第三十三話 鎖縛の姫と白き帝ー10
遅れて申し訳ないです。
☆ sideーout
「でかい!大きい!硬い!!この台詞は出来れば拙者の口からじゃなくて美少女から聞きたかったござるぅぅぅぅ!」
「兄者、反応が遅れてますよ!」
「無理ゲーにもほどがあるでござるよぉぉぉ!!!」
次々と迫り来る《白帝》の攻撃を全蔵とママは必死に避けていく。
漫画やアニメのような余裕に紙一重で躱すことなど出来ない。
これが対人戦であれば全蔵も「ふっ…見切ったでござる…!」とニヤニヤと神経を逆なでするような笑みを浮かべて首をクイッと倒すだけで相手の拳を避けることもできただろう。
だが、《白帝》の攻撃は現実世界でも一流の身体能力と運動能力を持った忍者である全蔵でも避けるのは厳しい。
言うならべ頭上から太い鉄柱が次々と降り注ぐイメージだろうか。
遠近感も狂えば、避けた先で振り下ろされた前足が地面に衝突した余波で体が強風に煽られる。
『全蔵さん、攻撃が足りないです。もうすぐオーキさん達とヘイト値が並びます』
「そんなこと言われても、まともに銃を構える暇ないでござるんたが!?」
『だったら短剣でも使ってください。臨機応変にお願いします。忍者ですよね?』
「いつものオタク口調が無くなって顔が見えないと、JCに罵倒されてる感じが出て凄く興奮するでござるな!cv早〇沙織風でお願いするでござる!!」
「兄者…それはちょっと…」
「妹にドン引きされたけど拙者めげない!忍者でござるから!!」
全蔵は両手に握っていた銃をアイテムボックスに仕舞うと、二本の短刀を取り出し、逆手に構える。
「ふぅ…拙者も本気を出すときが来たようでござるな…服部流短刀術肆ノ型…五月雨ッ!!」
「兄者、ありもしない技名つけてないで早くしてください」
全身でポーズを取りながら全蔵は《白帝》の右前脚にいくつもの傷跡を短刀で付けていく。
だが、服部流などというものは存在しない。全蔵が勝手に付けただけのなんちゃって短刀術だ。
「忍が門外不出の技をわざわざ口に出したり、情報的に伝わるような名前を付けるわけないじゃないですか…」
「うーん、忍者の辛いところ!もっと格好いい感じの名前が欲しいでござる!グローリアス・グローディウスみたいな洋風の技が欲しい!切実に!」
「ご勝手にどうぞ」
全蔵とママは軽口を叩きながらも仕事を着実にこなしていく。
忍として与えられた仕事は命に変えても完遂する。
それが時代の流れと共に変わった忍者の掟の中でも絶対不変の掟。
「よいしょぉぉぉ!!」
迫り来る《白帝》の前足をスライディングで避けながら、振り返りざまに隆起した筋肉に覆われたアキレス腱を短刀で斬り付ける。
全蔵の職業は『暗殺者』。相手の意識外からの攻撃に大幅な補正が入り、AGI、DEXが伸びやすい職業。弓や銃、投擲武器などがメインで使われる職業だ。
だが、全蔵は持ち前の運動能力を使い、銃や短刀を巧みに使って前衛で戦う。
「ここから先は拙者のターン。見せます!忍者の真骨頂!!」
《白帝》の前足を短刀を突き刺して登った全蔵。
《白帝》の頭の上で再び二丁の拳銃風のハンドガンを取り出すと、それを上に投げる。
そして全蔵は新たに二丁のハンドガンを取り出すと、《白帝》の脳天目掛けて発砲。
「カッカッカ!!これぞ全プレイヤー最強DPS!!!とくと見るでござるぅぅ!!」
全蔵は発砲したと同時に両手の銃を上へ投げ、先に投げていた銃が落ちてきたところを掴み、瞬時に照準を合わせて発砲。そしてまた上へ放り投げる。
それを絶え間なく繰り返す。
この世界の銃は現実世界の銃とは違い、『魔法銃』と呼ばれる種類の銃だ。
使用者のMPを消費し、一発ごとにクールタイムが設定されている。全蔵が使っているハンドガンタイプだと0.75秒。
全蔵は通常、最高二丁の銃を複数持つことでクールタイムを極限まで減らし、威力の低く設定されているせいで弓以下と呼ばれる銃で全プレイヤー中、DPS1位。
「まだまだ終わらないでござるよ!」
だが、四丁銃では複数連射型の弓使いにはまだ届かない。
どうすれば届くのか。
答えは簡単。
銃の数を増やせばいい。
全蔵は持っていた銃を一段と高く放り投げると、更に二丁の銃を取り出す。
そして再び発砲を開始する。
だが、今度は発砲した銃を上に投げるのではなく、その場に置く。
目線の先、首元、胸元に対に配置された銃が重力に従って落ちる前に全蔵が目にも止まらぬスピードで掴み、発砲し、離し、クールタイムが終わると共に再び掴んで発砲。
薬莢が詰まることも無ければ、リロードも必要無い。そんな夢のような銃だからこそ、そしてそれを可能にする人間離れした能力を持った忍者である全蔵だからこそ実現出来る技。
「全プレイヤーよ刮目せよっ!これが忍者の実力でじゃい!でござる!!」
最後まで締まらない男。
喋らなければそこそこの男。
中身だけ変えれば一流。
天は二物を与えずの模範例。
炭酸の抜けたサイダー。
ワタの抜けたクッション。
左クリックが存在しないマウス。
そんな呼ばれ方をしている全蔵の真の実力をとくとご覧頂こう。
☆
「お疲れ様です」
「ありがとうヲタキング」
「スパンは11分。参加プレイヤー×1分だったか。予想の範疇だね」
「調子乗って落っこちたせいで、蘇生薬を早速使ってしまったでござる…」
戦闘開始から20分。バルク達に倒されたサクスタイガーが再出現した事で、全蔵グループとバルクグループが交代。全蔵達がサクスタイガーを倒したことで、次の再出現まで全蔵達は休憩を取っていた。
「ふぅ…今は少しでもSPを回復させないとな」
「オーキ様、お水どうぞ」
「ありがとう。マーちゃんもちゃんと休んでくれよ?」
「お気遣い頂きありがとうございます」
このゲーム世界は現実世界に忠実。激しい動きをすればSPが減り、喉が乾き、汗も出る。
その代わり、水分補給をすればある程度は回復する。
「それにしても、ヲタキングの指示は的確だな」
「ヲタちゃんの『CM式ーKDK術』は伊達じゃないからね」
「前から気になってたけど、それってなんの略なんだ?」
「コミックマーケット式効率よく同人誌を買うための術」
「少し格好いいと思ってしまった昔の俺を恥じたい」
ヲタキングこと厳仙瞳は現役女子中学生。そして、桜華と共にモデル活動を社会勉強と呈して行っている。
家は古武術の道場で、瞳自身もかなりの腕だ。
やはり、イメージ通りと言うべきか、厳仙家は厳格な家である。
モデル活動も過度な肌の露出はNG。あくまで社会勉強だ。
そんな家で育ちながらも、瞳は大の美少女オタク。原因は当然、桜華。
瞳も生粋のオタク。当然ながら年2回行われるオタクの祭典とも呼べるコミックマーケットにはどうしても参加したい。
だが、厳しい厳仙家では外泊など以ての外、オタク活動もバレれば確実に怒られるでろう。
その中でモデル活動と嘘をつき、なんとかこじつけたたった1日だけの参加。その1日で1冊でも多くの目当ての同人誌を購入する。その一心で、瞳が編み出した術こそが『CM式ーKDK術』。
多くの大学の卒業論文で使われる『巡回セールスマン問題』を独自に応用し、目当てのサークルを効率よく回ることを追求し、計算し、熱意を全て捧げたこの技はネトゲでも応用が効く。
PvP、PvE、大規模乱戦から、レイド戦までばっちこいのこの『CM式ーKDK術』はヲタキングにしか出来ない。
ヲタキングのこの術こそが『ジェノサイド』の崩れない連携と、少人数で多くの強敵を撃破してきた功績を残せた理由の一端。
オーカやディフィのような派手さもなく、ひたすら目立たず、支援を続け、指示を出す。『ジェノサイド』の縁の下の力持ちとはヲタキングのことである。
「無敵伝説『ジェノサイド』を支えるのがコミケ…」
「うんうん、オーキ殿、その気持ちは分かるでござるが、今は、うん、うん、ね?」
「お前が一番失礼だと思う」
それに支えられてきたメンバーとしては、内情を知ったオーキよりも結構複雑な気持ちである。
☆
個性的の後に(笑)を付けたくなるメンバーが揃っている『ジェノサイド』。
その『ジェノサイド』を纏め上げ、《IPO》最強のプレイヤーの称号を欲しいがままにし、人気プレイヤー堂々の第一位。
それこそが、オーカ=ペンデレエーク。
「オーキ兄、集中力切れてない?」
「問題ない。これくらいで切れてちゃ、試合なんて出来ないよ」
「確かに…全蔵、私そろそろガチャガチャタイムに入りたいんだけど」
「えー…レイドボス、しかもゼノ・モンスター相手にガチャガチャとか意味あるんでござるか?というか、ガチャ成功したら、超シラケるでござるよ」
「読み通りなら生き返るから問題ないない。現代クッキングと同じで時短が大事だよ」
「まともに料理も出来ない癖に……」
「レンチンくらいは出来るわ!!」
「それ、まともな料理とは言わない」
オーカの職業は『賭博師』。名前からは想像できないが、分類的には戦闘職である。
ネタ職業と呼ばれるこの『賭博師』。その特徴としてスキルの多くが確率で効果が決まる。
例えば『ルーレット』というスキルでは、バフ24とデバフ8の項目が書かれたルーレットを回し、バフ、デバフを決定するというもの。
MPの消費は統一されていても、バフの中にはMPの消費に似合わないバフもあれば、一発逆転の破格の性能を誇るバフもある。デバフを引き当てた際には、悲しいことにデメリットしか存在しない。
他にも『ダイス』、『スロット』、『ポーカー』などメリットとデメリットが混在しているスキルばかりだ。
運が良ければどんなプレイヤーにも負けない力が、悪ければ自分よりも格下のプレイヤーにボコボコにされる。
はっきり言えば安定性に欠けるネタ職業。連戦では周回時間がガタガタ、レイド戦でハズレを引けばお荷物。
しかし、それくらいの事はオーカだって分かっている。
少なくないネトゲに触れ、知識もある。職業選択時には職業の説明もあった。
それでもオーカは『賭博師』を選んだ。その一番の要因は全職業の中で『賭博師』がLUKの補正が高いから。
職業を選択する時、その職業に合わせてステータスに職業に合わせた上下方補正がかかる。
賭博師はLUKを除いた全ステータスに下方補正がかかる代わりに、LUKを大幅に上方補正される。
オーキの選んだ傭兵ではHPに+15、STRに+10、MPに-10、MNDに-5の補正が入る。
それに対して『賭博師』は全ステータス-5にLUKに+77の補正。
《IPO》では、このLUKというステータスはかなり上げ辛いステータスだ。装備の中でLUKが上がる武具は少なく、アイテムも極わずか。
なのにも関わらず、ドロップ率や、武具の強化、生産の品質、状態異常への抵抗など多くの要因が絡んでくる。
なんと言ってもオーカの種族である『死神族』は特性として首への攻撃に限り、確率で即死効果がある。
その確率の計算式は明らかになっていないが、レベル差やステータス差が開けば開くほど確率の変動が大きい。
だとしても、この確率はもちろんプレイヤーのLUKに依存する。
単体で討伐不可能と言われたボスでも、打倒不可能と言われたNPCでも、確率で倒すことが出来る。
「幾数多のソシャゲで爆死を重ね、幾数多のネトゲの乱数に泣かされ、幾数多のコロコロ鉛筆で赤点をもぎ取ってきた私にとって、少しでも確率がある限り、戦う理由には十分!!」
「オーカ…赤点って…」
「あっ……」
勝負師と言うのはディフィの圧倒的な力による制圧と同じく見る人を魅了する。
個性の塊であるパーティーのリーダーが唯人であるはずがない。
オーカもまた、誰にも負けない個性を持った変な人の一人だ。
☆
当然、これだけでは『ジェノサイド』というパーティーは語りきれない。
殺戮の名を持つパーティーの真の姿のほんの一端が垣間見えただけ。
そして『ジェノサイド』を知る者はこの戦いで『ジェノサイド』の異質さを再認識し、侮っていたものは畏敬の念を浮かべ、知らぬ者はその名を生涯刻むだろう。
そして誰もがこの質問に口を揃えて答える。
ネットゲームの中で最も強いのは?
その名は───────
ここ最近の数話は正直、自分でも納得行く出来では無いです。
情報を下手に渋ったせいで穴抜けな部分が多く、分かりずらく、面白みに欠けると自分でも思います…。
これ以上進行を送らせないために中途半端な内容を投稿したことをこの後書きの場を借りて謝罪致します。
一章が終わり次第、物語に影響が無いように修正が出来ればしたいと思っております。




