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《 Infinity Pioneer Online 》~一般人の兄が妹にオタクに染められる話~  作者: いちにょん
第一章 鎖縛の姫に月下のメリークリスマス
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第三十七話 鎖縛の姫と白き帝ー14

☆ sideー服部全蔵


「さて、第二Rが始まったわけだけど…オーキ兄大丈夫?」

「…無理、吐きそう」


 《白帝》の一つ目の頭を破壊し、全員攻撃を仕掛けた拙者達でござったが……討伐開始直後と同じくバルク殿がオーキ殿をぶん投げて第二ラウンドの開始の合図としたわけでござるが…。


 いやぁ、凄がかったでござるなぁ。お二人共、テンションが上がりに上がって『いつもより多めに回しております』状態。あれは拙者でも酔うでござるよ…。

 という訳でグロッキー状態のオーキ殿をオーカどと一緒に援護しているのでござるが…オーキ殿、ふらふらでござるな。


「ほら、ファイト!」

「うぅ…やったるぞぉぉ…!!」


 はてさて、オーキ殿は取り敢えず置いておいて、頭が一個減った《白帝》。

 普通ならば、何かのトリガーになっているはずでござるが…特に変わった動き無し。相変わらず、事前情報にあったサクスタイガーを生み出すのと、魔法無効化のオーラは継続しているものの、他に厄介な動きも無ければ、強さが跳ね上がった訳でもござらん。


 このまま何事も無く…なるわけもござらんよなぁ…。


「魔法攻撃無効化来ます!!」

「マーサさん、後退してください!」

「…了解しました!」


 《白帝》の体が虹色のオーラに包まれ、魔法攻撃無効化のオーラを纏うでござる。効果は(およ)そ五分。

 全員がそうでござるが、この中でも特に火力が高いマーサ殿が下がるのは中々に痛いでござるな。


「下がれディフィ!これまでのものと違うぞ!」

「っぅ…!」

「エミリア殿!!」

「問題ありません!!」


 これをフラグと呼ぶのでござるな…。


 《白帝》の体躯を包む虹色のオーラが揺らいだと同時にその異変に真っ先に気づいたバルク殿が接近していたディフィ殿に声を掛けるでござる。

 その近くにはエミリア殿、拙者は思わずエミリア殿の名前を呼ぶでござる。


 流石歴戦の猛者、王国最強の女騎士でござるな。直ぐに意図を察してディフィ殿に近づき、マントを受け取るとマントを広げて『矛盾』のスキルを使うでござる。これであのマントは神話級の防御力を誇る盾に成り代わったでござる。

 これでディフィ殿は安心。しかし、まだ《白帝》に近いメンバーはいるでござる。拙者はママと視線を交わすと、ママは頷き、クレア殿と触手殿の回収へ。拙者はオーキ殿とオーカ殿を連れて後退するでござる。


 バルク殿は…あの巨体を連れ去るのは無理でござるし、ご自分で何とかしてもらうのが一番でござるな!!!


『来ますッ!』


 ヲタキング殿の声と共にオーラの揺らぎが激しくなり、大爆音と共に弾ける。くぅ…範囲爆発攻撃でござるか!?

 熱風が吹き荒れ、なんとか押し倒す形でオーカ殿とオーキ殿を地面に寝かせたものの、それでも肌を焦がされる鈍い痛みが…!


『皆さん、後退してください!』

「ヲタちゃん状況を!どうなってるの!!」

『《白帝》が火を…、火を纏っています!!』


 地面に投げ出された体勢で、拙者達はゆっくりと《白帝》の方を振り返るでござる。


 そこにいたのは全身が白い炎で包まれた白き帝の姿が…。


☆ sideーオーキ=ペンデレエーク


「と、取り敢えず、検証!!ダメージと効果!状態異常!」


 唐突に白い炎に身を包んだ《白帝》。

 離れていても熱気を感じる程の熱量。喉がカラカラと乾き、肌が夏日を浴びた時のようにじんわりと熱を持つ。

 月明かりだけが頼りだった夜闇が炎で照らされる。


「通常ダメージ無し!状態異常ありだ!『火傷・大』!五秒ごとに判定、ダメージ20!」

『花宮ちゃん!回復薬と状態回復薬の残量は!』

『七割と行ったところです~。回復しながらとなると、少し物足りない気が~』

『ということで各自なんとかして』

「指示がアバウトすぎるだろ…」


 あの炎に触れないように…となると遠距離攻撃だけど、俺に遠距離攻撃は…スルチンしかないな。一瞬で燃やされそう。

 なら状態異常耐性を上げるスキル…何かあったかな。ステータスを開いて…何かないかな…。


「オーキ殿、何してるでござるか?」

「何か使えそうなスキルが無いか確認中」

「ならば…オーキ殿、『不倒』のスキルはおいくつで?」

「4だな」

「ならば上々。『不倒』は字面から分かる通り戦闘継続に特化した粘りのスキル。レベル3で覚える『精神統一』のスキルは状態異常耐性を5%上げるスキルでござる故…オーキ殿なら『暴食の罪』で15%。お祈り効果が、稀になるので使うといいでござるよ」

「助かる。本当は自分で把握してないといけないんだけどな」

「カッカッカ!先程の連携訓練でスキルレベルが大幅に上がっているでござろうから、把握してなくても仕方ないでござるよ」


 全蔵にお礼を言いつつ、アイテムボックスのMP回復薬の残量を確認。バフを継続して、『強打』を含めた攻撃系のスキルを節約すれば枯渇する事は無さそうだな。


「『精神統一』」


 スキル名を口ずさむと、全身を薄緑色のオーラが包み込む。

 使用済みのポーションが入ったポケットの中身を火傷系の状態異常に効果のある状回復薬に交換。


 これでHP管理は大変になりそうだが、変わらず接近戦が出来る。


『マーサちゃーん!あれやりたいんだけど、MP足りる~?』

『あー…あれですか…足りますけど、すぐに破られませんか?』

『そこはござるが影縫いとかでなんとか』

『流石にあの巨体は無理でござるよ…』

『兄者と私の力を合わせても無理ですね』

『もう一形態残ってるって分かった以上、二個目の頭は早いとこ削りたい所なんだけど…』

『ならば、あれではなく、あっちではどうだ?』

『あっちもそんなに変わらないだろうけど、あれよりはマシかな?』


 あれとかあっちと言われても俺は分からない。なんとなく全蔵の気持ちが分かった気がする。凄い孤独感。寂しいです。


『んじゃ、行きましょうか。《蜘蛛の型・縛陣》』

『毎回思うのですが、作戦名に少々インテリジェンスが足りないような気が』

『それは名付け親のござるに言って』

『え!?格好良いでござろう!?少年心をくすぐるというか、厨二心が刺激されるというか!!?』

『後悔羞恥厨二プレイ…周りからこの子可哀想な子なんだって目線…悪くない…』

『兄者、末代までの恥です』

『あれぇ~?』


 蜘蛛の型…ちょっと格好良いと思ってしまった俺は恥ずかしいのだろうか。

 こう、昆虫の名前が使われてるのとか格好良いと思うんだが、蝶の型とか、蜂の型とか…。

 変な人扱いされないようにあんまり口にしないようにしておこう。俺だけは常識人。俺だけはただの筋肉。イエス、ノーマルインテリジェンス。


『じゃあマーサちゃんお願い』

「『了解です~』」

「マーサさん、いつの間に」


 オーカの声に続き、マーサさんの声が耳の奥に響くが、その声と重なって頭の上からも同じ声が聞こえる。

 少し緩めに被っていた軍帽がズッポリと沈み、ちょっとした重みが頭の上にかかる。

 ここ一週間程で慣れ親しんだ重みに、上を見ずとも何が乗ったのか分かるので、声を掛ける。


「すっかり定位置なので、 ちょっとタメに時間がかかるので頭の上、お借りしますよ~」

「どうぞどうぞ」

「んぐっ、んぐっ、この小さい体で液体の回復薬を飲むのはやっぱり辛いですね~」

「種族事に最低料があるとはいえ、多いですからね」

「お腹がぽちゃんぽちゃんです」


 軽い会話が終わると、マーサさんが魔法を放つためのタメを始める。

 ちなみに魔法は発動までのタメを過ぎた後もタメを続けるとMPの消費量は上がるものの、威力や範囲を拡大することが出来る。

 どんな作戦は分からないが、あの巨体に使うのだ。かなり長いタメが必要だろう。


 魔法発動までのタメは回復や支援と同じくヘイト値が上がりやすい。

 バルクは前線でエミリアさんとタンクアタッカーをしているし、全蔵も既に避けタンクから中距離から銃を連射中。マーちゃんは全蔵の傍で護衛中なので、今、マーサさんのタンクが出来るのは俺だけ。


 と言ってもVITは装備頼りで、タンクが出来るほどの頑丈さは無いが…サクスタイガー相手なら許容範囲内だろう。


『準備完了』

『全員、糸よーい!』


 そんな事を考えながら数分程、マーサさんが俺の頭を叩いたので全体に準備完了の合図を送る。

 すると、俺とマーサさん、エミリアさん以外がアイテムボックスからクロスボウを取り出しす。

 え、マーちゃんや花宮さんも持ってるの?俺は?


「『行きますよー!』」


 頭の上と耳の中からマーサさんの声が響く。

 それと同時に《白帝》を囲むように巨大な魔法陣が地面に浮かび上がる。

 そして、『ゴゴゴゴゴ』と地響きを起こしながら魔法陣から電柱を十本以上束ねた以上の太さの円柱状の土が《白帝》の背丈を少し越すくらいまで伸びていく。


『はなてー!!』


 続いてオーカの元気な声が響き、クロスボウから矢が放たれる。

 その矢尻にくっついていた糸が矢の後を追って伸びていく。


『各自設置後、もう一度発射ね~』

『了解にござる~』


 そして、ものの1分程で土の円柱を始終に、蜘蛛の糸で十五本のジップラインが完成する。


『マーサちゃん、オーキ兄に解説よろしく!』

「『了解しました~』…では、オーキさん、皆さんに続いて蜘蛛の糸に乗りましょうか」

「…大丈夫なんですか?」

「あの糸は《女王蜘蛛(クイーン・スパイダー)》の巣から採取したものです。モンスターの糸と言えど、普通の蜘蛛の糸と性質は変わらず、縦の糸には粘着性はありません。今回使っている糸は縦の糸なのでネバネバする事は無いので思う存分、乗ってください」

「いえ、そういうことではなく…」


 次々とジップラインに飛び乗っていくオーカ達。糸の太さは少し広めの平均台くらいだろうか…たるみもあり、風に揺られて左右に揺れる糸の上をものともせずに走り抜けて攻撃を加えていく。

 攻撃を加えたら、別の糸へ移ったり、伸縮性を活かしてプロレスのリングロープのごとく勢いを付けて攻撃をしている。


 あ、エミリアさんもノリノリで参加してる。凄いなぁ…俺なんてまだ現状を受け入れるのにいっぱいいっぱいなのに。


 地上二十メートルくらいの平均台の上で全力疾走して攻撃を加えることへの恐怖心が半端ない。バルクによってフライアウェイを二回して慣れていると思っていたが、あれ、無理、普通に怖い。


「それじゃあオーキさん…行ってみましょう!!」

「な、な、な、何かアドバイスはありませんか…?」

「蘇生薬はまだあります!」

「落ちる前提じゃないかこんちくしょぉぉぉぉぉ!!!」


 槍斧を構え直し、泣きながら糸を踏みしめて《白帝》の真横を駆け登っていく。


 不安定を通り越して全身が安定せず、足を一歩踏み出す度に、押し返すように右へ左へ体が流れる。

 踏ん張りが効かず、思うように速度が出ない。


 だが、行ける…行けるぞ…!


 いざ登ってみれば恐怖心も少ない。というより、横で炎が燃えてる現状の方が怖い!

 自分を誤魔化しながらなら、なんとか攻撃も出来る!よし、このまま一気に削ってやる!!






「は~い、お疲れ様で~す。蘇生薬ですよ~」





 慢心、ダメ絶対。




進んでいないように見えてきちんと物語は進んでいますのでご安心ください。

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