないといけません』

「えーっと、体力とか守備力とか、肩とか打撃力とか…?」

『そうですね。野球の場合はそれらの力を総合的に高めていきますが、ゲームではその職業に合わせた力を特化させるのが一般的です。剣を使うのに、魔法攻撃力を高めるINTを伸ばしてもメリットは少ないですからね。更にゲームでは高めるためのボーナスポイント、野球で言うと練習時間が極々限られています。なので剣を使う人は攻撃力を高めるためにSTRの数値を伸ばし、敵の攻撃を受けないようにAGIを伸ばしたり、戦闘を長くするためにVITを伸ばしたりするのです』

「なるほど」

『更に更にここで更に特化させるために『スキル』が必要となります。大袈裟に言えば『スキル』はドーピングです。『スキル』を手に入れれば、練習時間(ボーナスポイント)が無くても肩を強くしたり、飛距離を伸ばしたりできます』

「あー、そういうことか」

『ご理解頂けて嬉しいです』


 イリーちゃんの説明に納得したような表情を浮かべる桜樹に、イリーちゃんは満足そうにうなづく。


『もうおわかりだと思いますが、そこに付いてくるのが『種族』です』

「つまり剣を使う職業を選んだ場合はSTRに補正が入って、いらないINTにデメリットのある種族を選べばいいってことか」

『百点満点です。なので最初に自分は打たせてアウトを取る投手になりたい、肩の強い捕手になりたいなどといった方針、『ビルド』が必要なのですよ』


 そこ後もイリーちゃんのネットゲーム基本講座(仮)は続いていく。

 桜樹も遠慮せず、疑問に思ったことをどんどんイリーちゃんにぶつけて、二人で吟味し、意見を交わしながら空欄を埋めていく。


「ふぅ…出来た」


 時間にして一時間以上、ウィンドウの前でうんうんと唸っていたが、遂にそれも完成を迎えた。


ーーーーー


《ステータス》


名前:オーキ=ペンデレエーク


年齢:17


種族:人族


性別:男


職業:傭兵


Lv:1


HP:100(50↑)


MP:60(10↑)


SP:140(40↑)


STR:40(30↑)


VIT:30(20↑)


DEX:20(10↑)


AGI:25(15↑)


INT:15(5↑)


MND:10(→)


LUK:8(3↑)


スキル:(斧槍:Lv1) (不倒:Lv1) (加重Lv1) (伸び代:LvE)


ボーナスポイント:0


ーーーーー


「色々とありがとうございました」

『いやー、私も初めて(・・・)開拓者様をお導きしましたが、いやはや、かなり疲れました。これでチュートリアル的なものは終わりです。また分からないことがあったら『ヘルプ』から聞いてくださいね。では最後に定型文を…『汝、裏を見よ。裏とは常に表の鏡写しである。汝の自由に幸多い事を願います』。では、またお会いしましょう』


 そう言ってオーキに手を振るイリーちゃん。

 オーキはイリーちゃんに深くお辞儀すると、目の前が光に塗りつぶされる。


『行ってしまれましたか』


 名残惜しそうに消えたオーキの場所を見つめて目を細めるイリーちゃん。

 そんな時、イリーちゃんの横に全身を甲冑に身を包んだ男が並ぶ。


「イリカリオテ、どうだった?」

『長くなりましたが、貴重な体験をさせていただきました』

「彼を選んだのはお前の意思か?それとも…」

『いえ、私の意思もあの方も関係ありませんよ。本当にたまたまです』

「そうか…」


 イリーちゃん…イリカリオテの答えに不服そうに答える甲冑の男。


『それでは私は本来の業務に戻ります』

「ああ」


 イリカリオテは一礼するとオーキと同じように光に包まれる。



『では、失礼します。アーサー』

《後書きのコーナー》


桜華「長々としたタイトル通りの説明回。今どきSTR知らない若者がいることに驚きだよ」

桜樹「申し訳ない…」

桜華「なんか最後にどでかいのぶちこんでるけど、再登場の予定はあるのかどうか」

桜樹「予定では四章~六章くらいかな?」

桜華「絶対に忘れ去られそう…」

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