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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第一章 鎖縛の姫に月下のメリークリスマス
39/58

第三十八話 鎖縛の姫と白き帝ー15

連勤が終わり、ようやく手に入れた有給で気力が回復しました。

本来なら一章完結しているはずなのに…!

明日からは頑張って投稿しますので応援よろしくお願い致します。

☆ sideオーキ=ペンデレエーク


 糸の上にも慣れ、ようやく《白帝》のHPが半分を切った頃、ここまでなんとか順調に進んでいた流れが途切れ始めた。


「くそっ…!!」


 まず、新調した槍斧の耐久値が底を尽き、砕けた事。

 «打砕の槍斧»は今回、ムラムラマサさんが《白帝》討伐用に急ピッチで仕上げてくれた特性付きの武器。与ダメージにダメージの5%を上乗せするという長期戦では重宝したい特性だった。

 しかし、最近発見された特性を持った武器は作成に時間がかかる上に、素材が希少で、例のアレ(・・・・)を除けばアイテムボックスにある予備の槍斧は«打砕の槍斧»に比べて大きさも、長さも、そして何より火力が一段劣る。


 これまで皆に負けず劣らずのダメージを出してこれたと自負しているが…«打砕の槍斧»が無くなると、与ダメージが二割…下手をすると三割減する。


『糸と壁の耐久度が無くなります!全員、退避!待避!!』

「エミリアさん!!」


 槍斧について思考を凝らしていると、慌てたヲタキングの声が耳に響く。視線を周りに巡らせると、《白帝》がマーサさんの造り上げた壁に体当たりを繰り返し、鉤爪で糸を引き裂こうとしている。

 俺は慌ててこの声が聞こえていないエミリアさんの元へ。


「うおっと!?」


 だが、俺が駆け付けるよりも先に糸が《白帝》によって切り裂かれ、視界が真っ逆さまに。

 頭の上に重鎮していたマーサさんが俺を引き上げようと小さな羽根を動かして持ち上げようとするが、この体格差のせいでほぼ無意味。せっかく助けようとしてくれているのに申し訳ない…!


 頭をフル回転させてどうにか助かる方法を模索する。

 落ちた時の高さは大体二十五メートル程。既に半分近く落ちており、現在進行形で視界が落ちていく。


 アイテムボックスの中にクッション材になりそうなものは…。

 釣竿でまだ残っている糸に引っ掛けると言うのはどうだろうか。もしかしたらいけるかもしれない。いや、いけるな。無性に行ける気がしてきた。根拠も何も無いよく分からない自信がふつふつと湧き上がっている。


「オーキさん!突然釣竿取り出されても…!!諦めるのはまだ早いですよ!!」

「これが奇跡ってやつです」

「そんなハイライトの無い瞳で言われましてもぉぉ!」


 地上まで約八メートル。俺はアイテムボックスから釣竿を取り出すと、何からマーサさんが騒いでいるが、気にしない。


 よし、行けっ!!


 手首のスナップを効かせて投げるっっ!!!


 最近手作りした海老型のルアーが《白帝》の炎を反射してキラキラと光りながら、夜闇を切り裂くように真っ直ぐ糸目掛けて飛んでいく。

 キュルキュルキュルキュルと音を上げて、リールから糸がどんどん伸びて行く。


 そして海老型のルアーは糸に見事絡みつく。


 後は華麗に着地をすればパーフェクト。




 ……。




 あ、釣糸が炎で燃え切れた。



 そうだよな。なんで行けると思ったんだろうか。テスト前に特に勉強してなくても何となく行ける気がするあれと同じテンションだった。


 痛覚が現実世界に比べて大幅にカットされているとはいえ、さっき落ちた時は腰をぶつけた時みたいな鈍痛が全身に響いていた。地味に痛いというか…精神的に辛いものがあるというか…。


 残り数メートル。覚悟を決めて落ちましょう。


「……あれ?」


 と、思っていたが、いつまで経っても、あの全身を襲う鈍い痛みが来ない。


 目を開けると、そこには…。


「大丈夫ですか?」

「た、助かりました」


 エミリアさんにお姫様抱っこされていました。


 助けに行こうと思っていたら、逆に助けられちゃいました。

 けど、あの高さから落ちた大柄の俺を受け止めて笑顔を浮かべられるってこの人、薄々分かっていたけど人間辞めてる…。


「至急、退避します」


 引き締まった顔で全速力で駆けて丘へと戻るエミリアさん。

 もちろん俺をお姫様抱っこした状態で。


 こうして見るとエミリアさんの顔、凄く綺麗というか…軍人の顔というか。タコを腕から剥がせなかった人とは思えない。


「オーキさん、目に生気が戻りましたね」

「え、俺そんなに目、死んでました?」

「釣竿を取り出した時なんて目からハイライトが消えてましたよ。あそこで釣竿に頼るなんて正気の沙汰では無いですよね」


 ひょっこり俺の軍帽の中から顔を出したマーサさん。

 先程の俺の行動を(とが)めるように、小さな手でぺちぺちと俺の頭を叩く。

 痛い。痛いです。マーサさん、軍服装備のせいでSTR底上げされているせいで俺の装備だけで(まかな)っているVIT貫通してきてるんです。やめてください。普通に落っこちた時より痛いんです。頭に針が刺さってるみたいに痛いです。


「オーキ殿、お姫様抱っこ……いや、あの…」

「口篭るなよ、恥ずかしくなってくるだろ…」

「オーキさんは軽いですね。訓練器具の半分くらいです!」


 途中で俺達の横に追いついた全蔵。そしてエミリアさんの微妙なフォロー。嬉しくないです。

 というかエミリアさん、俺、体重70後半あるんですけど…倍って…。

 小柄なエミリアさんが俺の現役でも持ち上げられないものを…軽く凹みます。


「お、お、お、お疲れ…オーキ兄…えっと…大丈夫?」

「傷口に塩を塗り込むなよ。現在進行形で羞恥が累乗されていってるんだから」

「オーキ、降ろしてもらったらどうだ?」

「………それもそうですね」


 うん、別に死んでないし、状態異常でも無いし、むしろリジェネで回復して無傷なんだよね。


「自ら羞恥を増やす…オーキは…マゾ?」

「誤解です!俺の性癖に歪みはありません!」

「女性で最も魅力を感じる部位は?」

「おでこ」

「……なんとも言えないでござるな」


 いいじゃないかおでこ。いいと思うぞおでこ。

 おでこが広くて前髪を分けてる子、凄く好きです。


「ちなみに…これ、音声も中継に入ってる……自分から性癖を世界に暴露するそこ豪胆さ…」

「そこに痺れる」

「憧れるでござる」

「くそっ、墓穴を掘った…!!」


 こうなったら特攻してやる…!


「あ、オーキ兄、足止めよろしく!」


☆ sideー服部全蔵


「残り四割強…遠いね…」

「装備の損傷も激しいでござるし、オーキ殿も集中力切れて来てるでござるさなぁ」

「オーキだけじゃない。全体的にミスが目立ち始めている」

「PCの前でマウスをカチカチ動かすだけなら何時間でも行けるんだけどねぇ…ゲーム的なスタミナに余裕があっても精神的な疲れの蓄積が段違いだよ」

「この中盤、アイテム管理も難しいところですね…」

「あんまり長話してる訳にもいかないしね。オーキ兄の特攻足止めもそんなに長続きしないだろうし…」


 オーキ殿が悲しみを背負って《白帝》に特攻をしている間、拙者達は短い休憩と作戦会議を続けるでござる。


 皆、笑顔を浮かべているものの、目に見えて疲労が出てきているでござる。

 作戦開始からもうすぐ2時間半…ママと花宮殿、そしてオーキ殿を除いた『ジェノサイド』のメンバーならこれくらいの継続戦闘なら何度も経験しているでござるが、集中度合いが段違い。特にヲタ殿の集中力が切れて指示が遅れているでござる。


 そしてまだ半分。《白帝》もまだ隠し玉を幾つか懐に忍ばせていると考えるのが普通でござるし…。


 それにしても…サクスタイガー…虹色の魔法遮断障壁…炎の纏い…何か引っかかるでござるな。こう、喉の奥に魚の骨が引っかかった時のような…。


「どうした全蔵」

「バルク殿…どうも【白帝】の特殊攻撃に心当たりが…こう、鼻元まで出かかっているんでござるが…」

「鼻元まで出てたら口に出てるだろ……それにしても、特殊攻撃か…該当するのは、魔法遮断障壁と、白い炎だな?」

「後はサクスタイガーを召喚するやつでござるな」

「サクスタイガー…ただの虎繋がりにしては安直だな。何か関係性があると見て間違いないな」


 ふむぅ…長考したい所ではござるが、いかせん、上手く頭が回らんでござる。

 頭の中がおっぱいでいっぱいにござる。煩悩万歳。拙者は自分の胸に自信のある清楚巨乳ビッチがタイプ。


「全蔵、あの障壁は何色で構成されていた?」

「虹でござるから…(せき)(とう)(おう)(りょく)(せい)(らん)()の七色…むむっ…あの障壁に橙と藍は…確か無かったでござる」

「五色で構成された障壁………なるほどな」

「まさかバルク殿、何か分かったでござるか?」

「魔法遮断障壁。普通なら初見殺しだと大騒ぎするこの能力が出ても、《白帝》が騒がれなかったのはなぜだ?」

「あの魔法遮断障壁関係なく強いってのもあるでござるが、既知だったからでござるな」


 拙者はバルク殿の言葉を聞いて二ヶ月程前のことを思い出すでござる。


 《IPO》 がリリースされて三週間程で話題になったフィールドボスの《黒龍リーベリー》。

 拙者達プレイヤーの中で『ベリュウ』と愛称で呼ばれるこのモンスターは小型の龍型モンスター。

 魔法攻撃が一切効かないものの、物理攻撃が通りやすく、経験値も美味しい為、レベル20付近のプレイヤーの餌でござった。

 今でもレベリングのオススメ場所として紹介されているでござるな。


「しかし、それが何か関係が?」

「掲示板でも噂になっていただろ?リーベリーはラテン語で子供達と言う意味だ。ならば親龍がいてもおかしくないと」

「あぁ…そんなこともあったでござるな」

「黒龍。その別名は?」

「……えっと、驪竜(りりょう)でござるか?」

「驪竜を使った(ことわざ)…」

「あっ、驪竜(りりょう)頷下(がんか)(たま)でござるな!!」


 驪竜頷下の珠。危険を冒さねば手に入らぬ貴重なものを例える時の諺で、竹取物語のかぐや姫が大伴の大納言に結婚の条件で提示したと言われている龍の首の下にある五色に光る……五色…竹取物語……?


「繋がったか?」

「でござるな。となれば…」


 今回のクエストは竹取物語を大元としたオリジナルストーリーによるもの。

 ならば、《白帝》が竹取物語に由縁のある攻撃をしてくるのはむしろゲームならば当然。それこそ、戦闘にどれだけストーリーを組み込ませられるかクリエイターの腕の見せどころでござる。


 今回、バルク殿と話して気づいたのは五色に光る龍の首の下にある珠。

 そして、作中に出てくる想像上の物は六つ。


 まず、月に帰るお爺さんと帝にかぐや姫が渡した不死の霊薬。これがHP全損後の復活の由縁。

 首が三つあるのも、自分の命と、貰った霊薬、そして大方お爺さんを殺して奪った霊薬を合わせて三つという所でこざろうか?


 次に五色の珠と同じく五人の貴公子に結婚の条件としてかぐや姫が提示した(つばめ)が持っている『子安貝』。

 これは安産をもたらすとされており…サクスタイガーを召喚する攻撃に繋がっているでござるな。召喚する前に《白帝》の周りを飛び回る光のエフェクトは遠くて姿形を見れてはいないものの、恐らく燕を表しているでござる。


 そして、先程の白い炎。これは阿部御主人に提示した『火鼠の皮衣』。

 これは、『火鼠』と呼ばれる幻獣の毛皮で出来たもので、燃え盛る炎の中に入れても消して燃えることの無いとされているでござる。

 炎魔法で使用者にダメージが無いので特に気にしていなかったでござるが、注目すべきはあの炎ではなく、自らの体が燃えたとしても涼しい顔をしていた《白帝》の体の方でござったか…。


「残るは仏の御石の鉢と、蓬莱の玉の枝だな」

「この二つ、確か仏の御石の鉢が西遊記に登場した仏が使用、又は作ったとされている鉢でござるな…諸説あるものの、拙者の記憶では護符の役割があるとか」

「蓬莱の玉の枝は…東の海に存在する蓬莱という名の山に生える銀の根っこ、金の茎、真珠の実をつける木の枝だな。直結する効果を上げるとするなら、見る機会が減ることを表した『たまさかる』が、蓬莱の玉の枝が由来と言われているな」

「仏の御石の鉢はこれまでと同じく防御系。拙者の予想では物理攻撃の無効と言ったところでござろうか。朧気(おぼろげ)ながら、物理攻撃の効かないモンスターの話をNPCから聞いた覚えがあるでござる」


 魔法攻撃無効に、物理攻撃無効…ゲームがゲームなら鬼畜ゲーのラスボスに匹敵するでござる。

 他のオフラインゲームと違って長い年月、コンテンツとして運営していくMMO系のRPGでリリース三ヶ月で出していいモンスターでは無いことは確かでござるな。


「残る蓬莱の玉の枝は…俺の予想が正しければ、幻術系か?」

「最終防御手段として一定時間の物理、魔法、全ての攻撃の無効化も考えられるでござるな」


 予想通りならば、キーを握るのは蓬莱の玉の枝を由縁とした《白帝》のモーション。

 拙者の予想なら時間を掛ければなんとかなるものの、バルク殿の予想が当たるとするならば、従来のゲームという概念から離れたこのゲームでは、下手をすれば幻術で隠れられてヘイトを取れないと街まで行かれてしまう可能性があるでござる。

 それはなんとかして避けたいところ…。取り敢えずオーカ殿にも報告を…。


 そろそろ腰を上げようとしていたオーカ殿の所へ拙者が向かおうとしたその時…



「ぜんぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!おれぇぇぇぇ!!!それもってるぅぅぅぅぅぅぅぅううううう!!!」



 よく分からかないオーキ殿の絶叫が響いたでござる。




 はて、何を持っているんでござろうか。

最近、インフルエンザが流行り始めているそうなので無理のないようにご自愛ください。

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