第三十四話 鎖縛の姫と白き帝ー11
☆ sideーオーキ=ペンデレエーク
「尻尾が本当に厄介だな」
「ようやく一本…あと九本。でも一本無くなっただけで気持ち、圧は減ってるかな…?」
「開始から四十分で体力三割…まだセーブしているとはいえ、少しペースを上げないとキツいでござるかな?」
「最初の一時間は慣らしみたいなものだから気にせず行こう。焦っても、あれ相手じゃ無駄にHPが持っていかれるだけだし」
二度目の休憩。ようやく《白帝》の動きにも慣れ、パターンを掴んできた。
「オーキ兄、あの尻尾が一気にグワーッてくる攻撃のリズム、どう感じた?ダンダダン、ダダダン、トン、ダンダダンダンでいいと思う?」
「いや、トンの所はトトン、ダンダダンダンじゃなくて、ダンダンダダンの方が合わせやすいと思う」
「なるほどね…じゃあ連続攻撃は?」
「ガッと来るやつ?」
「いや、グッの方」
「あれは、トン、ダンダ、トン、ダン、ダダダンダンダダンだな。ダンの所で早めに回避すれば余裕が出来るから、狙い目だな」
休憩しながらも、意見交換は忘れない。互いに気づいたことや、細かな変化を報告。
現状でも《白帝》に関する情報が全く足りていない。少しでも情報が手に入るよう報連相は欠かせないな。
「オーキ殿、お二人はそれで伝わるでござるか?ガッとかグッとかで」
「ん?あぁ、分かるぞ」
「まあ、兄妹だしね。阿吽の呼吸とまではいかないけど、ある程度は」
摩訶不思議な物を見る目でこちらを見る全蔵。
「……ママ、あの前足の攻撃がザッと来た時は、バッとしてドドッンって感じでどうでござろうか?」
「は?」
「オーキ殿、これが現実でござるよ。今の見て聞いたでござるか?心の底からゴミを見る目と、冷えきった声。あれ、カタギのものじゃないでござるよ」
「カタギも何も、忍者だろ…」
「オーキ様、《白帝》のググンッと来た攻撃の対処方法なのですが」
「ザッとしてバッカーンだな。それか、マーちゃんが出来るならバスッの方が余裕が生まれると思う」
「なるほど……大変参考になる意見でした。ありがとうございます」
「あれれ~?おかしいでござるよ~~?なんで拙者のだけ伝わらないんでござる~?」
「 「 「 信頼関係 」 」 」
「ぐすっ…酷いでござる…」
全蔵がいじけて地面にのの字を書き始めたところで、次の準備を始める。
次のローテで3回目…オーカは時間かけてと言っているが、ここら辺で気持ち的にも何か目に見える収穫が欲しいところ…。
「オーキさ~~~ん!!!」
「エミリアさん…?」
少し離れた場所から、この大規模戦闘の中でもよく響く綺麗な声が耳に届く。
声の方向を見ると、夜闇の中でも月明かりを浴びて美しく輝く銀髪が目に止まる。
距離があるせいで姿形はシルエットしか見えないが手を振っているのが分かったので、大きく手を振り返しておく。
「あ、すっかり忘れてた」
「俺もこっちに集中してたから…」
「そう言えば…って感じでござるな」
「え、他に誰かいたんですか?」
全員が全員、エミリアさんの存在を忘れていた。花宮さんに至っては、認識すらしていなかったようだ。
「ヲタちゃん、残り何秒?」
「130秒っていったところです」
「今から軽く打ち合わせするから、ござるとママちゃんは時間になったら先に行ってて」
「了解でござる」
「はい」
髪を靡かせて、結構な全力疾走でこちらに走ってくるエミリアさん。時速四十キロくらいは出てそうだな…。
「お久しぶりです、オーキさん」
「お久しぶりです。取り敢えず、ご無事でなによりです…単刀直入で申し訳ないのですが、何故ここに…?」
「簡単にまとめますと…」
エミリアさん曰く、元々エミリアさんが俺達『アヴストュニール商会』のクランホームがある初心者の街にいたのは《白帝》が近づいていた為だったそうだ。
《白帝》は歩く天災。他のモンスターが《白帝》を恐れて別の生息域に移動し、生態系を崩さないように二十人ほどの部下と共に常駐していたそうだ。
そして今日、エミリアさんは午後休で何となく趣味になった釣りをしていた所、例の如く『マゴチ』を釣り上げた。
以前のマゴチ騒動や、『大うまいもんグルメ大会』などを通してお近付きになった俺とマゴチを食べようとマゴチ片手にアヴストュニール商会に訪れた。
しかし、俺たちは既に《白帝》の討伐に向かっているとクランメンバーの一人に聞き、六時戦闘開始ということで、その時はまだ時間があったので先に腹拵えとして差し入れを持ってこようとここを目指していた所、迷子に。
なんとか辿り着いた所で巻き込まれたということだった。
「お恥ずかしい話、《白帝》の声に体が竦んでしまい暫く動けず…新鮮なマゴチもあの声でショック死してしまって…なんとか蘇生を試みたのですが……申し訳ありません」
「い、いえ、お気持ちだけで結構です」
「代わりと言ってはなんですが、私も《白帝》の討伐にお力添えさせて頂きます。オーキさんにはまだお見せたことはありませんが、私、これでもかなり腕に覚えがありますのでご安心ください」
白目を向いたマゴチ片手に、えっへんと慎ましやかな胸を張るエミリアさん。
エミリアさんのレベルは86。願ってもない助っ人だが、凄く不安を覚えるのは何故だろうか。
「やっぱりオーキ兄がフラグ立ててたんじゃん…」
「そんなこと言われてもなぁ…」
ジト目で俺を見つめるオーカ。
俺のせいなのかな?俺のせいなんだろうな、うん、俺のせいということにしておこう。
「なぁ、本当にエミリアさんって戦力になるのか?レベル敵には申し分無さそうだけど…下手に連携の邪魔になったり…」
俺は少し不安に思っていた事をこっそりオーカに耳打ちしな尋ねる。
「あのなオーキ兄…エミリーちゃんは運営のお気に入りキャラクターの一人で、今私たちがいるバルダ王国の中でも三本の指には入るチートキャラだよ…勝手に暴れさせておくだけで利になるよ」
「なんか凄そうだな」
ふむ…なら安心なのかな?
それにしても運営のお気に入りキャラクターか…多分凄いスキルとか持ってるのだらうが、前回、大罪関係を調べた時に主要NPCの情報は見たつもりだったんだが…。
うーん、記憶を辿ってもエミリアさんの能力についての文章が思い浮かばない。
「では行って来ます!」
「あ、はい」
俺とオーカがコソコソ話を続けていると、エミリアさんが元気よく《白帝》に向かって走っていく。
「エミリアさん素手だけど大丈夫なのか?」
「あー…どうせなら少し見ようか」
「いいのか?」
「うん、多分ここから凄い勢いで《白帝》のHP削れていくと思うから…。それに、安定感も凄いと思うよ。取り敢えず、ござるとママちゃんに…タンク不要って伝えないと」
走るエミリアさんの小さな背中を見つめる。
まさかディフィみたいに殴るのかな…嫌だな。狂気的な笑みを浮かべて《白帝》に殴り掛かるエミリアさん…うん、一部には需要がありそうだ。クレアさん専用スレの人達とか特に。
「エミリーちゃんはユニークスキル持ち。オーキ兄の《暴食の罪》と同一の単品スキルなんだけど…その性能が頭悪いとしか言えないんだよね~」
「俺のスキルも大概だと思うけど…そんなに?」
「通常のスキルを1ディフィと定義して、オーキ兄の《暴食の罪》を8ディフィだとすると、エミリーちゃんのスキルは…18ディフィだね」
「え、めっちゃ頭悪いじゃん」
ディフィ(英:muscle,仏:intelligence,記号:D)は、国際単位系(SI)における頭の悪さの基本単位である。国際ディフィとも言う。(Nisepediaより引用)。
「あ、オーキ兄、エミリーちゃんが武器を呼ぶよ」
「呼ぶ…?」
オーカが少し身を乗り出して指を指すので、そちらを見るといつの間にか《白帝》の正面に立つエミリアさん。
先程まで笑みの絶えなかった顔は、凛々しく引き締まり、武人という言葉を彷彿とさせる。
そしてエミリアさんは、右足のつま先で地面をトントンと二度叩くと、エミリアさんを中心として渦巻くように風が吹く。
淡い緑色をした風。普段可視することの出来ない風が勢いよく吹き荒れ、数百メートル離れたここまで風を感じる。
そして、その風はエミリアさんの手のひらに集まっていき、少しずつ形を成していく。
「オーキ兄は、グングニルとか、ミョルニル、草薙剣あたりに聞き覚えある?」
「ある。どれも神話に関係する武器だな」
「今、エミリーちゃんが持ってるのもその類の武器。現実世界とはまた違う、このゲーム世界の神話で世界を作ったとされている三つの神具の一つ。«ドインネトラ»。別名、大地の矛」
「また大層なものが出てきたな…」
「この世界、設定として神祖とかいるから、偶像じゃなくて実際に神様がいるから余計にタチが悪いよね。まあ、その大地の矛はバルダ王国で代々相応しい担い手に継承されてきたわけなんだけど…」
オーカの話を聞きながらも、エミリアさんから視線は外さない。
エミリアさんの手に収束した風はやがて俺の身の丈よりも大きな矛の形になった。
俺のイメージする神具とは違い、派手さは一切なく、神々しさも感じられない。ただ、矛の形をしただけのくすんだ金属の塊のように見える。
「あれは、担い手の力量によって開放される力が変わる武器なの。多分想像しているような大地を割るみたいな能力は無いけど、あの見た目でオーキ兄の持ってる槍斧の倍以上の性能しているよ」
「まじか…」
今、手に持っている武器はムラムラマサさんが新しく俺に合わせて作ってくれた槍斧。
俺のSTRが強化されたのと、相手が《白帝》ということもあり、«魔黒石の槍斧»よりも太く、重く、大きい。
その見た目は素人目に見ても芸術的で、性能も申し分ない。
だが、オーカの話ではエミリアさんが持っている«ドインネトラ»はこの槍斧の倍以上の性能をしている。
俺は手に持った槍斧とエミリアさんの矛をまじまじと見比べる。
「まあ、ここまでが事前説明。ここまでの説明じゃ、強いのはあの矛だけだし」
「そう言えばエミリアさんのスキルがまだだったな…」
「エミリーちゃんのスキルの名前は『矛盾』。有名な話だし、当然知ってるよね?」
オーカの問いかけに俺は小さく頷く。
簡潔にまとめると、絶対に貫く矛と絶対に壊れない盾を売る人がいて、その最強の矛で最強の盾を貫いたらどうなるのか。結果がどちらにせよ、どちらかの説明は虚実となり、辻褄が合わないことに使われる言葉だ。
「まあ、その物語の通り…というか、このスキルは『矛盾』という言葉を別の解釈で取ってるんだよね」
「結論求む」
「簡単に説明すると…最強の矛と最強の盾。どちらが強いにしても、どちらも実際に試さないと分からない程、能力が拮抗しているって感じかな?エミリーちゃんのスキルはそれを概念ごと起こすというか、なんというか」
「実例求む」
「エミリーちゃんの矛はゲーム内でも最強の矛です。おーけー?」
「OK」
「例えばここでエミリーちゃんがどのにでもある木の盾を取り出して、『矛盾』のスキルを使った場合、その木の盾の能力は最強の矛と拮抗した能力に変わるということです。おーけー?」
「すみません思考が追いつきません」
つまり、STR+100の剣とVIT+5の盾があったとして、『矛盾』のスキルを使うとVIT+5の盾がVIT+100になるってことだろ?
その対象が布だろうと、葉っぱだろうと、そのスキルを使うだけで世界を作ったとされる希少で貴重で強力な武器に生まれ変わる訳だ。
ここから導き出される答えは…。
「確かに18ディフィだな」
「そういうことなのです。じゃあ、私達も戻ろうか」
ごめんなさいエミリアさん。役職的とレベル的に強いのは分かっていたんですが、正直、ド天然のドジっ子だと思ってました。
俺は心の中でエミリアさんに謝罪をしながら、オーカと共に再び《白帝》の元へ向かうのだった…。
巻き込まれた後のエミリーちゃん
エミリア「道に迷っていたら巻き込まれてしまいました……取り敢えず、合流した方が良さそうですね……」
エミリア「体が動かない……!暫く動けそうにありませんね…」
エミリア「ようやく開放されましたか……ん?…なっ……っ……ぅそ…マゴチさん……さっきまであんなに元気だったじゃないですか、ビチビチ跳ねてたじゃないですか!なんで…なんで…そんなの悲しすぎますよ……新鮮な貴方を殺して食べようと思っていたのに…!諦めないでください!まだ天に昇るには早いです!頑張って!気合いで生き返りましょう!貴方はこんなところで死んでいい魚じゃありません!絶命するにはまだ早いです!戻ってきてください、貴方を、貴方を美味しく食べるには貴方の鮮度が…鮮度が必要なんです!!」
マゴチに語りかけ、心肺蘇生を十分繰り返し、ようやく諦めたらしい。
清楚の面被ったド天然熱血女騎士がエミリーちゃん。




